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サラリーマンの不死戯なダンジョン  作者: 昼熊
第七ステージ

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53/111

ゲームスタート

「田中さん、対戦チームの再確認を」


「キャロラインネ! タンクトップのごっついおっさん。結婚式で着てそうな白のタキシード優男。黒髪ロングのお化けっぽいレディー。革ジャンとパッキンの兄ちゃん、ってところヨー」


 実は偵察や情報収集に適した能力なんだよな、田中さんは。『千里眼』もそうだけど、もう一つの能力もかなり優秀だ。


「あっちのチームもやる気満々ネー。作戦は両手足の骨でも折って動けなくなったところを、全員でポイントをバキュームするって言ってるヨー」


 『地獄耳』の精度もかなり高く、俺たちからは棒人間にしか見えない距離だというのに、姿を完全に捉え相手の声も聞き取れる。

 田中さんのおかげで、事前に相手のチームが他者を蹂躙する気があるとわかったからこそ、俺たちも躊躇うことなく相手を襲える。戦う決意をしたとはいえ、怯える相手や無抵抗な相手を強襲するのは、さすがにちょっと……な。


「ワシらも人の事は言えんが、やたらと好戦的な奴らだ。さっきも、殺さなければ何してもいいよな。とか言っていたんだろ。命懸けの現場では当たり前と言えば当たり前なのだが、少し物悲しい気分になるぜ。田中、相手は各々のライフポイントについて口にしてないか?」


「キャロラインヨ! どうやら、あの人たち仲間にも自分のライフポイントをシークレットみたいネ。仲良くせんとあかんがな」


 俺たちみたいに能力を全て明かすのは、少数派なのかもしれない。

 情報と引き換えに食料を提供した樽井さんの一行はチームワークも良さそうだったけど、実際はわからないよな。

 できれば、樽井さんのチームとは戦いたくないところだ。あの女の子が本当に子供だったら、手を出しづらいというのもあるが、樽井さんの特殊能力が厄介だと睨んでいる。

 隠れていた織子を察知して、特殊能力まで見抜いた。それが全てブラフだったしても、あの一瞬で判断して、こっちを困惑させる目的で口にしたのなら、頭の切れる相手と敵対するのはご遠慮したい。


 相手チームは『千里眼』や『地獄耳』と似たような特殊能力を所有していないようで、こっちの情報を知る術は持ち合わせていないようだ。


「織子、やっぱりレベルと身体能力は見えないかい?」


「うん、距離が遠すぎるみたい。たぶん10メートル以内に入らないと無理かな」


「わかった。レベルが見えたら大声で伝えてくれ」


「了解、まかせて!」


 作戦を再確認すると、黒い石板を横目で確認をした。

 説明文が書き込まれている上部の余白に、当初はなかった数字が現れているのだが、それが30、29、28と徐々に減っている。

 第七ステージの開始を伝えるカウントダウンのつもりなのだろう。

 足を砂浜に何度も叩きつけてみるが、少々脚は取られるけど、今の身体能力なら問題なく走れそうだ。


「あと数秒で開始だ。皆で、ステージクリアーするぞ!」


「おうさ!」


「うん、頑張ろう!」


「ファイトでビクトリーネ!」


 団結力なら島にいるプレイヤーのグループで一番だと自負している。

 今思えば第六ステージは仲間を集めるのが目的のステージだったのだろう。極限状態で冷静な判断力と相手を見極める観察力。そして、運。その結果が第七ステージに反映される。

