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買出しに出ました ①

改めて。この作品はフィクションです。作中で見たことあるような場所やお店が出てきても、それは実在する場所やお店とは全く関係ありません。

「よし、着いた!」


 最寄りの路面電車の電停から歩くこと5分。お目当ての地に到着した。うん、今日も人でいっぱいだ。


 ただ人でいっぱいって言っても、身動きできないというようなことはなく、程よい混雑と言えば良いのだろうか。活気はあるけど、ゴミゴミしてない。


 やっぱりこの程良さがいいよね~


「ここが春須ですか?」


 と、私の後ろにたつミコさんは、さっきから見えるもの全てが興味深いのか、キョロキョロと周囲を見回してばっかりいる。


「そうだよ。東京の秋葉原ほどじゃないけど、うちの県随一のポッポカルチャーの発進地だよ」


 日本に戻ってきて3日目、今日私たちはこの県の県庁所在地の市内にある春須へとやってきた。ここは東京の秋葉原と同じ電気街や、様々な趣味に纏わる店が集まった地区だ。商店街には大きな電気店があるかと思えば、若者向けやコスプレ愛好家向けの服屋さんがあったり、ゲーム店やレコード店、メイド喫茶なんかもあったりする。


 もちろん東京や大阪のそれに比べれば都市の大きさ相応の店数しかないけど、街が小さい分、市内の繁華街や拠点駅から路面電車やバスで気軽にこられるのがありがたい。


 で、何で今日私たちが春須原にやって来たのかと言えば、息抜き・・・もないことはないけど、真の目的はジフ王国海軍大増強計画の第一歩を実現するためだ。


 私の考えた軍港や艦艇の増強計画のためには、それに必要な模型のキットを集める必要がある。で、うちの店に在庫としてあるものは、そのまま買って店の工作コーナーで組み立てればいい。


 しかし、店に在庫がない商品だってある。そうなるとメーカーに注文するって手段もそうなるとあるけど、到着まで時間も掛かるし、絶版商品だったらどう足掻いても手に入らない。


 そこでこの春須原にやってきたわけだ。ここには大手チェーンの大型店から個人経営の小規模店、さらには中古品を取り扱う店まで、数軒の模型店がある。ここで残る品の仕入れや、何か良さげな製品を見つけたら買い込もうって言うのが、私の計画。


「さてと、それじゃあまずは大型店に行くよ。迷子にならないように、しっかりついて来てね」


「は、はい」


 全く土地勘がない。それどころか日本語も読めず、身分証さえ携帯していないミコさんとはぐれてしまうと大変だから、そうならないように念押しする。


 何でそんな彼女を連れてきたかと言えば、一人でも多く荷物を持つ人が欲しかったからと、彼女の希望。


 実はミコさん、こっちに戻ってきてからずっとこっちに居候している。


「もっとこっちの世界のことを勉強したいので。もちろん、その間の対価は払いますし、できることはお手伝いしますので」


 と言うのが彼女の言い分。海軍士官が勝手にそんなことしてもいいの?


 と聞いたけど。


「大丈夫ですって。どうせ海戦から戻った者には、1週間の休暇が与えられますから。こちらの世界に来たことはウトカ将軍にも報告済みですし・・・あ、別に報告が面倒くさいとか、報告書書くのや事後処理が面倒くさいとか、そんなことありませんから」


 後半本音がだだ漏れなんですけど。


 まあ、私としては家にいるのは全然構わないけど、親父とお袋が許可しないと流石に泊められないよ。


「別に俺はいいぞ」


「私も全然オッケーよ!」


 はい、即オーケーでした。お袋なんか、ミコさんが着替えも何も持ってきてないって聞くやいなや、彼女を車に押し込んで服とか買いに連れ出しちゃったし。


 うちは私と兄貴の2人兄弟で、女の子がいなかったからな。娘が出来て嬉しい、ていうことなのかな?


 まあいいや。さすがにそっち系の話は、男の私じゃどうにもできないし。そもそも服なんか着れれば充分(コスプレは除く)なんて考えてる私よりも、お袋に見繕ってもらった方が彼女にとってもいい。


 で、私は店で店番しながら必要なキットを集めて、工作スペースで組み立て。その間ミコさんはお袋の家事を手伝いながら、親父も含めて日本語の読み書きを習って時間を過ごし、あっという間に2日間が経過した。


 そして今日、店番を親父に任せて私たちはこうして春須原にやってきた。


「やれやれ、もう来ることになるなんてな」


 大通りの面したビルを丸々一つ使った、大手電機チェーンのおもちゃ店。そこが最初のお目当てのお店で、何を隠そうこの間まで私が働いていた店だ。


 地下1階から6階までのビルが丸々一つおもちゃ店になっていて、地下1階は駐車場、1階はゲームコーナー。そして2階から4階までがスケールモデルや、アニメのロボットの模型、鉄道模型を扱ってる。5階と6階は工作室やレンタルレイアウト、催事会場だ。


 この地方随一の売り場面積と品ぞろえを誇っており、カタログ落ちしていない製品なら、大概ここで手に入ると言われている。


「わ!?」


 店に入ろうとすると、ミコさんが自動扉に声をあげる。さっき乗った路面電車でもそうだったけど、全く慣れてないので一々声を上げている。最初はこっちがビックリしたけど、もう諦めた。


