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王都への潜入作戦を開始しました。

 夜の闇の中を飛ぶって言うのは、中々に恐ろしいものだ。今日は月明かりと星明りがあるとは言え、それでも空と地上が見渡せる昼間とは雲泥の差だ。地上にはところどころにある人家らしき仄かな明かりが、時々ポツポツと見えるだけ。


 地球にいる時に、旅客機に乗ることは何度もあったけど、それとは比べ物にならないくらいに不安かつ不快だ。発動機の音は容赦なく聞こえてくるし、気密や暖房の設備も不十分なものしかない。飛行服を着ていても、快適とは程遠い。


 今更ながら、現代のヘリあたりを実体化した方が良かったかもしれない。まあ、後の祭だけど。


「客員将軍、間もなく予定地点です」


 伝声管越しにパイロット、というよりこの機体に宿る魂が私に語り掛けてきた。


「おう、やっと到着か・・・くれぐれも気を付けてな」


「任せくださいって」


 機体が降下を始める。遠くには、王都タベスの明かりが見えている。


 一方私たちが乗ったこの機体は、その王都を回り込むように迂回して北東へと向かっていた。


「アレか・・・」


 眼下に幅200m程の川が見えた。予定通りなら、もうすぐだ。


「着水点視認!1回航過した後、着水します。着水に備えてください」


「ああ」


 ベルトを確認して、着水に備える。


 事前に調べた通りなら、湖は周囲が10kmあり、水上機が着水できるだけの面積があるはずだった。しかし、この湖では漁師が漁をしているのもわかっている。夜は出漁していないはずだけど、漁船が出ていて着水が危険ならば引き返すしかない。


 それを判断するため、機体は一度航過する。


 高度が下げ止まり、再び水平飛行へと移った。


「どう?行けそう?」


「待ってください・・・湖面上に障害物は確認できませんでした。予定通り着水します」


「よろしくお願いする。でもわかってると思うけど、湖面は安全でも水中に障害物があるかもしれない。くれぐれも気を付けてね」


「もちろんです」


 とは言え、万が一と言うことはある。私は閉めていた風防を開ける。 その途端、冷たい外気がビュービューと吹き付けてきた。


 機体がドンドン降下していく。


「着水!」


 水を切る音と着水の衝撃が同時に来る。それと共に、機体が減速を開始する。低速の機体とは言え、それなりのスピードで着水する。


 そのスピードが徐々に下がっていく。心配した水中の障害物などはなかったようで、機体は無事に湖岸へとつけられた。


「ありがとう」


 機体の魂に礼を言いながら、私は懐中電灯を持って外に出る。胴体とフロートを伝い、湖に飛び込むと、ちょうど腰くらいまで水が来た。もっとも、これを見越して防水具を身に着けていたので、びしょ濡れになることはない。


 私たちの機に続いて、もう1機の水上機も着水して、隣に滑走してきた。


 単葉に小柄な機体に、2枚プロペラ。随分と貧弱な印象を受ける機体だが、史実では唯一の米本土空襲を成し遂げた武勲機。潜水艦搭載用の、零式小型水上偵察機だ。


 そして胴体から、私と同じようにミコさんが降りてきた。彼女も防水具に身を包んだ体を、腰まで水に漬けての登場だ。


「大和さん、無事に付けましたね」


「ええ。夜間飛行は冷や冷やしましたけど・・・とにかく、これで基地を設営できます。ミコさん、よろしくお願いしますね」


「はい。お任せください」


 今回私たちがやってきたのは、王都タベスの北西20kmにあるジゼンチ湖だ。この湖は王都近郊を流れるナネト河に通じている。


 今現在、私たちが喫緊の課題にしているのが、王都ならびに王族の状況把握。この2つが分からないと、今後の作戦も立てようがない。その一方で、街道をはじめとした陸側からの王都への潜入は困難。一方空路からだと、着陸するための飛行場がない。


 そこで私が目を付けたのが、このジゼンチ湖と言う訳。湖だったら滑走路のいらない水上機と飛行艇を活用できる。さらにここに拠点を築けば、舟艇を使って王都に潜入することもできる。


 とは言え、白昼堂々と赴けば反乱軍に見つかってしまうので、危険を承知でこうして夜間飛行するしかなかった。そして使い慣れた飛行艇や零式水上機などを使わなかったのは、ここに築く拠点に理由があった。


 ミコさんが機体から、予め用意しておいた模型を降ろして『実体化』の作業に入る。


 数分後、湖の水面に1隻の潜水艦が姿を現した。


「「伊373」です。よろしくお願いしますね、店長さん」


 私たちがその潜水艦に乗り込むと、早速艦魂が僕たちを出迎えてくれた。小柄で髪をポニーテールに纏め、旧海軍の防暑衣着た少女。


「悪いね、こんな湖に出現させちゃって」


「いいんですよ。私は、与えられた使命を精一杯やるだけですから」


 う~ん。さすが輸送潜水艦。戦闘型の潜水艦と違って、裏方仕事も黙々とがんばってくれるらしい。ただその笑顔が逆に心に刺さるな。


 ちなみにこの「伊373」は「伊361」型輸送潜水艦の1隻だが、史実にはない艦番だ。これは予めデカールをそのように貼って調整したのだが、そうした理由としては、史実艦だと持っている艦艇としての知識が任務に悪影響しないか心配したからだ。


