二度目
「こっちも行き止まりですわ」
道が途切れたのはこれで何度目だ。
魔物と化した杉矢たちと戦ってから通路を進んでいるのだが、今までと違い分岐点が多すぎて、地道に一つ一つ道を潰している最中だったりする。
進んだ先に更に分岐路があり、進むと道が分かれているか行き止まりというパターンが続く。これで、10本以上の小道を進んだが敵がちょくちょく現れるだけで、代わり映えのしない光景と展開。
「網綱さん、正直、暇ですっ!」
前衛担当の織子が頬を膨らませて不満を口にしている。
罠もないし、敵が現れても遠距離からの一方的な狙撃で瞬殺だから、そりゃ暇だろう。何度か敵側にも遠距離系の武器を携えた魔物がいたのだが、こっちは三人も飛び道具担当がいる。
それも、揃いも揃って腕前が確かときている。逃げ道のない狭い通路では圧倒的な遠距離火力が物を言う。
「俺たちの出番がないというのは、安全に事を運べているということだからね。いいことじゃないか」
「そうですけど」
鴨井は楽できていることを純粋に喜んでいるように見える。
苦戦せずに済むなら、それに越したことは無い。ライフポイントに余裕があるからといって、命を粗末にしていいということじゃない。
「この近辺の通路は結構埋まってきましたわ。三つ前の分岐路の一番左が最後っぽいですわよ」
「自分は思う存分撃てて、満足であります!」
トリガーハッピーみたいなことを口走っている横道さんは無視しておこう。
ここまでは怖いぐらいに順調だ。戦法としては卑怯と口にする人もいるかもしれないが、この世界は日本の常識は全く通用しない。勝つ為には何をしても許される。
まだ探索していない通路の前まで戻り、鴨井、織子、横道、明菜、俺の順で通路を進む。
最後尾から全員を注視しているが、妙な動きをする者はいない。全員が問題なく協力しているように見える。
殲滅側がいないことを祈るしかないが、少しでも怪しい動きをしたら、いつでも取り押さえられるように準備をしておかないとな。っと、後は後方の確認と気配を探ることも忘れてはいけない。
背後から迫る気配はない。探知範囲を広げてみるが誰もいないようだ。
「この通路が本命だといいんだが」
「ここに探索チームがいなければ、殺されたってことなのかな、やっぱり」
入れ違いの可能性を考慮して、分岐点ごとに紙を釘で壁に打ち込んでおいたので、その紙が残っているなら、そういうことだろう。
置き手紙にはスタート地点は安全ではなく、サイクロプスが湧いてくると記載している。読んだら、紙を持ち帰るようにも指示しておいたので、残っていれば探索チームが通らなかったということだ。
三つ目の魔物は紙には全く興味を持たずに通り過ぎていたので、魔物が奪う展開もあり得ない。
「出来れば生存しておいて欲しいが、望みは薄いかな」
「かもしれないね」
九割方、生存していないとは思うが、あえて断定する必要はない。そんなことは、みんな理解しているだろうから。
探索チームの事を話題にしても暗くなるばかりなので、どうでもいい内容を口にするが話が盛り上がることもなく、通路は終着を迎えた。
「いなかったか。どうするリーダー。スタート地点に戻って、彼らが死に戻りをしているか確かめてみるかい? それとも、メモしておいたセーブポイントに向かうかい?」
「んー、先にスタート地点を覗きに行って、またサイクロプスがいるのか確かめておこう。プレイヤーがいなくて敵だけだった場合は撤退でいいかな」
特に反論はなく、今後の方針があっさり決定した。
また通路を戻るのかと思うと、正直うんざりするがこれも今後の為だ。少しの手間で生存率が上がるなら、やっておくべきだよな。
探索側が四つに分かれた分岐路に戻ったのだが、帰りの道では敵と遭遇することが一度もなかった。敵を倒した場所はすぐさま敵が湧くという仕様ではないようだ。
この結果、先に進んでいた筈のプレイヤーが生存している確率が減ったということになる。敵が残っていたということは倒せなかったということに他ならない。
ただ、途中で撤退したかもしれないので、確定ではないのだが。
嫌な予感しかしないが、どうこう言ったところで事態が好転するわけでもないので、口をつぐんだまま黙々と歩を進める。
