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サラリーマンの不死戯なダンジョン  作者: 昼熊
第七ステージ

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62/111

ゴール

 チームのメンバーが一斉に飛び出す。樽井さんたちも後に続いているようだが、ここからは気にかけている場合じゃない。

 殆どが黒虎か象に向かったとはいえ、まだ数人は判断がつかずに、その場に留まっている。このまま真っ直ぐ走り抜けるとして、四人ほど邪魔だな。


「進路方向の敵を排除しますよ!」


「おうさ、任せろ」


 並走していた杉矢さんが、斜め右前方にいる相手に向かって走り寄る。

 未だに迷いが残っている感じではあったが、杉矢さんの姿を見て戦うことに決めたようだ。手にしていた槍を構えている。

 これは俺も加勢した方が良いのか。余計な手出しは邪魔になる可能性もあるので判断が難しい。


「大丈夫。杉矢さんなら一刀で切り捨てられる相手よ」


 織子が自信を持って断言するなら、間違いないのだろう。

 素人目にも杉矢さんの方が落ち着いていて、強者の貫禄があるのは見て取れるが、腕の立つ織子が断言するなら心配するだけ無駄だ。

 少し離れた左側に二人いるな。一人は弓、もう一人は大剣か。男女共が学生服を着用している。同じデザインっぽいから同級生なのかもしれない。

 大剣の男子生徒が女生徒を庇うようにして前に立っている。何だろう、撃退するのに少し気が引ける組み合わせだ。


 俺が少し躊躇っていると、後方から発砲音がしたかと思うと男子生徒がその場に崩れ落ちた。女生徒は男子生徒を見捨てて、その場から逃げ去っている。

 走りながら後方を振り返ると、硝煙を上げる拳銃を掲げてニッコリと笑う少女がいた。頼もしいことで。


「あと一人か」


 いつの間にか槍使いを片付けたらしく、再び隣を杉矢さんが並走している。

 最後の一人は2メートル近くの身長で一見細身に見えるが、かなり筋肉が付いている。何故か上半身剥き出しだから良くわかる。

 武器は鎖か。先端に重りのついた鎖を頭上でぐるぐる回しているが、あんな使い辛そうな武器を扱えるのだろうか。


「あいつ出来るぞ」


「うん、強い」


 マジか。丸坊主に上半身剥き出しで鎖使いなのに強いのか。漫画なら確実にかませポジションだぞ見た目。

 丁度正面に位置するから無視するわけにもいかないよな。全力で対応させてもらうか。


「じゃあ、倒すしかないな」


 杉矢さんと織子はその言葉を待っていましたとばかりに、歯を見せて笑う。何だかんだ言っても、この二人好戦的なところがある。強い者と戦うことに血が滾る戦闘民族のような人なのだろう。

 まあ、強者であろうと三対一で勝てるわけがないのだが。

 俺は正面。織子は左側面。杉矢さんは右側面へ弧を描くようにして回り込む。

 果敢に正面突破を狙うように突っ込んでいくが、自分の腕で相手を倒せるなんて思ってもいない。注意を引きつけるだけが目的だ。

 自信満々で石の棍を腰だめに構えて突進してくる俺を警戒している。振り回していた鎖を俺へ飛ばそうとしたタイミングで、両脇から織子、杉矢さんが一気に間合いを詰めた。


 相手が強いというのは本当らしい。俺よりも二人が厄介だと感じたのだろう。鎖を杉矢さんへ、そして、織子には長身からの裏拳を放っている。

 唸りを上げて迫る先端の重りを刀身で滑らす様にして避け、杉矢さんは勢いを落すことなく接近する。織子は裏拳を屈んで躱し、そのまま滑り込むようにして相手の足を払う。

 鎖の人が二人と同等レベル、いや、それ以上の格上の存在だったのかもしれないが、二人の対応で手一杯の所に俺の攻撃を避ける余裕はなかった。


「がっ……」


 渾身の突きが相手の下腹部に突き刺さり、男は白目を剥いて倒れ伏す。

 普通の一撃で倒す自信がなかったから、あそこを狙ったのだが……すまん。


「網綱はオーガネ」


「痛そう」


「南無」


 男としてその辛さが理解できる杉矢さんは、走りながら手を合わせている。正直すまんかった。

 ま、まあ、何にしろ、厄介な敵は排除した。このまま安全地帯に飛び込むのみ。

 距離も残り500メートルぐらいだろう、一分もかからない距離だ。


「あと少しだ!」


 周囲に敵は無い。黒虎も何とか捕まらずに逃げ延びている。

 もう、ゴールを拒む要因は全て排除――


「痛っ!」


 直ぐ背後で甲高い音が響き、耳を何かが掠めた感触があった。

 耳から少し血が出ているようだが、ここでやりやがったか。


「これで借りは二つ返したぞ」


 振り返ると、俺の背後に立つ杉矢さんが刀を眼前に構えている。何故か、刀身から仄かに煙が立ち昇っていた。


「まさか、銃弾を切り落としますか。漫画の様ですね」


 半眼で睨みつける杉矢さんの視線の先には、銃を構えた少女こと光輝と横並びに武器を構える、樽井さんチームがいた。

 この状況で背を向けたまま走るわけにもいかず、俺たちも脚を止める。


「裏切るわけですね」


 予想していた事とはいえ、心にくるな。思ったよりも冷たい声が自然と零れる。


「ええまあ。我々少しポイントが足りないのですよ。化け物から頂いた100ポイントは有難かったのですが、それでもまだ足りなくて。実は皆さんと遭遇する前に、他のチームと戦って零士君がポイント奪われていましてね」


