第10話 昼の定番、そりゃ牛丼でしょ
あと1時間ほどで昼か。
さきいか祭りを楽しんだルリアたちも、各自担当部署へ帰って行った。
いっきに静かになったな。
と思たら……「キュルぅ♪」と足元に赤いやつがいる。
ルリアの召喚精霊であるサラが口をもちゃもちゃと動かして、美味そうにさきいかを頬張っていた。
祭りもお開きの頃に「あ、サラちゃんにも食べさせよう」とかいって出してたから、食べ足りなかったのかもしれん。
ご主人様の元から離れていいのかはよく分からんけど。
「キュルキュルゥウ~~♪(クチクチ)」
サラはさきいかを気に入ったのか、ちょっと体から火が漏れてる。
う~~む、これは……
俺は現代フード召喚でスルメ一匹を出すと、サラの身体でちょっとあぶってみた。
そいつをパクっと―――
おおっ! これはいいぞ!!
火力が適量なのか、良い焼け具合でうまい。
サラも寄こせと前足でチョイチョイしてきたので、半分渡すと「キュル~~♪」とうまうま顔で食べだした。
いやぁ~これは酒が欲しくなるなぁ~とご機嫌でかじっていると。
「ああ~~先輩、仕事してください~!」
ミーシャが焼きスルメに手を出しながら口をとがらせる。いや、おまえも食うんじゃないか。
3人でするめをかじっていると、じいさんが今日の昼食を持て来た。
スルメを見て髭がピクんしてたので、じいさんにもあぶったやつを手渡す。
「さて……これが今日の昼メニューだな」
俺は目の前にある昼食を口に入れる。
マメのスープ……ふむ、まあ食べられる。
硬いパン……いや、これはきつい。朝も出てきたがこれを昼も連続はつらいな。
まあ標準レベルで、誰も手を抜いていないのは分かっているんだが。
朝食と代り映えしないなぁ。
昼飯も朝飯と同じく大事だ。仕事と仕事の合間に取る食事なんだから、やっぱ気分変えたいしな。
朝飯もメスを入れたんだ。
よし、昼もやっちまうか。
マメスープはそのまま提供するとして、メインをあらたにだす。
「―――現代フード召喚!」
ポンっと丼が俺の手元に現れた。周囲に漂うのは濃厚な醤油と砂糖の甘辛いタレが混ざり合った、抗いがたい香りの湯気。その匂いだけで食欲がそそられる。
薄くスライスされた肉片はタレを纏い、深みのある茶色に輝いている。しかし、その内側にはまだ肉本来のジューシーさが保たれており、見るからに柔らかそうだ。
さらにその牛肉の合間を縫うように散りばめられた玉ねぎが煮込まれることで甘みが凝縮し、とろりとシャキがまざった食感を想像させる。
ご飯と具材の間にはタレの染み込んだ部分と粒立ちの良い白米の部分が層をなし、全てが口の中で一体となる瞬間の幸福を予感させる。
「先輩、これなんですか?」
「牛丼だ」
そう、グダグダと講釈をたれてしまったが。
こいつは昼の帝王である牛丼だ。手頃な価格、提供スピードの速さ、そして満足感の高い味わい。俺も前世でお世話になりまくったからな。
「ふはぁ~~そそられるにおいですねぇ~」
ミーシャがメガネをクイっとあげつつ、目の前のどんぶりに鼻をクンクンさせる。
とりあえず俺は牛丼を3つ用意した。
「いただきま~~す!」
元気な声と共に、彼女が熱々の牛丼を一口頬張った瞬間―――ミーシャの表情が驚きに染まった。
メガネが湯気で曇るほどの熱気。口いっぱいに広がる甘辛いタレの濃厚な旨味。とろシャキの玉ねぎと柔らかく煮込まれた牛肉が、ご飯と一体となって口の中で踊る。
「……っ!」
ミーシャは小さく声を漏らし、次々と牛丼を口に運ぶ。
「先輩、これ……すごい! なんだか、涙が出そうなくらい美味しいです! この、お肉とご飯が混ざり合う感じ……! そして、このタレ、どうしてこんなに美味しいんですか!」
