潜むもの
明日はお休みです。
次回は木曜か金曜日に投稿します。
アマリリスさんとの胃が破裂するのではないか?と思うほどのヘビーな朝食を終え、ナナシノちゃんへのお土産も購入し、私たちは再び図書塔に戻り、皇帝さんの元に向かうことになった。
図書塔の中には先ほどまでの人たちはいなくなっていて、受付には以前にも見たどこを見ているのかよく分からない瞳の女性が微動だにせず座っている。
たぶんあの人がアルバイト?とかいうもう一人の従業員の人で、アマリリスさんの手を私が借りてしまっている状況なので一言謝ろうと近づくとアマリリスさんに腕を掴まれて止められた。
「近づかないほうがいいって言ったでしょ?」
「ですけど…一言くらいは」
「大丈夫だから」
有無を言わさないその様子に私は挨拶を諦めた。
そして一番上の階であの時の様に瞬間移動…視界が黒くなって再び光が戻るとそこは以前に来た部屋ではなく、屋外だった。
とても広く、壁には武器やら鎧やらが立てかけてあるところを見ると…訓練場のようなところなのかな?
「あ、コーちゃんいた」
アマリリスさんが指さした先、そこに白い服にキラキラとした金髪をなびかせて、剣を握っている皇帝さんがいた。
今日は服を着ているという事実にまず目が行って…次に皇帝さんの足元に倒れている10数人の鎧や軍服を身に纏った人たちが目に入る。
その中にはこの前もいたアレンさんの姿もあった。
「相も変わらずだらしねぇなお前ら。いい加減我に汚れの一つでもつけれるようになれ。わざわざ汚れやすそうな服まで着てやってるのによ」
つまらなさそうに手に持った剣を地面に突き刺し、首と肩を回している皇帝さんに対して倒れている人たちは「うぅ…」とうめき声しか出せていない。
状況から察するに訓練か手合わせかな…?だとしたら皇帝さんって本当に強いんだな~。
「おーい、コーちゃん~」
「あ?…なんだお前ら。何をしに来た?」
アマリリスさんが声をかけ、皇帝さんが振り向き怪訝な顔を見せた。
「ユキノちゃんが答えを出したんだってさ」
「もうか?いいじゃないか、早いのはいいことだ。即断即決、面倒がなくていいからな」
昨夜あんなことをしておいて…とちょっとだけ暗いものを覚える。
ナナシノちゃんの考え…いや、私とナナシノちゃんの考えでは夜の出来事は私に欠片の話を持ち掛けてきた皇帝さん達が仕組んだことに違いないという結論が出ている。
だってそうじゃないとあまりに状況が都合が良すぎたから。
家の鍵を持った不審者があのタイミングで侵入してきてナナシノちゃんを…そして私と彼女にお互いの事情を無理やり周知させて私に迫った選択の答えを出させる…あまりにやり方が汚い。
「なんだ?なにか不満そうだなユキノ。まぁいい、お前ら朝飯は食べたか?」
流石に表情に出過ぎるのはまずいと気を引き締める。
この人は独裁国家の王なのだから不興を買うのはまずい…そう言うところもずるいなぁと思った。
と、その前にご飯だ。
もう食べ過ぎてお腹が痛いくらいなので食べましたって…。
「まだ~」
「!?」
アマリリスさんの口から出た衝撃の言葉に絶句し、唖然としている間に話は進んでいき、皇帝さんにご飯をごちそうになるという流れになってしまった。
もう食べられないよ!?どどどどどどうすれば!?
「食べられないのなら食べてあげるよ~。でもここのご飯って味はいいんだけど見た目にばっかり力入れてるから量が少なくて全然食べられると思うよ?」
その言葉に一瞬だけ希望を抱いたが…実際に出てきた料理は確かに見たことも無いようなオシャレ過ぎて理解できない料理だったけれど、量は普通で地獄を見たのだった。
────────
食事が終わり、私たちは昨日と同じ部屋で話し合いを始めた。
皇帝さんの隣にはこれまた同じようにアレンさんが控えている。
「で?昨日の今日でもう答えを出したそうだが…どんな心づもりなんだ?もう少し時間がかかると踏んでいたが」
「あの…その前にどうしてまた裸に…」
訓練中は確かに服を着ていたのに、その後食事の席に現れた皇帝さん全裸だった。
なぜ…?
