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ダンジョン管理者の私、迷惑系配信者をデコピン一発でBAN(物理)しただけなのに地球でバスってた件  作者: セキド烏雲


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第6話 【悲報】セーフエリア、安全じゃなかった件

■地下迷宮「ユリカゴ」第10階層(上層):行商人のテント(セーフエリア)


 その日、第10階層はカオス(混沌)と化していた。


「どけよ!そのトカゲは俺たちの獲物だ!」

「うるせぇ!先に手を出したのは『ジャッカル』だぞ!」


 テントを取り囲んでいるのは、ジャッカルだけではない。

 金に目のくらんだ複数の小規模パーティー、さらにはソロの荒くれ者たちが入り乱れ、「誰がゴズを襲うか」で小競り合いを始めていたのだ。


 店主のゴズは、テントの奥でリザレから貰った『鱗』と『毛束』を抱えてガタガタと震えている。


「ひぃっ!?た、助けてくれぇ!!どうしてこんな事に?!」


「黙れ現地人!テメーごときモブ商人が喋んな!」

「あくどい商売してるお前が悪い!」


 暴徒の一人が、ゴズの頭を棍棒で殴りつけた。


「ふぎゃッ!!」


 ゴズが悲鳴を上げて転がる。

 それを合図に、暴徒たちが一斉になだれ込んだ。


 商品をめちゃくちゃに踏み荒らし、テントを引き裂く。

 ドライフルーツの袋が破れ、踏み荒らされた泥の中に無惨に散らばる。


「鱗だ!鱗を出せ!」

「現地人如きが強力な素材を持つんじゃねぇ!俺たち人間様が『管理』してやるんだよ!」


 もっともらしい理屈を並べながら、彼らは醜い奪い合いを繰り広げている。

 混沌レベルは最高潮に達していた。



■地下迷宮「ユリカゴ」第??階層:リザレの執務室


「……ん?」


 私はオカリナの手入れをしていた手を止めた。

 空中に展開した『遠視モニター』が、パカパカと赤く点滅している。


『第10階層:混沌レベル限界突破』

『不快指数に抵触する個体数:測定不能』


「……は?なにこれ」


 モニターを覗き込むと、そこには蟻のように群がり、醜い争いをしている人間たちの姿があった。


 その時、私が最も恐れていることが起こった。


 バシッ!!


 虚空から、私の「業務日誌(羊皮紙の束)」が勝手に引き出され、勝手にめくれた。


「ひっ!?」


 私はビクリと肩を震わせる。

 羊皮紙の白紙ページに、見えないペンが走る音が響く。


 カリカリカリカリッ!


