表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サラリーマンの不死戯なダンジョン  作者: 昼熊
第十ステージ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/111

魔物とは

 代わり映えのしない真っ直ぐ伸びた通路に時折現れる敵。と言っても、全く脅威ではない。気配を先に捉えて、遠距離からの一方的な狙撃で、あっさりと殲滅できる。

 この通路に入ってから敵は全て三つ目顎だ。初めの頃は上着か下だけを着込んでいた敵だったのだが、最近は上下どころか靴までも装着済みな敵が多い。

 この展開……露骨すぎないか。 


「みんな、この敵どう思う?」


「何と言うか、しつこいぐらいの前振りだねぇ」


「うーん、普通なら……やっぱり、そういうことだよね」


 二人は展開が読めているようだ。鴨井さんは早い段階から気づいていたようで軽い口調だが、織子は顔色が悪い。

 残りの後衛二人は――。


「本命……強力な個体がくるってことですかしら」


「中ボスでありますか!」


 わかってなさそうだな。徐々に武装ではなく服装が整う敵。武器は褒美で手に入れた一品に似て、服装もプレイヤーと変わらない格好になってきている。


「たぶんだけど――」


 説明の途中で少し先に五体の気配を感じ取った。

 そこは大きな空間になっているようで、気配が広く散らばっている。部屋でもあるのだろう。


「おっと、気配が点在しているね。通路はそろそろ終わりかな」


 鴨井が全員に先の状況を伝えると、少し緩みかけていた緊張の糸が再び張り直される。こういう切り替えの早いところが、第十ステージまで生き延びることを可能にさせた要因の一つなのだろう。


「さて、どうしようか。通路が終わっているから遠距離からの射撃で仕留めるのは無理っぽい。全部の気配が通路の直線上にはいないようだし」


 鴨井さんの『気配察知』もかなり感度が高いようで、相手の大まかな動きは把握しているようだ。

 今度の敵は、今まで無防備に通路に突っ立っていた魔物と違い、狙撃を警戒する知性が感じられる。


「網綱様に隠蔽で気配を殺してもらい、近づいてからの殲滅で宜しいのでは?」


 明菜さんって慎重派に見えて、意外と大胆だったりするよな。セーブポイントの一件でもそうだったし。


「上官の指示に従います!」


 横道さんは従順と言えば聞こえがいいが、殆ど自分で判断していない。扱うには都合がいいが、相手の思考力や判断力が読めないので、数値上では計算できない本来の実力を読み取りにくい。


「ねえ、二人ともわかっていて、焦らしていると思うけど……思ったこと言っていい?」


 俺と鴨井さんのもったいぶった会話にしびれを切らしたようで、織子がそっと挙手をして発言権を求めている。

 断る必要もないので「どうぞ」と意見を促した。


「たぶんだけど……この魔物たちって、プレイヤーの成れの果てじゃない?」


 鴨井さんも同じ意見だったらしく、小さく頷き控えめな拍手をしている。もちろん、俺も同じ考えだ。

 このゲームをクリアーできなかったプレイヤーが最終的に魔物になるのか、それとも何らかの要因で魔物にされたのか、それは知りようがない。

 序盤の魔物よりも服装が綺麗な個体は、死んで間もないからかもしれないな。そして、そういった魔物は脳が人間に近いので、知的な行動をするのではないか。


 当初は幻覚か魔法のようなもので他のプレイヤーが化け物に見える細工を疑っていたが、俺には『幻覚耐性』があり、鴨井さんには『状態異常耐性』があるので、効果は薄いと結論付けた。