「あ?汗かいたから風呂に入ったんだ。服なんか着たら暑いだろうが」
「そ、そうですか…」
偉い人の考えることは私にはわからない。
「そんな事よりどうするんだ?とりあえず答えを聞かせろ」
「…昨日の話ですが…お受けします」
「ほう…。それは欠片の破壊に力を貸すという意味でいいんだな?」
「…はい」
ナナシノちゃんと話し合って決めた結論…というより半ば脅されてだした答えだ。
この人たちにもだし…ナナシノちゃんにも。
(もしダメなのなら…あなたはこの先も人を殺し続けるのでしょうね。昨夜の様子を見る限り耐えられるものでもないのでしょう?それなら私という何度でも殺せて文句も言う人がいない私でいいではないですか)
その言葉に中身のある反論は出来なかった。
ただ私の感情という面で納得できない…申し訳ないという気持ちがあるだけ。
でもそんなものは何の意味もなくて…だって普通に考えればナナシノちゃんに頼るのが最善なのだから。
「お前…本当になにかあったか?」
本当に心配そうな皇帝さんの言葉がいろいろとこらえていた何かを刺激する。
「何かって…あんなことをしておいて…」
「あんなこと?何を言っている?」
「もうやめてくださいよそういうの!昨日の夜に私とナナシノちゃんがどんな思いをしたと…!」
「待て待て。本当に何を言っている?我はあの後ここから動いていないし何も干渉していないぞ。それにナナシノ?誰だそいつは」
「コーちゃん。ナナシノってたぶんあの子だよ。お姉ちゃんが連れて来た…」
「ああ、あの陰気そうなガキか…ってお前ユキノ。昨日本当になにがあった?全部話せ」
まさか本当に知らないの…?
真剣な様子の皇帝さんに促されるまま、私は昨夜の出来事を洗いざらい話した。
話し終える頃には皇帝さんは頭を抱え、アマリリスさんはため息を吐いていた。
「あの野郎…おい、アマリリス。お前もなにか噛んでいるのか」
「ううん、何も知らない。お姉ちゃん昨日はこっちに来なかったから」
「くそっ!リフィルの奴…あの時やけにあっさりしていると思えば…」
「でも確かにユキノちゃんの問題は解決できてるよ。そのナナシノって子も同意してるならいいんじゃない?」
「…」
「それともお姉ちゃんの思い通りに事が進んでいるのが気に入らない?」
「てめぇ…」
「はぁ。でもさすがに私もなんの説明もないってのはダメだと思うからお姉ちゃんに言っておくよ。だからとりあえずは様子を見てみない?」
皇帝さんとアマリリスさんの視線がぶつかり、空気が張り詰める。
私が当事者のはずなのに…なんとなく蚊帳の外だ。
それが数十秒続き、先に目を離したのは皇帝さんで…私に目を向けると姿勢を正す。
「ユキノ」
「は、はい」
「悪かった」
「え!?」
まさか謝られるとは思わなかったので驚いた。
独裁国家の皇帝様が…まさかって感じで信じられない。
「リフィルの事をもっと疑うべきだった。だから謝っておく…だがそれと欠片の件は別だ。協力すると決めたのなら最後まで付き合ってもらうぞ。もちろん先に言っていたように出来る限りの支援はする…それと今回の件でわかっただろう。リフィルにはあまり関わるな。わかったら今日はもう帰れ、これからの動きはアマリリスか…ここに居るアレンを通して伝える」
そう一気にまくしたてられてアマリリスさんと共に追い出された。
「あ、コーちゃん帰る前にとりあえずひとつだけ目星がついてるからさ、アリスちゃんを借りていくよ?」
「…いちいち我に確認を取らんでもあいつがどうするかは決めることだ」
「相変わらずだね。そこに関しては私はもちろんだけど、お姉ちゃんも割と本気で心配してるよ?」
「…」
図書塔に戻る最後の瞬間の皇帝さんとアマリリスさんのそんな会話がやけに印象に残った。
────────
ユキノとアマリリスが去った後、皇帝は隣に控えているアレンを下がらせた。
それからしばらくするとリフィルがどこからともなく現れて、部屋に置いてあるお菓子を物色し始めた。
「お前、菓子の類はそこまで好きじゃ無かっただろ」
「ん~?アマリが好きなのあるかなって」
「…そんな事より我に何か言う事はないのか?」
「無事にあの子が協力してくれることになってよかったね!いい仕事したでしょ?私」
「ふざけてるのか?」
「なんで?なんで?」
苦々し気に顔を歪める皇帝とニコニコ笑うリフィル…対照的な二人だがここで何かが起こるという事はない。
