カカナツラ1
「本当に…ほんっとうに申し訳ありませんでした…!!」
冷静になりナナちゃんに何があったのかの話を聞くこと数分。
私はエンカさんに全力で頭を下げていた。
「構わない。僕の方も悪かったと理解しているし、何より…お前の持つ闇の波動を放ちし深淵を見ることが出来た」
「うぅ…本当にすみませんでした…」
何故か少しだけ嬉しそうなエンカさんにもう一度だけ頭を下げた。
本当に申し訳ない気持ちしかない…。
あの時、私がふとナナちゃんの方を見るとエンカさんがナナちゃんの腕を掴み上げているところだった。
それを見た瞬間、私の中で何かが切り替わるように「殺さなくちゃ」という思考になってしまった。
いくらなんでも先走り過ぎだし…何のためらいもなくスノーホワイトを使った自分に驚いてもいる。
最近ホントどうかしている。
「もー!あれもこれも全部エンカくんがいきなりナナシノおねーさんの腕を掴んだりしたからだからね!反省しなさいっ!」
スカーレッドちゃんが頬を膨らませながらエンカさんの膝関節に手刀を繰り出しながら怒る。
「だからその点についてはこちらも悪かったと言っているだろう」
「もう!いつも少し考えて行動しなしゃい!…しなさい!って言ってるでしょー!ほんとにもう!」
二人は絶賛喧嘩中だけど、こっちは許してもらえたという事で私は身体をくるっと後ろに回転させて再び頭を下げた。
「このたびは…まことに申し訳ありませんでした…」
「…」
私が頭を下げた相手…アマリリスさんは何も言わなくて…下げた私の頭に突き刺さる視線を感じた。
なりふり構わず暴れてしまったせいで、図書塔の中は大変な事になってしまっており…もうどうお詫びすればいいのか分からない。
あのお話好きのアマリリスさんが何も言ってくれないというこの状況が、どれだけアマリリスさんが怒っているのかを示しているかのようだ。
「あの…弁償するので…」
「うん?あぁ…本は無事だしそれは別にいいんだけど」
…いいの!?
びっくりして顔をあげると、アマリリスさんは穴が開きそうなほど私をじっと見ていた。
そしてなぜかアリスも同じようにじっと私を見ている。
「あ、あの…?」
「ユキノちゃんさ。大丈夫なの?」
大丈夫とは。
まさか弁償するとしてお財布の中身は大丈夫なのかという意味でしょうか。
やっぱり私が壊してしまったいすや机ってめちゃくちゃ高いものだったんだ…!
「ごめんなさい!ちゃんと働いてでも弁償します!」
「いやだからそれはよくて、ユキノちゃん自身が大丈夫なの?って」
「はい?私ですか?大丈夫ですけど…」
特にどこも怪我はしていないし、仮に怪我をしたとしてもスノーホワイトの力で軽いものならどうにかなる。
しいて言うのなら今日は戦うつもりなんてなかったから袖がついてる服を着ていたのでスノーホワイトを使うと同時に破れてしまった事くらいか。
「うーん?まぁ大丈夫ならいいのだけどさ」
「えっと?」
「ま、ひとまずはちょっと話をしようか」
アマリリスさんが無事なテーブルを指差して移動し、私もオドオドとしているナナちゃんの手を引いてそちらに向かう。
「エンカくん!君たちもこっちに来ておくれ」
アリスがエンカさんとスカーレッドちゃんに手招きして総勢七人…ぐるっとテーブルを囲んで椅子に座る。
しかし椅子が六個しかなかったので私は立っていようと思って椅子をナナちゃんに譲ると、リコちゃんが座っていた私に椅子を差し出した。
「え…いいの?」
「うん」
「でもリコちゃんが座れなくなるんじゃ…」
「大丈夫」
二階からとってくるつもりなのかな?と思ったのだけど、リコちゃんはぴょんとアリスの膝の上に跳び乗ってしがみついた。
この状況で私たちに背を向けてアリスと正面から抱き着くような形に収まる辺り、さすがだと思う。
「…」
ナナちゃんが無言でその光景を凝視した後に私の膝の上に視線を動かしたのが見えたけど…人前であれをやる勇気は私にはまだない。
ごめんよナナちゃん。
「はい、じゃあまずはどうしてあんなことになったのか話をしようか。原因がわからないとまた同じことになるかもだからね」
アマリリスさんがその場を仕切るように手を叩いた。
ちなみに私の視界の端では猫に攻撃されながら散らばった机やテーブルの残骸の片付けをしているレイリさんの姿があった。
手伝ったほうがいい気がするけど…だけど私は当事者なので話を聞かないとだよね…。
とりあえずもう一回謝るべきだろうか…うん、謝っておこう。
そうして私が頭を下げようとしたとき、勢い良く手をあげてスカーレッドちゃんが立ち上がった。
「あのあの!」
「はい、そこの子。えーとお名前は?」
「スカーレッドちゃんはスカーレッドと言います!えっとねまずはごめんなさい!うちのエンカくんが失礼しましたっ!でもでもちゃんと理由があるの!それでちょっとこの場を借りて私たちも話を聞きたくて…」
スカーレッドちゃんがそこでナナちゃんを見た。
隣のエンカさんも同じようにナナちゃんを見ている。
「じゃあその理由話してもらえる?」
「えっとね!」
「そこの女…カカナツラの名を冠していたな」
エンカくんが投げかけた言葉にナナちゃんはびくっと肩を震わせた。
カカナツラ…それって確かナナちゃんのファミリーネームだったはずだ。
「…はい。確かに私はカカナツラですが」
「僕たちは今、とある非合法な悪の組織を追っている。そしてその組織の名が…」
──カカナツラだ。
エンカさんは重々しい声でそう言った。




