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サラリーマンの不死戯なダンジョン  作者: 昼熊
理不尽なゲーム開始

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十六回目 2

「さてと、数少ない楽しみの一つ、褒美をいただきますか」


 第四ステージの褒美も残りわずかになっているが、もう二度と死に戻りしないという意気込みで、慎重に選ばないとな。


 一つ、四つの防具から好きな防具を進呈。(武器や背負い袋と同じく巻き戻っても手元に戻る)

 一つ、黒虎を人化させる。もしくは、黒虎に自分の所有している特殊能力を一つだけ覚えさせることができる。


 経験値の欄が消えて、あとは同じ。気がつかないうちに隠し要素を制覇していて、特殊な褒美が増えているということはない。

 黒虎に『不屈』を覚えてもらうのが一番妥当なのだろうけど、それを躊躇してしまう理由があった。

 床で胡坐をかき、右足の裏が見えるように曲げる。

 おう、やっぱり破れていたか。身体能力が高くなったことにより、脚力が増したせいで靴への負担が大きくなり、そんなに古くない革靴なのにボロボロだ。

 足裏もすり減っていて、薄い紙と大差ないだろこれ。体が頑丈になっているから、素足でも普通に歩けるのだが、第五ステージのように毒の成分がある何かを踏む危険性があるので、出来れば遠慮したい。


「となると、靴だよな。コートと同じように不壊が付いているだろうし」


 動きの基本は足だ。ここが万全であれば今後の活動もスムーズに行なえる。

 それに素足にロングコートって……変態っぽい。よし、靴にしよう。

 黒虎の強化も大切だが、まずは自分の身の周りを固めてからだ。黒虎はレベルアップで補える場合もあるからな。

 出てきた靴はコートと同じく純白で、膝下辺りまであるロングブーツだった。見た感じ、足首も固定されていて動きに支障がないかと心配だったのだが、履き心地も抜群で動きの妨げになることもなかった。


 伸縮性がありながらも頑丈なようだ。これからは足元の心配も不要か。中にスーツを着込んでいるとはいえ、見た目もかなり変化したよな。

 ロングコートにブーツ、そして手には石の棍。お、何かゲームのキャラっぽいぞ。お供には黒虎もいる。やっとゲームらしくなってきたということか。


「次は難関の第五ステージだが」


 前回あえなく毒にやられてしまったが、今回は攻略までの道筋が見えている。

 経験と教訓を活かして、邁進する。それが、ここをクリアーする為に最も必要なことだ。


「さーてと、行こうか黒虎。色々とやることが多いけど、ついて来てくれるかい」


「ぐあーぅ、ぐあ」


 ああ、うん。ありがとう。わかったから、顔をそんなに舐めないでくれっ。あぶぶ、もうべたべたじゃないか。

 顔を洗って気を引き締め直すと、黒虎と一緒に第五ステージへ繋がる扉を潜った。

 生い茂る雑草を掻き分け、密集する木々の間を抜け、向かうはあの毒大樹だ。

 今回は毒に対する耐性もあるので、そう簡単に毒の影響は受けないと踏んでいる。勿論万全を期して、近づき過ぎないことにするが。

 サバイバルナイフでロープ代わりになりそうな蔦や、無害な葉っぱも拾っておく。

 植物の姿が消え初めたので、そろそろ毒大樹ゾーンか。


「黒虎はここで待っていてくれ。今回は葉っぱを拾うのが目的だから、木には出来るだけ近寄らないようにする。そんな心配そうな顔するな、無理はしないから」


 潤んだ瞳で見つめられると行き辛いじゃないか。本当に大丈夫だから。耐性も俺の方がレベル高いしね。ちゃんとそこで待っているんだぞ。

 後ろ髪を引かれる思いで、地肌が剥き出しの一帯へ足を踏み入れる。

 相変わらず、無数の死体が転がっているが前回の初見と違うのが、青々とした特徴的で歪な形の毒の葉っぱが、無数に落ちているところだろう。

 それもまるで道を形成しているかのように、一列に葉が並んでいる。これは俺が黒虎を抱えて逃げ、その上に降ってきた葉っぱが積もった跡だということだ。


「第五ステージは巻き戻っているわけじゃない」


 以前の憶測が真実味を帯びてきている。巨大なステージは巻き戻っているわけじゃない。おそらく、第一ステージと、第三ステージは初期状態に戻っているのだろう。それ以外は時間の経過がある。