何度も通った一本道を通り、スタート地点が近づいている。いつものように気配を探り、五人のプレイヤーらしき気配を捉えた。そして、別の巨大な気配が一つ。
サイクロプスの気配と酷似しているが……前よりも気配が強い。表現が難しいのだが、前に感じたものよりも濃厚で凝縮しているような、そんな違和感がある。
プレイヤーの気配が慌ただしく動き回っているので戦闘中らしい。
「プレイヤーがいたよ。たぶん、一番細い通路の探索チームだ。そして、サイクロプスらしき個体が一つ」
「一体だけなら、彼らだけでも殲滅可能なのでは!」
横道さんの言うことは尤もなのだが、それは以前戦ったサイクロプスと同じだった場合だ。初めて出会ったサイクロプスは粗末な棍棒だったが、二度目に会った三体は全て立派な武器を手にしていた。
新たな個体が更に強化されていることも、あり得るだろう。実際、プレイヤーたちは攻めあぐねているようで、敵からかなり距離を取っている。
「油断はしないで。前よりも強い可能性があるから」
「網綱さんが言うなら、きっとそうなんだよね。うん、気合入れていくよ!」
織子は全幅の信頼を寄せてくれているようで、拳と手の平を打ち合わせて、戦闘モードに入っている。
他のメンバーの気配も変化し、全員が戦闘態勢に入ったことが伝わってきた。
ここまでの戦いで全員の動きは把握しているので、作戦を立てる必要もない。通路の終わりが見えたところで、一気に速度を上げてスタート地点の巨大な空間に乗り込んだ。
プレイヤーが五人、以前よりも一回り大きなサイクロプスを取り囲んでいる。その個体は大きさ以前に他のサイクロプスと全く違う点があった。
「腕が四本……」
明菜の呟きが示す通り、そいつには腕が四本生えていた。本来なら脇がある場所からもう一本、逞しい腕が両側に存在している。
上の右手には斧。下の右手にはメイス。左手は上が両刃の剣。下が巨大な盾。
四本も腕があったら脳が処理できずに、ちぐはぐな動きになりそうなものだが、器用に全てを問題なく行使している。
それどころか、動きにキレがあるな。力任せではなく、ちゃんと技として武器を振るっているように見えた。
そういえば第七ステージにいた魔物に似ているな。あれは口も鼻も存在していなかったが。
プレイヤーの一人が手を打ち鳴らし、雄叫びをあげながら果敢に攻め込んでいるようだが、リーチの差があるので攻撃が届いていない。
「助けに来た! 射撃をするから、一旦距離を取ってくれ!」
同士討ちが怖いので警告を飛ばす。相手が気づいていないなら、背後から黙って射るのもありだったが、あの巨大な一つ目は既に、こちらへ向いていた。
「助かる! 気を付けてくれ、こいつかなり強いぞ!」
一人奮闘していたジーパン革ジャンの男が大声で応える。
彼らが指示通りに敵から離れたのを見て、後衛三人衆が一斉射撃を実行した。
杉矢たちとの戦いからコンパウンドボウの威力は最大に設定しているので、全員同時に放ったというのに俺の弓が一番先に獲物に到達する。
「防がれたか」
巨大な盾に矢が深々と突き刺さる。明菜さんと横道さんの攻撃は無視して俺のだけ盾で防いだ。二人の銃弾と矢は皮膚に浅く突き刺さったのみで、殆どダメージを与えていない。
威力が足りていないのか。二人の攻撃が効かないとなると、かなり面倒なことになる。
再び矢を放つが、俺の攻撃は律儀に盾で止めるな。あの盾がかなり厄介だ。
何度か撃ち込んでみるが、ことごとく防がれる。そして、明菜さんと横道さんの攻撃は無視か。防御力が高い相手だと、俺以外の飛び道具が無意味と化すな。
「二人は相手の目を集中して狙ってくれ。俺はそれ以外を狙うから」
皮膚の硬さが自慢のようだが、眼球は鍛えられないだろ。目を閉じさせるだけでも効果が期待できる。
すぐさま二人が狙いを変更して頭部に矢と銃弾が集中する。煩わしそうに目を細めて斧で弾いているが、片腕を防御に回させて、視線を遮っているだけでも充分だ。
それでも、俺の矢は全て盾で対応するのか。ちょっとぐらい見逃してもいいんだぞ。
俺たちが敵の注意を引きつけることで、背後に回り込んだ鴨井と織子がフリーとなっている。タイミングを見計らって突っ込む二人にあわせて、こっちも威力ではなく速度と数を重視して矢と銃弾の雨を降らした。