 俺は正解を引いたのだろうか。このメンバーが最良かどうかなんて誰にもわからない。だが、彼女たちに手を差し伸べたのは間違っていなかったと信じたい。


 ――第七ステージスタート――


 石板の文字がすべて消えると、ゲーム開始を告げる赤く大きな文字が代わりに表示された。


「行くぞ!」


 俺たちは四人横並びになって砂浜を疾走する。

 本気で走れば田中さんだけ飛び抜けるのだが、ここは抑えてもらった。

 砂を巻き上げながら自分たちを目指し、一直線で向かってくる四人組がいたら、どうなるだろうか。それも相手を狩る筈が、自分たちが狩られる側に回ったら。


「おい、何だあいつら! こっちに向かってきてやがるぞ!」


「えっ、あ、何で!?」


「お、落ち着くんだ。と、取りあえず、深呼吸を」


「丁度いい、迎え撃て!」


 相手チームも全員で獲物を探していたのだろう。こちらにある程度進んだところで足を止めている。

 瞬時に迎撃態勢をとったのが一人――革ジャン。一番胆が据わっているということかな。喧嘩とかで場慣れしているのかもしれない。

 武器は革ジャンが拳に装着する鉄製の指輪。俗に言うカイザーナックルというやつか。

 お化けっぽい女性は黒い鞭。タンクトップは三又の槍。場違いタキシードは刀身の細いレイピアっぽい武器だな。

 見た所、弓や銃といった飛び道具は無い。特殊能力で遠距離攻撃が可能かもしれないから、そこは注意しておこう。


 相手は武器を手に待ち構えているだけで、こっちに詰め寄る気は皆無のようだ。なら、一気に間合いを詰めさせてもらおう。

 距離が10メートル以内に迫ったところで、ちらっと視線を織子に飛ばす。それだけで、何を言いたいのか察してくれた。


「革ジャン、タンクトップ30、タキシード、お化け25」


「了解!」


 全員に今の声は届いていたようで、杉矢さんと田中さんも頷いている。

 わざと大声で伝えた成果は如実に表れていた。それが何を意味するのか相手も理解できたようで顔色が変わる。


「おい、レベルが見抜かれているぞ!」


 動揺が広がり、発言をした織子に全員の意識が集中する。

 能力値が拮抗しているのであれば、相手の意表をついて本来の力を発揮させなければいいだけの話。今の隙で5メートルもの距離を稼ぐことが出来た。

 充分すぎる位置だ――杉矢さん!


「かああっ!」


 杉矢さんが進路を変えて、速度を少し落とした織子の前に飛び出る。

 鋭く呼気を吐き、その双眸に力が宿り、裂帛の気合を放つ。俺は咄嗟に目を逸らしたが、相手チームは全員その目を直視したことだろう。


「あああっ」


「ひいぃぃ」


「なめんなよっ!」


 黒髪の女性とタキシードが小刻みに震え、砂浜に膝を突いている。二人もの戦闘力を奪えたか。

 タンクトップは『威圧』から完全に逃れた訳じゃないようだが動けるようだ。革ジャンは気合で吹き飛ばしたように見える。動きにも支障はないか?


「金髪は任せろ」


「私はタンクトップやるね」


 二人の戦闘力の高さは信頼できる。俺が対応するより、確実だな。

 杉矢さんは背負っていた鉄の刀を抜き、織子はグローブをはめた手を打ち鳴らしている。


「よろしく!」


 『咆哮』で追い打ちをしてもいいが、これは仲間にも影響を与えるので使いどころが難しい。それに、この戦いを観察しているチームがいないとは言い切れない。

 手札は隠しておくに限る。

 俺と田中さんのするべきことは、無力化した二人を捕縛することだ。

 横一列に並んでいる、一番左が杉矢さん、その隣が織子。このまま、まっすぐいけば相手側の無事な二人とそのまま対峙できるだろう。


「田中さん、黒髪を巻いて!」


「アイアイサー」


 そこで田中さんが本気の走りを解放して、弾丸のように発射される。

 まだ体の自由が利かない黒髪の女性の周りを圧倒的な速度で駆け回り、背中に隠しておいた縄を取り出し、目にも止まらぬ間に女性の体がぐるぐる巻きにされた。


 あとは俺の番だな。白のタキシードが妙に似合っているイケメンの同年代らしき男に近づくと、隠しておいた縄を使わずに、手にした石の棍を相手の肩口へ振り下ろす。

 酷いようだが、相手が本当に動けないかどうかの確信は無い。無力化する為に鎖骨の一本でも砕かせてもらう。気絶させる技でも使えたらいいが、ただのサラリーマンだった俺にそんな器用な真似はできない。


