探し求めて
次回は出来れば明日投稿したい気持ちです。
「ふぁ~……むにゃむにゃ」
眼鏡の下から指を入れて目をこすりながら、アトラは大きなあくびをした。
うつらうつらと首を揺らし、人気のないところにひっそりと建てられた建造物の壁を背にして座り込むその姿は今にも寝てしまいそうに見えた。
実際半分くらいは寝ていたのだが何か硬いものを引きずるような音が建造物の中から近づいてきて、それに気づくと同時に頬を数度叩いて目を開ける。
そのタイミングで建造物の入口からボロボロになった剣を地面にこすりながら血で汚れたユキノが姿を現す。
「どうでしたかぁ~」
「…ここじゃない」
ユキノは光の無い目をしてそう呟くとそのままフラフラとどこかに向けて足を進めていく。
「ちょっとユキノさ~ん、さすがにそろそろ休みましょうよぉ~もう丸二日ですよぉ~」
衝動のままにユキノとアトラが帝国の首都を飛び出し、ナナシノが連れ去られた可能性が高い方角に走り出して二日が経っていた。
その間ユキノは魔物を探し、殺し続けた。
アリスからの情報通り、ひとたび道からそれれば魔物に出会うほどに大量発生しており、一般人にはあまりにも危険すぎる状態となっている。
しかしユキノとアトラにとっては魔物は多少厄介な動物程度の存在でしかなく、むしろ魔物を見つければユキノは喜々として突撃を敢行し殺した。
魔物がいる方へと進み、殺し、カカナツラの施設を発見してはナナシノの姿を求めてユキノはただただ進み続けた。
その度にユキノの白い身体を血が汚していくが…そこにユキノ自身の血は含まれていない。
全ては魔物の…そしてカカナツラの構成員の返り血だ。
そうして三つ目の施設を制圧したのだが、二人はこの二日間、休憩らしい休憩を取っておらず、さすがのアトラも眠気が限界に達しようとしていた。
「そんな暇なんてない。ついてきてなんて頼んでないし、私は一人でも行くから」
「まぁそう言わないでくださいよぉ~。冷静になりましょう~時間が経って焦る気持ちは分かりますがぁ~疲労がたまりすぎて土壇場でミスをするなんて素人の笑い話ではすみませんよぉ~?」
ユキノはまるで何かに取りつかれたように休まずに動いており、魔物はともかくとして普段ならためらうはずの殺人でさえ平気で行った。
施設の制圧は自分の仕事だろうと考えていたアトラであったが、その考えはすぐに否定され、むしろアトラが手を出す暇がないほどに素早くユキノはカカナツラの施設内の人間を殺した。
(殺人衝動に飲まれていますぅ~?…いえ、これは…)
殺人衝動…人を殺したいと思い、殺人という行為に快楽を覚えるそれだが今回は様子が違う事にアトラはすぐに気がついた。
何故ならユキノが笑っていないから。
表情をピクリともさせず、ただ虚ろな目のまま、無表情でそこら辺で拾った剣を正確に急所に突き刺しカカナツラの構成員を殺していったのだ。
喜びも悲しみも…快楽も罪悪感も何も感じていない。
ただそこにいた小さな虫を何の気なしに踏みつぶしたかのような…そんな様子だった。
「休んでる暇なんてない。私のナナちゃんが待ってるの。一秒でも早く私はナナちゃんを助けてあげないといけないの」
「そんな汚れた姿じゃあ百年の愛も覚めますよぅ。すこぉ~しだけ休みましょうぅ~ね?軽くご飯を食べてぇ~軽く水浴びをしてぇ~軽く寝ましょうぅ~そうしないと絶対倒れますよぉ~。そっちのほうが時間ロスになると思いませんかぁ~?」
「…」
「5時間だけ休みましょう~。ね~?周囲に魔物もいないみたいですしぃ」
「…3時間」
「はぁい、じゃあそれで~三時間だけお休みしましょうねぇ~」
そしてアトラとユキノは食事と水浴びを一時間で済まし、仮眠をとった。
「─────ラ」
「んん…?」
スヤスヤと眠っていたアトラの耳に何かが聞こえた。
アトラとて曲がりなりにも犯罪組織の一員であり、いつもならば何かあればすぐに起きれるはずなのだが今回ばかりは疲労のためかうまく覚醒することが出来ない。
「────か!──────ラ!」
「なに…?なんですぅ…?」
「起きなさい!馬鹿アトラ!!」
「んぇ」
脳を揺らすほどの大声を耳元で出され、反射的にアトラは飛び起きた。
驚きに目を見開きながらも大きな丸眼鏡を取り出して声の主を見る。
そこには不機嫌そうな顔をしたカララが立っていた。
「…カララさん?なにしてるんですぅ?」
「それはこっちのセリフよ!あんたとユキノって子を追えって言われたから「箱」の反応を追って急いで来てみれば…なに呑気に寝てるのよ!」
「いやぁ呑気にって~相当頑張ってたんですよぉ~私ぃ~…ん~むにゃ…ふわぁぁあ~…体感的には一時間と少しくらいですかぁ眠っていたのわぁ~もう少し眠る予定だったのだから起こさないでくださいよぉ~」
「知らないわよそんなの!こっちだって待機だって言われてたところを急に行けって言われたんだから!なんなのよ全く…ユキノって子も一緒に居るって聞いてたのにアンタ一人だしさ」
「…はい?」
カララの言葉を聞いてアトラは慌てて立ち上がり、ユキノが寝ていたはずの場所を見た。
しかしそこには誰もおらず、周囲を見渡してもユキノの姿はない。
「嘘でしょぉ~せっかちだし薄情すぎやしませんかぁ~?まぁそういうところも私的にはポイント高いですけどねぇ~」
「何一人で言ってるのよ。なに?もしかして撒かれたの?ぷぷっ!だっs」
「イキリだしたらまた痛い目にあいますよぉ~。私が何かをするとかじゃなくてカララさんそういうところありますからぁ~」
「…それでどうするつもりなのよ」
「ふぅむ~何とか探すしかありませんねぇ~。クイーン…というか「ボス」にカカナツラの情報を持ち帰れとも言われてますしぃ~今のユキノさんは間違いなく一番の情報…カカナツラのボスを殺してしまうでしょうからぁ」
「じゃあ早く行くわよ!このカララちゃんが来てあげたんだから小娘の一人くらい秒で見つかるわよ!」
そう言い放ちながらカララが後ろを振り向いた時だった。
真っ赤な剣の剣先がその眉間に軽く触れるようにして突き出されていた。
「ひっ…」
「貴様、ここで何をしている」
赤い剣の持ち主…深紅のマフラーに黒いコートをたなびかせたエンカがそこにいた。
カララさんのあまりにも速いフラグ回収…作者でなければ見逃していたかもしれません。
次回はユキノさん視点になると思います。




