表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サラリーマンの不死戯なダンジョン  作者: 昼熊
理不尽なゲーム開始

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/111

十五回目 2

 本当に誰だこの男性は。歳は四十代ぐらいか。見事に膨らんだ腹は理想的な中年太りで、薄汚れたスーツを着ている。顔は憔悴しきっていて、髪の薄い頭部と相まって仕事帰りの疲れ切ったサラリーマンのようだ。

 いや、そんな気楽なもんじゃないな。全てに疲れ切った、自殺する直前のような絶望感を漂わせている。


「だ、だ、誰だ! キサマがわしをこんなところに連れてきたのかっ!」


 怯え腰が引けているというのに、やたらと強気なのは大したもんだ。そんな怒号、以前の俺なら少しはびびったかもしれないが、今ならそよ風と大差ない。


「落ち着いてください。私もここに連れてこられて、何度も死んでは巻き戻りを繰り返しています」


 おそらく、この人は俺と同じ境遇なのだろう。この通路は別のプレイヤーが挑むステージに繋がっていたわけだ。予想外の展開だが、これは情報収集のチャンスか。まずは、この人を落ち着かせてからだが。


「ひ、ひいいいっ、化け物がっ!」


 いきなり悲鳴を上げると尻もちをついたまま器用に後退っている。あっ、黒虎を見たのか。


「大丈夫です。これは褒美で得た仲間です」


「ほ、褒美? 何を言っているんだお前は。何度も何度も何度も殺されて、何が褒美だっ!」


 この反応は……もしかして、この人は一面もクリアーできていないのか?

 そこで初めて周囲を見回したのだが、妙な場所だな。灰色壁が取り囲む10㎥ぐらいの真四角な空間。壁と天井、そして床にも1メートル四方の線が引かれている。巨大なタイル張りにも見えるが。

 あ、俺のところと同じデザインの扉もあるな。


「ああ、もうすぐ始まる。ど、どけいっ!」


 男性――いや、オッサンでいいな。いきなり立ち上がると俺を押しのけ、黒虎に怯えながらもその脇を走り抜けて、俺が通ってきた通路に飛び込んでいった。


「ちょ、ちょっと待て――」


 俺の言葉を遮るように天井から何かが軋む音がしたかと思うと、天井の一部が高速で……落ちてきたっ!?

 慌てて避けると、今度は地面の一部が飛び出してくる。


「ほっ、はっ」


 かなりの速度なのだが、身体能力の上がっている俺にとって、それ程脅威を感じない。以前の自分なら何度も死んでいただろうが、今は考える余裕すらある。

 この切れ目の入った部分がところてんのように突き出される仕組みか。あのオッサンはここで何度もこれに殺された。それも、一度もクリアーができずに。


「おっ、黒虎も余裕だね」


 遊んでいるかのようにピョンピョンと跳ねている。若干楽しそうだ。

 つまり、今の状況は俺以外の人も同様に死に戻りを何度もさせられる、糞ゲーに参加させられているということか。ここには幾つものステージがあって、俺とは全く違うゲームをさせられている人もいる。

 そして、ここは今のオッサンの第一ステージか。パニック状態でこの状況はかなりきつかっただろうと同情はするが、死に戻りができるなら動きを覚えたらいける筈だ。

 ゲームをしたことがあれば、簡単に辿り着きそうなものだがゲームやらなさそうだったからな。


 っと、黒虎と比べたらこっちの方が温い。まあ、パニック状態でそれどころじゃなかったのだろうけど。って、よく考えたら俺がここをクリアーしたらどうなるんだ。

 オッサンは逃げていったし……あれ、オッサンがあのまま俺の第三ステージに行って死んだらどうなる?

 時間が巻き戻るなら、このステージが初めからになってオッサンが戻ってくるのか、それとも俺がいるのだから、俺のステージで第一ステージからオッサンが挑むことになるのか。


「どちらにしろ、追いかけた方が良さそうだな」


 このステージは終了したようで、飛び出してきていた壁や天井のパーツが元に戻っていく。これでクリアーなら扉が開いて休憩所に入れるが……やめておこう。褒美には興味があるが、入ったら扉が消えて元に戻れなくなる。

 そこで死んだらどうなるのか。下手したら巻き戻りすら不可能になるかもしれない。そんな危険な賭けに出る気はない。

 開けた穴は残っているので、黒虎を連れて通路を戻ることにした。


 オッサンの気配を感じない。もう、第三ステージに入ってそうだな。取り敢えず、火の鳥と遭遇する前に回収しておこう。

 この通路は隠し要素というより、施工時に埋めそこなった一部っぽい。たぶん、製作者も予想外の展開の筈だ。まさか、他のプレイヤーが挑むステージに繋がっているとは。

 オッサンから情報を収集したかったが、あの様子じゃ何も知らないか。となると、どうするかだよな。見捨てるのは人としてどうかと思うし、かといって連れて行っても死ぬのが目に見えている。


 休憩所に置いておくか?