あまりの数に巨大な眼球に刺さることを恐れたのか、四腕サイクロプスが目を閉じた。絶好のチャンスが到来したな。そんな無防備な姿を、うちのメインウエポンズに晒したらダメだろ。
「もらったよっ! はああっ!」
織子が気合と共に跳び蹴りを左膝裏に、鴨井が逆の膝を斧で薙ぐ。
視界を奪われた状態で防ぎようのない攻撃――なのに、剣とメイスで防いだだと。背後に腕が回ること自体も肩の可動域がおかしいが、それよりもどうやって二人の動きを把握したんだ。
この敵も『気配察知』を所有しているのか。魔物側が持っていても不思議ではないが、それにしては的確な防御だった。まるで見えているかのような……。
「うわっ、目が背中にあるよ。キモっ!」
「背中というか体中だな」
織子が心底気持ち悪そうな声を出し、鴨井は結構落ち着いた声で現状を伝えてくれた。
その言葉を肯定するかのように体中に小さな亀裂が走り、上下に広がる。そこから現れたのは無数の眼球だった。
もう、これサイクロプスじゃないな。そういや、体中に目がある百目という妖怪がいたな。そんなことをふと思い出す。
パッと見ただけでも20は目がある。一つや二つを封じたところで何の意味も持たないぞこれは。死角はないと考えた方が良さそうだ。
こうなると効果的な手段は何だろうか。あれだけ目があるということは視覚情報をかなり頼りにして行動している筈だ。視力を失えば、あっさり倒せそうだな
目を全て潰すのが有効なのはわかるが、目を眩ます手段は持ち合わせていない。砂でもぶっかけようかと思ったが、そこまで接近するのがまず難しい。
実力でごり押しをすれば勝てない敵ではないが、時間を掛けると新たな敵が湧いてくるかもしれない。ここで、もう一体増えたら全滅の可能性も出てくる。
そうなると、一気に勝負を付けたい。
俺が攻略方法を導き出そうと頭を捻っている最中も、攻防は続く。
矢は盾で防がれ、巨体なくせに柔軟な腕があらゆる方向からの攻撃を捌き、機敏な動きで相手に迫る。少しでも油断を見せれば剛腕から繰り出された、一撃必殺の威力を秘めた攻撃が振り下ろされる。
ジリ貧だな。ここは久しぶりにアレをするか。
コンパウンドボウを背負い、無手の状態で多眼サイクロプスに突っ込んでく。実際は拳の中に伸縮自在の棍を隠しているが。
俺が至近距離戦に混ざることが意外だったのか、幾つもの目が俺を見つめている。多くの視線に晒されるというのは気分の良いものじゃない。
巨大のサイクロプスでも攻撃の届かない間合いから、俺は全力で拳を横に振るう。意味不明の行動に見えるだろうが、そこから棍を伸ばす。
更に『発火』『火操作』を融合させた新たな特殊能力『炎使い』を発動させて、伸縮自在の棍に火を纏わせる。
突如発火した棍に驚き、多眼が目を見開いている。それでも咄嗟に剣で防いだのは大したものだが、ここまでは想定通り。
ぶつかり合う棍と剣の接点から、武器を包んでいた炎を乗り移らせる。『炎使い』に進化したことにより、以前と比べてかなり複雑な操作が可能になったからこその手段。
炎はあっという間に剣から多眼サイクロプスの体へと移り、全身に広がっていく。
ダメージ的には大したことはないのかもしれないが、これで倒せるとは端から思ってもいない。
「過度のドライアイになりやがれ」
眼球の水分を奪うことが本命。目を直火で炙られるのに耐えられるかな。
角膜に直接の炎は流石にきついようで、全身の目を閉じてがむしゃらに四本の腕を振り回している。迂闊には近づけない暴れっぷりだが、視界が閉じていれば敵じゃない。
背中に手を回し、コンパウンドボウを掴むと全力で弓を引き絞る。ギリギリと軋む音がするが更に弦を引く。
あそこまで動かれると狙いを定めるのは難しい。なので、一番的の大きい胸元に放つ。初めて盾で防がれることなく矢が突き刺さる。
渾身の一矢は完全に埋没した。皮膚の硬さも俺には通用しないようだ。そこで手を休めつもりはない。二射、三射と繰り返し、体中に穴を穿たれた哀れな姿へと変貌する。
追い打ちとばかりに鴨井の斧が筋肉を絶ち、『剛力』を利用した織子の拳が、矢で空いた穴を狙い的確に打ち込まれる。
血と肉が飛び散る凄惨な光景だが、手を休めてやる義理は無い。
相手が完全に動かなくなるまで執拗な攻撃が続き、最後に俺の矢が脳天に突き刺さり、巨体がゆっくりと崩れ落ちた。




