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小話 ご飯のルール

 皇帝さんとの話し合いが終わって私はナナシノちゃんが待つ家までなんとなく重たい足を引きずりながら歩いていた。

アマリリスさんは「お姉ちゃんに色々聞いておかないとだから~」と私を図書塔まで送り届けるとまたどこかに行ってしまった。

なので大人しく帰ることにしたのだけど…とにかく足が重い。

これから何か大変な事が起こる予感がして不安でいっぱいだ。

だけど…もしかすれば私は自分の殺人衝動を克服できるかもしれない…そう考えると少しだけやる気が湧いてくる。

でもそこで一つ考えないといけないのは…これからのナナシノちゃんとの付き合い方だ。

私とナナシノちゃんが結んだ取引…殺して仕返しをする関係。

あんまりにもあんまりだが私は出来ればナナシノちゃんと仲良くなりたい。

村にはいなかった同年代だし、ある意味で私と彼女は対等な関係だ。


「もしかしたら…お友達とか…」


それはさすがに虫が良すぎるだろうか…きっと私はこの先ナナシノちゃんに酷い事を何度もすることになる。

そんな相手と友達になりたいなんて人はいないだろう。

ならせめて普通に…いや、ある程度は世間話とかできる関係くらいにはなれないかなぁ…。


「うん、ちょっと頑張ってみよう」


道中で購入したご飯という名のお土産を手に、少しだけ軽くなった足で家に帰った。


「…た、ただいま~…」


何故かそろ~っと玄関の扉を開けて、静かな廊下を進み、寝室の扉に手をかける。

ぐっと意を決して扉を開け放つとナナシノちゃんはやっぱり隅の方で小さく丸まっていた。


「えっとナナシノちゃん、ただいま…」

「…おかえりなさい。無事に話は出来ましたか?」


「う、うん、おかげさまで…あっと、なんだか片付いて、る?」

「…手持ち無沙汰だったので」


「そ、そうなんだ…ありがとう」

「いえ…私も使う場所ですし」


「…」

「…」


圧倒的会話スキル不足!!こんなんじゃ仲良くなることなんて夢のまた夢の…さらに果てしなき夢の果てだ。

どうすれば…はっ!そうだ!ご飯の力!お願いお土産ご飯!私にアマリリスさんの10分の1でも会話スキルをください!


「な、ナナシノちゃん!!」

「っ!?は、はい…」


力み過ぎて声が裏返った+思わぬ大声になってしまい、ナナシノちゃんをびっくりさせてしまった。

しかしもう止まるわけにはいかない。

勢いだ、全てを勢いでごまかすしかない。


「ご飯は食べたいのかい!?」

「いえ…」


「じゃあご飯を食べないかい!?食べるべきじゃないのかい!?」

「あの…でも…」


「なんなんだい!?」


明らかにテンションを間違えている私。

ナナシノちゃんも困ってしまっている。

だけど次の瞬間、私はテンションも忘れてしまうほどの衝撃的な言葉を聞いてしまう。


「私…ご飯は三日前に食べたので…」

「…え?」


「せっかく用意してもらったのにすみません」

「ん…?」


どういうことだろう…?三日前にご飯を食べた?そりゃあ食べただろうけど…たぶん三日何も食べてないって言ってるんだよ、ね?え?それなのにすみませんって謝られた?ど、どういうこと???


「ご、ごめん…ちょっとよく分からないんだけど…三日何も食べてないってこと…?」

「え?はい、そうですけど…」


「お腹すいてないの!?」

「いえ…すいてはいますけど…ご飯って五日に一度食べるものなのでは…?」


「はい!?」

「えっと…?」


あまりにおかしな発言を聞き逃すことは出来ず、私はどういうことなのかをナナシノちゃんに聞いてみた。

するとなんと前までナナシノちゃんがいた場所では五日に一度しかご飯が与えられず、それもパンが一つだとかお粥が一杯とかそんなレベルだったらしい。

そして考えられないのがナナシノちゃんはそれが「普通」だと教え込まれていたという事実。

そんなことがあるわけがない。

人は五日に一度の食事を繰り返して生きていけるほど強くはないはずだ…もしこの場所にアマリリスさんが居たら絶叫するのではないかというレベルの驚きだ。

私はさすがにそんな状況を見過ごすことは出来ず、ちゃんとした知識を教えることにした。


「食事は…毎日朝昼晩と摂る…それが普通…」

「そう!すぐには無理かもしれないけど…でも毎日一食はご飯は食べるようにしよう!じゃないと身体に悪いよ!」


「身体に悪い…私には縁遠い言葉ですね。しかし…なるほど、どうやら私は食事を最低限取らなくても死なないという事なのでしょうね。それを利用されていたのか…それとも実験の一環だったのか…」


そんなナナシノちゃんの呟きがどうしようもなく悲しかった。

いったい彼女はどんな場所にいたのだろう…知りたいような知りたくないような…。

だけど実験という言葉から人がいたという事は間違いなくて…その人たちはナナシノちゃんに酷い事をし続けていた。

どうせ殺すなら…そんな人たちが殺されに来てくれればいいのに。


「ユキノさん?」

「あっ!?な、なに?」


「考えたのですけど…実はユキノさんのほうが間違っていたりはしません?」

「しません」


私も世間知らずのお上りだとは思うけれどこの件に関しては私が百パーセント正しいはずだ。

…正しいはずだよね?

アマリリスさんを見ていると不安になってくるけど…さすがにアレが普通という事も無いはず…。

ないよね?…誰か私に常識を教えてくれる人はいませんか…?


いやでもだよ?仮にだけどナナシノちゃんかアマリリスさん、どちらか片方の常識を選べと言われたら選ぶべきはアマリリスさんだ。

ご飯は大事。

食べないと元気が出ないからね。

…いや、食べ過ぎもダメだよ!?


「と、とにかく!これからは毎日食べるからねご飯!」

「…わかりました」


いきなりちゃんとした食事をするのはもしかしたらナナシノちゃんのお腹に負担をかけてしまうかもしれなかったので初日は軽いものにしつつ…ちょっと目を離すとご飯を食べない日が出てきたりしたので私とナナシノちゃんの間に可能な限りご飯は一緒に食べるというルールが産まれた。

次回ちょっとだけ痛い事をする話。

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[一言] コミュ障気味vs一般常識壊滅 ツッコミ求厶!コウちゃんさんなんとかして!
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