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第13話 食堂に居ついた精霊サラ、「キュア~♪」(訳:ここ最高ぉおお~~ムシャムシャ~~)

 剣姫を堕とした数日後。

 昼食の喧騒が嘘のように引いていく三等騎士団食堂。


「これで今日の昼食提供は終了だな」

「は~い、先輩~~厨房の片付けにはいりますね~」

「…………」


 ミーシャはメガネをくいっと上げて腕まくりしつつ、厨房の方へ向かう。相変わらずじいさんは無言のまま。この人ずっと厨房にいるな……住んでるんじゃないかと思う程だ。

 団員たちがそれぞれの持ち場へ戻った食堂は、がらんとした静寂に包まれていた。厨房からはミーシャたちが食器を洗う軽やかな音が聞こえてくる。


 ふはぁ~~平和そのもだな。俺はテーブルを拭きながら一人この感じに満足していたのだが。


「キュア!」

「なんでおまえがここにいるんだ?」


 俺は向かいの椅子に座る赤いトカゲにツッコミを入れる。

 ルリアの召喚精霊サラマンダーのサラだ。


「先輩~サラちゃん、すっかり懐いちゃいましたねぇ」


 厨房からひょっこり顔を出したミーシャが、メガネの奥の目を細める。

 いやいや、懐いちゃダメだろ。


「サラ、ご主人様のところにいなくていいのか?」

「キュア~♪」


 きゅあ~♪ ちゃうがな。


 が、サラは俺のツッコミなど気にせず3杯目の牛丼を堪能していた。しかもつゆだく。

 たしか今日はルリアの魔法課、午後から魔法訓練じゃなかったか?


「サラちゃんは先輩のご飯が大好きなんですよ~」

「いやいや、それはいいとしてもここにずっと居ていいわけないだろ」


 にしても困ったな。

 無理矢理連れていった方がいいのかと思案していると、食堂の扉が勢いよく開いた。


「はぁ……はぁ……! サラちゃん、やっぱりここにいた!」


 息を切らして駆け込んできたのは、当のご主人さまであるルリアだった。栗色の髪を揺らし、その先端のアホ毛がぴょこぴょこと焦りを物語っている。


「もう、魔法訓練始まっちゃうよ! 早く行こ!」


 ルリアがサラの前にしゃがみ込み、その小さな赤い体を揺する。だがサラは億劫そうにルリアへ視線を向けたかと思うと、再びぷいとそっぽを向いてしまった。まるで「わたしの食事の邪魔するな」とでも言いたげに。


「もう、そんな食べてばっかじゃ太るよ!」

「キュアキュア~~!」


 ちっこい美少女とちっこいアカトカゲが揉めはじめた。

 ルリアがサラのしっぽを引っ張るが、頑として席から動こうとしない。

 4杯目の牛丼に夢中である。


「サラちゃんは先輩に懐いてますからねぇ~」


 厨房から様子を見ていたミーシャがいらん一言を放つ。



「むぅうううう……」



 ルリアのかわいい頬がぷくりと膨れた。その蜂蜜色の瞳が羨むように少しだけ悔しそうに、俺とサラを見比べていた。彼女の小さな胸のうちで、何かが静かに渦巻いているのが見て取れる。


「―――タケオさんにご飯対決を申し込みます!」


 栗毛からピンと立ったアホ毛がブンっと揺れた。


「え? ごはん……?」

「そうです、サラちゃんに食べてもらってわたしが勝ったら、サラちゃんを返してもらいます!」


 いや、今すぐ連れて行って欲しいんだが。


「お、おいルリア。そんなことしないで……」

「タケオさんには色々お世話になっているけど、これは別問題ですから!」


「だから、早く連れて……」

「これは私自身が乗り越えないといけない試練なんです!」


「ぶっちゃけ精霊召喚解除とかすればいいのでは……」

「じゃ、決戦の日は1週間後! ここで!」


 ダメだ。俺の話を一切聞いちゃいない。

 そう言うと、ルリアはリスのようにささ~っと走り去っていった。




 ◇◇◇




 そして1週間後。


「ルリアの精霊サラマンダーことサラちゃんのご主人様は、だ~れだ決定大会ぃ開催ぃい~~パフパフ~ドンドン!」


 ミーシャが司会と書かれたタスキをかけて、首から下げた小太鼓みたいな楽器をドンドン叩いている。

 ツッコミどころ満載だけど、なんか楽しそうだな……この子。


 テーブルを挟んで対峙する俺とルリア。


「タケオさん、今日こそ白黒つけさせてもらいます!」


 ふんすとかわいい腕をまくってみせるルリア。

 いやいや、今日こそってかマジで早く連れ帰ってくれよ。そもそも1週間も召喚しっぱなしって、大丈夫なんか?

 そんな俺の疑問にはお構いなしに、ミーシャが再び声をあげる。


「ではでは~! まずはわたくし、この食堂課の紅一点かつ看板娘のミーシャが腕によりをかけた至極の一品から~~♪」


 司会進行役を買って出たミーシャが、なぜか選手としてしゃしゃり出てくる。


「おい、なんで司会のミーシャが参加するんだ?」

「良いじゃないですか~~私だってサラちゃんに食べさせたいんだから。細かい事言ってたらハゲますよ先輩」


 おまえが出てくると余計に話がややこしくなるんだが。

 だが、すでになにか用意してるぽいし。


 まあ見てみるか。


「じゃ~~ん、ミーシャスペシャルですよ~~」


 彼女が自信満々にテーブルへ置いたのは、見慣れたコーンスープと牛丼だった。


「さあ、召し上がれ~~サラちゃん♪」


 いや、おまえそれ……単に今日の朝食昼食をとり置きしといただけじゃないか。


「ふむ、こりゃミーシャの勝ちはないな」

「なんでですかぁ~~! 先輩なら後輩の応援してくださいよぉ~~!」


 いやでんきんだろ。これじゃあ……

 ていうかこの大会に勝つ必要性が良く分からんのだが。


「ほらほら~~サラちゃんが好きなご飯だよ~~」


「キュ!」(プイッ)


 サラはそれに一瞥をくれると、興味なしとばかりに「キュ」と短く鳴き、プイッとそっぽを向いた。


「ああぁあ~~プイってしたぁ! 赤トカゲの分際でプイってしたぁあ~~!」


「えっと、今のは『こんな冷めちらかしたスープ飲めやしないわ。牛丼に至ってはご飯が汁すいすぎてぐちょぐちょドロドロ、出直してこいや』だそうだです」


 ルリアがどストレートにサラの言葉を代弁する。


「うそぉおお~「キュ!」の中にそんなセリフ入んないでしょ! サラ語どんだけむずいのよ!」


 まあなあ、そりゃ放置した飯とか最悪やろ……せめてラップしとけよ。てかまあ、そもそもラップがこの世界にないんだけど。

 床に手をついて嘆くミーシャを横目に俺はため息をつく。

 ミーシャのネタ見せみたいな時間は終り、ルリアがフンスと息を吐いた。


「タケオさん、手加減なしでお願いしますね」

「お、おう……」


 なんだかよく分からない大会がはじまった。


【読者のみなさまへ】


第13話まで読んで頂きありがとうございます!

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※本作はカクヨムにて先行公開中です。


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