尋問
人数では相手が上回っていたのだが、楽に勝てたのは相手が油断していたからだろう。
たぶん、前回が上手くいったので今回も楽勝と高を括っていた。こっちが全てを把握していたとは夢にも思っておらず、そのつけを払うことになったわけだ。
予め尋問は全て担当するということで話を通していたので、三人は黙って見守っている。
「あんたら、他のプレイヤーはどうした?」
「な、何のことだ! 殲滅側なんて聞いたこと――」
「今更惚けるな。全部知っていると言った筈だ。それに俺はお願いをしている訳じゃない。話せと命令をしている」
凄むと同時に『気配操作』でどす黒いオーラを纏ってみる。織子たちには通用したので、若干の効果は期待できるだろう。
「口を噤むのは勝手だが、ライフポイントに余裕はあるのか」
「こ、答えたら助けてくれるのか!」
「全ての質問に完璧に答えられたなら、殺さないよ。ちなみに嘘を吐いたことが判明したら、その後、何を話そうが助けない。良く考えて口にすることだな」
我ながら、こういった脅しや尋問は似合わないと自覚しているが、このメンバーでは俺が一番マシだろう。それに、こういう汚れ役は年上の役目だと相場が決まっている。
「理解してくれたようだな。では、もう一度聞く。ここに一緒に来たはずのプレイヤーはどうなった?」
目を閉じるか、視線を逸らす者ばかりだな。ライフポイントが削られていく恐怖はあるようだが、それよりも真実を明かすことの方が危険だと判断したか。
「言えないのなら、俺から言ってやろうか。全員、この沼地に放り込んだ。はい、か、いいえで答えろ。十秒以内に答えなかった奴らは嘘を吐いたとみなす。一、二、三、四……」
「わ、わかった、はいだ!」
「はい……」
全員があっさりと返答した。命のかかった場面で強気の態度を貫ける人はいないか。
この状況なら自殺した方がいいように思うが、以前、沼地に落ちたプレイヤーにその疑問を口にしたら、
「あの沼に落ちると力が抜けて、特殊能力の発動が阻害されるんだ」
と教えてくれた。今の彼らは自力で抜け出すことも自殺することも許されない。その絶望は計り知れないだろう。だが、情けを掛ける気は微塵もない。彼らも探索側のプレイヤーに同じことをしたのだから。
棍にしがみ付いている女性だけが能力を振るえるが、余計な真似をしたら沼地に落とされることぐらいは理解できているようだ。
「全員、ライフポイントが0になって消滅した。間違いないな」
「ああ」
「はい」
今度はカウントダウンをするまでもなかった。これも全員同じ返答。
あまり焦らすと殲滅側が全滅しかねないな。質問の優先順位を考えて話さないと。
「次だ。あんたら殲滅側はどうやって仲間かどうかを判断している」
もし見抜ける方法があるなら、難易度はぐっと下がる。今後の為にも是非聞きだしておかないといけない、最重要事項だ。
奴らは顔を見合わせているな。命を握られている場面で躊躇うことがどれだけ危険な行為か自覚している筈だろうに。それでも、直ぐには教えられないということか。
「ほう、死にたいのか。まあ、じっくり時間をかけてくれても一向に構わないが」
困るのは彼らだ。徐々にライフポイントが削られ、本物の死が迫ってくるだけ。
それでも、口を開かないのか。一分ほど待っているのだが、未だに誰も答えようとはしない。顔中に冷汗を浮かべ、表情も優れない。ライフポイントが減っているのは間違いなさそうだが……想像以上に強情だな。
それとも、絶体絶命の状況を覆す策があるとでもいうのだろうか。何かを待っている様にも見えるな。警戒はしておこう。
「俺が口だけの男だと舐めているなら後悔するぞ。お前、やっぱり邪魔だな」
冷たく言い放ち、棍を縦に振った。
「えっ? ええええええっ」
棍にしがみ付いていた女性が沼地へと叩きつけられた。手を離したのを確認してから、棍を手のひらサイズに戻しておく。
冷静さと非道さを兼ね備えていることをアピールする為の行動だが、効果は覿面だった。
安全地帯にいたと思っていた女性を容赦なく叩き落としたことで、自分たちへの脅しが本物であると理解してくれたようだ。
血の気の引いた顔で俺の目を見ようとしない。
「じゃあ、そこのあんた。そう、センターわけの眼鏡。お前だ。もう一度同じ質問をする。沈黙は嘘と同じだと判断するぞ。どうやって殲滅側の仲間を判断している。一、二、三、四、五、六」
「い、言うから、カウントを止めてくれ!」
「七……八……」
ここで止めたら、時間を与えるだけだ。判断力を無くし、相手が余計なことを考えられないように、そのままカウントを続ける。
「話す! 話すから!」
「お、おい、やめろ」
「それを教えたら私たちが勝ち残ることが」
「うるさい! 言わないと今死ぬだけだろっ!」
仲間割れが始まっているが、止めようとはせずに睥睨している。罵りあいの内容に重要な情報が含まれていないか、冷静に選別していく。
話されると困るということは、探索側も判別できるということか。それが本当なら、殲滅側にとって致命傷になる。
「黙れッ! 俺は死にたくない! 調べる方法は――」
――背中に衝撃を受けた俺は、最悪、背骨にヒビが入ったことを自覚しながら、沼地へと真っ逆さまに――
狭い通路で横に避ける余裕はない。後ろからの攻撃なら後方に跳ぶのはもっての外だ。だったら、逃げ場は正面のみ!