 ものすごい速度だ。しかも、筆圧が強すぎて、ミシミシと紙が悲鳴を上げている。


「うっ、胃が……!」


 私はキリキリと痛む胃を押さえながら、浮かび上がった文字を読んだ。

 インクが飛び散るほどの殴り書きだ。


『――うるさい』


 たった一言。

 だが、その文字の「はらい」の部分が、紙を突き破っていた。

 さらに、羊皮紙の端が、ジリジリと焦げ始める。


「ひぃぃぃっ!?」


 私は慌てて羊皮紙を閉じた。


 私にこのダンジョンの管理を任せた上司。常闇の神『デヒメル様』。「静寂」を愛する神。

 その上司からの無言の圧力。絶対無視してはならない警告文。


「りょ、了解いたしましたァ!!直ちに鎮圧します!!」


 私は羊皮紙の束に向かって高速で敬礼すると、慌てて部屋を飛び出した。全てをかなぐり捨てて。



■地下迷宮「ユリカゴ」第10階層(上層):行商人のテント


「死ねトカゲ!邪魔だ!」


 暴徒の一人が、スキルによる「火球」を放とうとした、その時。


「邪魔なのは、オマエら」


 騒音と怒号のド真ん中に、氷点下の声を響かせた。

 瞬間、空気がシンと静まり返る。


 それは比喩ではなく、私の纏う「上司にプレッシャーをかけられた直後のピリピリ感」が伝播したからだ。


「げっ、管理ちゃん!?」


 私の姿に気づいた数人が、動きを止める。

 ただ、後ろから押してくる連中の勢いは止まらない。


「関係ねぇ!管理ちゃんだろうが、これだけの人数がいれば怖くねぇ!」

「そうだ!こっちは『セーフエリア』にいるんだぞ!攻撃できるわけが……」


 私はジト目で彼らを見回した。

 どいつもこいつも、「セーフエリア」という言葉を免罪符のように唱えている。


「……はぁ」


 私は深いため息をついた。

 さっきの上司の恐怖に比べれば、こいつらの殺気などサクラモチのほっぺスリスリに近い。


「セーフエリア?何それ。誰が決めたの?」


「は……?」


「ここは単に、『魔物が苦手な臭いを発する植物の群生地』なんだけど」


 地球の人間たちが勝手に安全地帯と呼んで、勝手にルールを作って、勝手に安心しているだけ。

 そんなローカルルール、ここでは適用されない。


「私の上司を苛立たせ、私の大事な『おやつの店』を壊した罪。……高くつくよ」


「はぁ?魔物ごときが!他のダンジョンと同じだ、徴収にきたんだよ!俺たちは」

「魔物の脅威から人類を守る。俺たちが管理者だ!」


 烏合の衆が言い訳を叫ぶ。

 私は冷たく言い放った。


「……徴収?管理?よく言う。ただの泥棒のくせに。何様?」


「な、なんだと……!」

「他のダンジョンがどうなのかは知らないけど、ここでは私がルール。少しは弁えたら?」


 私の言葉に、わなわなと震える異界の冒険者達。そして……


「や、やっちまえ!離れていれば怖くねぇ!遠距離で一斉攻撃だ!」


 パニックになった暴徒たちが、四方八方から飛び道具やスキルを放つ。


 遅い。

 止まって見える。

 さっきの「カリカリ音」が残っている私の集中力は、普段の3倍鋭い。


 私は彼等の攻撃を、水が流れるようにすり抜けた。


 一人目の男の懐に潜り込む。

 身体に染みついた「音のない歩法」。

 奴らが私の姿を認識するより速く、私の指は彼の額に触れていた。


「排斥・武装解除」


 上司に怒られた腹いせ。

 魔力を込めたデコピン。敵は腐食魔法により強制的に武装解除される。


「ブギョッ!?」


 男の身体が吹き飛びながら身に着けた全ての装備が崩壊する。

 着地する間もなく、次の標的へ。


 左足で地面を蹴り、身体を回転させながら、隣の男の額を狙い撃つ。


 パパンッ!


「ハブッ!?」


 その反動で私の身体がさらに回転し、次の標的へ。

 まるでダンスのように、流れるような動き。


 パパパパパンッ!!


「「「あべべべべべべべべべべべべッ!!!」」」


 指先から放たれる衝撃波が、連鎖的に暴徒たちを弾き飛ばす。

 まるでドミノ倒しのように、一瞬で数十人が宙を舞った。


 私は踊るように、男たちの額を狙い撃つ。


「乱れ打ち」


 パパパパパパパパンッ!!!