 となると、やはり……ゲームオーバーとなったプレイヤーの有効活用か、最悪だな。

 ここに連れてこられた人は何百、何千、いや、町中が転移の範囲だとしたら何万人もいるかもしれない。もしそうなら、敵の数はうんざりする程の量となる。

今更、元々人間だった相手を殺すという行為に、罪悪感も躊躇いも殆どないので腕が鈍るということはないが、そういう問題じゃないよな。


「死んでも、利用され続けるのか」


 ライフポイントが尽きれば解放されると思っていたら、そんなことは許されず、この世界に縛り付けられる。最悪の展開から逃れるには、クリアーを目指すしか道は残されていないのか。

 まだ、予想であって確定ではない。想像は自由だが、勝手に思い込むことだけはやめておこう。これは俺が想像した最悪の展開だ。ただの妄想で終わるならそれでいい。


 頭を切り替えるか……色々と考察してみたが、先にいる五つの反応については結論が出ている。

 『気配操作』に上がった俺の察知能力は、相手の気配である程度だが、対象を認識することが可能だ。

 この先にいる五つの気配は――妙なことにプレイヤーと、さっきまで戦っていた魔物が混ざりあったような気配。

 おそらくだが、これは元プレイヤーが魔物になって時間があまり経過していないのではないだろうか。だから、両方の気配が混ざりあっているような違和感がある。


「先の部屋にいるのは、おそらく魔物だと思うけど、断言はできない」


 自分の能力と、予想される先の展開を皆に説明すると全員が納得したようだ。ただ、これはあくまで予想であって、間違っているかもしれないと念を押しておく。

 後衛二人は神妙な顔で頷いている。


「相手が魔物の姿であったとしても、意識が辛うじて残っているかもしれない。会話できるようなら、試してみよう」


「了解。じゃあ、その流れでいくか」


 俺の提案に乗ってくれるようで、万が一に備えて全滅しないように鴨井さんが俺たちから距離を取って先行する。

 この敵は、こっちに向かった探索チームが魔物化をしたというパターンが本命か。そうだとしたら、彼らは人に戻ることはできない可能性が高そうだ。

 その場合、意思の疎通ができるのであれば、何故そうなったのか聞きだしたいところだが。


 通路には隠れる場所が無いので、相手に見つかる前に開けた空間に飛び込んだ方がましだろうと判断して、俺たちは駆け足気味に進んでいく。

 『隠蔽』と『気配操作』を発動させて、相手に察知させないように対策はしておく。

 三つ目の化け物と何度か戦っているが、相手に反撃の暇さえ与えずに完封しているので、特殊能力が使えるかどうかすら不明だからな。

 今回は一方的な攻撃が不可能なので、実際に戦ってみることにより予想が真実となるか見極めさせてもらおう。


「一気にいくぞ。右側に二体、左側に三体散らばっているから、先に右を制圧しよう」


 鴨井さんの判断に全員が黙って頷き、無言で了承の意を伝える。

 手招きする動作に応じて、全員が一斉に飛び出していく。右側の気配を目指しながら、同時に周囲を見回して状況の確認をしておくか。

 岩肌の壁と地面に覆われた体育館程度のスペース。敵はやはり三つ目顎の化け物で、体格は人間と同等か。ただ、顎のしゃくれ具合が今までの敵よりも小さく、第三の眼もかなり小型だ。