「はい、行くよ」


「あ、待ってください」


 1階のゲームコーナーは素通りして、階段を昇って2階へ。まずは、この階のスケールモデルコーナーに行く。


「ええと、まずはタグボートのセットに、小型艦艇のセット。クレーンに燃料タンクに、小型ドッグに倉庫に・・・」


 メモ書きして置いたお目当ての製品を、カゴへと放り込む。


「模型の箱がいっぱいですね。大和さんのお店もいっぱいでしたけど、この店はもっとたくさんありますね」


「そりゃ個人経営の街の模型店と、大手チェーンの専門店を比べちゃいけないよ」


 うちの店だって、個人経営の店としてはそれなりに商品を充実させているつもりだけど、やはり大規模に展開する店は違う。割引だってお話にならないし、買って付くポイントや誕生付きの優待まで含めれば、そのサービスの差は雲泥の差だ。


 だからうちの店では、そうした勝負にならない部分での対決は避けて、個人経営の店ならではの地域密着型サービスでやっている。それが顧客台帳であり、工作による完成品の発売というわけだ。


「よし。こんなもんだな」


 とりあえず、この店の棚に置かれている商品で欲しかったものを全てゲット。カゴの中は模型の箱で一杯になった。


 う~ん、夢にまで見たプラモデルの大人買い。予算が青天井(と言ったら語弊があるけど)、支払いをあまり気にせず買えるっていいわ~


 早速レジに持っていき、清算に入る。


「あれ、後藤君じゃない?」


「あ、片岡さん。お久しぶりです。その節はお世話になりました」


 レジで応対したおばちゃんは、ここで働いていた時の顔見知りの店員さんだった。片岡さんと言って、この道10年以上のベテランパートさんだ。


「どうしたの?こんなにたくさん買って?それに、その女の子は?」


「たくさん買ったのは、仲間と一緒にジオラマを作ることになって。実家の店にある在庫だけじゃ足りなかったんです。で、この娘はそのジオラマを一緒に作る仲間の一人です」


「あら、そうなの。まあ、今どきは女の子が模型を作るのも珍しくないからね・・・ええと、全部で21999円になります」


「21000円分は商品券で。端数は現金で払います」


 いくら懐に余裕があるとはいえ、無駄遣いしていい道理はない。そう言うわけで、予め金券ショップに行ってこの店で使える商品券を買っておいたのだ!


「おい、お釣りとレシートです。毎度ありがとうございます。また来てね」


「はい、またお願いします」


 営業スマイルで手を振る片岡さんに頭を下げて、次の目的地へ・・・と言っても、この店の別のフロアに移るだけなんだけど。


 重い荷物を手にしながら、階段を絵の階へと上がる。アニメとかのフィギュアやロボットを取り扱う階をスルーして、2つ上の鉄道模型のコーナーへと上がる。


 何で鉄道模型のコーナーに上がるかと言えば、それは鉄道模型メーカーが出す様々なストラクチャーと言われる付属品を見るためだ。


 鉄道模型と言うと、車両や線路を思い浮かべる人も多いかもしれないけど、ジオラマ用の様々な建物類の模型も数多く発売されている。その中には、発電所とか港の桟橋とか、意外と実体化すれば使えそうなものも数多く含まれている。


 鉄道模型もうちの店で取り扱っているけど、もちろんそれだけじゃ足りないからこの店で大人買いしようってわけ。


「ええと、石油タンクにコンビナート一式、発電所に倉庫も必要だな・・・」


 とさっきと同じく、欲しい模型を手当たり次第カゴに入れてく。


「・・・」


 そんな中、ミコさんがジーッと棚に陳列されている鉄道模型の車両を見ている。


「どうかした?」


「あ!?いえ、さっき乗ってきた電車や路面電車にも驚きましたけど、日本にはこんなにたくさん鉄道があるんですね」


 そう言えば、ジフ王国にはまだ鉄道はないとか言ってたな・・・待てよ。


「そう言えば、ヅイヤの港から軍港の予定地まではそれなりの距離があったよね?」


「はい、確か10kmほどです」


「10kmか・・・」


 軍港を作ることと、その軍港を機能させることばかり考えていたけど、移動手段があった方がいいよな?


 あ、でも許可を取ってあるのは今の所軍港とその付帯設備だけだから、鉄道は改めて許可をとらなきゃいけないな。


「どうかしました?」


「いや、軍港からヅイヤまで鉄道があれば便利かなって」


「あ!確かに便利そうです」


「ただ敷設するには、またジフ王国側に許可を取らなきゃいけないし、今後の課題だね」


 でも向こうの世界には『実体化』て魔法があるんだから、きっと鉄道も模型を実体化させれば事足りるよな。プラモデルよりかは、はるかに値段は高いけど、本物の鉄道を敷くことに比べれば訳ないよな。しかも、もし軍艦と同じで魂が宿って勝手に動くなら、人件費も掛からないし。


 私は頭の中で路線作りや運行計画に関して、皮算用する。


「それにしても、なんかパソコンの街づくりゲームしてるみたいだな」


「はい?」


 思わずそんな言葉が口に出て、ミコさんが首を傾げる。まあ、当然だけど。


「こっちのこと・・・さてと、カゴも一杯になったしレジに行こうか」


「はい!」


 まだまだ買いたいものはたくさんあるからね、手早く効率よくお店を回らないと。夕方のラッシュが本格化する前に帰りたいし。


 私たちは清算をするべく、ずっしりと重くなったカゴを抱えてレジへと向かった。


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