鍵と心配
「それでぇ~私はその時にそいつに言ってあげたのですよぉ~…「骨密度が足りませんでしたねぇ」って~」
「なんの話をしているの?」
アトラさんが運んできてくれた朝食をナナちゃんと…何故かアトラさんも一緒にいただきながら、雑談をする…というかアトラさんがほぼ一人でずっと喋っている。
ナナちゃんはほぼ無言で私の陰に隠れるようにしてパンを食べてるし、私も相槌をたまに打つくらいしかできていないのにほんとにずっと喋っている…この人のこういう対人力の高さは見習いたい気がする。
「えぇ~?私がぁ去年ぶち殺した奴の中でぇ~そこそこ楽しめた部類の奴の最後の話を~?」
「ご飯中になんて話をしているの」
ナナちゃんもいるのに何してくれてるんだ教育に悪いでしょうが。
それにどうせ話すのならなんで私たちがこんな場所にいるのか方を説明してほしいわけで…それを伝えてみるとアトラさんはちらりと私の陰に隠れているナナちゃんの方を見た。
「なに?」
「いえ~ここで話してもいいんですぅ?私としては別に構わないですけどぉ~。言っておきますけどぉ~さすがに「我々」としても何の話も聞かないというのは無理ですよぉ~?」
…つまりアトラさん…というよりもアラクネスートは事情を説明してほしければ私たちの方からも話をしろという事を言いたいらしい。
そしてそれはたぶんナナちゃんの事を話さないといけないわけで…。
どうしたものか…正直私は解放してくれるのなら事情なんか知らなくてもいい。
今は無事に安全な場所までナナちゃんを連れ帰ることが出来ればいいのだから。
「実はですねぇ~こちらの方で「ある情報」を掴んでいますぅ~。それを踏まえると…ユキノさん達はしばらくこちらにいた方がいいかもしれませよぉ?少なくともそちらのお連れ様さんの事を心配しているのなら~」
「…どういう事かな?」
「それも含めてお話できればなぁ~と思っていますぅ」
そう言われてしまえばこちらには何もできない。
ただナナちゃんの事をベラベラ他人に話すのはどうなのだろうか…恐る恐るナナちゃんの様子を窺ってみるとお腹いっぱいになったのか食べるのをやめて背後から私の胸を揉みしだいていた。
びっくりするくらいマイペースだ。
「ナナちゃん人前ではそれやめようね…」
「え?あ、はい」
名残惜しそうに胸から手を離すナナちゃん。
私の胸の何がナナちゃんをそこまで引き付けるのか…ただただ不思議だ。
頭を抑えつつアトラさんのほうに向きなおると両手をわさわさと動かしながら迫ってきている彼女と目が合った。
「…なにしてるの」
「私も少し揉ませてもらおうかとぉ~」
「何を言っているの?」
なおも迫ってくるアトラさんから逃げ出そうとした時、背後からぎゅっと強く抱きしめられ、後ろに引っ張られる。
どうやらナナちゃんが私をアトラさんから遠ざけようとしているらしい。
「な、ナナちゃん…?」
「…」
ナナちゃんがちょっと頬を膨らませて怒っているような…な、なぜ…?どうして急に機嫌が悪くなったの!?
