魔剣スカーレッド6
明日はお休みです。
次回は日か月曜日に投稿します。
「魔剣?魔剣だと?はははっ!いいじゃないか…ならば見せてもらおうか」
レシーダが不敵に笑みを浮かべ、片腕をあげる。
その腕には複数の小さな宝石が不規則に取り付けられた金色の腕輪のようなものが嵌められており、それを見たエンカがわずかに眉を顰める。
「どうした?かかってこないのか?」
「…魔の気配だ。濃厚な悪しき獣の気配…貴様なにをした?」
「ほう?ただの頭のおかしい…お前男か?女か?まぁどちらでもいい。ただの頭のおかしい馬鹿かと思ったが多少はできるらしいな?これはあるお方から授けられた特殊な魔道具でな…こいつの力で印を刻んだ魔物を操ることが出来るんだ。おかしいとは思わなかったか?なぜ俺がお前たちごときと長くおしゃべりをしていたと思う?それはこの場所にこいつらを呼ぶ時間を稼ぐためだったんだよ!」
レシーダの声と共に、闇夜の中から無数の魔物がその姿を見せた。
おぞましい色に染まった剥き出しの牙がエンカの血肉を引き千切らんと開かれる。
「…やはりお前は悪だな。それも三流以下の」
「なんだと?」
「自らの手の内をベラベラとよくしゃべる…まさに矮小な悪が己の力を誇示するための情けない行動そのものだ」
「ふははは強がりは見苦しいだけだぞ?俺がお前にこの腕輪の力を説明してやったのは冥途の土産という奴だ。…ありがたく受け取るがいい!」
レシーダが勢いよく腕を振ると周囲の魔物達が一斉に動き出した。
まさにこの瞬間を待っていたと言わんばかりに大口を開き、目を血走らせ、耳障りな唸り声をあげながらエンカに殺到していく。
エンカはそんな光景を見て…ただ静かに血の剣を構えた。
「さぁ目覚めろ魔剣スカーレッドよ。いまこそお前の力を示す時だ」
「私ずっと起きてるけど…」
「散らせ血染花…絶剣・赤落葉」
まるで風を撫でるようにゆっくりとエンカが剣を振るい、一閃。
音もたてず放たれたそれは群がっていた魔物達の身体を瞬時に切り裂き、零れ落ちた血がまるで歪な花の様に広がっていた。
「な…なんだと…!?お前今何をした!」
「見せてやっただけだ。僕の魔剣の力を」
「そんなはずがあるか!37番目の剣は失敗作だったはずだ!」
「お前たち悪の降す評価などいつの時代も間違っている物だ。いつだって正しいのは正義なのだから」
「そんなはずはない!絶対にだ!どれだけそいつを調べたと思っている!そいつは間違いなく失敗作だったんだ!魔物を切り裂く力などない!ないんだ!」
「自らの双眸で目撃した光景すら信じられないとは…無知蒙昧とはまさにこのことだ。スカーレッド。お前情けないとは思わないのか?曲がりなりにも僕の手にあるお前があんな三流以下の小物に恐れを抱くなど…」
「あはは…そう、だね…」
スカーレッドはエンカに対して曖昧な返事しか返すことは出来なかった。
何故ならレシーダの発言がすべて正しいのだと他の誰でもないスカーレッド自身が理解しているのだから。
(私は失敗作…でもエンカくんは…)
──────────
それは数年前のこと。
とある場所の地下にひっそりと建てられていた場所に37番と呼ばれている少女はいた。
元は孤児だったその少女はある日、少女を引き取りたいとの申し出に頷き…そして気がついた時には冷たい台の上に縛り付けられており、その後は全身を切り刻まれ、何かを注入、移植されて…次に目を覚ませば少女は自らの身体を剣に変えられるようになっていた。
その日から少女の名前は37番になった。
「どうだ?」
「ダメだな。耐久以外の全ての数値が基準値以下…まさに失敗作…いや、成功例の失敗作だな」
その場所の大人たちは日々スカーレッドに対して実験と称し色々な事をした。
怪しげな機械に剣の状態で繋がれたり、実際に何かを斬ったり…生身の状態でも様々な薬品を投与されたりと辛く苦しい毎日を送っていた。
しかしその中でも最もつらかったのは…。
人を武器に変えるという研究はこの場所ではさらに数年前から行われており、その術式を受けた者は高確率で死亡した。