その感動に浸るミーシャに、俺はニヤリと笑みを浮かべた。
じいさまは髭が左右にピンと揺れた。これはたぶん「うまい!」のサインだな。
「ふふ、まだだ。もっとすごいものがあるんだ」
「えっ……まだ、あるんですか、先輩?」
「ああ、牛丼には欠かせないものだ」
そう言って俺は鮮やかな赤色が目を引く千切りのショウガを召喚し、牛丼の上に添えた。
ミーシャは目を丸くする。
「んん……!? 不思議な味ですね。なんだろう、さっきよりさっぱりして、でも……もっと奥深い味がします。それに見た目が鮮やか!」
よしよしよし。
だがな、前世の帝王はまだ全力を出し切ってないぜぇ。
俺は最後の仕上げとして、生卵を召喚した。
カツンと割って、中身の黄身を牛丼の中央に落とす。
「これはヤバイぞぉ~~」
「……っ!!」
ミーシャが生卵をつつくと黄身がとろりと流れ出し、ご飯と牛肉に絡みつく。一口食べるごとに、ミーシャの瞳はキラキラと輝きを増していく。
「せ、先輩、これは……!?」
ミーシャは感動のあまりメガネをクイッと上げながらも、頬を赤らめていた。その様子を見て俺は確信しする。やはり昼に牛丼は最高だ。
じいさまもサラも無言で牛丼をかき込んでいる。
よしよし、俺も箸をとって……
きたぁ~~~これだぁ!!
めっちゃうまいな、牛丼。
秒でなくなる勢いでかき込んでいく。これが最高の食い方!
「よし、牛丼とマメスープ。今日の昼食はこれでいこう」
「は~~い、先輩~~♪」
そしてお昼時、団員で埋まり始めた三等騎士団食堂。
食堂全体が、驚くほどの静寂に包まれた。騎士たちはみんな目の前の牛丼に釘付けだ。
おそるおそるひと口いったやつが、ビクンとた直後、がぁ~~とかき込み始めた。
そんな様子を見ていた他のやつらも、一気に動きはじめた。
一口頬張るたび、「う、うめぇ……」「このタレ……」といった感嘆の声が。
そして夢中で丼をかき込み、その表情は至福そのもの。牛丼の味に魂を奪われたかのようだった。
昼食をとりにきたスリーナたちもガツガツいってる。
やっぱ牛丼は神だな。
「ああぁ~~んだよこの赤いやつ! キモいもん入れんじゃねぇ!」
そんな至福のリズムを崩す奴が、約1名。
ガシャーンとどんぶりを床に叩きつけて、こちらに向かってくる人物。
ザザールだ。
配転初日にからんできた特別指南役だな。
すさまじい至近距離でメンチを切ってくるザザール。
「すまんな。口に合わんのならパンもあるぞ」
「ああぁ? あんなクソまずいパン食えっかよ!」
だから、俺がいろいろ試してるんだが。
「ちょっと、先輩に文句言わないでください!」
「ああぁ? んだよおまえ! んん? ちょっとかわいいじゃねぇか……メガネとれ」
「え? なんですかキモイ……私のすっぴんは先輩の前でしか見せないんですけど」
「はあぁ? おい、おっさ――――――んんっ!?」
もんどりを打って、床で転げまわるザザール。
すまん、なんか話がめんどくさくなってきたから、熱々のたこ焼きを口内に直接召喚させてもらった。
「ふひゃああ~~~またきょれぇえええ!!」
が、再び立ち上がり俺に向かって来るザザール。
わざわざ召喚射程距離に入って来たので、またお口にダイレクトインだ。
今度は3個同時。
「ぎゅぁああ~~~こ、これここれぇええ~♡」
転げまわりながらも、なんかに恍惚な顔を漏らしはじめたザザール。
おい……
おまえひょっとして、クセになってないか?
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