十六回目 1
「そりゃそうだよな」
ボスっぽいイグアナにあっさりと殺されて、休憩所に戻っている。今回は結構頑張ったから、この場所が懐かしく感じるな。
「って、そんなことより、黒虎!」
部屋の片隅にちょこんと座っていた黒虎が、俺の呼ぶ声に応えて嬉しそうに歩み寄ってきた。問答無用で頭を抱きしめると、顔を撫で回す。
よかった。生き返るとはわかっていたけど、本当に良かった。
「なぐぅーあ」
黒虎も嬉しいらしく、顔を擦りつけてくれている。思う存分、心ゆくまで堪能してから手を離す。
やっぱり死ぬのは嫌だよな。それが自分の死より、大切な誰かの死の方が嫌だよな、本当に。
「目指せ、死なずにクリアー!」
「ぐあーーーーーぅ」
拳を振り上げて決意表明をすると、黒虎も合わせて遠吠えのように鳴いてくれている。
よっし、今後のことを考えるなら、まずやるべきことは決まっている。そう、ステータスの確認だ。
さーて、今日もガラス板で確認しておこう。
山岸 網綱 レベル20
体力 58+1000
精神力 63+1000
筋力 60+35
頑強 61+35
器用 52+35
素早さ 49+35
特殊能力 『ど根性』10『熱遮断』5→6『石技』5→6『気配察知』5→6『暗視』5『棍技(我流)』5→6『体幹』6→7『咆哮』5→6『野生』5→6『危機察知』1→3『火操作』3→4『発火』3→4『麻痺耐性』2『幻覚耐性』2『毒耐性』2
ライフポイント 89/105
持ち物 特製石棍(不壊) バックパック(サバイバル用品一式) 純白のロングコート(不壊)
何というか、凄まじく成長しているぞ。第五ステージでのサバイバル生活が影響を与えているようだが、待望の『ど根性』10に加え、新たな特殊能力『麻痺耐性』『幻覚耐性』『毒耐性』まであるとは。この三つは確実にあの葉っぱの毒が原因だよな。
なら、毒耐性でまとめていいような気もするが、分かれている方が応用は利くか。
この耐性シリーズを覚えたのは計画通りと断言しても過言ではない。あの毒の苦しみに耐えている時に、これを耐え抜けば何かしらの特殊能力を覚えるのではないかと、密かに期待していた。
今まで命懸けで何かを行動した時に新たな特殊能力を覚えることがあった。ならば、あの毒を耐えきれば何かあるのではないかと予想はしていた。正直、こんなに上手くいくとは思ってもいなかったが。
あと、最も気になる点は、前回の能力進化と同じく『ど根性』だけ文字の色が異なっていることだ。新たな能力に目覚めることになるのか。また悩みそうだから、先に黒虎のステータスを確認しておこう。
黒虎 レベル22→25
体力 540→570
精神力 340→370
筋力 116→134
頑強 110→138
器用 75 →89
素早さ 118→140
特殊能力 『熱耐性』9→11『気配察知』7→8『暗視』5『咆哮』5→6『溶解液』5→6『野生』7→8『食い溜め』1『麻痺耐性』1『幻覚耐性』1『毒耐性』1
ライフポイント ∞
こっちも凄いな。新たな特殊能力が四種追加か。毒絡みの三種類は俺と同じだから理解できるが『食い溜め』って何だ。
言葉通りの意味なら、大量に食事を取ることによって暫く食事をしなくても、お腹が空かないで済むってことか。そういや、第五ステージでいつもより多く食べていたな。それだけが条件なら俺も試してみるべきだな
あとは『熱耐性』だよな、やっぱ……特殊能力のレベルって10が上限じゃないのか。それに、文字の色も変化が無い。試しに触れてみたが、進化への選択肢がでることもなかった。
レベルが10に上がるだけじゃなく、特殊な要因が必要なのかもしれない。もしくは、黒虎のようなこの世界の生命体には進化する権限が無いとか。
どちらにしろ、10で進化すると決めつけていたが考えを改めなければならない。
「黒虎の考察はここまでにして、さて、問題はこれだ」
『ど根性』の文字色は変化しているので間違いないと思うが、恐る恐る指でそっとタッチしてみた。
前回と同様に文字に触れると、頭に直接浮かんできた。
――『ど根性』を『不屈』に進化させますか? はい いいえ――
不屈ときたか。能力が言葉通りなら、どんな困難にも負けずに、強い意志を貫くといった意味になる。何と言うか効果が曖昧だな。
上位の能力だから悪くない筈だけど、問題は体力と精神力のプラスが維持もしくは強化されるのか。そこだろう。
今は『ど根性』の効果で+1000もされている。これが失われるとなると、厳しいどころの話ではない。でも、今のところ進化がマイナスに作用したことは無い。
だからといって、その法則が今度も続く保証もない訳だが。
「でも、進まないと」
俺は はい を選択した。
新たに『不屈』を覚えたからといって、別段体に変化はない。精神状態も変わらないように思える。
特殊能力を確認すると『ど根性』が消え『不屈』が追加されていた。レベルは1だ。
さて問題の体力、精神力は……よっし、やっぱこうこないとな、うんうん。
+1000だった数値が+1000のまま変化がない。レベル1で同等なら、これだけでも充分に進化した価値がある。
ざっと現在の実力は把握できた。数値上でだけだが。
まあ、第五ステージまでは何の問題もないだろう。次の休憩所も得る能力は無いし、第三ステージクリアー後の休憩所は褒美が残っていたか。
「いつもの日課をしてから、第三ステージクリアーまでサクッといこうか」
「ぐあーぅ」
自分で口にしておいてなんだが、第二ステージも第三ステージも脅威を感じなくなる日がくるとは。あれ程、死ぬ思いをしてきた難所を今は難なくクリアーできる。
