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サラリーマンの不死戯なダンジョン  作者: 昼熊
第七ステージ

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60/111

共同

 学ラン君が両手を激しく振って「今の無し! 今のは無しだ!」と慌てているが、後の祭りだよな。


「今更、遅いようだよ。零士君」


 メガネスーツが額に手を当てて肩を落とし、大きく息を吐いている。

 樽井さんはゲラゲラ笑っているし、少女は半眼でじっと見つめているな。大人しそうな少女に見えるが、実は気が強いのかもしれない。

 見た感じだと仲の良い関係に見えるが、実際はどうなのだろう。


「まあ、そこは追求しませんよ」


 大体予想は付いたから。


「ところで、今回のライフポイントでクリアー条件は満たされましたか?」


 俺の問い掛けに、相手側が口をつぐむ。一番口の軽そうな学ラン君に目線を向けるが、ポチミが後ろから口を両手で塞いでいる。よくできた子のようだ。


「ここで虚言を口にするのは、あまりにも恩知らずですね。合格ラインはクリアーできました。おかげさまで」


 ここまでは計画通りか。さーて、ここからの相手の対応いかんによっては戦闘も有りえるが。


「助太刀は感謝しますが、何故私たちを助けたのでしょうか。ただのお人好しではないのですよね?」


「こちらも正直に言わせてもらいますよ。手を貸して欲しいから恩を売った。ただ、それだけです」


 ここで余計な言葉はいらない。嘘も必要ない。

 駆け引きが面倒だというのもあるにはあるが、どうもあの少女の存在が怪しい。

 船での駆け引きのせいで樽井さんに厄介な能力があると思い込んでいたが、助けに入った時の眼鏡スーツの態度が急変したのを見て、考えを改めた。

 あの時、隣に立つ少女が何かを助言していた。それを聞いてメガネスーツがあっさりと意見を覆したのだ。つまり、厄介な能力を保有しているのは樽井さんではなく、あの少女ではないかということだ。


 そして、特殊能力の一つに相手の心を読み取る、もしくは嘘を見抜く系統があるのではないかと予想を立てた。これは別に外れてもいい。杞憂に終わればそれでいいのだ。

 ただ、万が一に備えて無用な駆け引きや、相手に疑われる言動は慎もうと決めただけ。

 俺の言い分を聞いて全員で相談しているように見えるが、少女の発言を重要視しているようだな。


「わかりました、信じさせてもらいます。組みたいというからには、それなりの理由があり、こちらにもメリットがある、と考えてよろしいのでしょうか」


「理解力が高くて助かります。その通りです。実は――」


 あの崖付近で起こったことを全て包み隠さず明かした。

 前の組が残っているところでは、やはり戸惑いを隠せないようで少しざわついていたが、終始騒ぎ立てることもなく聞いていてくれた。


「そうだったのですか。我々の力を必要としている理由を得心いたしましたよ。その申し出喜んで受けさせてもらいます」


「そうですか、ありがとうございます」


 そこで俺はすっと手を差し出した。握手をする構えを自らとってみせた。これで相手が触れてプラスかマイナスを口にすれば、ポイントが動く。それを理解した上で、信用していることを態度で示す。


