初めて安否不明の王族について知りました。
夕方、F13を含む全ての偵察機が無事に帰還した。各機体に聞いたところ、攻撃を受けた機もあったものの、幸いにも飛行機の速度に相手の攻撃が付いてこれず、効果はなかったとのこと。そのため、各偵察機は1発の被弾もなく、思い思いに写真を撮りまくって帰ってきた。
早速各機体からフィルムを降ろして現像してみる。大戦時の機体のカメラなので白黒写真ばかりだけど、ちゃんと撮れてはいた。
「ほほう」
「これは」
「バッチシですね」
「スゴイ。ここまでハッキリと」
現像した写真には、もちろんボケなどで使えない写真も含まれていたけど、8割方はしっかりと撮影出来ていた。今さらのことだけど、このジフ王国に関しても内陸部のことはしらなかっただけに、映っている風景は新鮮だった。
とは言え、見とれている場合じゃない。
「ミコさん、将軍のところに行きましょう」
「はい!」
早速、私とミコさんは二式大艇を使ってヅイヤのウトカ将軍の元へと写真を運ぶ。
「これでは戦争にならんな!」
ヅイヤに着いた時には既に夜になっていたけど、私たちを乗せた二式大艇は無事にヅイヤの港に着水した。艦隊司令部に出頭すると、ウトカ将軍は多少疲れ気味だったけど、私たちを温かく出迎えてくれた。
そして鞄に入れた写真を見せた途端、ウトカ将軍は先ほどの発言をした。
実際、航空偵察の成果は大きなものであった。まず、精密な地図がなかった王都タベスの姿が、高度1万mの航空から撮影した空中写真で丸裸になった。もちろんこれはF13の成果だ。
同機から撮影した写真には、王都の全体図がしっかりと映り込んでいた。特に王城をはじめとして、官庁街や市街地、軍の施設、山や堀の位置や通り、街道の位置がわかったのは大きい。
そして、F13以外の各偵察機は低空から、市街地や街道の様子を撮影していた。その結果、かなりの数の反乱勢力の陣地や、街道の封鎖地点の様子をばっちり捉えていた。
街の全体図の写真は拡大コピーをしてきたので、私たちはそれを使って、まずは状況確認。
王都タベスは、日本の古い城下町と同じで城を中心に内堀と外堀があって、その周囲に町が築かれている。武士の代わりに魔導師が暮らしている戦国か江戸の城郭都市と思えばいいかな?ただお城の形は日本のそれとは違って、中国か琉球あたりのそれかな?
とにかく、これで軍事行動を取る上で重要な地図が手に入った。次はこれを活かしてどう行動するかだ。
「まずは偵察に続いて、王都の状況確認ですね。少なくともクーデーターを起こした連中が現在どこまで動いているのかや、王族の方々の安否は確かめないといけません」
「それについてはこっちもやっているが、何せ情報の伝達に時間が掛かってるからな」
無線も電話もないために、やり取りは有線通信である魔法有線通信(魔法を使った電信の様なもの)か手紙くらいしかない。しかし電信はケーブルがやられてしまい、王都間とは完全に使用不能。手紙も敵の警戒を突破して長距離を運ぶ必要から、情報の速達性と言う意味では全く役に立っていない。
ちなみに、私たちの艦隊やレクの工廠内では普通に無線も電話もバンバンに使っている。と言うか、使わないと仕事にならない。そしてここヅイヤにも、無線中継艦を交代で常駐させて、無線電信は届くようにしてある。電話線も近々開通させる予定だ。
それはともかくとして、ここで私は重大な事実に気づいた。
「そう言えば、この国の王族の方々って、どうなってるんですか?私この国に来てから具体的に聞いたことがないんですが」
そう、私はこの国の王族について何も知らない。王がいて王制国家くらいしか知らない。だから今回クーデーターによって王族の方々の安否不明と言われても、そもそも王族と呼べる人が現状何人いるかすら知らなかった。
「お前、教えてやらなかったのか?」
「アハハハ。聞かれたこともないので」
ミコさんがウトカ将軍の問いに笑って答えるが、笑いごとじゃないよ本当に。この国や国民の雰囲気からして、よほどおかしな王様が統治しているとは思わない(思ったこともない)けど、万が一と言うこともあるしね。
「コホン。改めて説明いたしますと、現在王族と言える人は2人だけです。現国王のリッシュ陛下と、王女のアリー姫殿下だけです」
「え?二人だけ?国王に兄弟とかは・・・いや、そもそも王妃様はいらっしゃらないの?」
「国王陛下には妹が一人いますが、現在は臣籍降下して一貴族婦人ですね。王妃様は姫殿下をお産みになったさいに、産後の容体が急変してお亡くなりに」
つまり、直系の王族の血筋と言うのは国王とお姫様だけということか。
「お二人の歳はいくつなの?」
「国王陛下が41で、王女様が15です」
「ふむ・・・将軍、例えばですけど反乱勢力が国王陛下と王女様を害して、臣籍降下した元王族の方を傀儡として立てる可能性はありますか?」
「なくはないが、限りなく低いな。我が国の大方の国民は、国王陛下と王女殿下を支持している。お二人を害して王家の血を引く者を傀儡に立てたとしても、そんなもの国民が支持しまい」
「となれば、お2人が無事な可能性はありますね」
