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サラリーマンの不死戯なダンジョン  作者: 昼熊
第十ステージ

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殲滅側

 分岐路の右から二番目の通路に差し掛かったところで、もう少し零士君から情報を収集しておくことにした。


「第十ステージ開始時に探索組に加わらずに、スタート地点に残っていたけど、あれも考えがあってのことかい?」


「ああ、そのことか。俺以外に四人残っていた奴らがいたのを覚えているか」


「個性の強いメンツだったから、覚えているよ」


「奴ら全員殲滅組だ。俺は部屋の隅の方で無関心を装いながら、情報収集していた。そこで、殲滅側のプレイヤー同士が小声で会話しているのに聞き耳を立てていた」


「そこで、彼らが殲滅側だと知ったわけか。他にも殲滅側と認識できたプレイヤーはいたかい?」


「二人ほど怪しいのはいたが、他は今思えばといった感じだ……一言、お前もか。や、俺もだ。みたいな言葉を交わしていたからな。さすがに、そいつらは顔がわからない」


 本当に以前の零士君とは思えない冷静さと分析能力の高さだ。彼が仲間になってくれるなら、頼れる存在になるのだが。

 それに、ポチミから譲り受けた耳の聴力は『地獄耳』を凌ぐ性能なのかもしれないな。ただ、耳がいいだけではなく、多くの人の会話を聞き分けられるようだし。

 しかし、どうするかな。織子と剛隆の二人に殲滅側について教えておくべきか。彼らが探索側で間違いなければ、何の憂いもなく全て明かせるのだが……ここは感情論でなく、客観的に判断しなければならない。


 幾つかのパターンを分析してみるか。


 もし、二人が探索側で殲滅側の存在を教えずに、これから殲滅側のプレイヤーと遭遇したとしよう。二人は相手がプレイヤーの生き残りと信じている。相手を心配して無防備に近づく、そうすると相手は油断をしてくれる……かもしれない。

 二人が殲滅側で俺が殲滅側の存在を知らないと思い込んでいる状態で、彼らと遭遇したら、素知らぬ顔をして罠にハメようとしてくるだろう。

 殲滅側が存在すると教えた場合、織子は平静を装えると思うが、剛隆に芝居ができるとは思えない。殲滅側に怪しまれそうだ。

 更に二人の内どちらかが殲滅側だった場合は、情報を公開した時に何かしらの反応が期待できる。その動揺具合で殲滅側かどうかの判断をするという手もある。


 ……予想は幾らでもできるが、不確定要素が多すぎて、たら、れば、もしも、のオンパレードだ。正直、やってみなければわからない。最近、全てを疑って考え事ばかりしている。一周回って頭が働いていない気がしてきた。

 もっと簡潔に、最悪なパターンを予想してみよう。


 全員が殲滅側!

 これは終わったな。どう足掻いても絶望しか待っていない。あまりに極端な例えだが、意外とこの発想が解決への糸口かもしれない。

 つまり、このステージを一人でクリアーするのは不可能に近いということだ。本当に信頼できる仲間を得られるかどうか、そこが重要なのだろう。


「よっし、腹をくくった! 二人に話しがある」


 足を止めて振り返ると、急に何を言い出したのかと二人が驚いている。零士君は足を止めて、こちらを見ているだけで、俺の好きにさせてくれるようだ。


「大事な話だ、心して聞いてくれ」


 さあ、細かい動作や表情の一つも見落とすことは許されない。この反応如何によっては戦闘が始まることも考慮しなければならない。


「このステージはプレイヤーが探索側と殲滅側にわかれていることを知っているかい?」


「えっ?」


「何だ、それ?」


 二人とも軽く驚いたというより、理解できないといった感じだ。気配も同時に探っているのだが、少し揺れただけか。この程度の気配の揺らぎなら動揺は殆どないということだ。

 二人は白か……いや、まだ決めつけるには早い。


「時間が惜しいから簡潔に説明するけど、第十ステージはプレイヤーによってクリアー条件がことなるんだよ。俺たちと同じように、強い敵を倒したらクリアーという探索側。探索側のプレイヤーを全員殺すとクリアーという殲滅側に」


「嘘だろっ!」


「えっ、そんな……」


 本気で驚いているように見える。気配は強風で煽られた炎のように揺ぐ。かなり、本気で驚いているということだ。彼らが殲滅側なら、ここまで驚くとは思えないが。

 二人とも探索側で間違いない……のか?