短期間での異様な成長には驚かされるばかりだ。今、この状態で日本に戻れるなら、冗談抜きでヒーローも夢じゃない。
スポーツも格闘も身体能力で軽くこなせる自信がある。日本……というか、地球ならあり得ない力を有する人間になってしまった。
このゲームのような場所は何の為にあるのか。褒美の文言を見る限りではクリアーさせるのが目的のようだ。でも、どうしてそんなことをさせる必要がある。
ここに放り込んで大掛かりな難易度の高すぎるゲームをさせて、プレイヤーの苦しむ様子を眺めて悦に浸っている。これならまだわからなくもない。残酷な描写のあるゲームを楽しむ人や、グロ規制のある映画を楽しんでいる人なんて幾らでもいる。
それがよりリアルに生々しくなっただけなのだから。娯楽としては最高なのかもしれない。悪趣味だと断言はできるが。
だとしたら、プレイヤーの成長は必要ないのではないだろうか。現在の体でギリギリ乗り越えられるような難所を用意する方が、制作側としても楽だろうに。
ここでは効率的に特殊能力が鍛えられる。それは実体験として間違いがない。ということは、この場所には育成目的もあるとは考えられないだろうか。
そうなると、何故見知らぬ人間を育成する必要があるのか。そもそも、地球上では絶対に実現不可能なここが一番の謎だな。やはり、異世界なのだろうか。それとも未来の地球という展開もあり得ない話ではない。
少なくとも俺の住んでいた日本じゃない。そこは言い切れる。
「っと、じゃあ、扉開けて行こうか」
考え事をしながら第二ステージを走りきり、火の鳥を葬り、第三ステージをクリアーした俺たちは休憩所へと移動した。第二ステージの『熱遮断』修行は、意外と考えを整理するのに向いているな。これからも使えそう……いや、もう死に戻りは考えない方向でいくのだった。
休憩所の隅に黒虎がいつものように寝そべっている。隅が落ち着くのは、個人的に同意できる。無駄に大きな部屋の真ん中より壁に面した場所の方が何故か眠りやすいよな、黒虎。
「さてと、残りの褒美は」
『熱耐性』『回復力』のみ。だったら悩む必要はない。『回復力』一択だ。
他にすることは、食事ぐらいか。そうしたら、いつもの雪山登山が待っている。それも、今の実力なら難なくこなす自信がある。
「よーし、食材はまだあるから、豪勢にいくか」
具だくさんのスープとさっき仕留めた火の鳥ステーキを味わい満足がいくと、仮眠をとってから第四ステージへ向かう。
見渡す限りの銀世界。おや、今回は珍しく吹雪いていない。毎回、序盤は吹雪いているのだが、今はかなり見通しが良い。
こうしていると綺麗な風景だけど、吹雪き始めるとそんな余裕は簡単に吹き飛ばされる。
前回とは違うパターンということは、第四ステージのような広大なエリアは巻き戻っているのではなく、他の人と共通で使われているステージという考えが真実味を帯びてきたな。
「ここでこのエリアの探索をするというのも、ありなんだが……」
問題が幾つかある。吹雪き始めると道がわからなくなるので、寄り道をすると遭難する可能性が高い。そして、そうなると食料が尽きてしまう。
第五ステージなら食料が豊富なので、迷ったところで生き延びられる可能性は高いが、ここだと食料が皆無なので、凍死を耐えても餓死が待っている。
この晴天が続いてくれるなら調べたいが、やめておくか。
隠し要素を探し当てたいという好奇心はあるのだが、ここでは即、死に繋がる。好奇心猫をも殺す、なんてレベルじゃない。
すっぱり諦めると、黒虎といつもの洞穴に向かって競争をすることにした。
お互いの実力を確かめつつ遊びの要素もある。利口な黒虎だが、こうやってたまには一緒に遊んでやることも必要だと考えられるぐらいの、心の余裕が持てるようになっている。
心も地味に成長しているのかね。
競争をするにしても黒虎の身体能力に及ばないのは、数値を見れば一目瞭然だ。しかし、俺には秘策がある。
「それじゃあ、いくぞ。よーい、ドン!」
雪をものともせずに飛び跳ねるようにして疾走する黒虎。
やはり、圧倒的な差があるな。四足で走れるというのも強みか。オフロードでは二輪駆動より四輪駆動が強いって話だし……ちょっと違うか。
だがな、黒虎君。それは予想の範疇なのだよ。そう、強がりではなく黒虎との差はわかりきっていたこと。だが、本番はここからだ。
「黒虎、追い抜くぞ! 『発火』発動!」
全身が炎に包まれ、今まで俺の下半身を束縛していた雪の重みがすっと消えた。
レベルも上がり火力も増した炎が触れた雪を即座に溶かしていく。
これで雪を全く気にせずに走ることが出来る。さあ、その差を一気に縮めるぞ。
「待てよー、黒虎ぁー」
「がうっ、あがうぅ!」
何故か必死になって逃げるように走る黒虎を全力で追いかけながら、洞穴に到着した。今までで最短の記録だ。
無駄に消費してしまった体力と精神力を回復させる為に、食事と睡眠を充分にとり、通い慣れた山頂を目指す。
懲りずに現れたアイスドールはコンビ技で液状化させて、またもあっさりとクリアーとなった。第四ステージも余裕に感じるとは、驚くというよりも少し怖いな。
人としてあり得ない速度で成長を続ける自分に、嬉しさよりも恐怖を覚えそうになる。今の俺はもう人間の枠を超えてしまった。
このまま強くならなければ、このゲームをクリアーできない。それは、それはわかっているのだが、自分の変化を素直に受け入れられない自分もまた存在していた。