 だとしたら、俺が死んで巻き戻った場合、休憩所にいる人はどうなるのだろうか。何もなかったかのように滞在し続けられるのか……時間が巻き戻るなら、元の第一ステージに飛ばされるのか。

 今まで生きることに必死で仕組みについては深く考えていなかったが、俺は死んで蘇っているのか、時間が巻き戻っているのか、それとも全く別の仕組みなのか。

 破れたスーツが元に戻っていて飢えも消えているので、時間が巻き戻っていると信じていたが、本当にそうなのだろうか。


 オッサンはそれを確かめる為に利用できそうだな。っという発想になる俺はこの場所に着実に染められている。

 通路を抜け第三ステージに戻ると、視界が赤に染まった。


「やばい、遭遇したのか!」


 火の鳥の炎が燃え盛っているのが見える。そこにオッサンの気配も……あるっ!


「黒虎、オッサンを助けるぞ!」


 全力で駆ける俺を黒虎があっさりと追い抜き、オッサンへと向かっていくが――炎の柱にオッサンが呑み込まれた。

 間に合わなかったか! 黒虎が『溶解液』を吐きかけ火の鳥が激しく炎上している。前回と同じく、火の鳥が狼狽えているな。

 跳びかかるには距離があるので、投げ槍の要領で棍を投げつけた。

 自らの炎に視界を遮られている皮肉な状態の火の鳥に、石の棍が命中する。怯んでいるところに、黒虎の振るう爪が炎ごと火の鳥の首を掻き切った。


 あっさりと決着はついたが、オッサンは完全に消し炭となっている。まともに言葉を交わすことのなかった相手だが、手を合わせておく。こんな理不尽な場所に放り込まれた同郷として、祈らずにはいられなかった。

 そうしていると、オッサンの遺体はすっとその場から消え失せた。まるで、初めからその場所には何もなかったかのように跡形もなく。


「感傷にひたっている場合じゃないか」


 扉は一先ず無視して、さっき壁に開けた大穴の位置に戻ることにする。

 あの通路を進んでもう一回あそこに行って、蘇っているオッサンを連れてきてやろう。それが相手の為でもあり、俺の為でもある。


「ああ、そういう流れか」


 壁の穴が埋まっている。ついさっきまで空いていたというのに、穴の後すら何処にもない。手を触れてみるが完全に修復されている。

 棍を同じように全力で叩き込むが、手が痺れただけだ。


「ひびどころか、傷一つないとは」


 修復どころか補強済みなのか。さっきのは制作側としても予期せぬアクシデントだったと証明されたようなものだ。

 いや、あれすら製作者が俺を混乱させるための罠という……はぁ、疑っていたらきりがないか。

 オッサンの事は気になるが、人のことに気を取られている余裕は俺にもない。

 縁があったらまた会うことになるだろう。そう思うしかない。その可能性が殆どないとはわかっているが。


「行こうか、黒虎」


「ぐうーっ」


 他に同じ境遇の人がいる。それがわかっただけでも、孤独感が薄れた気がする。もっとも、今の俺には黒虎が居るので寂しくはないが。

 頭を切り替えて、第三ステージの扉を抜けた。

 ここで残っている褒美は『発火』『熱耐性』『回復力』から一つ、火の鳥から奪うか。これは前から決めていたのでさくっと『発火』を選んだ。

 これで『発火』『火操作』が揃った。ふっふっふ、これで炎の魔術師を名乗る土台が完成したぞ。


「黒虎、火を出す訓練をするから、下がっていて」


 まずは『熱遮断』で体の周囲を見えない膜で覆う。そこから『発火』だっ!

 火の鳥を参考にして、体から火が出るイメージ。


「燃えろっ!」


 胸の奥がかっと熱くなったかと思うと、それが体中に広がり飛び出していく感覚があった。


「おおっ、火が出ている!」


 全身が炎……というよりはコンロの弱火程度だが、ちゃんと火に包まれている。『熱遮断』のおかげなのか熱さは感じない。

 このままだと、全身が燃えているだけで使い勝手が悪いので、右手だけから火が出せないか調整してみるか。ふっと、気を抜くと全身の火が消えた。

 着火、消火は自分の意思で出来るようだな。少しほっとした。勝手に燃えだして、消すこともできないという最悪の展開も予想していたので。


「右手に意識を集中して、はっ!」


 おっ、燃え盛る右手って何かこう、ぐっとくるな。男の子としての本能が疼いてくる。

 左手も問題なく発動できるようだ。こんなにあっさり使えるのは『火操作』の効果が適用されているのかもしれない。

 暫く色々試して満足すると、黒虎と一緒に食事を取り、いつものように仮眠する。

 眠りに落ちる直前、あのオッサンの事が頭に過ぎったが、どうしようもないことだと余計な考えを振り払った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