 と言うのも、今回この「伊373」にはこのジゼンチ湖で潜水拠点になってもらう。


 一体どんな運用をするかと言えば、昼間明るい間は湖底に潜ってもらって姿を隠す。そして日が暮れて暗くなったら湖面に浮上して、やって来る水上機への補給や、王都に潜入する工作員への出発基地にする。


 王都へ向かう工作員は、ここから舟で河を下っていく。


 その工作員に関しては、ウトカ将軍に選抜してもらって明日にはやってくる。とにかく、今日私たちはここに「伊373」を『実体化』して、拠点を作ることが仕事だった。


 ちなみに、普通の零式水偵とかじゃなくて零式小型水上機を使ったのは、湖の状況によっては大型の水上機の運用が困難である可能性が捨てきれなかったからだ。


 ただ実際に着水してみると、特に大型の水上機の離着水を妨げる様な障害物もないし、深さも潜水艦1隻が潜航できるくらいにはあることが判明したので、杞憂だけど。


「じゃあ、「伊373」。明日からよろしく頼むね」


「はい!お任せください」


「伊373」と燃料入りのドラム缶なんかを『実体化』させた私とミコさんは、それが終わると引き上げだ。


「伊373」はゆっくりと湖深くその姿を隠して行った。


「じゃあ、帰りましょうか」


「ええ」


 彼女が完全に潜航したのを見届け、僕たちは再び零式小型水上機に乗り込んで、夜空へと舞い上がった。




 3日後。


「どうやら反乱軍は国王陛下の身柄確保に失敗したようだな」


 潜入させた工作員からの報告が「伊373」経由でもたらされた。その報告によれば、反乱軍は王都の要所ならびに王都へと続く街道筋を抑えているものの、市民への布告などでは自分たちの反乱の正当性こそ訴えているものの、国王の身柄どころか言葉すら出していないという。


 加えて、街中には国王はクーデーター発生後反乱軍から逃げるために身を隠されたと言う噂が流れ、それを裏付けるように、反乱軍による市中への調査も活発に行われているということだった。


「そうなると、反乱軍が見つけ出す前に、国王陛下と王女殿下の身柄を救助しなければいけませんね」


「それだ。だが、お2人はどこに隠れているやら」


 反乱軍も国王の発見に至っていないが、こちらの工作員も未だに発見に至っていなかった。


 このままだと、反乱軍に先に見つけられるということもありえた。


 そこで、幸作君がある作戦を閃いた。


「市中に、反乱軍を探っている我々の工作員が潜んでいるという噂を流してはどうでしょうか?」


「ええ!?それじゃあ、こっちの工作員のことが反乱軍にバレちゃうじゃないですか!?」


 と、もう女装姿に誰も突っ込みをいれなくなったケイさんが驚いている。ミコさんも怪訝な顔をしている。しかし、私とウトカ将軍はその計画の真意にすぐに気づいた。


「つまり、国王陛下側から接触してくるように仕向けるというわけか?」


「そうです将軍」


 反乱軍を鎮圧しようとする側の情報が耳に入れば、自ずと国王側も動いて接触してくる。それを見越して、ワザと噂を流そうというわけだ。


 ちなみに、ウトカ将軍率いる海軍は王族の身柄が反乱軍の手に入ってないと確認が取れた時点で、クーデーター軍を正式に反乱軍認定して、戦うことを明確にした。ただし、海軍側は総兵力が少ないので、積極的に陸戦部隊を王都へ進撃させる、というような手段を採れない。


 もっとも、反乱軍側の方も王都を制圧するのが精一杯で、なおかつ国王の身柄を確保できていない部分が弱点になって、現状反乱軍と鎮圧軍は睨み合うだけで戦闘には至っていない。


 つまり、現状両軍とも動くに動けない状況になっている。


「なるほど」


「これが地球の本に書いてあった情報戦と言うやつですね」


 ミコさんとケイさんも納得したようだ。


 とは言え、この作戦がリスキーであることに変わりはない。


「でもこちらの工作員の存在を反乱軍に知らせるというのは、間違っていないからな。情報の流布は最適のタイミングで行わなければならん」


 将軍の指摘も尤もだ。ただし。


「ですが将軍。時間が経てば経つほど、王族の方々を先に反乱軍に発見される恐れがあります。ですので、動くのは少しでも早い方がいいかと」


「それはそうだが」


「そこで、私は工作員を動きやすくするための陽動作戦を提案します」


 幸作君の案に、私はちょっとばかし味付けすることを思いついた。それをウトカ将軍に提案する。


「その内容は?」


「白昼に嫌がらせ攻撃を実施するのです。具体的には王都外縁の反乱軍陣地への爆撃や、王都へのビラ撒きなどです。そうすることで、敵軍の注意も逸れるでしょうから」


 もちろんそれ以外の方法もいくつかあるけど、とにかく反乱軍の注意を分散させればいいんだ。


「よし、それでいこう」


「では、早速準備に取り掛かります」


 ウトカ将軍の即断には助かる。


 こうして、私たちは次なる作戦の実施へと動いた。


 

 


 


 




 

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