「こちらこそ、力強い仲間を得て嬉しい限りです」


 眼鏡スーツは躊躇うことなく俺の手を握り返した。

 こうして、俺たちは新たな仲間を得ることとなり、また一歩ステージクリアーへと近づく。


「それで、今後どういう行動をとる予定でしたか?」


 そのまま流れで俺が交渉役のようになっているが、正直、そろそろ杉矢さんに代わって欲しいのだが。そう思い、助けを求める視線を杉矢さんへ届けたのだが、


「オッサン、すげえ剣戟だったぜ! 俺にもコツを教えてくれよ!」


「ふっ、一日や二日で覚えられる技じゃねえぞ、小僧」


 目を輝かせて懇願する学ランを軽くあしらっているように見えるが、実は結構嬉しそうに見えるのは、気のせいなのだろうか。

 杉矢さんはそれどころじゃないのか、じゃあもう、あの二人でもいいや。

 今度は織子と田中さんの姿を探したのだが、その光景を見て溜息が漏れる。


「織子ちゃんだったかしら。命懸けの日々でも女を磨かなきゃダメよ。胸元をあんまり大きく開けていると安く見られちゃうから」


「違うの、これ首までチャック上げると胸が苦しくて」


 樽井さんがチャックに手をかけ、気をきかせて締めようとしているようだが、織子がなんとか止めようとしている。

 田中さんに至っては、


「オー、犬耳がプリティーネ! 幼女もベリープリティーガールヨ!」


 何故かテンション高く、相手の二人を褒めたたえている。そういや、黒虎を相手にした時もやたらと喜んでいたし、もしかして可愛い系に弱いのか。

 対する二人は愛想笑いを浮かべているな。もう少し我慢してください。

 となると、面倒事は俺が担当しないといけないわけか。仕方がない。


「まずは樽井さんたちを探すのが目的でしたが、それは完遂しました。なので、次のステップはあの崖に陣取る三チームを相手にするか、このまま迂回して崖以外の進入路を見つけるかの二択を考えています」


「そうですか。我々の提供できる情報といえば、何処かのチームが我々に襲いかかってきましたが、四人組で罠もありませんでした。恐らく、後続の我らと同じグループでしょう。ある程度、交戦するとさっさと逃げ出してしまったので、確証はありませんが」


 一度戦いを終えた後だったのか。こちらも死に戻りをしているから、時間で考えるなら納得はいくが。


「この森の先はご存知ですか?」


「いえ、我々は森で襲撃を受け、何とか退けてから休憩をしていたらアレが現れまして。初めは逃げるつもりでしたのですが、あの文章を目にして勝負を挑むことに決めました。殺されたとしても、ライフポイントが合計4消えるだけですから価値はあるかと」


 確かに俺たちもライフポイントが溜まっていない状態だったら、同じ決断をしていただろう。

 ここに来てから死という存在が軽いものに成り果てている。彼らの行動もそうだが、それを聞いた俺の感想も同レベルだ。

 今、ライフポイントに余裕があるから余計に死を甘く見すぎている。頭を切り替えていかないと、いつか本当に取り返しのつかない過ちを犯す。そんな気がしてならない。


「それはご苦労様でした。崖の上の奴らにリベンジを挑みたいとも思いますが、クリアーが最優先ですからね。取り敢えず、この方向から森を抜けた先がどうなっているか確認してからにしましょうか」


「わかりました、仲間には私から伝えておきます。あの戦いの後ですから、少し休憩と相談する時間を頂いても?」


「もちろん。こちらも結果の報告と相談したいことがありますので」


 会釈をしてお互いに背を向けて仲間の元へ向かう。

 まだ相手チームとじゃれあっているのかと思っていたのだが、仲間はひと塊になって待っていてくれた。


「どうやら上手くいったようですネー」


「さっきの戦いを観察させてもらった感じだと、中々やる連中のようだからな」


「うんうん。格闘技の経験はなさそうだけど、冷静に判断していたし統率も取れていたと思うよ」


 概ね俺の感想と同じようだ。

 敵に回したところで、実力はこちらの方が上だという確信はある。相手が五人でこっちが四人で対応しても勝てるだろう。

 崖の上での戦いで確信に変わったのだが、織子も杉矢さんもプレイヤーの中でもかなり上位の実力者だ。居残り組にも身のこなしが素人のそれではない人もいたが、あの二人には敵わなかった。

 そんな実力者が二人も揃っているだけでも相当なものだが、田中さんだって足の速さと諜報能力はずば抜けている。

 正直、うちのチームで一番戦力として微妙なのが俺だ。駆け引きと小手先のテクニックで何とか誤魔化してやるしかない。


「協力は得られたから、このステージをクリアーするまでは仲間……ということになっている。言うまでもないけど、気を抜かないように。特に田中さんは常に相手を警戒していて欲しい。何か怪しい言動があれば誰にでもいいから伝えてくれ」


