形見
明日はお休みです。
次回は月もしくは火曜日投稿予定です。
アトラさんに連れられてアラクネスートの拠点と言う屋敷の中を歩く。
拠点と言うだけあってかなりの人数がここに居るらしく、書類を持った人やどこかに連絡をしているよな慌ただしい人たちとすれ違っていく。
その度に皆アトラさんの一言挨拶していくので本当にこの人って立場的に上の人なんだ…と実感した。
「ユキノさん今この人本当に偉かったんだ…みたいなこと思いましたぁ?」
「…」
図星を突かれたので咄嗟に言葉が出なかったよね。
「まぁ実際ぃ~私自身もそんな偉いとか思っていないのでぇ~ただ創設メンバーってだけなんですよねぇ~」
「そうなんだ」
アトラさんが創設メンバーってアラクネスートって想像以上にできたばっかりの組織って事だよね。
それにしてはあまりにも組織として大きすぎる気がする…やっぱり特別お金持ちの出資者とかがいるんじゃないだろうか?いや、そもそも私はこの組織が何をしているところなのかもよく知らないわけで…正直それほど知りたいとも思わないけれどもさ。
そうこうしている間にもすれ違ったアラクネスートの人が書類を片手にアトラさんに何かを訪ねている。
それに対して普段よりも真面目そうな表情で対応している姿を見て再度実感。
こういう光景を見ているとなんだか普通の仕事をしている組織のように見えるけど…実態は違うわけで…どうしてアトラさん達は秘密結社なんてやっているのだろうか?アラクネスートが何をしているのか気にならないけれど、そっちの理由は少し気になるかもしれない。
「すみませんねぇ~昨日の今日なのでまだまだごたついておりましてぇ~」
「ううん、大丈夫だけど…時間がかかりそうならナナちゃんと待ってようか?」
「いえいえ、ユキノさんとお話することも仕事の内なのでぇ~しっかりとやらせてもらいますぅ。あ、そこのあなたぁ~後ででいいのでバルコニーのほうに飲み物をお願いしますぅ~二人分でぇ」
そうしてアトラさんに連れられて来た場所は随分と殺風景なバルコニーだった。
どういう理屈なのか外は真っ黒な壁に囲まれているかのようで景色も何もないうえに、花や置物と言ったものもなく黒に囲まれたそこそこ広い空間にぽつんとテーブルと椅子が置かれているという違和感しかない場所だ。
「何もないところですがどうぞぉ~」
「ほんとに何もないね…」
何を思ってこんな場所を作ったのか、何の意味があるのかさっぱりわからない。
とりあえずアトラさんが引いてくれた椅子にありがたく座らせてもらい、アトラさんも向かい側に座って「ふぅ~」とこれまた間延びした息を吐いた。
「それでアトラさん…話って何?」
「ん~まだ飲み物も来てないですよぉ~ゆっくり行きましょうよぉ~」
「ナナちゃんを待たせてるの」
「ふむぅ~お熱ですねぇ~…まぁいいでしょうぅ~ところでどこまで聞きたいです?」
「なに、どこまでって」
「今回の事件の顛末とかから聞きたいですかぁ?それとも本題に入りたいですかぁ?って」
「…本題が聞きたいかな。もう終わった事件の話なんてどうでもいいし、私としてはナナちゃんが心配なだけだから」
私の返答を聞いてアトラさんがどこに持っていたのか分厚い資料を取り出して「ならこれは必要なしと~」となにやら仕分けを始めてしまった。
こう…外見的な話になるけどアトラさん見た目が大きな丸眼鏡におさげだからそうして書類と向き合っているのが似合うというか…。
大きな剣をぶんぶん振り回してるよりは絶対に正しい姿だと思う。
「いやぁよく人に言われるのですけどねぇ~?私はこうして事務作業をしている方が似合うと~」
「でしょうね。私も今そう思ったもん」
「ふむぅ。でも私としては不服と言いますかねぇ~?細かい字とこうして向かい合っているだけで頭痛がしますし三桁以上の暗算なんてめんどくさくてできたものじゃありません~。そもそも私ぃ字の読み書きをできるようになったのも結構最近なんですよぉ?」
「…そうなんだ。ちょっと意外、かも」
「ですかぁ~なんでそう思われてしまうんですかねぇ」
「どう考えても見た目のせいだと思うけど。不満なら外見をガラッと変えてみるとか」
見た感じだけで言うのならアマリリスさんよりも数倍、図書塔の管理をしている司書さんですという外見をしている。
「ん~実はですねぇ私はマザコンなのですぅ」
「…はい?」
なんか今…妙なカミングアウトされた気がするけど多分気のせいだと思う。
「ですからぁマザコンなのですぅ私ぃ」
「気のせいじゃなかった!いきなり何の話!?」
「外見の話ですよぅ。この眼鏡もレンズは度々交換していますがフレーム部分は私の母が使っていたものなんですぅ。髪色も母と同じなので一度も染めていないですしぃ~髪型も母がしていたのでこうしているのですぅ」
「そ、そうなんだ…」
その話を聞くと確かに結構なマザコンだと思うし、アトラさんがその容姿を貫くというのも納得できる…かも?
