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元伝説の大魔導士は手加減を知りません!!  作者: さくら比古
はじまりはじまり
9/9

すみません。ミスしました。この休み中に修正しますので、数日このままお待ちください。

12月31日18時39分

 

まだまだ加筆します。1月2日


お待たせしました。拙作のままですが投稿します。

私の作る未熟なお話を読んで戴いて下さる天使な皆様に今年一年の幸運が訪れますように。

謹賀新年にございます。


 懇願するように頭を下げる男に狼狽えたレイラは言葉を発することが出来なかった。

 目の前の伝説の男はこのまま人知れず消滅したいというのだ

 人類の叡智の集大成ともいえるこの部屋ごと己を捨てろと。

 まさに絵に描いた餅状態で、手を伸ばせば触れられるところに求めてやまない全てがある。是か否かと問われれば否!一択でしかない。

 けれど、彼が自分に託した思いを思えば受けざるを得ないのではないか・・・沈思し書棚を見、又沈思する。

 その様子を男が(つぶさ)に見ていることも気が付かない様子だ。

 悩みに悩んでレイラが出した答えに、男は目を剥くことになるがそれは少し未来の話。伝説の大魔導士と寄る辺である家族に虐げられ続けた少女の出会いが、これから先多くの人々の運命を翻弄しつくすことを二人はまだ知らなかった。

 全てはそれを占い運命を手繰り寄せ結び合わせた人物の(たなごころ)の上に。



「そのお申し出はお受けすることはできません」

 小半時を悩んだレイラの返答は否というものだった。

 男は半ば予想できた答えだっただけに落胆は無かったが、それがこの『遺産』とも言える存在の危うさに覚束ないだけであるのだろうと思っている。

 今現在は失われた技術や法術がこの部屋に詰まっている。法術氏や魔導士、果ては王などの為政者からは垂涎の魔導書が欠けることなく揃っているのが知られれば、争議の種となる。大袈裟に言えば戦乱の切欠を作りかねないのだ。

 この部屋を消滅させるために無理をして命の期限を縮めたともいえる男は、少女の心変わりを促すために言葉を尽くさねばならないと覚悟を決めた。下手な取引や駆け引きはこの少女には通用しないと悟ったからだ。

 少女が求めている物が何かはっきりとしていたからとも言えた。

「この部屋に在る全てについては君も含めて公開するつもりはないし、残すつもりはない。

 それ程に危険であることは理解できるだろう?」

 男の問いかけにレイラは神妙な面持ちで頷く。周囲に見誤れてはいるが、レイラのスペックは異常に高い。魔力云々が声高に広められ始めた頃、急に離れて行った友人たちを恨むことも出来ず、唯々書物に埋もれ耽溺(たんでき)することで逃避し続けた結果、年齢や性別を考えれば驚くほどにその蓄えられた知識は、教鞭を持つ者達でさえ足元にも及ばない位階にまで達していた。

 学園にある閲覧可能な書物は読破し、その大半を(そら)んじることさえ出来るのだ。勿論、その内容にも理解は勿論、専門家と議論できるだけの力も備えている。

 だからこそ男の言う事は理解できる。だからこそ男の言う事に(がえ)んじ得ない。頷けないのだ。

「これだけの宝を前に、私は『(はい)』と言えません。

 ここに在る物が、人にとって毒であることは理解します。でも、でも毒は薬にもなるのです。

 どうしてもと仰られるのならば、せめて私が読み終わるまで待っては頂けませんか?」

 最後に願望を堂々と言い放つ少女に、精神体である故の枷の無い感情の発露に男は目を瞠る。

 少女の祖母ならば、こんなことは言わずにさっさと資料を掴んで読み出すだろう。男さえ(しの)ぐ結界術まで展開するに違いない。

 男としては師として多くの弟子を抱えていた身だ。教えを請われたり知を求める者に手を差し伸べる習いが疼いてしまう。ましてや少女はどう見ても祖母にも劣らない才とそれを達成できるだけの能を持っている。揺れる気持ちは隠せはしなかった。

「違った出会いならば君を弟子にしたいと言うのが正直な気持ちとしてある。

 だが、ここを残すことはできない。

 それに私はは死人(しびと)だ。死者は死者として穏やかな死を望むものだ。

 そしてこの部屋は既に存在しない物として認知されている。君の望みを叶えることはできない」

 純粋な、曇りの無い瞳に責められるように見つめられ、男の言葉尻が(すぼ)んでいく。

「聞き届けては頂けないのですね?」

 男の目の前で少女の表情が抜けた。その変化の速さに男は戸惑う。

「・・・見てしまったものを無かった事にはできません。

 このままあの現実に戻って知ってしまったこの記憶に身を焦がして生きて行けと仰るのならば、私は自ら命を絶つことにします」

「な、何ぃ?!」

 少女の確固たる宣言に度肝を抜かれ、はくはくと男は口を開ける。

「お願いです。今の私は寝台で寝ている状態なのでしょう?