『未来予知』が見せた映像を信じ、俺は大きく前に跳ぶ。そのままなら、毒の沼地に自ら跳び込むような物だが、伸縮自在の棍を伸ばし、棒高跳びの要領で沼地を挟んだ向こう側の通路に降り立った。
「流石、網綱さんですね」
振り返った俺の目に飛び込んできたのは、拳を前に突き出した状態で寂しそうに笑う織子の姿だった。
剛隆と零士君にとっても予想外だったようで、咄嗟に動けないでいる。
織子は黙って腕を素早く振るうと手の中から小さな礫が飛び、沼地に沈んでいた殲滅側のプレイヤー五人が額から血の噴水を噴き出した。
『剛力』による投擲で一瞬にして殺したのか。
「気を付けろ、二人とも!」
彼女が敵に回ったことを、ようやく把握した二人だったが一歩遅く、織子は二人の間をすり抜け、セーブポイントがある部屋へと駆けていく。
「くそっ、待ちやがれ!」
剛隆が踵を返して、織子を追おうとしている。
「待てっ! 復活したプレイヤーが待ち構えているぞ! 仕方がない、二人ともこっちに渡れ!」
伸縮自在の棍を伸ばし、こっちの通路と向こう側を繋ぐ一本の棒とする。橋としては頼りないが、身体能力の向上しているプレイヤーなら、問題なく渡れると思う。
二人が危なげなく渡り切ったところで、向こう岸に七人+織子の姿が見えた。
殲滅側だったのか……織子。
気配を読み取っている時、揺らぎを見ている限りでは普通の反応に思えた。彼女も多くの経験をして気配を操れるぐらいに……待てよ。『気配察知』を所有していたということは、それが進化して俺と同じく『気配操作』を覚えた。そう考えると辻褄が合う。
「逃げられたか。あんた、織子って言ったか助かったよ。味方だとはわかっていたが、あのまま見捨てられるのかと冷や冷やものだったぜ。どうせなら、突き落とされる前に手伝って欲しかったが、何か考えがあったんだろ?」
センター分け眼鏡がさっきまでの半べそ状態からの完全復活か。全員思ったより元気で活力に満ち溢れているようだ。
追い込まれてはいたが織子が味方だと認識できていたから、助け出されるタイミングを待っていたわけか。しかし、センター分けの言うとおり、殲滅側を落とす前に行動に移していたらポイントが減ることは無かったはずだ。
「リーダーの網綱さんは警戒心が強いの。ああでもしないと逆に返り討ちに合う確率が高かったから」
織子にとって俺は、そんなに高評価だったのか。
「なるほど。あんたの不意打ちも躱したもんな。人は見かけによらないって奴か。まあ、落ちて直ぐだったから、ライフポイントも1か2程度しか減ってない。それ程、痛手ではないな」
センター分けに対して、織子は俯いたまま呟いている。現れてから、一度も目を合わそうともしない……か。
彼女に対して怒りも悲しみも無い。誰だって生き残る為に必死なのだから。それがわかるぐらいには、成長しているつもりだ。
「織子。これで二度目だな」
「うん、網綱さんを騙したのは……二度目だね」
「おいおい、網綱とか言ったか。あまり責めないでくれよ。俺たちを卑怯者だと罵りたい気持ちはわかるが」
センター分けが会話に割り込んできた。俺が彼女を責めているように見えたから、庇っているつもりなのか。勘違いしないで欲しいものだ。
「責める気はない。殲滅側も必死なんだろ? それに、探索か殲滅に所属するかは完全な運みたいだからな。生き延びる為に何でもする……当たり前のことだよ」
俺の言葉が心底意外だったようで、殲滅組が唖然としている。彼らが好んで裏切り行為をやっているなら侮蔑に値するが、特別な褒美で選んでいない限り、製作者に押し付けられたチーム分けだ。
