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第1話:凡人の終着駅、神賜の地の始発点

平凡な大学生の藤原直人は、魔法が実在する「天穹特別市」の大学から突如特待生としてスカウトされる。才能を疑いながらも、紫色の天穹に覆われた異能都市へ向かう直人。未覚醒の凡人を待ち受ける運命とは――。

藤原直人は都市間列車に揺られながら、天穹特別市てんきゅうとくべつしへと向かっていた。


車両は小刻みに揺れ、線路がリズミカルに刻む「ガタン、ゴトン」という音が、まるでこの旅のBGMのように響いている。窓の外では、見渡す限り続いていた田畑や森が次第にまばらになり、低い屋根の村落もすっかり少なくなっていた。それに代わって、空気に混じり始めたのは、うっすらと浮かび上がる淡い紫色の光暈オーラだった。


その光は決して眩しいものではなく、むしろ薄いヴェールのように、遠くの大地を優しく覆っている。白昼であっても微かに発光しており、まるで別の世界から滲み出た色のようだった。


直人は冷たい窓ガラスに額を押し当て、次第に近づいてくるその紫色を見つめていた。

 彼はどこか上の空で見入っていた。


天穹特別市、略称「天穹市」。

 中世の頃、大陸の中心に何の予兆もなく突如として現れたと言われている。まるで神が気まぐれに投げ落としたかのように。それを奇跡と呼ぶ者もいれば、まだ解明されていない何らかの厄災だと語る者もいる。


しかし、どう解釈しようとも、一つだけ確かなことがあった。それは、その地域一帯が淡い紫色の『天穹ドーム』に覆われているということだ。

 世界でただ一箇所だけの場所。

 そして、そこでのみ、人類は超能力、魔法、異能といった、まるで荒唐無稽に聞こえる力を使うことができる。


外の世界の人間は、そこを「神に与えられし地(神賜の地)」と呼ぶのが常だった。

 中に住む人々はというと……

 きっと、とうの昔に慣れっこなのだろう。


そう思いながら、直人が軽く息を吐くと、ガラスはたちまち白く曇った。彼は無造作にその曇りを手で拭い、再び窓の外に視線を向けた。

 その眼差しには単なる好奇心だけでなく、どこか言葉にできない複雑な感情が混じっていた。


今回、直人が天穹特別市へと向かっているのは、天穹大学から特待生としてスカウトされ、特別入学を許可されたからだ。


このことについて、彼は今でもまだ少し現実味を感じられずにいる。


彼は今年二十歳。元々は隣国にあるごく平凡な大学に通う、ごく平凡な大学生だった。成績は悪くないが優秀とも言えず、性格は内向的ではないが、人混みの中ではほとんど目立たないタイプだった。


もしあの電話がなかったら、彼は大勢の人たちと同じように、平穏に大学を卒業し、平凡な仕事を見つけ、ある程度予測のつく人生を送っていただろう。


しかし二ヶ月前、すべてが突然変わった。


天穹大学で魔法探知を担当する教員が、定期的な遠隔スキャンにおいて、直人に「魔法に覚醒する素質がある」ことを確認したのだ。


そして、彼の通う大学に一本の電話がかかってきた。

 手続きは拍子抜けするほど簡単で、どこか馬鹿げているとさえ思えた。通知、確認、そして転学手続き。それで終わりだ。


直人は今でも覚えている。担当教員にオフィスに呼び出され、そのことを告げられた時、彼は数秒間完全に呆然としてしまった。


最後にようやく絞り出したのは、「……本当ですか? 何かの間違いじゃありませんか?」という一言だけだった。その口調は、まるで自分にはそぐわない答えを尋ねているかのように、ひどく遠慮がちなものだった。


知らせを伝えた教員は笑みを浮かべ、確信に満ちた口調で言った。

「藤原直人くん、君は運がいい。天穹大学の検査でミスがあったことは一度もないんだ。彼らがあると言えば、必ずある。時間の問題だよ」

「君がどんな能力に覚醒するかについては……何とも言えないがね」そう言った後、教員はさらに付け加えた。「とにかく、希望を持っているなら、まずはあっちに行ってみることだ」


事はそうやって決まった。

 大した波乱もなく、彼に考える時間もあまり与えられなかった。まるで見えない手に背中を押されるようにして、ここまで来てしまったのだ。


列車が軽く揺れた。レールのかすがいを越えたのだろう。直人は我に返り、無意識に少し姿勢を正した。


車内アナウンスの穏やかな声が響いた。

『まもなく、天穹特別市エリアに入ります。乗客の皆様はご準備をお願いいたします』


アナウンスが終わると同時に、窓の外の景色が目に見えて変化した。


空の色はもはや純粋な青ではなく、淡い紫の層に覆われていた。その『天穹』は、近くで見ると遠くから見るよりさらに鮮明だった――半透明のドームのようでもあり、ゆっくりと流れる液体のようでもある。その中には不規則な光の帯がゆっくりと移動しており、雲にそっくりだが、決して雲ではなかった。


その感覚は、うまく言葉にできなかった。

 まるで、生きている空を見上げているような……。


直人はその光景をしばらく見つめていたが、ふと現実感が薄れていくのを感じた。彼は瞬きをして、視線を落とし、自分の両手を見た。


ごく普通の手だ。

 光を放っているわけでもなく、何の異変もない。


軽く拳を握り、また開いた。


「俺に本当に、魔法の才能なんてあるのかな……」

 その声は、隣に座っている人にさえ聞こえないほど小さかった。


天穹市は、誰でもふらっと来られるような場所ではない。

 外の世界では、「もしかしたら自分も能力に目覚めるかもしれない」という思いを抱いてここに入ろうとする人間は多いが、その大半は門前払いされる。厳しい審査と許可を得て、初めて入場資格を得ることができるのだ。


逆に、元々ここの住人は自由に出入りできる。


そして魔法――あるいは「能力ちから」――は、天穹市内でのみ真に使用することができるのだ。


だが、ここであっても、誰もが強力な能力者になれるわけではない。

 大多数の人間が覚醒する能力は、ごく平凡なものだ。

 例えば、ほんの小さな火花を出すのがやっとで、タバコに火をつけるだけでも何十回と試さなければならないとか。あるいは、水面をわずかに揺らす程度で、コップ一杯の水さえ満たせないとか。


能力が強い者は、各種の専門機関に入り、都市の運営にさえ携わることができる。

 能力が弱い者は……

 実際のところ、一般人と大して変わらない。


そこまで考えて、直人は思わず苦笑した。

「なら、俺は……」

 彼はそれ以上言葉を続けなかった。


車内は相変わらず静かだった。

 大半の乗客は自分の世界に入っており、うつむいてスマートフォンをいじっている者もいれば、イヤホンをして目を閉じている者もいる。時折、小声で会話を交わす者もいたが、声はひどく抑えられていた。


中には、彼と同年代くらいに見える若者も何人かいた。


彼らの体からは、言葉では言い表せない「気配」のようなものが微かに発せられていた。

 それは、彼らの周りの空気がほんの少し歪んでいるような、あるいはそこだけ温度がわずかに違っているような感じだった。


直人は彼らを盗み見し、すぐに視線を戻した。

 急に、心の底から不安が込み上げてきた。


(やっぱり……違いがあるんだな)


彼は心の中でそう呟いた。

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