「ちっ……バレていたのか」


 怯えた表情で震えていただけの男が、素早く立ち上がると棍の一撃を軽く躱した。

 芝居だったのか。念の為に攻撃しておいて正解だったな。


「僕の芝居を見抜いたのは褒めよう。だけど、フェンシング日本8位の実績がある、ぼ――」


 自慢話を遮り、レイピアの間合いの外から棍を横に薙ぐ。

 再び軽いバックステップで余裕を持って避けられる。


「身体能力が上がろうが、戦いの駆け引きというのは経験が物を言うのだよ。何年も鍛錬を重ねた相手に、何もしてこなかった奴が敵う訳が――」


 俺は懐から小さな袋を取り出し、相手に向かって投げつけた。


「飛び道具かね、無駄無駄」


 元から優れた選手だったらしい彼が身体能力の向上により、その剣戟は人の次元を超え神速に達していた。

 俺の投げつけた袋が一瞬にして切り刻まれ――中身の液体が飛び散る。


「汚いなっ! 何だこの液体……ぐあああああああっ!?」


 顔に付着した飛沫を拭おうとしたところで、顔を押さえ絶叫を上げている。

 第五ステージで苦しめてくれた毒は良く効くだろ。少量だが残しておいて良かったよ。


「あの毒かあああっ! だがな、耐性を得た僕ならこの程度」


 この人も毒耐性を得ていたか。まあ、杉矢さんにもあったので、相手の誰かも得ているとは思っていたが、厄介な相手だな。ただ、完全に防げるわけじゃないようで、脚がおぼつかないようだ。

 怒り心頭と言った感じで、折角の優男が台無しな憤怒の表情。アレを鬼のような形相というのだろうな。

 背後から田中さんが何度か攻撃を仕掛けようとしているのだが、相手は背中に目でもあるかのように、レイピアと視線を時折向けては牽制をしている。


 ゆっくりと相手の側面に回り込むように、弧を描いてすり足で動いているのだが、相手の視線とレイピアの先端は俺から逸らされることは無い。

 海を背後にする形で、相手からしてみれば90度程位置を変えたのだが、攻撃を仕掛けるタイミングを失っている。

 フェンシングは突きが主体の競技だ。棍の圧倒的なリーチの有利さがあるから、相手は攻撃を仕掛けてこないだけで、俺が無手なら既に切り刻まれていることだろう。


 とはいえ、さっきの攻防で俺の実力はある程度相手に知られてしまった。尚且つ、相手は毒が回り始めている。勝負を懸けてくるか……。

 相手の腰がすっと下へずれたのを見て『危険察知』が脳内で警鐘を激しく打ち鳴らしている。

 棍の先端を向け、俺も同様に腰を下ろし構える。迎え撃つ体勢は整えた。さあ、こい!


「ふんっ!」


 相手の姿がぶれて風を切る音だけが耳に届く――と同時に俺は『発火』を全力で発動させた。


「なっ、火だと!?」


 目の前で対戦相手が突然炎に包まれたことに動揺して相手が手を止める。

 その隙に、俺は渾身の突きを繰り出した。今の俺が放てる最高の一撃がタキシードの胸元へと吸い込まれていく。

 が、直前で半身を引かれ、棍は空を切ってしまった。


「もらっ――があっ!」


 体が泳いでいる俺を貫こうと、突き出される筈だったレイピアを握った腕が伸ばされることはなかった。今、その腕には黒虎が噛みついているからだ。


「ぎゃあああああっ! なんだ、この虎はああああっ!? 放せ、放せっ!」


 痛みの余りレイピアが手から零れ落ちたが、無事な腕を黒虎の脳天に振り下ろそうとした。

 それを俺がさせるわけもなく、相手の脳天にある程度は手加減をした一撃を叩きつけた。

 ゴンっと鈍い音がして、相手がうつ伏せに砂浜へと崩れ落ちる。殺してないよな……大丈夫だよな?

