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魔剣スカーレッド5

黒に包まれ月の明かりが血を照らす闇夜に不気味な魔物の唸り声を環境音にして二人の人物が向かい合っていた。

一人は組織「カカナツラ」を統べるレシーダ。

そしてもう一人は…。


「なんだお前は!」

「僕に名を問うか。いいだろう聞くがいい…僕の名はエンカ、エンカ・ダークハート。冥府の底で地獄の番人にこの名を告げるがいい」


エンカの言葉に合わせて突如として吹き荒れた突風がエンカの首に巻かれた深紅のマフラーを舞い上がらせ闇を彩り、手にしたスカーレッドの剣からは今しがた切り捨てたレシーダの部下の血が雫となって伝い、地面に零れ落ちていく。

周囲の状況からすでに近くにいた部下は全て殺されていることを理解したレシーダが舌打ちをしつつエンカを睨みつける。


「ふざけた格好をしやがって…目的は何だ。どこに雇われている」

「雇われる?馬鹿な事を…この孤高の漆黒たる存在である僕は何者の指図も受けはしない。夜の闇を手にすることが出来る者などいはしないのだから」

「えっと…エンカくん…今回に関してはめっちゃ雇われてると思うよ…?」


思わず声を出したスカーレッドのそれをレシーダは聞き逃さなかった。

しかし彼が反応したのは誰かに雇われているという言葉ではなく、スカーレッドが…剣が喋ったという事実に対してだ。


「言葉を話す剣…エンカ…貴様先ほどエンカと名乗ったな?…そうかそう言えば報告を受けたのはそんな名だったか?」

「何を言っている」


ニヤリとレシーダは見たものが皆不快感を覚えるであろう他者を見下したような笑みを浮かべ、スカーレッドの剣を指差す。


「その剣…うちの下部組織から盗み出した物だろう?違うか?」

「え…」


か細く声を漏らしたのはスカーレッドだった。

剣となっている状態ではどうなっているのかも定かではない心臓がドクンと跳ねあがり、途端に息苦しくなる。

おそらく人の姿だったのなら顔は青ざめ、全身から朝が噴き出しているところだが剣になっているスカーレッドのそんな状態をレシーダは認識できていない。

しかしそれでもレシーダはスカーレッドの傷を抉るように口を開き続ける。


「あそこから奪われたのは確か…成功例の37番だったか?はははは!とっくに捨てられていると思ったが…なんだまだ持っていたのか。確かにまだ俺達以外には流れていない技術で作られた剣だからなぁ?珍しさという点では価値はあるだろう。だが…」

「やめて…」


エンカの手の中でスカーレッドが震えた声を絞り出す。


「だがまさか使ってもらっているとは驚きだ!なぁ廃棄予定だった「失敗作」の剣よ!」

「言わないでぇえええええええ!!!」


血の剣から涙交じりの絶叫が辺りに響いた。

スカーレッドの脳内には彼女が「元居た場所」で行われた様々な行為が、投げかけられたたくさんの言葉が反響し大きくなっていく。


「ふん」


しかしそんなスカーレッドを手にしているはずのエンカは剣となっている彼女を一瞥もせず、興味なさげに鼻で笑う。


「なんだ?まさかその剣が俺たちの所では失敗作だったと知らなかったのか?はははは、そりゃあそうか。せっかく使ってもらってるのに自分から言えないよなぁ?37番」


いやらしく笑うレシーダと「やめて…」とか細く呟き続けるスカーレッドの声を聞きながらエンカは…表情を変えることもなくただレシーダに鋭い視線を向けていた。


「何を笑っているのかは知らないが…つまりはお前がスカーレッドが居た場所を仕切っていた悪という事でいいのか?」

「スカーレッド?その剣の事か?そう言う事なら正確には取り仕切っていたわけではないが…俺の命令で動いていた実験施設であることは間違いないな。で?だったらなんだ?」


「そうか…ふっ、いやなに…世界はやはりこの僕に正義を成すという事を望んでいるらしい」

「…何を言っている?」


「ずっと気になっていた。僕がつぶしたあの場所は指示を出していると思わしき場所がなかった。つまりは完全にあの場所に蔓延っていた悪を討滅できていなかったという事がただただ心残りだった…だが、こうして僕とお前は相対した。ならばやることは一つ…漆黒に生きる正義として僕は悪であるお前を滅する。そう僕こそが主人公なのだから」


エンカが血の剣で空を切る。

その瞬間、全ての音が一瞬だけ消え去り、月明かりがその身を照らす。


「スカーレッド」

「エンカくん…」


「何をぶつぶつと言っているのかは知らないが耳触りだ」

「うん…ごめんね…」


「お前は剣だ。余計なことは考えずじっとしていろ。この僕が無辜なる者たちを害する悪を切り捨てるのをただ見ていればいい」


ぶっきらぼうに投げかけられた言葉にスカーレッドは苦笑する。

それと同時に先ほどまでの動悸が収まっていることに気がついた。

あまりにな言葉に聞こえるかもしれないし絶対に認めはしないだろうがそれがエンカなりの気遣いであることをスカーレッドは知っている。

滅ぼし損ねた悪だから…それもエンカの戦う理由で間違いはない。

しかしその中には確実にスカーレッドとの因縁も含まれている。

何故なら彼はエンカ・ダークハートだから。

自らを世のため人のために正義を成す漆黒のヒーローにして主人公であると確信しているのだから。


「…頑張ろうねエンカくん」

「ふん」


エンカが剣を構え、レシーダが顔から笑みを消す。


「やる気か?その失敗作をもって俺に向かってくるつもりか?」

「失敗作か。愚かだな貴様は…やはり無知蒙昧な悪なだけはある」


「なに?」

「確かにこいつの人格は小うるさいだけの子供だ。しかし剣としては大いに有用であることに気がつけないとはな。せめてもの手向けだ、見せてやろう…我が魔剣スカーレッドの力を」

悪役と言いますかやられ役のキャラは分かりやすくやられ役にしていくスタイルです。

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― 新着の感想 ―
[一言] エンカ君のこと見てるとむず痒く感じてましたが、今回のエンカ君は本当のヒーローみたいでかっこよく見えますね!
[一言] エンカくんも割とやられ役…というか噛ませ犬っぽいオーラを全身に纏ってはいると思うの スカーレッドちゃんへの想いで打ち消されてなかったら危ないところだった…
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