「すまねえな、あんたらに恨みはねえが生き残る為だ。勘弁してくれ」


 口では謝っているが悪びれた様子は全くない。いい根性しているな零士君。

 少女は能面のような顔で何の感情も見えない。樽井さんは苦渋の表情をしている。来生さんはいつもと変わらない平然とした態度。ポチミは毛を逆立てやる気満々か。


「ごめんなさいね。最低な行為だってわかっているけど、やっぱり死にたくないのよ」


 樽井さんだけは本意ではないといった感じだが、残りは吹っ切れているようだ。

 そうか、その方がマシだな。泣いて謝られながら攻撃されるより、ずっといい。


「で、不意打ちを失敗したこの状態でどうする気ですか?」


 五対四と人数差で負けてはいるが、負けるつもりはない。あの戦いを観察していた感じだと、我々の方が戦力では上の筈だ。

 我々というか、杉矢さんと織子がずば抜けて強いだけなのだが。


「あー、正直正面から挑んで勝てる気がしませんので、こうやって不意打ちを仕掛けさせてもらったのですが、それも失敗に終わりました。さて、どうしましょうか」


 何だこの余裕の態度と露骨な時間稼ぎは。

 周りの騒動が治まって、他のプレイヤーがこっちを狙ってきたら困るのはそっちも同じだろう。何か策があるのか……思い当たる節は。


「織子、看破で周囲を探って!」


「う、うん!」


 俺の指示に従い、素早く織子が辺りを見回す。


「だ、誰もいないよ」


 また伏兵でも忍ばせていて、俺たちを麻痺させるのかと思ったが違うのか。


「おい、網綱どうする」


「杉矢さんも、みんなも固まらないように。範囲指定の能力があるかも知れないから、出来るだけ密集しないでおこう」


 杉矢さんが俺の隣に立つように移動してきたので、一応釘を刺しておく。

 ここから安全地帯まで全力で駆けたとして、厄介なのは銃だよな。背を向けるのは危険すぎる。


「普通に戦えば勝ち目はありませんが、まあ、奥の手というのは用意しておくのが戦いの常套手段でして」


 そう言って来生が零士に目配せをする。

 自信ありげに前に出た零士が隣に立つポチミの頭を撫でながら、口角を吊り上げた。


「こいつの本来の姿はこれじゃねえんだよ。でな、人の姿になると能力が制限されちまうんだ。だが、俺が命じれば本来の姿に戻れる、つま――」


「杉矢さん!」


 そんな説明最後まで聞くわけがないだろう。

 名を呼んだだけで何をすべきか理解してくれた杉矢さんが樽井さんのチームに向けて『威圧』を放つ。

 樽井さん、光輝、零士の顔面が蒼白となり一斉に膝を突く。来生とポチミは耐えきったようだが、そこから更に俺が『咆哮』を放った。


「跪けえええっ!」


 言葉はどうでもいいのだが、怒りのあまり妙なことを叫んでしまった。

 『威圧』に耐えるのが精一杯なところに、俺の追い打ちは効果てきめんで、言葉通り二人がその場に跪く。

 このまま、放置して向かってもおそらく反撃はできないだろうが、恩を仇で返す輩に優しさを掛ける気もない。

 俺はポケットに忍ばせていた、第五ステージのお土産、毒の詰まった袋を彼らの前に渾身の力で投げ捨てた。地面にぶつかり中身がぶちまけられ、辺りに毒の瘴気が溢れ出す。


「さようなら、皆さん。もう会うこともないでしょう」


 それだけ告げると、青い顔をして口から泡を吐いている面々を睥睨して、背を向けた。


「何だかんだ言って、甘いな網綱は。毒と言っても屋外で風もある。あの少量じゃ直ぐに毒の影響はなくなるのを……わかっているだろ」


「そうだな。でも、裏切りは最低な行為だ。こんなふざけた世界だからこそ、約束は守るべきだと俺はそう思う」


 思いをはっきりと口にすると、杉矢さんが俺の顔をまじまじと見つめている。その表情は感心しているようにも、呆れているようにも見えた。

 そこからは無言で安全地帯を目指して走る。織子は俺と足並みを揃えて、隣に並ぶと何かを言おうとして口を開きかけたが、迷った挙句に「間違ってないと思うよ」とだけ口にした。


「ありがとうな」


 俺の素直な感謝の言葉に織子の顔が嬉しそうに緩んだ。


「あの二人、イチャイチャしてるネー」


「ああいうのを吊り橋効果というらしいぞ」


 わざわざ足を遅めて、後方に並んで二人で聞こえるように話すんじゃない。織子が頬を膨らまして照れているのか、怒っているのか判断が難しい顔をしている。

 安全地帯まであと数歩。新たな敵の気配もなし、樽井さんたちも動く気配が無い。

 よっし、ゴールだ。

 この一歩を大きく蹴り込めば安全地帯に入ることが出来る。そのタイミングで、そっと背中に触れる手があった。

 そして――


「プラス」


 と発言した田中さんの声がした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ここまで一気読みしています!ゲーム、異世界転生、チート、人間ドラマ、心理描写どれもめちゃ楽しんでいます。 [気になる点] 田中が仮にポイント奪いに成功していたら、網綱分50ポイント足りなく…
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