 恐る恐る近づくと、小刻みに痙攣して白目を剥いていた。息もあるようだし、いけるだろう、うん。

 確認のしようがないので、取り敢えず縄で雁字搦めにしておく。


「ぐあう、ぐうぅ」


 黒虎が褒めてくれと言わんばかりに、頭をこちらに向けている。今の不意打ちのおかげで助かったのだから、もちろん褒めるに決まっているだろ。


「よーし、よしよしよし」


 既に杉矢さんと織子の戦いが終わっているのを確認済みなので、黒虎の頭と顔を撫でまわしておいた。

 しかし、上手くいって良かった。こっちの攻撃をことごとく躱していた相手が、何故黒虎に反応できなかったのか。それには幾つかの下準備のおかげである。


 まず、全員が横一列で走るときにわざと、砂煙を上げるように砂を後ろ脚で蹴り上げる感じで走ってもらっていた。後方から追走している黒虎の姿を隠す目的で。

 織子の発言と『威圧』で相手の動揺を誘い、判断力を乱したあの時、杉矢さんの『土操作』で穴を掘ってもらい、その中に黒虎は身を潜めていた。

 あとは毒で相手を苛立たせて正常な精神状態ではなくし、相手の側面に回り込むと見せかけて、黒虎の位置が死角になるようにもっていっただけだ。


「そっちも無事に終わったようだな」


「いやー、結構苦戦したね」


 その割には二人とも傷一つないけど。格闘技経験者だけあって、二人ともうまい具合に相手を気絶させてくれている。

 ちゃんと縄で縛っているし、相手がもし気を失っている振りをしているだけだとしても、これなら反撃も難しい筈だ。


「で、これからポイントを奪う訳だが、どうやるよ」


「まあ、方法としては……黒虎」


「ぐあぅ」


 黒虎は返事をすると、一人だけ気を失っていない黒髪の女性の側面にゆっくり回り込むと、大口を開けて直ぐにでも齧れるぞとアピールさせた。

 もう黒虎とは以心伝心と言ってもいいぐらい、ちょっとした仕草だけで意思が伝わる。


「ひいいいいぃぃ、やめ、やめてっ!」


「こちらとしても、これ以上は危害を加えたくありません。なので、幾つか質問があります。時間がありませんので、素早く答えてください」


「は、はい、な、何でも聞いてください!」


 女性を脅すというのは必要だとわかっていても、心が揺らぎそうになる。

 感情を押し殺して、やるべきことはやらないとな。


「この三人のライフポイントを知っていますか? 正確な数字じゃなくてもいいので、貴方の為に思い出してください。貴重な情報が得られたと判断した場合、貴方のライフポイントは奪いませんよ」


「ああああ、えええと……あの、その、吉田さんが、あのタンクトップの人なのですが、まだ50以上あるぜって、自慢していました。白浪、じゃなくてタキシードの人は「ちょっぴりですが負けていますね」と言っていました。あと、ヤンキー君はゴムボートだけを購入して、海を彷徨っていました」


 自分のライフポイントと黒虎の脅威により、必死になって情報を吐き出してくれている。罪悪感が半端ないが、その感情は今、必要ない。


「ありがとうございます。妙なことをしようとはしないでくださいね。黒虎、怪しい動きをしたら遠慮なく食べていいよ」


 黒虎の口から『溶解液』が垂れて、砂浜に穴が開く。


「ああああっ、しません! 何もしません!」


 完璧な演出だぞ黒虎。完全に怯え切っているように見えるし、杉矢さんなら相手が芝居をしているかどうか見抜いてくれるだろう。


「じゃあ、ライフポイントを頂くことにしましょうか」


 それが何を意味するのか理解した上で口にした。

 誰もが神妙な顔つきで静かに頷く。幾つのポイントを得られるかわからないが、俺たちが条件を満たすということは、この人たちがこのステージをクリアーできる可能性が遠ざかるということだ。

 間接的に彼らを殺す行為。それを決して忘れてはいけない。

 まずは立案した自分が手を汚すべきだよな。

 俺は動けない状態の三人を黒髪の女性から遠ざけると、プレイヤーの一人に手を伸ばし「マイナス」と発言した。


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