「むふぅ~お連れ様さんに怒られてしまいそうなので悪ふざけはやめておきますかぁ~。んでお話はどうしますぅ?」
「…わかった。応じるよ」
一応ナナちゃんに事情を軽く話していいかの了解をとってアトラさんと外で話をすることにした。
「じゃあちょっと行ってくるけど…どこかに行っちゃだめだからね。部屋の外にはいかない事…あと知らない人について行っちゃだめだよ。私以外の人が来ても絶対に外に出ないで。いい?」
「はい。ユキノさんが戻って来るまで待ってます」
そういうとナナちゃんは部屋の隅までいって足を抱えたいつものスタイルで丸まった。
見た感じ暇つぶしできそうな本とかも置いてないし…なるべく早く戻ってこないと。
「じゃあ行こうアトラさん」
「はいぃ~」
アトラさんの後をついて部屋から出る。
だけどそこで急に不安になった…またナナちゃんがいなくなったらどうしようと。
考えてみなくてもここは犯罪組織の拠点…ヤバい場所の真っただ中だ。
ナナちゃんの身に何もないとどうして断言ができるのか。
「…アトラさん。鎖とか南京錠あります?」
「はい~?探せばあるかもしれませんが何に使うんですぅ?」
「この部屋の扉を開かないようにして置かないとナナちゃんが出て行っちゃうかもしれないし、誰か入ってきちゃうかもでしょう」
「…いやぁ~でもそんな閉じ込めるようなマネは出来ませんよぉ~」
「どうして?もしかして本当に私を連れ出している間にナナちゃんに何かするつもりなの?」
「いえいえ~そんなつもりはぁ~…本当にそんなつもりはないので怖い顔しないでくださいよぅ~ただ扉を厳重に封鎖するというのは色々と不安が出てきますよぉ~?もし地震や火事などが起こってしまった時に逃げれなくなって大変ですぅ」
確かに一理ある。
ナナちゃんはそれでも死なないだろうけれど、だからと言って怖い思いをさせていいわけではない。
でもこんな誰でも入ってこれるような状態の部屋にナナちゃんを置いて行けるはずもない。
「ああ~じゃあはい~これ、この部屋の鍵ですぅ~。ここにこうして鍵をかけて~…はいカチャりとぉ~。そしてこれをユキノさんにお渡ししますぅ~」
アトラさんから部屋の鍵を受け取った。
作りはしっかりとしていそうな鍵だけども…。
「これ私が何も言わなかったらアトラさんが持ったままにしてたって事?」
「…いやぁ?あとで渡すつもりでしたよぉ~?ただほらぁこの後のお話次第ではすぐに出て行くってことになるかもしれないじゃないですかぁ?なら渡すだけ無駄な可能性もあるので~って」
「ふーん…でもスペアキーとかもあるよね?それも渡して」
「え、え~?それはこちらのセキュリティー状むずか…わかりました、わかりましたぁ~持ってきますから怖い顔しないでくださぁいぃ~ちょっとうちの小間使いに持ってこさせますねぇ~」
そしてアトラさんが小さな箱のような魔道具に向かって何かを話すこと数分。
どこかで見た覚えのある女の子がめんどくさそうに鍵を持って現れた。
「朝からスペアキーもってこいってなに?カララちゃん朝が弱いからちょー不機嫌なんですけど~?」
「はいはい~お手数おかけしましたぁ~いいから早く鍵をよこしてくださいですぅ」
そうだカララって子だ。
当たり前と言えば当たり前だけどこの子もいるような場所にいよいよナナちゃんを何の対策もなしに置いてはおけない。
「いいけどなんでスペアキー?って…あぁ!この女!ちょっと起きたのにこのあたしに挨拶の一つもないってどういう事?置いてあげてるんだから頭くらい下げなさいよ」
カララちゃんが私の姿を見るなり指を立てて迫って来た。
初めて会った時もそうだったけど騒がしい子だなぁ。
「はいはいカララさんとりあえずそのくらいにしておいてくださいぃ~。取り込み中なので~」
「なによ取り込み中って。もしかしてこの鍵をこの女に預けるの?なんで?スペアキーよこれ」
「中にいらっしゃるお連れ様さんの事が心配なので鍵をかけておきたいそうですぅ~」
「へぇ~?なに?誰か知らないけどそいつもこのカララちゃんに挨拶もなしで部屋を占拠して引きもろうって言うの?ふふん、そんな真似は許さないわよ!このあたしがここのルールってものを教えて…」
カララちゃんがナナちゃんのいる部屋のドアノブに手をかけた瞬間、スノーホワイトを発動してその身体を掴み上げて地面に倒した。
更にヘンゼルの力を解放して周囲の床をドロドロに溶かす。
「ねぇ私は部屋に入ってほしくないの。わかる?誰も私がいないところでナナちゃんに接触してほしくないの。わかる?」
「は、はひ…」
「分かったのなら早く鍵を渡して、そして二度とこんなマネしないで。わかった?返事は?」
「ご、ごめんなしゃい…」
「はぁ~驚くほど懲りない女ですぅ」