 マグマ地帯と吹雪地帯は風景から変化を感じるのが難しかったが、この第五ステージで答えが導き出された。

 本当に誰か別のプレイヤーが何処かにいるかもしれないぞ。

 今は自分の事で精一杯だが、もっと強くなって全ステージを余裕でクリアーできるようになったら、他のプレイヤーの救済を考えてみるか。

 そして、力を合わせてここをクリアーして、製作者たちを焦らせるのも一興だよな。


 まあ、そんな未来の計画を立てる前に、まずは目先の問題を片付けないと。

 葉っぱがそのまま残っていて助かったよ。一番外側にある葉っぱを狙うとして、また上から舞い落ちてくる可能性も考慮すると、この方法がベストかな。

 予め採取しておいた蔦の先に、釣り針状に曲がった動物のあばら骨を括りつける。棍は黒虎の近くに投げてくか。今は邪魔だから。

 そして、蔦の末端を黒虎の方へと投げ、あばら骨側を右手に掴む。

 後は姿勢を低くして、クラウチングスタートで一気に跳び出す!


 葉っぱが落ちてくるのであれば、当たる前に行動を終えればいい。単純明快な案だ。

 鋭く尖った葉っぱの前に辿り着くと、頭上から葉っぱが無数に落ちてくるのが目に入った。だが、それを待ってやる義理は無い。

 葉に触らないように気を付け、あばら骨の鋭くとがった先端を葉っぱに刺し込む。そして、そのまま、蔦を手放して元の安全地帯まで逃走だ。

 今回は荷物もないので葉っぱが俺を捉えるよりも早く、危険地帯を駆け抜け黒虎への元へ無事帰還した。


「ぐあ、ぐあぅ」


「おう、大丈夫だよ。ほら、怪我一つない」


 過剰に心配をして頭を擦りつけてくる黒虎の頭を撫で、無事なことをアピールしておいた。このままじゃれていたいところだが、本来の目的がある。

 黒虎に蔦をくわえてもらい、俺も一緒に蔦を握って手繰り寄せていく。獲物は葉っぱだがやっていることは釣りだ。

 近くまで毒の葉を引き寄せると、予め拾っておいた普通の葉っぱの上にそっと置く。もちろん、触れてはいない。


「よっし、この調子でもう少し集めようか」


 何度か同じことを繰り返し、毒の葉を重ねると簡易の葉っぱを荷台にして、繋げた蔦を引っ張り川岸まで移動する。

 ここなら万が一毒が皮膚に付着しても洗い流せるからな。

 触れてもないというのに、この葉っぱが近くにあるだけで軽く気分が悪い。黒虎はかなり距離を開けている。『気配察知』には何の反応もなく、周囲の生物がこの毒の葉を避けているかのようだ。