「だが反乱軍の掌中にあれば話は別だ。此方は迂闊に手を出せない。下手をすれば、陛下の名で逆賊にされてしまう」
「今のところ逆賊認定はされてないんですね?」
「今のところはな。そもそも、反乱軍が王都を占拠した以外何もわかっていない」
情報伝達速度が遅いんじゃ仕方がないか。ただもし、敵がまだ国王の身柄を抑えていない、或いは国王の名を使える状況に至っていないなら、今がチャンスだ。
「将軍、我々の今後の作戦立案ですが、まず大前提となる作戦目的については、国王陛下と王女殿下の救出を第一とするべきと考えます。お二人を救出し、何としても賊軍に正当性を与えるのを阻止しなければなりません」
私の言葉に、ウトカ将軍が頷いた。
「無論それで構わない。となると、反乱勢力の撃滅はその次となるな」
「後顧の憂いを絶つならそうなりましょうね。ですが、今はそれよりも王家の方々の安否確認と、救出です」
「そうだな。で、客員提督には何か案があるのかな?」
「まずは想定される事態を考えましょう。ミコさん、書記をお願いします」
「はい!」
ミコさんがペンと紙をとる。
「想定される事態としては、第一に既に反乱軍が国王陛下らの身柄を既に確保し、自らの正当性を訴えている場合です。この場合我々は反乱軍と真正面から戦いつつ、国王陛下らの身柄を奪還せねばなりません」
ちなみにこの場合で最悪なのは、国王自身が本心から反乱軍に加担する場合。こうなると、いくら国王の身柄を抑えてもこっちが逆賊になる。
ただこの可能性はあまり考慮しなくてもいいだろう。もし国王自身が反乱軍に同情的なら、クーデーターなど起こさないからね。
「第二に反乱軍が国王陛下らの身柄を確保していますが、まだ自らの正当性を訴えていない場合です。この場合は1の場合よりも、敵軍の動きが掣肘される筈ですから、こちらは容易に動けるはずです。もちろん、目指すは国王陛下の救出となります」
実は個人的にはこの可能性が一番高いと思っている。ミコさんやウトカ将軍の話を聞く限り、反乱軍は国王の権威を味方につけなければ、絶対に国民の支持を取り付けられないからだ。
「第三に反乱軍が未だに国王陛下らの身柄の確保が出来ていない可能性です。この場合だと、我々は反乱軍よりも先に国王陛下の所在を探し出し、救出しないといけません」
もっとも、この可能性はそこまで高くないだろう。絶対に必要な国王を見逃すほど、反乱勢力もバカではないだろうから。
そして最後に、もっとも考えたくない最悪の事態だ。
「第四は、反乱軍らが国王陛下らを害して新たな独裁政権を確立する場合です」
私の言葉に、ウトカ将軍もミコさんもギョッとする。
「ま、まさか。そのようなこと」
「あくまで可能性の話です。何事にも絶対がない以上、考慮はするべきかと」
この場合、反乱勢力は国民の支持を取り付けられない。しかしながら、そんなものいらないと向こうが考えれば話は別だ。権威など無視して、暴力と恐怖さえあれば何とかなる。そう考える人間が、この世界にいないなんて絶対に言い切れない。例え王家への忠誠心が高い、この国においてもだ。
ただし。
「それ以上言うのが不敬などで罪になるのなら、これ以上言うのは控えましょう」
「・・・それで頼む」
やっぱりか。王制国家にはそう言う罪が良くあるからな。
「ただそれを抜きにしても、難しい。まず反乱軍や王都の状況を探るだけでも、我々には一苦労だ」
どの想定にしても、現状の王族の方々、少なくとも王都や反乱軍の状況を調べなければならない。つまり、将軍の言う様に王都内へ潜入して調査する必要があった。
「密偵や諜報員を潜入させるのは?」
「出来ないことはないが、王都に潜入するには主要な街道を通るか、そうでなければ山か川を越えるしかない」
王都タベスは、北部を急峻な2000m級の山脈に、また東西南側も低くて500m級、最高1500m級の山々に囲まれた盆地の中にあり、東西南側を通る5本の街道は、そうした山々の間にある谷間を通っている。
街道には検問がある筈だから、山の中を進むしかないが、かなり難易度は高い。
他に2本の川が街の東側と西側を南北に縦断して通っていて、これも大きな障害物だった。この二つの川は北側の山脈の豊富な地下水と雪解け水からなり、200~300mのそこそこの大きさらしい。そしてこの二つの川から引き込まれた水により、王城を囲む堀が形成されていた。
「越えるのだけなら簡単です。飛行機を使えば一飛びです」
飛行機なら山脈も川も関係なく飛び越える。現にそれは偵察機が楽々進入できたことで証明できた。
「だがどこに降りる?王都には飛行場などないぞ」
将軍がもっともな質問をする。飛行機が降りるには飛行場がいるし、水上機にしてもある程度の広さの水面が必要になる。後者は川に降りればいいのだろうが、水深が十分でない可能性があり、危険がともなう。
なので。
「それは御心配なく将軍。ここに降りればいいのです」
私は、王都から少し北西に行ったある場所を指さした。
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