「その情報を誰から得たのかは後で話すよ。そして、ここからが重要だ。たぶん、セーブポイントにいたプレイヤーは殲滅側に誘い出されて、あのライフポイントを吸い取られる罠にハメようとしている筈だ」


「吸い取られる罠って何だ?」


 腕を組んで首を傾げている剛隆には、後で詳しく説明してあげよう。

 織子は事の重大さに気づいたようで、目を見開いている。


「それも後で説明するよ。そういう沼地のような罠があると思っておいてくれ。でだ、たぶん、殲滅側のプレイヤーがこの先に待ち受けている可能性が高い。セーブポイント辺りだろう。そこで、相手は素知らぬ顔で接触してくるだろうから、みんなは自然な感じで接してほしい。相手の油断を誘う為に」


 織子は何度も頭を縦に振って同意を示しているが、剛隆の表情が暗い。無理に笑おうとして頬が引きつっている。


「あのさあ、芝居って苦手なんだが」


 だろうな。そこは予想通りだよ。感情がモロに顔や態度にでる剛隆には難しいか。これ以上時間をロスするわけにはいかない。何かしらの対策をしないと――


「タオルとか布を口元に巻いたらどう? 顔を隠したら表情読まれにくいと思うし」


 ナイスだ織子。確実とは言えないが、だいぶマシになる。

 バックパックからタオルを取り出して鼻から下を隠してもらった。何と言うか今から銀行強盗をしそうな風貌になったが、そこは突っ込まないでおこう。

 うんうん、口元を隠しただけで表情をかなり読み取れなくなるな。あとは極力話さないようにしてもらえれば、何とかなりそうだ。


「基本的に対応は俺がするから。一応、サラリーマン時代に腹芸は仕込まれているからね」


 正直、このクソゲーに巻き込まれてから、感情の制御が上達したと思う。辛い経験が糧となったと思いたいが……そんな糧は欲しくもなかったんだけどな。

 誰も反論は無いようなので、ここからは俺が先頭になって進むこととなる。

 この先に反応が五つ。位置的にセーブポイント内か……それ以外の気配を感じない。遅かった可能性が高いな。全員が無事だとしたら、十三人の気配がないとおかしい。


 だが、殲滅側のみの反応だとしても変だ。零士君の情報では七人が殲滅側という話だった。二人ほど足りないが、意識を集中して『気配操作』を全力で発動させる。

 更に先に二人の気配を僅かにだが感じられる。これは『隠蔽』を使用しているのか。紫の沼地付近で姿を隠していると考えるのが自然だよな。

 他の気配は……ない。探索側のプレイヤーは全滅したと考えた方がいいな。怒りも悲しみもないが、彼らの恨みぐらいは代わりに果たしてやろう。こんな馬鹿げたゲームに付き合わされた仲間なのだから。


 それに、ここで殲滅側を処分しておけば後々楽になる。こんな機会でもない限り、プレイヤーの中から探し出すのは至難の業だ。この状況をこっちが利用させてもらう。

 セーブポイントの部屋が通路の先に見えてきたところで走る速度を少し落とす。全速力から駆け足程度に見えるように調整して、部屋へと飛び込んでいく。


「無事かっ!」


 一応焦ったような感じで声を掛ける。

 セーブポイントの部屋にいた五人のプレイヤーは全員が床に座り込み、疲れた様子だが……演出っぽく見えるのは端から疑っているせいかもしれないな。


「そんなに慌ててどうしたんだ? 何かあったのか」


 ジャージ姿の青年が白々しいことを口にしている。この人は覚えがあるぞ。確か沼地に埋まっていたチームのリーダーだったか。驚いた振りをして顔を上げたのが他に二名。

 俯いたままなのが残り二名。こいつらは、もう一つのセーブポイントにいたプレイヤーっぽいな。念の為に顔ばれしないようにしているつもりなのだろう。

 ちらっと横目で零士君を見ると、黙って頷いている。こいつらは殲滅側で間違いなさそうだ。


「もう一つのセーブポイントにプレイヤーがいるのは話したよな?」


「ああ、それは知っている。スタート地点で助け出したプレイヤーがいるって」


「そう。そのプレイヤーが全員消えたんだ」


「えっ!? そんな、どうして」


 顔を上げている三人は全員口を大きく開けて、驚愕を表現しているが、やはり白々しく見えてしまう。実際、あまり芝居は上手くない。こっちも動揺して、微塵も相手を疑っていなければ違和感に気づかないかもしれないが。


「それがわからなくて。もしかして、こっちに向かったのじゃないかと思ったんだが……」


「いや、あれから誰も来ていないよ。そうか、そんなことが」


 深刻そうに呟いているが、この場の五人は全員、気配の揺らぎが小さい。驚いているように見せてはいるが実際はそうでもないと気配が雄弁に語っている。

 こいつらは黒で間違いなさそうだな。なら、遠慮は無用だ。


「俺たちはもう少ししたら、そっちに行くつもりだったのに……タイミングが悪かったのか、良かったのか」


「こっちに来る予定だったのか。何かあったのかい?」


「ほら、この先にライフポイントを吸われる罠があっただろ。あれの解除方法がわかったから伝えようと思って」


 へえ、そういう策で来るわけか。ここは誘いに乗った方が下らない駆け引きが少なくなりそうだ。


「おっ、本当か! いなくなった彼らの所在が掴めなかったのは残念だったけど、ここに来た甲斐があったようだ。厳しい意見かもしれないが、何があったとしても俺たちはクリアーしなければならない」


