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6-2

 バボはケルベロスを振り切ってから5キロほど離れた八階建てマンションの屋上でスマホをかけていた。分譲マンションが三棟立ち並ぶ。ヤツは高い所に、すぐには登れない。暫くは安心だ。

「そうなんだよ! 化け物が襲って来て、何もかもメチャメチャにしたんだ! 」

 バボは変身したまま電話をしている。向かい棟のビルの三階で洗濯物を干していた中年女性がバボを見て、「きゃあ、化け物!」と騒いだ。

「あ、ヤバイ。見られちゃった」と、バボ。

 人から見たら、変身した姿のバボも化け物だと思われてしまう。


「バボ、お前、変身しているのか? 」

『仕方なかったんだよ! 変身しなきゃマジで殺られてた。頭が三つもある化け物が火を吐いて襲って来たんだよ! 上手くまいたけど、また襲って来るかもしれない! 』

「頭が三つある化け物だと?! 」


「頭が三つ?! 『ケルベロス』デス! 『ケルベロス』に間違いないデス! 」

 リクの会話を聞いたライアンが、横から声を上げた。

「バボ。その化け物はお前を狙って追いかけて来たんだな? 」

 リクはバボに確認をした。

『うん――。現れた時はムチャクチャに暴れていたけれど、なんかクンクンと臭いを嗅いだと思ったら、その後はずっと僕を追いかけて来たよ? 』

「そうか――」

 リクは一旦スマホを耳から離し、ライアンの方を向いた。

「ライアンさん。実体化したAR犬の知能レベルはどれくらいだと思いますか? 話して分かる相手じゃないですよね? 」

「ARとコミュニケーションを? 普通に考えて、そんな事は出来ると思いマセンが……」

「そうですか――」と言った後、リクは再びスマホを耳に戻す。

「バボ、スマホをビデオ通話に切り替えろ。変身したままでな――」

『オーケー』

 リクのスマホ画面にバボの姿が映し出された。

「怪我はないか?」

 と、リクは画面のバボに優しく声をかけた。

『僕は平気だよ。――だけど……一人助けるので精一杯だった……。そこにいた他の人達は……』

「そうか……」と、声を落とした後、

「ライアンさん、僕の友人です――」リクはスマホの画面をライアンに向けた。

「ホワッッ! この姿は?!」

 バボの異形を見てライアンは驚いた。

『あれ? ライアンのオッサン――? ねえリク、この姿見せちゃっていいの?』

 バボのスマホにはライアンの姿が映っている。

「ああ、いいんだ――」

「ミスターハネヤマ。彼のこの姿は――? 」

 ライアンは瞬きをしながらリクを見た。

「コスプレではないですよ。こいつはAR猫です。実体化した二匹のAR猫の内の一匹ですよ」

「まさか、この前のリアルキャット達は――? 」

「そうです。あの時の二匹は元々はARです。こいつらは猫の姿にもなるし、このような姿にもなる――。その上、感情もあって人の言葉も話す――。プログラムから生まれた生命体――そうですねぇ、『プログラムロイド』とでも名付けましょうか」

「『プログラムロイド』……。驚きデス――。こんな実体化ARもいるなんて……」

 ライアンはスマホのバボの姿をもう一度見る。

「お宅の躾の悪いワンチャンが、暴れ回り、うちの可愛いニャンコを襲った――。責任は取ってもらいますよ? 全力でケルベロス倒しに協力しましょう」

 リクはハッキリとした口調でライアンに言った。

「オオ、心強い。ありがうございマス」

 ライアンは少しだけ安堵の表情をした後、すぐに厳しい目に戻る。戦いはこれからなのだ。


「とりあえず、バボ。お前は戻って……ん? 回線の調子が悪いな」リクのスマホ画面は乱れている。画像の読み込みが上手くいかないようだ。やがて、通信も切れてしまった。

 リクは電話をかけなおすが、繋がらない。

「どうしマシタ? 」

 ライアンがリクに尋ねる。

「いや、どうも電波が悪いみたいで……。うまく繋がらなくなってしまって――」

「電波?! まずいデス! ケルベロスは元ホーリーシェパード、ヤツはネットの中を移動して対象をどこまでも追い詰めマス――」

「そうか。うちの猫が追われているのも、『情報生命体の捕獲、駆逐』という本来の防犯AR犬の使命を全うしている、という事か……」

(無事でいてくれればいいが……)

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