リフィルは何もするつもりがないし、皇帝は目の前の邪神に勝てるという確証が持てないから。
また長い付き合いでもある二人の間には一種の情のような物も生まれているからだ。
「…お前本当に何を企んでいる」
「何をってコーちゃんが欠片をどうにかしなくちゃって言ってたから手伝ってあげてるんだよ?それだけだよ?」
「昨夜にユキノたちを襲撃したという男…特徴がアルトーン家の当主と一致している。…やったのか?」
「うん。だってコーちゃんが困ってたでしょ?あそこの子供が行方不明になって騒いでるって~。丁度人が必要だったしコーちゃんも楽になるかなって!静かになったでしょ?でしょ?」
「アルトーン家は他国の商人だ…それが帝国で死亡という事になったらどうなると思っている」
「大丈夫だよ~私はよく知らないけど、ちゃ~んと「帝国の外に出て行った」からさ」
「そんな事を続けて行けばいつか絶対に破綻が産まれる。人の世はお前が思っているより簡単じゃないんだよ!」
皇帝に叫びにもリフィルは動じず、ひたすらお菓子を物色していた。
そして何でもない事の様に言い放つ。
「人の世…それ私に関係ないよね?ないよ?」
「てめぇ!!」
皇帝が目の前のテーブルを叩き、轟音と共に破壊した。
その様子に流石のリフィルもわずかに目を丸くして両手を振る。
「わわっ、そんなに怒らないでよ~ごめんごめん、次からは気を付けるね?気を付けるよ?」
「信じると思うのか?その言葉を…ふざけたことばかりしやがって!」
「私は楽しい事しかしてないんだけどなぁ~機嫌直してよ~」
「…てめぇこれ以上なにか隠し事してないだろうな」
じっと皇帝がリフィルを鋭く睨みつけ…リフィルのほうはそっと目を反らす。
「おい」
「なはは~わかったよぉ~ちゃんと言うから許してよ~」
「なんだ、何を隠している」
「えっとね?」
リフィルは皇帝に近づき、静かに耳打ちをする。
「実は…私の妹が帝国にいるの」
「ふざけるなと言ったはずだな?」
そんな事皇帝は言われなくても分かっている。
先ほどまでその妹であるアマリリスとも話していたのだから。
いまさらなぜそんな事を言い出すのかとイラついたがリフィルは何が面白いのかニコニコとを笑う。
「んふふふふ」
「…?」
まるで挑発しているようなその様子に不可解な事を感じる。
(なんだ?何かがおかしい…そうだどうしてわざわざ「妹」と言った?アマリリスを今さらそんな呼び方するとは…まさか!)
皇帝は勢いよく椅子から立ち上がり、リフィルに詰め寄る。
それでもリフィルはただただ楽しそうに笑い続けていた。
「いつだ!」
「ん~?なにが?」
「いつ…お前の言う妹は産まれたときいている!」
「あはははははは!いつってコウちゃんも見てたでしょ?見てたよね?私たちと一緒に立ち会ったでしょう?…私とアマリの妹が産まれた時に」
皇帝の脳裏に思い起こされるのは数十年ほど前の出来事だ。
リフィルやアマリリスの両親ともつながりがあった皇帝はその三女の出産の現場にいた。
邪神を産み落とした母体が…新たな子を産むというのだ。
人の世を統べるものとしてそれが一体何なのかを見極める必要があったから。
だが母親の腹から生まれ落ちたのは…潰れた肉塊のような何かだった。
新たな「何か」となる存在はこの世に生まれ落ちることはなく、その事実に皇帝は心から安堵した。
もしもう一人の邪神が産まれることになれば世界がどうなるのか分からなかったのだから。
「あの時…赤ん坊は産まれなかったはずだ!我は確かにこの目で見た」
「んふふふふふ!違うよ。あの子はあの瞬間確かに産まれてたんだよ?あの子はね?あれでよかったの…んふふふふふふ!」
まさかその時の光景がショックで狂ってしまったのか?という考えが浮かんだがすぐに振り払う。
産まれた後の妹にならともかく、産まれずに死んだ存在にリフィルがそこまでの愛情を抱くだろうかという疑問が浮かぶから。
そしてそんな殊勝な精神性をしていないことなど分かり切っているから。
「どこだ…その妹はどこにいる!」
「んふふふふふ!案外コーちゃんの近くにいるかもね?」
リフィルの不思議な髪の中で、丁寧に編み込まれているピンクと紫の束が揺れていた。
とりあえず一章完結!という感じです。
次回からユキノとナナシノの本筋に関係ない日常回のようなものを少しやって二章突入です。
ひたすら巻き込まれてオドオドしてるだけのユキノちゃんでしたが、ここから割と吹っ切れていくことになるかと思います。




