第14話:これだから子供の頃を知っている侍従は扱い難いって言われるんだ
本日の投稿~
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この港町の領主館でありレベッカさんの家に到着する。本家よりは小さいが周りの家と比較しても目立つくらい充分な大きさだ。部屋に通されて最初に行われたのは医者による検診だった。体調が万全ではないのに6時間を超える馬車の旅だったかららしい。栄養状態は悪く、身体の肉付きも悪いので今日は安静になさいと言われたのでまたベッドの上の住人となった。
クレアさんとノーマさんはこの家のメイドと打ち合わせをしてくるそうで席を外し、レベッカさんも手紙を出してくる。と部屋を出ようとしたので「レベッカさん。ぼくはほんとうにきにしてないことをちゃんとつたえてね」と言うと、嬉しいような悲しいような笑顔で「分かった。ありがとう、リヒト」と返事をして出て行った。
残されたティアさんは横の椅子に座り俺と雑談をしていた。
「この町は美味しい魚料理が多いのよ!元気になったら食べに行きましょう?」
「それはたのしみ。…そもそもげんきになれるのかな?」
「どういうこと?」
「もしクソめがみがぼくのからだをこのじょうたいがふつうにしてたばあい、いっしょうこのままのかのうせいもあるでしょ?」
「っ!?」
「そうだったら…、いやだなぁ」
「…そうなったら、ずっと私が一緒にいてあげるわ。長寿で有名なエルフですもの!1人の人間と一生を共にしてもまだまだ生きていけますから!安心してちょうだい!稼ぎの方もこれでもCランク冒険者だし1人くらい養えますとも!」
「…ふふっ。そっか。…ありがとう。そうだったら、よろしくね?」
「任せなさい!それに契約精霊達も気になってるみたいだからね。なんでかは分からないけど」
「そうなんだ。じゃあせいれいさんたちもありがとうね」
「ははっ♪珍しいわ!精霊達が嬉しそうに踊っているわよ♪」
「せいれいさんたちはどうやっていきてるの?ごはんとかある?」
「自然界に漂う純粋な魔力を取り入れているのが一般的な精霊で、契約精霊は契約者が魔法を行使する時に威力を上げてくれる代わりにその精霊が求めることを叶えるって感じかな?私の場合は自分の魔力だけど、人によっては舞や歌とかもあるし、お菓子って精霊もいるわ。でもお菓子を食べたいとか所謂、現世に干渉出来る要求をするのは大精霊以上じゃないと無いみたい」
「ってことはティアさんのけいやくせいれいさんたちはだいせいれいじゃない?」
「えぇ。中位精霊ってところかしら?大精霊になるにはもう少し時間がかかるかもね」
「…そっか。ティアさんをたすけによんでくれたおれいにおかしでもあげたかったけど、だめそうだね」
そう言った瞬間、部屋の中に風と水と光の玉が現れて俺の周りをクルクルと回り出した。
「…どうやら頑張って大精霊になるからあなたの作ったお菓子を食べたいみたいよ?」
「びっくりした。でも、わかった。いきてるあいだならつくるね?」
「え?どうしたの?ん?え?あっ!ちょっと!?」
ティアさんが慌てて立ち上がって開いている窓の方に向かい、空に手を伸ばして呆然としていた。
「ど、どうしたの?」
「…たぶんだけど、強くなってくるからちょっと行ってくる。みたいな感じだと思う」
「…そのあいだティアさんってせいれいさんのちから、つかえるの?」
「…………」
「…なんか、ごめんね?」
「い、いいのよ。それに丁度いいからこの機会に新しい戦い方の訓練をするわ!」
「あと、そんなにはやくだいせいれいになれるものなの?」
「…………………」
まさかのCランク冒険者ティアの弱体化である。…本当にごめん。
◇
レベッカ視点
自分の屋敷に到着してすぐにリヒトを医者に見せるが悪化していないようで良かった。部屋を出る際リヒトに気にしていないと言われたのだが、私は上手く対応出来ただろうか?