 暴徒たちの身体が、一斉に宙を舞った。

 まるで打ち上げ花火のように、四方八方へ。

 指に込めた腐食魔法により、装備が砕け散る音と、悲鳴が重なり合う。


「「「た〜ま〜や〜〜〜〜〜ッ!!」」」


 彼らの断末魔は、迷宮内に美しく響き渡った。


「……汚い花火」


 一瞬で、百人余りの暴徒が「掃除」された。


 静寂が戻る。

 私は懐の羊皮紙を確認する。

 これ以上の書き込みはない。


 ……セーフだ。助かった。


 その時。


「あ、あねごぉぉぉ!!」


 ゴズが涙と鼻水を流しながら、私の足元にすがりついてきた。


「……あーあ。フルーツが全滅じゃない」


 私は散らばったおやつの残骸を見て、眉をひそめた。

 テントの支柱は折れ、布は引き裂かれ、見るも無惨な有様だ。

 これでは営業再開まで時間がかかる。


 それに、またデヒメル様に「筆圧MAX」で怒られるのも御免だ。


「……しょうがない。店主、反対側持って」

「へ?」

「修理するから。手伝って」


 私は服の裾を捲り上げると、泥だらけのテントの支柱をガシッと掴んだ。


「あ、あねご!?そんな下働きをさせるわけには……!」

「いいから持って」


 私はゴズを急かし、折れた支柱を無理やり真っ直ぐに伸ばし、破れた布をチクチクと縫い合わせる。


「へい!よいしょっと!」


 二人で汗をかきながら、傾いたテントを押し上げる。


 30分後。


 ツギハギだらけだが、なんとか店としての形を取り戻した。


「ふぅ……。疲れた」


 私は額の汗を拭う。

 だが、これで終わりではない。

 また暴徒が来たら、元の木阿弥だ。


「……結界も張っておくから」


 テントに掌を置き、管理者権限で魔力を流し込む。


 ズズズッ……。


 テントと地面が淡く発光し、見えない壁となってテントを包み込んだ。


「これでよし。正真正銘の『魔物除け&攻撃無効化』の結界。私が許可しない攻撃は物理的に弾かれる」


 これで、この駄菓子屋はしばらく大丈夫だろう。


「さ、帰ろ。……腰が痛い」


 私は腰をトントンと叩きながら、踵を返す。

 その時だった。


「あねご……!」


 ゴズが震える声で呼び止めた。

 私は面倒くさそうに振り返る。


「……何?」


 ゴズは頭を下げた。

 その目には、本物の涙があった。


「本当に、ありがとうございます」

「……」

「俺、調子に乗ってました。あねごのくれた鱗を、奴らに自慢して……それで、こんなことに」


 ゴズは震える声で続けた。


「あねごは、良いお客さんなのに。俺、騙してたみたいで……」


 私は数秒、黙った。

 そして、適当に手を振る。


「そうなの?別にいいよ」


 ゴズは「あねごぉ」と何度も頭を下げた。


「これからは、真っ当な商売します!あねごには、ちゃんと良いもん仕入れますんで!」


 私はヒラヒラと手のひらをはためかせ、その場を去っていく。

 少しだけ、嬉しかったのは内緒だ。


 ◆ ◆


 その場を離れ、歩き出したその時だった。


 ピクリ。


 私の鼻が、微かな匂いを捉えた。

 血の匂いよりも深く、雨の匂いよりも冷たい。

 懐かしくて……胸が締め付けられるような気配。


「……ん?」


 私は足を止め、遠視モニターをのぞき込んだ。


 その時。


 モニターの端に、一瞬だけ「黒いフード」の人影が映り込んだ。

 私と同じ「歩法」で、深層へと消えていく影。


「……」


 私の手が、無意識にオカリナを握りしめる。

 あの歩き方は、忘れるはずがない。

 組織の、暗殺者の、歩き方だ。


 遠視モニターには何も映っていない。

 だけど、私の身体に染み付いた「同類の気配」が告げている。

 私の過去が、私と同じ「歩法」で近づいてきている。


「……まさか」


 私は胸のざわめきを押し殺し、闇の中へと姿を消した。

 だが、オカリナを握る手は、震えていた。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【現在のダンジョン状況】


 ■人類到達領域

  第18階層:風吹き抜ける荒野(上層)


 ■友好関係

 ・サクラモチ(E級 ピュア・スライムLv58)

 ・オハナ(S級 古竜Lv91)

 ・藍野アスカ(Cランク探索者、チャンネル登録者10万)

 ・ゴズ・ヴェン(C級 よろず屋Lv30)


 ■BAN対象(永久追放)

 ・狭間キョウヤ(Dランク探索者)

  罪状:スライムへの執拗な虐待

 ・臼井クロト(Bランク探索者)ほか4名

  罪状:冒険者達への陵虐


 ■BAN対象(装備ロスト)

 ・城嶋ジャック(Bランク探索者)ほか103名

  罪状:上司の機嫌を損ねたため


 ■管理者コメント

  私、カモられてないよね?

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 上司(デヒメル様)の筆圧、強すぎ問題。

「た~ま~や~」と飛んでいった彼らに哀悼の意を表しつつ、スカッとした方は★で評価をいただけると嬉しいです!作者が汚い花火の欠片になります。

 そして最後に現れた「組織の影」。

 シリアスな空気を出していますが、果たして……?


★カクヨム様にて先行配信しております。

 https://kakuyomu.jp/works/822139843894075364

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