少女は運よく生き残り、次の実験へと進むことが出来たのだ。
37番。
その名前の意味は成功例の37番目という事…つまり少なくとも少女の前に36人の成功例がおり、それは同じ苦しみを共有する仲間となりえる存在…のはずだった。
37番が成功例たちのいる部屋に戻ると他の仲間たちは楽しそうに談笑をしていた。
おそらくこの光景を第三者が見たのならとても37番と他の者たちが同じ場所で生活しているとは思わないだろう。
綺麗な服に整えられた容姿…部屋は人数に対して広いとは言えなかったが用意されているベッドはふわふわと寝心地のよさそうなものだった。
対して37番はというとボロボロで薄汚れた服を着させられ、顔や身体は生傷や汚れが無数にあり、髪も手入れがされていないのかぼさぼさで艶など見当たらない。
「あぁ37番遅かったね」
「うん…」
まだ痛む傷を抑えながら自らのベッドがある場所まで歩く。
そこにはシーツや布団がはぎ取られて剥き出しとなった骨組みと板だけになっているそれが鎮座しているだけだ。
「あ37番ごめ~ん。戻ってくるのが遅かったからご飯いらないんだと思ってあなたの分食べちゃった。いいよね?」
「…うん」
「ありがとーやっぱ優しいね37番は」
「あははは!優しー!」
「くすくす」
その場の全員に笑われながら37番はきゅうきゅうとなるお腹を押さえて骨組みだけの温かさも柔らかさもないベッドの上で丸くなる。
「あーなんで私たちみたいな優秀なのが37番みたいな「失敗作」と一緒の部屋なの~」
「ね。そこは納得できないよね」
「ほんとにそう。臭いし汚いしほんと迷惑」
この場所では37番にはもう一つ名前があった。
失敗作。
彼女は成功率の率い実験を乗り越え、武器化の能力を得たはずだった。
しかしそんな彼女を待っていたのは失敗作という評価。
確かに剣に姿を変えることは出来るが、その見た目は歪でまるで血を何とか棒状に固めようと努力はしたとばかりの剣のような何かだ。
切れ味も並であり、彼女以外の全ての成功例が獲得した「特殊な力」もいっさい存在しない…つまりは「切れ味の悪い歪んだ剣」であり評価するべき場所が存在していない。
これには少女を無理やり剣に変えた者たちも頭を抱えた。
莫大なコストに孤児とはいえ人を使うというリスク…それらを抱えて出来上がったものが市販されている武器以下の性能しかなかったのだから。
「おい…いくらなんでもこれは…本当になにか評価できるポイントはないのか?」
「一応ですが武器化のスピードは成功例の中でもずば抜けて早いですね…」
「だからなんだ!?確かに速いのはいい事だ…だがなだからどうしたというんだ!」
「その…手元に置いておけば不意打ちや暗殺に対応できる…とか?」
「そんなもん普通に剣を腰に下げていればいいだろうが!!武器を身に着けていない就寝時だって37番も寝るだろうが!意識のない状態で武器化は出来ない…はぁくそ!まさに失敗作だ」
大人たちがそんな会話をしているのを37番は聞いたことがある。
いや37番以外の者も…それ以来彼女は失敗作となった。
本来同じ境遇に置かれていた成功例たちはお互いに慰め合い、辛い現実を耐えていた。
しかしそこに明確に自分達より下の立場である37番が現れたことで36番までの成功例たちは自らの心を守るため…いや自尊心と優位性を守るために37番の迫害を始めた。
そして研究者たちもその行為に一切の口を挟まないどころか36番たちを優遇した。
そうすれば皆大人しく実験に協力するようになるからだ。
傷つくのは37番一人…それは他の者たちからすれば驚くほどにコスパが良いものだった。
失敗作一つの犠牲ですべてがうまくいくのだから。
37番は毎日涙を流し、増えていく傷と同じ数だけ…心にも傷を負った。
もういっそ自ら死んでしまおうか…そう考え始めていた時だった。
研究所に侵入者が現れた。
意地でも性別は明かさないエンカくん。
なお今回放った必殺技は同じモーションでも日によって何故か技名が変わります。




