殺意の止め方
明日はお休みです。
次回は木曜か金曜日に投稿します。
スノーホワイトの爪がエンカに迫る。
その道筋で周囲にあった椅子や机が破壊され、けたたましく音をたてる。
硬く厚みのある机でさえも切断してしまうスノーホワイトの爪に対して、エンカは器用に爪と爪の間に血の剣を滑り込ませ、攻撃を妨害ししのいでいた。
さらにその隙に開いている手でこぶしを握り締め、突きを繰り出すがそれをユキノは飛ぶようにして躱す。
「なるほど…異能にだけ頼っているわけではないか。やはりお前は真に闇の波動を持ちし者のようだ…闇に潜むには異能だけでは──」
「うるさい!」
爪で切り裂こうとすると受け流されるため、ユキノはスノーホワイトの爪を握りしめ拳を作り繰り出す。
それを剣の腹で反らしつつ、エンカはスノーホワイトの腕の部分を掴み上げ、反動を利用しユキノを投げ飛ばす。
更に机を巻き込みつつ床に転がるユキノだが、先ほどのエンカと同じように受け身を取りながらすぐさま起き上がり、再びスノーホワイトを振りかぶる。
「あんな重心の安定しないであろう腕を引きずりながらもそこまで動くか」
エンカは戦いを通してユキノに対し、自分と近しいものを感じていた。
圧倒的身体能力を生かした戦い…異形の腕と剣という決して無視はできない得物の差はあるものの、戦闘スタイルそのものは似通っていると言えた。
しかし問題はその無視が出来ない武器の差…スノーホワイトと血の剣がぶつかり合い、こらえきれなくなったとばかりに剣からスカーレッドの切羽詰まったような声が発せられた。
「え、エンカくん…!ごめん、ちょっと無理かも…!」
「無理?何を言っている」
「あのおねーさんの手…すっごく痛い…!」
「痛いだと?その状態のお前は感覚が一切ないのではなかったのか。熱も痛みも何も感じないと」
「そのはずなんだけ、ど…あの手に触られただけでとっても痛い…無理やり身体をバラバラにされていくような感じ…」
それはスノーホワイトに宿る異能を切り裂く力によるものだった。
その能力は剣に姿を変えるスカーレッドにも及んでおり、撃ち合うたびに全身を引き裂かれるような痛みがその身体を襲っていた。
「ちっ、お前は武器だ。武器の痛みなど気にして戦いができるものか。ぐだぐだと騒ぐな」
「…うん、ごめんね」
「何をごちゃごちゃと!」
スノーホワイトの爪が正面からエンカを襲う。
ユキノは戦えてはいるものの少しばかり冷静ではないのか直線的な動きが多くなっており、それはエンカにとってはチャンスとなる。
何度もやっているように血の剣を爪の間に滑り込ませ、軌道を反らす。
それが一番確実だ。
「…ちっ!」
しかしエンカは剣を使わず、爪をギリギリまで引きつけ、肌に触れる瞬間に身をかがめた。
一瞬だけ間に合わず、エンカの頬に切り傷が奔り…血が流れ落ちる。
無理な動きをしたからか足の関節が嫌な音をたてるが、気にせず拳をユキノの無防備な腹に打ち込んだ。
それを生身の腕で受け止めてユキノはエンカを睨みつける。
そんな戦いの様子をアマリリスとアリスは静かに見つめていた。
「止めなくていいのかいアマリリスくん」
「本に被害が出る前に止めないといけないけどね~ユキノちゃんは生半可な魔法は分解しちゃうからちょっと面倒なんだよね~」
「なるほど…余もエンカくんのほうは止めれそうな気がするんだがユキノくんをどうするか…ふむ」
アマリリスはアリスに気づかれないように横目でリコリスに視線を向けたが、リコリスはふるふると首を横に振った。
「…アリスちゃんがいるからやりたくないか」
「うん」
「む?余を呼んだかい?」
「いや?気のせいじゃない」
「ふむ?」
傍観者たちはどこか余裕そうな雰囲気を纏いつつも、どうしたものかと頭をひねっていた。
エンカは止めようと思えば止められるが生半可な魔法が通用しないユキノに対しては相当乱暴な手段を用いるしかなく、そうなれば現状は机やいすなどの被害だけで済んでいる図書塔も無視できない損害を受けることになる。
「リフィルねぇ呼んでくる?」
「…はぁ、そうだね。後々大変になるかもしれないけどお姉ちゃんを呼んでくるか」
「い、いやリコにアマリリスくんもそれはちょっと…」
確かにリフィルの力があればこの場を納めることは出来るだろう。
しかしその後で絶対にろくなことにならないとフランネル姉妹を何とか止めようとアリスが立ち上がった時、ユキノとエンカの戦いに一つの影が割り込んだ。
「ユキノさん!!」
「っ」
足を痛めたエンカに迫っていたスノーホワイトの爪を遮るようにナナシノが両手を広げて立ちふさがり、ユキノはピタリと動きを止めた。
「お、落ち着いてくださいユキノさん…」
「ナナちゃん?どうして邪魔をするの?この人さっき…」
「誤解…なんですたぶん。お願いですから一度話を聞いてください…」
「…」
ユキノはゆっくりと腕を下ろし…スノーホワイトはほどけるようにして消えていき、元の白い右腕に戻った。
「ユキノさん…話を聞いてくれるのですか?」
「うん…きく」
ユキノは糸が切れたようにその場にぺたんと座り込み、ナナシノも同じように座り込みユキノの胸に顔をこすりつけるようにして抱き着いた。
「…あれ?」
「おや?」
一応収まったらしきその場を見てアマリリスとアリスはユキノの様子に首を傾げていた。