ウチの家族は爵位に対してとても大らかで悪い意味での貴族らしい堅苦しさのようなものをほとんど感じたことが無かったので今回の件は少しショックだった。勿論、社交の場ではそういう立ち振る舞いが求められるのは理解しているし、私も公爵家の人間としてそのように振舞うことがあるので全否定しているわけではない。ただただ、家族だけの空間でリヒトのような子供を家の利益のために相談している姿が悲しかったのだ。家のために利益を求めたことに対しての悲しさでは決してない。立ち振る舞いと同じ様に必要なことだからだ。少なくとも私や兄上とクリスには目の前であのような話をすることが無かったから。本当にショックだったんだ…。
部屋に戻り、着替えもせずにベッドに飛び込む。人払いをしているので誰にも咎められることはない。大きくため息を吐いて天井を見上げた後、瞼を閉じる。
勝手に出てきてしまったので各方面に謝罪とフォローの手紙を出さなければ…。気怠いのを隠しもせずに猫背になりながら執務用の椅子に歩いて行き、机に左頬を置きながら筆を走らせる。
ある程度、書き終えるとタイミングを見てこの屋敷を任せているメイド長のパトラが元々ある顔の皺を更に深い皺に変えながらため息をし注意してきた。
「お嬢様?いつも言っておりますがこの家の主としてちゃんとしてくださいな。また嫌なことでもありましたか?」
「パトラ、私もいつも言っているが人間嫌なことがある時に無理にでも仕事しているだけでも偉いんだ。多少のことは見逃してくれ」
「はぁ…」
書いた手紙をパトラに頼み各方面に送ってもらう。さて、問題の家族への手紙か………………。面倒くさいなぁ…。
「その感じですとまたご家族と何かありましたね?でも報告しないといけないことがある。けれど、感情的に嫌になっている、と」
「流石公爵家の人間に仕えているメイドだ。その通り。面倒くさい」
「それで今回の原因は?」
「家族が悪い。絶対にそうだもん」
「…なるほど。でしたら後回しで良いのではないですか?」
「え?…珍しいな?パトラがそのように言うなんて」
「今回我が家に訪れた方で部外者は2人。エルフのティアさんと黒髪の子供です。それと公爵家にいたはずのメイド2人はあの子付きとして動いています。そしてここに着いてすぐ、あの子を医者に見せています。最後に、お嬢様がそれだけ気分を害しているということは子供関係でしょう。これだけのことがあれば今回の件はあの子に対してご家族の方が何かしてしまい、お嬢様はそれに対して怒っているけれど理解する部分もあって不貞腐れている。でしょう?」
「…怖いぞパトラ。お前にはそういうスキルでもあるのか?」
「子供の頃から20年以上仕えているんです。それくらい分かりますよ。子供の頃からお嬢様は不貞腐れると…ふふっ。いえ、止めておきましょう。その癖を直されたらお嬢様の機嫌を直すのに手間取りますから」
「はぁ。これだから子供の頃を知っている侍従は扱い難いって言われるんだ」
「光栄の極み」
「…パトラ。お茶」
「はいはい。美味しいお茶とお嬢様の好きな果物も用意しておりますよ」
「そういうところは好きだぞパトラ」
「ふふっ♪さぁどうぞ。召し上がっても機嫌が直らないならば私が代筆致しますよ?」
「………ちゃんと自分で書く。ありがとう」
「はい。それでは失礼致します」
満足そうに頷き、受け取った手紙の名前を確認して机の上に置き、雑事を済ませてくると言い残して退室していった。パトラの置いていったお茶と果物を味わい、大きくため息を吐いて気合を入れて手紙を書くことにする。えーっとまず、リヒトは無事で本人は全く気にしてない。むしろティアさんの方が気にしていると言うくらいには落ち着いている。あと私も怒っています。落ち着くまでこちらにいるので引継ぎお願いします。各所への手紙は出してあります。これでいいか。
残りのお茶と果物を食べ終え、小さく切ったらリヒトも食べれるんじゃないかな?と思い、厨房によって持って行ってあげようと少しスキップしながら部屋を出る。途中で見つけたパトラに手紙を押し付けて厨房に向かった。
「やれやれ。本当に単純で助かります。さて、手紙を出しに行きますか」
熟練の侍従は子供の頃から知っている主人の変わらぬところに1人笑顔になり、逆の道を歩いて行った。