「心配しすぎだと思うけどネー。まあ、オッケーヨ」


 後は話し合いの結果を伝えながら、休憩ついでに間食でもしようか。いつ、食事がとれるかわからない状況下だから、食べられるときに食べておかないと。

 向こうもこちらを観察しているようだが、ここは気にしないでおこう。こんなところで、完全に信じ切るお人好しの方が仲間にしたくない。


 今日は味方だとしても、明日はどうなるか、次のステージでどうなるかわからないのだ。信頼も信用もいらないから、ただ手伝うだけの関係の方がよっぽど気楽だ。

 あまりにも仲良くなりすぎてしまった三人の仲間を見ていると胸が痛む。このまま、全員このゲームをクリアーできればいい。そう願わずにはいられなかった。





「そろそろ、森を抜けそうだね網綱君」


「そうですね、来生きすぎさん」


 並走する眼鏡スーツこと、来生さんにそう返す。

 このまま名前を知らないのは連携が取りにくいので、あれから、お互い軽い自己紹介を終えている。

 眼鏡スーツのこの人は来生さん。名前か苗字なのかは不明だが、それだけしか名乗っていないので、そう呼ばせてもらっている。

 樽井さんは、樽井小樽と言うらしい。黒いワンピースを着た少女は光輝こうきちゃん。男の子のような名前だけど女の子だ。

 学ランは零士。犬耳はポチミと零士君がつけたらしい。

 ネーミングセンスについては追及しないでいいだろう。

 

 休憩を終えて出発してから20分を過ぎたぐらいで、あっさり森を抜けられた。警戒していた新たな化け物や、プレイヤーからの襲撃もない。

 森の先には荒野が広がっていて、その先には崖がある。ものの見事に同じだった。


「結構迂回した筈なのだが、ワシには同じに見えるぞ」


「ライトに同じネー」


「中心部は地面から隆起しているのかな」


 だとしたら、どれだけ回り込んでも結果は同じか。だけど、あの見張っているプレイヤーたちを避けることは可能だ。

 崖の高さは変わらないように見える。幅は見た感じ……結構広い。正直目測だけで何百メートルやら何キロとわかるわけがない。

 ここから距離があるとはいえ端から端までを視界に収められるということは、何キロという程は無いのだろうか。


「んー、大体三キロってところですかね。あ、私、建築現場を担当していまして、仕事柄、見ただけである程度は長さが測れるのですよ」


 眼鏡スーツ……じゃない、来生さんの意外な特技だな。まあ、三キロと言われてもピンとこないのだが。


「あー、わかりにくいですか。ええと、巨大なショッピングモールが大体全長300メートルちょいぐらいですから、それの十倍ってところです」


 あ、さっきよりかはわかりやすい。それで何となくだが理解できた。

 それだと端の方から登れば、あいつらには遭遇せずに済みそうだ。


「念には念を入れて、森の中を進んで出来ることなら、私たちが登った地点の裏側から挑みましょう」


 再び森へ入り、『気配察知』で周囲を探り、樽井さんのチームを監視しながら、俺たちは黙々と歩を進めた。

 更に二時間が過ぎ、辺りが暗闇に覆われ始めると、どちらかが切り出したわけでもなく、休憩及び夕食となる。一緒に食べる程は打ち解けてなく、万が一の可能性を避ける為に別々に食事を取ることとなった。


「で、どうするよ。暗闇で動くか、それとも朝を待つか」


「俺たちのチームは全員、暗視持ちだが問題はあっちだが、たぶん、大丈夫だよな」


 全員が暗視を持っているのは決して偶然ではない。第三ステージが全員共通で暗闇のステージだったからだ。最後に控えていた敵は俺と同じく火の鳥――ではなかったようだが、真っ暗で何も見えないというのは共通していた。

 そして、第一ステージの敵が『暗視』を所有していたこと。それを褒美で受け取らなくても、何十回と挑んでいる間に『暗視』を覚えたとの情報は得ている。

 第二ステージ灼熱。第三ステージ暗闇。第四ステージ極寒。第五ステージ密林。これは全員同じだった。ただ、第三ステージのラスボスや第四ステージの扉のあった場所。第五ステージの攻略方法は様々。


 第一ステージだけは全員バラバラで共通してる箇所は無い。

 これが何を意味しているのか、ある程度予想は立てられるが……って今は関係なかったな。つまり、第三ステージを突破してきたプレイヤーならもれなく『暗視』がついてきている、そう考えるべきだ。

 なら、ベストの回答は――


「睡眠を取って、夜が明ける前に行くのはどうだろう」


 相手も深夜は警戒しているだろうが、待つ側というのは常に複数を見張りに立てなければならない。油断してはならないと理解していても、夜が明ける直前というのは気が緩むものだ。

 闇というのは恐怖と同時に緊張感をもたらす。ならば、その夜から解放される瞬間を狙う。それが常とう手段だと思う。

 方針が決まったら順番に寝させてもらうとしよう。この夜が第七ステージ最後の夜となりますように。

 柄にもなく夜空に浮かぶ星を見て、そんなことを願ってしまった。


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