「あんたらだって、製作者側の被害者だ。敵対すれば容赦なく倒させてもらうが恨みはない。俺だって殲滅側に選ばれていたらクリアーする為に、あんたらよりも非道なことを平気でやっていただろうな」
「くっ、あははははは! 気に入ったよ、あんた。ここに落とされたプレイヤーは口々に俺たちを口汚く罵ったというのに……俺も探索側であんたと組めていたら」
最後は消え入るような声だったが、俺の耳に届いていた。全てはこのルールを考えた製作者の罪。怒りの矛先はそいつらにだけでいい。
「織子、顔を上げろ。敵対することになったが、今まで楽しかったよ。誰だって死にたくはない。生きる為に必死だっただけだ。だから、自分の行いを恥じるな。胸を張れ、織子もあんたたちも当たり前のことをやっただけだ」
裏切られた瞬間はショックだったが、これも想定の範囲内だ。敵を励ますなんてお人好しか頭のおかしい人かと思われそうだが、彼らは被害者なのだ。戦う定めならば、気持ち良くやりたい。卑怯な手段で陥れられたとしても、最後を迎える時は笑顔で「完敗だ、頑張れよ」と言えるような男でいたい。
何度も死を経験してきたからこそ、死に際に拘ってみたくなった。杉矢や田中、その他のプレイヤーの最後を見てきたからこそ、そう思う。
今まで一度も目を合わせなかった織子が顔を上げる。今にも零れそうな程、涙の溜まった瞳が俺を見つめている。握った拳を胸に当て、彼女か大きく息を吸う。
「網綱さん! 私頑張るよ!」
「ああ、頑張れ」
敵対した人間に言う台詞ではないことは重々承知しているが、それでも言わずにはいられなかった。
「網綱さんよ。お前さんのことは覚えておく。そこから先がどうなっているかは知らないが、もう一度あんたと会ってみたい。だから、俺たちに殺されるまで死ぬなよ」
センター分けと他の殲滅側プレイヤーが拳を掲げた。俺もそれに応え、拳を突き上げる。
敵側とはいえ、彼らとは少しわかりあえた気がする。殺し合う相手に対して不要な行為かもしれないが、俺は意味があると信じている。
満足げな表情で背を向け、殲滅側のプレイヤーが通路へと消えて行く――その無防備な背中に淡々と矢を射る。
「ぐあっ」
「なっ」
「お前なぁ……」
四人を撃ち殺したが、他は逃げられたようだ。死に際に恨みがましい目で見られた気がするが、気にしない。
「よしっ」
「何がよしだ! その男気に感動しかけていたってのに、最悪じゃねえか」
剛隆は呆れ果てているようで、額に手を当ててため息を吐いている。零士君もポーカーフェイスが少し崩れているな。
「あんなに隙だらけの背を見たらつい。まあ、それは冗談だとしても、殺し殺される関係だからな。倒せるときに少しでもライフポイントを削っておかないと」
「それは理解しているが……なんだかなぁ」
納得のいかない剛隆は、ぶつぶつと何か呟いている。
勝つ為の手段に拘っているところが、まだまだ若い。第十ステージまで進んで、それでも真っ直ぐな心根を維持できているのは、少し羨ましい気はするが。
もう一つのセーブポイントに残してきた鴨井たちが気になるが、彼らと連絡をとる手段が無い。俺よりも曲者で出来る男がいるから、何とかしてくれると信じるしかない。
まあ……いざとなれば、死に戻りという手段もある。
この三人で通路の先を探索していくのが今後の方針かな。プレイヤーとやりあうのは精神を大量消費するので、魔物と戦った方がましだと心底思う。
何があったとしても、生き残る為に死力を尽くす……それだけだ。