 引っ越しが済めば私を構う者など居りません。

 どうか、おばあ様がお戻りになられるまでの間でいいのです。一冊でもいい書物の紐を解くことをお許しください」

 神に祈るように少女が(ひざまず)くことに、その内容に男は身を震わせた。禁忌に触れる。きっと少女はここで得た知識を漏らすことは無いだろう。だが、この膨大な知識を得た少女は『何者』になるのか、神を冒涜する者か、神に愛される者か。どちらにしろそのメタモルフォーゼは男が持ち得る神の法に触れる。

 ほとんど死人だと言うのに己でも自覚が薄いことが災いしたのか、男は少女に許しを与えたいと思うようになる。探求し続けることが男の本分だからだ。

「・・・・・・・・・・・・・・・。

 君が眠っている時間は幾らかは調整が利く。

 俺は何も教えない。

 ここで得た知識を持ち出す事を禁じる「そ、それでは!」最後まで聞くように。

 いまから2刻(4時間)だけやろう。それ以上は許さない」

 押し負けた男の言葉に少女は歓喜の涙を流し、拭く間も惜しんで(きびす)を返した。






 レイラ付きの侍女であったナナと言う侍女は腐っていた。

 今朝の事はいつもと変わらない只の日常だった筈なのに、今日だけは大きく違ってしまったからだ。

 いつものように朝の申し送りの後、同僚たちと打ち合わせをしたら一人でレイラの部屋へと向かう。その足取りは緩慢で、他の侍女たちのきびきびした動きからすれば不貞腐れて見えるものだった。

 侯爵家の寄子である子爵家のそのまた寄子の準男爵家がナナの実家であった。

 花嫁修業というよりは行儀見習いにかこつけて将来の夫候補(勿論見合った家格の者)を父親に探すように厳命されて来た。

 由緒ありその権威も高い侯爵家の眩いばかりのお屋敷と、立派な当主を始めとした華やかな侯爵家の御一家に己が身との格差を見せつけられ圧倒され、辛い侍女の仕事にも鬱々とした頃にレイラの専属侍女に付くことを命じられた。

 ナナが御一家にお目見えできる頃には、もう侯爵家の中ではレイラは鼻つまみ者の無能者として使用人にも認知されていた。

 誰もやりたがらないからと自分に押し付けたのだと、ナナは自分には分不相応だと訴えたが、この人事は撤回されなかった。

 低位貴族の娘である自分でさえ生活魔法ぐらいは使える。それなのに魔力を持たないと軽んじられるレイラに、次第にナナは蔑みの目を向けるようになった。

 レイラの身の回りの世話は勿論、洗濯物すら回収しないようになった。

 同僚たちは流石にナナの行動に苦言を呈したが、レイラ付きにされた恨みもあり聞く耳を待たなかった。同僚たちもレイラに関しては自分にお鉢が回ってもと思い、更に侍女長も知りながら何も言わないことに口を(つぐ)むようになった。

 その事にナナは許されていると勘違いを深めて行った。

 そのような経過があっての今、今になっていきなり侍女長を飛び越えて筆頭執事からお叱りを受けたことに、ナナは昏い怒りを抱えていた。


「お前がレイラ様付きの侍女か」

 初めて近くで接した筆頭執事は想像以上に若かった。それでもナナのような下っ端侍女から見れば雲の上の人だ。

 若さ故に内外では侮られる向きもある彼は、その有能さと細部にまで眼を配り且つ領地運営まで担っていると言われる。その名が他家にまで鳴り響いていると聞いたことがある。

 しかし下っ端のナナには隣家の伯爵家の家令の方が馴染みがあるくらいだったので、筆頭執事の冷徹な眼差しに震える侍女長に純粋に驚いていた。

 親子ほどの年回りの侍女長と筆頭執事の長幼という見方では逆転した力関係を、侯爵家の使用人の組織図には疎いナナには理解できない。

 単純に言えば、使用人の頭である筆頭執事の下に奥向きを差配する侍女長がいるのだ。

 女主人である侯爵夫人に付き従い、男衆である筆頭執事を始めとする執事や侍従には立ち入れない仕事に従事する侍女を束ねている侍女長。ナナが知っている全ては彼女が指揮している。

