-episode 1- 七夕に想いを馳せて
七夕の話です。現代の彦星と織姫は、今宵逢えたのでしょうか?
七月七日は七夕。
シャトレーズ軍人学校のロビーに高さ三メートルほどの竹が用意されて、各々願い事を短冊に書いて笹に括りつけていた。
近くを通りかかったアレックスも足を止めて短冊に見入る。目につくのはやはり『卒業試験、優勝!!』だ。
その陰に隠れて個人的な願い事もある。例えば『カノジョ(彼氏)がほしい』
「アレックスも書いたら?」
振り向くと、マジックを持ったビアンカが立っていた。
「書くだけはタダよ。しかも願い事が叶ったらラッキーじゃない?」
「邪な気持ちで書いたら、叶うものも叶わないんだろう」
と言いつつ、長机に置いてある短冊を一枚手に取る。
「ミュラー教官も書くんですか? 俺も書こうっと」
セドリックもやってきて、笹竹の前はちょっとした混雑となった。
「バルバート教官、欲張り過ぎですよ。どんだけお願いするんですか!?」
班の優勝、ランディとの結婚に加えて、更にもう一枚取ろうとするビアンカをセドリックが諌める。
「願い事は一つって誰が決めたのよ?」
「大抵、そういうものでしょう。って、ミュラー教官も一枚にして下さいよ。大人げないなあ」
部下に叱られた教官二人は、互いに顔を見合わせて肩を竦めた。
「それじゃあ、セドリックのたった一つの願い事はなにかしら?」
悪戯っぽく笑うビアンカに、セドリックは書いたばかりの短冊を背に隠して赤面する。
「こういうのは人に見せないものなんです!!」
フェアじゃないと悪態をつくビアンカの横で、アレックスは真剣に考えこんでいた。数ある願い事から一つを絞るのは難しい。
来年もあるのだから、今年一番に叶ってほしいこと。
― やっぱり、アレか……。
今日も教官室で残業しているアレックスは、机に置いた携帯電話に何度も目をやった。そのついでに時計も見ると時刻は八時。
そろそろカーリンに電話を……と思っていたら、彼女の方から掛かってきた。
『こんばんは、少佐。今夜は七夕ですね』
「ああ。願い事はしたか?」
『もちろん!! 少佐は?』
「したよ」
現在の彦星と織姫ともいえる二人は逢うことすらままならない。
『どんな願い事ですか?』
「それは言えないな。叶わなかったらいかん」
『じゃあ、少佐がわたしの願い事叶えてくれますか?』
「カーリンの願い事を俺が?」
『はい。まずは星の力を借りたいので外へ出て下さい』
何をさせるのか、怪訝な顔をして言われた通りに教官室を出て外へ行った。
「出たぞ」
『そのままベンチへ歩いてくれませんか?』
アレックスは携帯電話を耳に当てたまま、外灯の明かりを頼りに休憩所として置かれているベンチへ向かう。
『ミュラー少佐』
「うん?」
『願い事はなんですか?』
今夜はやけにこだわると思った。セドリックは人に明かすものではないと言っていたが、カーリンなら……。
「もっとカーリンに逢いたい」
返事はなかった。
ベンチへ着くと、やっとカーリンの声が聞こえてくる。
『じゃあ、わたしも少佐の願いを叶えてあげられますよ』
目の端で人影が動いたのでアレックスが視線を向けた。月光に照らされた白いワンピースが淡く浮かび上がり、まるで天使が舞い降りた光景に目を見張る。
金色の髪を靡かせて、こちらへ歩いてくる人物に頬が緩んだ。
「カーリン……?」
「こんばんは、彦星さん」
自分で言って照れたのか、暗がりでも分かる顔の赤さ。
「どうしてここへ?」
驚きすぎて、逆に冷静になってしまったアレックスが問う。
「いつも少佐が突然なので真似してみました」
真似したといっても、そう簡単に来れる距離ではない。明日も勤務があるのではと訊くと、休暇をとったのとのことだ。
だから、今夜は一緒にいられると微笑むカーリンをそっと抱き締める。彼女の薄い生地を通して感じる体温が夢ではないと実感させた。
「こんなに早く願いが叶うとはな」
「たまにはこういうのもいいですね」
胸に頬を押し当てて甘えるカーリンの髪を撫でる。
彦星と織姫は、無事逢えただろうか。天の川へ思いを馳せた。