 これなら、この場に置いていても誰も盗んだり食べたりはしないだろう。


「それじゃあ、次の行程に移ろうか。黒虎、地中にいる一番大きな気配を探ってもらえるかい?」


 俺よりも黒虎の方が『気配察知』のレベルが高いので、ここは頼らせてもらおう。

 あ、首を傾げているな。まあ、説明していないから理解できないか。


「大きなミミズを捕まえたいんだ。出来るだけ体は損傷させないように倒したい」


 目的を理解はしていないようだが、するべきことは把握したようで、森の中へと駆けだそうとしている。


「黒虎、俺も行くぞ」


 そう言う俺に対し、黒虎は顔を向けると激しく頭を左右に振った。

 え、珍しく拒絶している。どうしたんだ。


「独りで行きたいのか?」


「ぐああーぅ」


 今度は縦に振っている。他にやるべきことがあるのを理解して、そっちはそっちで仕事をしておいていいよと気遣ってくれているかもしれないな。


「黒虎、任せていいかい?」


「がうっ、がう」


 お、何か嬉しそうだ。黒虎の身体能力なら問題は無いか。いざとなればあの逃げ脚なら追い付かれることもないだろう。

 遠ざかる黒虎の背を眺めながら、心配は拭えずにいるが信用しないと。俺はやるべきことをしよう。

 俺は川岸を散策しながら、大きめの石や岩を砕いて葉っぱの近くに運んでいく。毒が気になるならもう一枚、大きな葉で蓋をすればいいのだが、あえて放置している。

 こうすることにより、少しは耐性系の特殊能力を鍛えることにならないかと、期待しているからだ。


 最低でもボーリングの玉よりかは大きな石を集め終わると、今度はそれを川へと投げ込んでいく。それも川が分かれ二股になっている方の、湖へ注がれる川の水を遮るように。

 まず、湖へ水の供給を無くす。それが作戦の第一段階だ。

 普通なら重機を使わなければできない作業なのだろうが、『石技』により石を砕くことが容易になり、人の十倍近い力がある俺なら問題は無い。

 おまけに体力は人の100倍もある。この程度なら不休で動くことも可能。


 ぽいぽいぽいっと、リズムよく川へ石を投げ捨て少しずつ、川面が見え始めてきた。そのまま、休むことなく投石を繰り返していく。

 気が付くと川を遮る小さな防波堤が完成して、水が全てもう片方へと流れている。

 よしよし、これで湖に新鮮な水が流れ込むことは無い。


 じゃあ、第二段階に取り掛かるか。

 持ってきた石の中で比較的表面が平らなものを川岸に置き、その上に毒の葉を持ってくる。そして、石の棍で毒の葉を叩いていく。

 強く叩き過ぎると毒を含んだ汁が飛び散ってしまうので、力加減を誤らないように細心の注意をして、葉が柔らかくなるように念入りに潰す。


「うおっ、潰すと毒素が強まったような、ごほごほっ」


 風上に陣取っているのに、呼吸が少し苦しい。もうちょっと、ペースを落とすか。

 無理をしないように休憩をはさみながら、持ってきた毒の葉の下準備をしておく。


「ぐあうーぅ」


 お、黒虎が帰ってきたようだ。鳴き声のした方向に顔を向けると、巨大なミミズの首筋をくわえて誇らしげに尻尾を振る姿があった。

 これはかなりの上物だ。大きさも以前戦った個体の二倍はある。


「よくやったぞ黒虎。これなら充分だ」


 そう言って、ハグしてやろうと近づくと――黒虎が後退る。一歩進むと二歩下がる。

 もしかして、毒の臭いが染みつているのか。毒の葉を加工したせいでこの一帯には毒素が広がっているみたいしな。


「黒虎、まだ作業途中だから出来るだけ離れているんだよ。もう少し、やることがあるから」


 指示に大人しくしたがった黒虎は、かなり距離を開けると木々の根元に伏せ、前足で鼻を塞ぐような格好をしている。

 黒虎は俺よりもかなり鼻が利くみたいだから、この毒がきついようだ。

 手早く仕上げるとするか。サバイバルナイフで木の枝を削って、かなり長い菜箸を作り上げた。そして、風上からそっと毒の葉をすり潰したモノを掴み、大きく口を開いたコンドームの中へと詰めていく。

 ある程度溜まると口を縛り、汁のついた手を川で洗い流す。

 それを三度繰り返して、毒草汁入りのコンドーム風船を三つ製作した。さすが日本製のコンドームだ。毒を入れても破れないし、臭いが漏れていない。


 今度はミミズの死体を持って川の中に入り、大きな口の中に水を入れ、体内を綺麗にする。胃液も洗い流せたと判断すると、口の中にコンドーム風船を全て放り込んでおく。

 残った大量の毒の葉をすり潰したモノは、大きな葉の上に運んで、もう一枚の葉で蓋をしておいた。


「黒虎はこの葉っぱに繋がっている蔦を引っ張ってくれ。俺はミミズの死体を運ぶから」


 俺が先頭に立ちミミズを肩に担いで歩きだすと、少し離れて黒虎が蔦を引っ張りついて来ている。

 もちろん目的地は巨大なドーム亀がいた湖だ。

 あの場所から距離はそんなに離れていなかったので問題なく到着する。毒のおかげなのか他の生物に全く遭遇していない。

 湖の縁ギリギリに毒満載の葉を設置しておく。その葉に繋がっている蔦は向こう岸の黒虎がくわえている筈だ。


「どうか、上手くいきますように」


 俺は毒コンドーム入りミミズをそっと湖に沈める。一応ミミズにも蔦は結んでいる。獲物が餌に喰らいついたらわかるように。

 変化が訪れるまで木の上で待機をしたまま、じっと水面を見つめていた。

 暫くすると、ミミズと繋がっている蔦が湖の中に引っ張られ、水面が激しく揺れて水が溢れ出した。

 ドーム亀が喰らいついたか!


「黒虎!」


 俺が名を叫ぶと黒虎が蔦を引っ張り、毒汁たっぷりの草が湖へと廃棄される。

 透明の美しかった湖が見る見るうちに毒々しい紫色に染まり、薄気味悪い色の水飛沫が周囲の木々へ飛び散っている。

 水面が前回と同様に大きく盛り上がり、ドーム亀が姿を現したのだが……今回は脚も顔も収納されておらず、出っぱなしだ。

 そして巨大な亀の口の端からは、ミミズの一部が姿を覗かしていた。

 亀頭は力なく水面に浮かび、目は大きく見開かれたままだが、瞳には生気が無く濁っている。内部と外部からの毒の挟み撃ちは成功したようだ。

 毒々しい湖に浮かぶ亀の死骸を見つめ思ったことは――


「毒を抜くの大変そうだな」


 自分でしたこととはいえ、湖の後処理を考えると、ため息が漏れた。


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