 若く無知なナナは偉い侍女長が恐れる理由が分からず、筆頭執事に応えて良い物か迷ってしまう。

「・・・違うのですか、侍女長」

 名を呼ばれ小さな悲鳴を上げる侍女長を皆が首を竦め見つめる。ナナは呆然と見ていた。

「は、はい!この娘がレイラ様付きの侍女にございます」

 目を合わせることも出来ず、侍女長は俯いたまま答える。

 その様を睥睨するように見下ろし、その冷たい眼差しを今度はナナに向ける。

 射殺されるかとナナは息を呑んだ。

「この娘一人ですか?当家のご令嬢がたった一人のこの愚かな娘だけを侍女に?」

 感情の無い呟きのような問いかけに部屋が凍り付く。

 筆頭執事の介入が無いからとやり過ぎたのだと年配の使用人は思った。奥様の肝入りと侍女長が強権を振るった奥向きの者は、強者におもねる者か状況に日和る者しか残っていない。耐えられない物は辞めるか表向きの方へ移っている。それでも、奥様と侍女長のやり様には危うさを感じていた。言い出せないだけだったのだ。

「そ、それは、あの、あの」

 しどろもどろに言い訳をしようにも、侍女長は言葉にならない。

「奥向きからはレイラ様にも3人の侍女が付いている向きの予算が計上されていましたが、いつからこの状態なのです?」

 奥向きの金番と呼ばれる文人の男に筆頭執事は目をやる。

 金番の男はここに来るまでに筆頭執事に呼ばれており、いつもの横柄さは形を潜め十は老け込んだ姿で立っていた。

 鯱張(しゃちほこば)って帳面を掲げ、筆頭執事の問いかけに応える。

「さ、3年前のレイラ様学園入学の折より、3人から1人に変わっております」

 侍女長は顔を上げられないまま体を縮込ませる。

 物の分からないナナにも、それがどういう事かは薄っすらと察せられる。ナナは侍女長を見ている。

「3年前からですか。レイラ様に関する物品購入などの歳費はどうなっていますか?」

 金番の喉が鳴り声が震える。金を握る者がこの明らかな不正(・・)を知らないわけがない。男は自分の死刑宣告書を読み上げさせられているのだ。

「・・同時期からつ、月十万レブルずつ減らされております。

 こ、この月の予算は5万レブル。支出は5千レブルにございます」

 この国に於いて侯爵家レベルのご令嬢に月々当てられる歳費は、平均を見れば百万レブルは下らない。

 それは殊更贅沢や散財をするという意味ではなく、成人し良家に嫁ぐ身である令嬢にとっては必要経費になるからだった。

 衣装は勿論、教育費や社交には湯水のように金銭が掛かった。

 本来ならばレイラもそれだけの掛かりが必要な筈なのだ。

「・・・3年前から表には毎月レイラ様に百五十万レブルが計上されており、支出も確認されています。

 それではこれらの差額はどこにいったのでしょうか、侍女長」

 大変なことになったと誰もが愕然とした。

 事情を知る者はもう顔色が青から白くなっている。その者たちの顔を数えながら、筆頭執事が侍女長に再度返答を迫った。

「答えて下さい」

 短い、重い要求に侍女長は息を喘がせながら答えた。

「あ、あの!こ、これは全て奥様のご指示で!ひッ!レイラ様の歳費から奥様の歳費へう、移したものでありま、してですね。

 お、奥様のご指示に従っただけなのです!わ、私は、私は!」

 自分は従っただけなのだと言い募ろうとした侍女長を、筆頭執事は手を軽く振って黙らせる。

「当家の歳費については最高責任者は私となっています。

 それなのに一切の報告が無かった。

 それに、当家の主人は侯爵閣下に在られます。その夫人であろうとも旦那様のご裁可の無い物は奥方様が不正を働かれたことを意味する。

 私を始め、我々の主人は侯爵閣下であることをお忘れになっているようだ。

 貴女の言う事が真実ならば、貴女は奥方様に従い主人である旦那様に不正を働いた。

 嘘ならば、全ての罪は貴女に在り尚且つその罪を奥様に擦り付けようとしている」

 筆頭執事の宣告にへなへなと侍女長がへたり込む。筆頭執事の目配せで執事や侍従たちが侍女長を抱えて退出させると、この場はさらに緊張が高まっていた。

「これから読み上げる者は各人寮の部屋に謹慎の事。

 侍女長は更に詮議ありとの判断により隔離される。 