しかしアトラさんのお母さんかぁ…私はお母さんの記憶がかなり曖昧になっているけれど、だからだろうか?ちょっとどんな人なのか気になるかもしれない。
「アトラさんのお母さんってどんな人なの?」
「ん~…なぁ~んかへにゃへにゃした人でしたねぇ。妙にほわほわしていたと言いますかぁ~喋り方ものんびりとしててぇ~もっとシャキシャキ喋らんかぁいぃ~っていつも思ってましたぁ」
「へ、へぇ~…」
突っ込み待ちなのかどうか少し判断に困るラインだ。
もしかしたらアトラさんの喋り方もお母さんの模倣なのだろうか?
「まぁでも…優しい人でしたよぉ。いろいろと問題があった家庭だったのですがぁ~それでも懸命に私を育ててくれましたぁ~おかげさまでほら見てくださいぃ~こんな立派な私になれたわけですよぉ」
秘密結社に所属していることが立派なのかどうかは疑問が残る。
やっぱりツッコミ待ちなのだろうか。
「その…優しいお母さんはアトラさんが今こんな仕事をしてるって知ってるの?」
「もしも「あの世」というものがあるのなら…そこから私を見守っててくれているのなら知ってるんでしょうねぇ~」
「あ…えっと…」
遠回しな言い方だけど…つまりアトラさんのお母さんはすでに…。
「いろいろと問題のある家庭と言いましたがぁちょ~っと父が人から恨まれやすい仕事をしておりましてねぇ~…あ、合法の仕事でしたよ勿論。まぁ~そんなこんなで母が狙われましてねぇ~…複数人に寄ってたかってあれよこれよと~」
何でもない事の様に話すその様子が割り切れているのか、あえてそうふるまっているだけなのか判断がつかない。
ただ気安く聞いていい話ではなかったなと…自己嫌悪。
「その…すみません」
「ああ~いえいえ~別にもう済んだというか過去の話ですからぁ~。悲しい出来事ですがもうそれほど気にしてもいませんしぃ~…個人的なケリも付けましたしね」
「それって…」
「ええその場で仇はとりましたぁ~皆殺しですぅ。ついでにその後にくだんの父親が母を囮に使った事も判明したのでそちらもブッ殺しましたぁ~。なのでこうして気軽な雑談に使えるくらいには消化できているのですよぉ。復讐は何も生まないと言いますが少なくとも私はスッキリしましたぁ…んで途方に暮れていた私は秘密結社を立ち上げようとしていたボスに拾われたわけですねぇ~」
「大変だったんだね」
「暇ではなかったですねぇ。でもなんやかんやで今は楽しいですからぁ~…さてと、雑談はここまでにしていよいよと本題に入りましょうかぁ」
眼鏡の位置を直しながらアトラさんはまとめ終わった資料をテーブルに並べ、そう言った。