 これなら元人間だと思えるな。先に離れた場所に居る三体を見ておくか。


 一体は大人の男性ぐらいの背丈でスーツと刀。

 もう一体は少し小柄で胸元の膨らみから判断して女性か。服装はセーターとロングスカートに槌。

 ああ、くそっ。武器と格好に見覚えがあり過ぎる。おいおい、この展開か……勘弁してくれ。

 もう一体、いや、一人か。かなり小柄なので子供らしい。格好はワンピースに銃。


「来生、樽井、光輝なのか」


 目は虚ろで牙も生えて顎が出てはいるが、みんな面影を残している。

 死んだ人を利用しているというのに間違いは無さそうだ。まさか、こんな形でこんなにも早く再会するなんて。

 俺が殺した結末が……これか。

 脳を激しく揺さぶられるような精神的な衝撃は腹の底へと沈めて、目を逸らす。

 動揺はするな。死体を利用していると考察した時に予想済みだった筈だ。

 精神力の高さのおかげか、それとも逆境に慣れてしまった弊害か、思ったよりも心がざわつかない。これなら、対処できる。戦え――


「杉矢さんっ、田中さんっ!」


 織子の悲痛な叫びが思考を阻害する。

 逸らした視線を前に向けなければならないというのに、意思に反して目が正面を向こうとしない。

 わかっていた、そう、わかっていた。樽井さんたちが現れたということは、この展開は予想できた。そう、予想できた。

 だから、動揺する必要はない。何も戸惑うことはない。

 一度目を閉じ、俯き気味だった顔を上げ――目を見開いた。


 変わってないな……胸元が大きく開いたシャツに薄汚れたジーパン。白髪交じりの長い髪を縛っていた紐は解けたようで、ロングヘア―の女性のような髪形になっている。

 もう一方は、金髪のショートボブに肉体を惜しみなく晒している露出度の高い格好。

 二人とも顎の変化も僅かで、第三の眼は大きな黒子程度だ。


「どうした、急に大声を荒げて! もしかして、知り合いなのか?」


 口元に手を当て小刻みに震えている織子に、鴨井さんが慌てて声を掛けているが、反応をしていない。

 前衛の動きが止まったことにより、後衛の二人もそれ以上進めず、ひと塊となって停滞している。ここで足を止めたら、挟み撃ちという最悪の展開になるぞ。

 って、俺も人のことは言えないな。足の回転が無意識の内に落ちている。全速力の走りから駆け足程度に。


 殺したはずの仲間が目の前にいる。殆ど変わらない姿を晒して。自分を殺した相手を虚ろな瞳が見つめている。

 胸が軋む。心臓を鷲掴みにされているかのような苦しさに、息が漏れる。それでも、俺は、俺は、俺は――歩みを止めるわけにはいかない!

 踏み込め。奮い立たせろ。何度も殺した相手だ。俺には後悔する権利もない。


 完全に足を止めた織子の横を駆け抜けていく。ハッとした表情の織子と一瞬目が合った。あの目は何を訴えかけているのか。

 仲間を殺した俺を咎めているのか、それとも再び殺し合いをする俺を憐れんでいるのか、それはわからないが、立ち向かう姿勢を背中と行動で示すしかない。

 コンパウンドボウを片手で握りしめ、走りながら弦を調整する。今まで抑えていた威力を解放する為に。


 足を止めずにコンパウンドボウを構え、素早く二射。

 矢が暴風孕み突き進む。空気の波紋のようなモノが矢の通り過ぎた後に広がり、その破壊力が尋常ではないことを表している。

 何度も二人を射抜いてきた射撃の最終形態だ。当たれば即死間違いなしの威力。

 高速で飛ぶ矢が狙いを違わず杉矢と田中の額を貫いたように見えたが、硬い物同士がぶつかる甲高い音が一度響く。

 杉矢は刃の腹で矢を逸らし、田中は尋常ではない素早さでステップを踏み、ギリギリで躱している。


「まあ、そうなるよなっ」


 矢が外れたことに驚きはない。第九ステージの鍛錬中に散々やられてきたからだ。

 杉矢曰く、弓の威力があり過ぎて射線が放物線を描かず直線に等しくなるので、見えなくても弾くことは容易だと、散々言われてきた。

 それを聞いて田中も余計なことを学び、後半は正面から仕留めるのがかなり難しくなっていた。

 二人を仕留めるには潜んでからの狙撃か、予想外の動きで不意を突くしかない。

 化け物に生まれ変わっているが、その動きは生前と変わりない。死んで間もないので、体の間隔が鈍っていないのかもしれない。

 本当に面倒な相手だよ、二人は。さて、鍛錬延長戦始めようかっ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
【誤字報告】 体の間隔
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