「ああ、それは俺も同意するよ。クリアーが何よりも大事だ。だからこそ、俺たちも気力を振り絞って動いた。キミたちに任せっきりじゃ流石に心苦しくて、慎重に沼地を調べてようやく解除方法を見つけたんだ」


 ここだけ聞くなら、頑張ってくれたと軽く感動する場面なのかもしれない。だが、相手の本性も目的も知っている状態では、何もかもが三文芝居にしか見えない。


「そうか……ありがとう。じゃあ、今は沼地が無効化されているのかい?」


「ああ。見た目は変わっていないが、ライフポイントを吸い取る効果が消滅している。万が一落ちたとしても安心だ」


 胡散臭いことこの上ない。

 そう言えば、あっちのセーブポイントにいたプレイヤーたちは、この沼地の効果を知らなかったな。言葉巧みに騙せば突き落とすことも容易か。

 自分のチームに殲滅側の人間がいて、強気で進むことを選択したら押し切られても無理はない。

 ここで、相手が一番望む流れは――これか。


「あっちに残っているプレイヤーに伝える前に、一度、沼地を見ておくかな」


「構わないよ。今は安全だからね」


 心なしか嬉しそうだな。理想的な展開で内心笑いが止まらないのかもしれない。まあ、それはこっちも同じなのだが。

 座り込んでいた三人が立ち上がり、俺たちを先導してくれるようだ。素直に付いていくと、俯いていた二人も立ち上がって後方からついてきている。

 セーブポイントに入る前に、敵の配置は伝えているので、こっちは準備万端だ。今更何も言うことは無い。相手に怪しまれないように、黙々と歩を進めるのみ。


「この先だよ」


 曲がり角の手前で立ち止まり、彼が手で示す方向へ俺は躊躇うことなく進む。

 視線の先は通路の終わりで、大きな空間が広がっている。そして、下の窪みには紫色の沼地。

 俺が身を乗り出す様にして沼地を覗き込んでいると、『隠蔽』で通路の脇に隠れていたプレイヤーの一人に背中を押され、身体が沼に向けて落下――するわけがない。


「伸びろ」


 予め右手に潜ませていた伸縮自在の棍を沼地へと伸ばし、落下を食い止め前のめりの状態で動きが止まる。


「なっ、えっ」


 彼らからしてみれば、俺が空中で停止しているように見えたのだろう。取り乱した声が耳に届いた。

 棍を支点にしてくるっと回転するついでに、突き飛ばしてくれたプレイヤーの足を払う。体勢を崩した男が沼へと落ちていく。

 襲ってきた彼らが何処にいたのかというと、沼地の側面に僅かにでっぱりがあり、そこに潜んでいたようだ。


「ぎゃっ!」


「ぐああっ」


 続いて鈍い打撃音と悲鳴が聞こえたかと思うと、俺の頭上を人が三人放物線を描いて飛んでいく。更に棍を伸ばし、元の位置に立って構えるが俺の出る幕は無さそうだ。

 既に四人が沼に叩き落とされた状態で、更に二名が織子の蹴りと剛隆の背負い投げで、沼に放り込まれた。

 俺を落したプレイヤーの反対側に潜んでいたのは女性で『隠蔽』を発動させたまま逃げようとしていたので、全力で棍を太股に叩き込む。


「があっ、いたああああっ! ひっ、やめ、やめてっ」


 登山にでも行きそうな格好をした三つ編みの女性が、足を引きずりながら何とか逃げようともがいているが、ここで逃がしてやるほど、お人好しじゃない。

 棍を相手の首に突き刺す振りをして、襟首に引っかける。そして、そのまま沼地の真上まで棍を伸ばした。


「い、いや、た、助けてッ!」


 落ちないように必死になって棍にしがみ付いているので、ちょっとやそっとのことでは落ちないだろう。


「お、お前ら何をするんだ! 味方を突き落とすなんて何を考えている! 早く助けろ!」


「私たちが何をしたって言うの! ち、力が抜ける……は、早く助けなさいよ!」


 沼に首まで浸かったプレイヤーたちが口々に罵倒してくる。

 その口で良く言う。被害者ぶっているようだが、今更それが通用するとでも思っているのかね。好き勝手なことを自由に叫ばせておいて、強気な姿勢が崩れてきたところで大きく息を吸った。


「黙れ。あんたらが殲滅側というのは知っているんだよ」


 凄味のある声を意識して言い放つと、声がピタリと止んだ。

 自分たちが何を言っても無駄だということを悟ったのか、その顔が絶望に染まっている。

 気は進まないが、ここから尋問の時間だ。


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