 奥向きの金番であるアルハンドはセリに従い退出しなさい」

 肩を落とした金番を侍従に一人が引いて退出させると、筆頭執事は残った者達に向き直った。

「奥向きの人事の入れ替えが行われる。

 残った部屋付き侍女はそのまま業務に戻りなさい。

 奥方様付きの者はすべて居ないので、リリアナ、シンリー、べス、ミラが当たりなさい。奥方様には後程お話に伺いますと伝えて下さい」

 次々と指示を受けて慌ただしく出入りが始まった。

「レイラ様には、ミナ、ヘラ、アイリが。一代公爵閣下がお戻りになったらベラとシンリーも合流します。

 閣下はレイラ様とお寝すみになることを希望されておられます。遺漏無き様に」

 筆頭執事の子飼いとも言える5人の侍女が頷き部屋を後にする。

 残されたのは表向きの執事と筆頭執事、そしてナナだった。

 自分が残された理由が分からず、助けを求めようにも誰も知る者の居ない気づまりな状態に、ナナはどうして良いか分からず立ち尽くしている。

「お前はレイラ様付きであることを嫌がっていたと聞いている。

 数々の身を弁えぬ不敬を思えば何らかの罰則を与えるべきだが、それではお前を当家に残すという事になる。

 馘首(クビ)であるから当家の紹介状は書かない。実家には寄り親を通じて迎えに来るように連絡しているから荷物をまとめておきなさい。

 シド、寮の部屋までケイラとこの娘を連れて行き、当家の門をくぐる迄付いていなさい」

 はいと畏まり、シドと呼ばれた執事がナナの前に立ち、ケイラと言う知らない侍女がナナの二の腕を掴んだ。

 馘首と言う言葉がじんわりとナナの頭に浸透し、意味を理解した瞬間、ナナはケイラの手を振り払い筆頭執事の袖を掴んだ。虚を突かれたシドやケイラが我に返って引き離そうとしたが、ナナはしがみついて離れようとしない。

「な、なんでですか?私がクビだなんておかしいです!

 だって、誰も悪い事だなんて言わなかったし、みんなあのニセモノ令嬢の事なんか嫌いだったんです。

 私は悪く無いです!実家には帰りたくない!お願いですからッひいッ」

 縋りついて言い募るナナを見下ろす筆頭執事の顔が怒りの感情を浮かべ、その凄まじさにナナは言葉を呑む。

「みんな、みんなですか。覚えておきましょう。

 それに、何と言いましたか?レイラ様が偽物だと言いましたか。

 誰が貴女にそんな馬鹿な事を吹き込んだのでしょう。教えてくれませんか?」

 口調こそ柔らかいが、その眼差しが全てを裏切っている。

 絶対零度の視線は引き離そうとしていたシド達までも巻き込んでいる。

「だ、誰って、侯爵令嬢なのに魔力が無くて、火も点けられないような人平民ですら居ないわ。

 だから、あの女は侯爵家のご令嬢なんかじゃないのよ。皆騙されてるのよ」

 鈍感で愚かな娘は思っていることをそのまま筆頭執事に披露する。悲鳴を上げるのはナナを抱えるシドやケイラの方だった。

「そうですか。それはお前の考えだったのですね」

 握られ皺になる袖にも頓着せずに、筆頭執事は呟く。

 真っ青になる二人と、意味も分からず自分の馘首を撤回して貰おうと縋りつくナナの混沌とした模様に、筆頭執事はキリを付ける。

 あっさりとナナから袖を取り戻すとシドに新しく指示を出す。

「この娘の父親と寄り親である子爵家が到着したら私の執務室に案内しなさい。聞きたいことが出来ました。

 娘はそれまで寮の部屋で待機させなさい」

 それだけを言うと、筆頭執事は踵を返す。頭の中はもう次の事案を想起し、指示系統の再構築を展開させている。愚かな娘の事などすぐに端へと追いやられていた。

 呆然とその後ろ姿を見送るナナは、自分の話はどうなったのか分からず、逃げるように部屋から追い立てる二人に聞いても答えて貰えずに寮へと引き摺られてゆく。

 誰も愚かなナナを返えり見る余裕などなく、ナナの叫び声が空しく響いていた。

 

 

 


 レイラさん動く!必死です。


 筆頭執事様は八つ当たり気味ですね。自分の失態だと大変お怒りです。


 旧年中はありがとうございました。本年もよろしくお願いいたします。

 読んで戴き感謝感激!

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