十四回目 1
雪の重量ってバカにできない。激しく揺さぶられたせいで平衡感覚がぐちゃぐちゃになるし、息も苦しくなるし、結局凍死なのか窒息なのかも判断つかずに死んだな。
お、今回は休憩所から始まっている。セーブポイントが起動しているようだ。
前回の死因は雪崩。それを引き起こした当人……というか黒虎は耳を伏せ、体を小さくして俺の前に座っている。
すっごく反省しているようだ。ここでは死が軽いが、本来ならそこで人生が終わっていた。反省して許されるレベルではないミスなのだが。
「黒虎。ちゃんと反省しているみたいだから、もういいよ。その代わり失敗を生かしていこうな。同じ過ちを繰り返さないように、頑張っていこう」
黒虎の頭を撫でつつ、優しく語り掛けると「くぅーん」と犬のような甘えた声を出している。お前はネコ科だ。
「偉そうなことを言っているけど、雪原では黒虎に随分助けられたから、お互い様だよ。ありがとう、これからもよろしくな」
黒虎は俺に飛び付くと、ざらざらした舌で俺の顔を舐め回してきた。やっぱり、ネコ科なんだな。とげ状の舌が結構痛いが、ここは我慢する場面だ。
満足した黒虎が止めると、頬の皮膚がかなり削れた気がするが部屋の回復能力により、元の状態へと戻っている。
ステータスを調べてもいいけど、第二ステージは問題ないので次のステージでチェックするか。褒美も取りつくしたから、何も残っていないし。
水筒に水を汲んで、他に準備は無いな。
「行くよ」
「ぐうーっ」
黒虎と一緒に扉を潜り、ゴールの扉前まで駆けていく。
熱さは全く感じないので、走りながら周囲の景色を眺める余裕があるが、一本道以外はマグマの川があるだけだから、面白くもない。
このステージには隠し要素が全くないようだから、ただ走り抜けるだけのステージと化している。
速攻でゴール前に着くと棍を置いて、前回と同様に『熱遮断』を鍛える為に境界の外へと進む。やっぱり、温度差があるほど体力の消耗が激しいようだ。第四ステージの雪原より体力が抜けていく感じが酷い。
だけど、前回よりかは心持ちだが楽なような気が。レベルが上がったことが影響しているのか。
限界近くまで耐えて、今後の為に少しでもレベル上げていかないと。突っ立っているだけだが、これも修行だ。一応、座禅をして形から入ってみるか。
ちなみにスーツを着たままなのだが、熱遮断は服の周りに発生しているので服は燃えていない。
灼熱地獄で耐えるという荒行を終え、第二ステージをクリアーした。
無傷だけど休憩所に入るとホッとする。ここでの褒美の残りは一つしかないので、まずはステータスの確認だ。
山岸 網綱 レベル15
体力 45+400
精神力 53+400
筋力 44+20
頑強 45+20
器用 39+20
素早さ 37+20
特殊能力 『ど根性』4『熱遮断』2→3『石技』5『気配察知』5『暗視』5『棍技(我流)』4『体幹』4『咆哮』4『野生』4
ライフポイント 91/105
持ち物 特製石棍(不壊) バックパック(サバイバル用品一式)
黒虎 レベル14
体力 420
精神力 220
筋力 86
頑強 66
器用 44
素早さ 88
特殊能力 『熱耐性』6→7『気配察知』6『暗視』5『咆哮』4『溶解液』4『野生』4→5
ライフポイント ∞
俺は殆ど上がっていないな。『熱遮断』が1だけだ。
黒虎は『熱耐性』『野生』の二つ。第四ステージは黒虎に頼りきりだったから、当たり前と言えば当たり前か。
黒虎のおかげで楽だけど、能力を鍛えられないというジレンマ。
さてと、この特殊能力を踏まえたうえで、特殊能力のレベル5上げるという褒美をどうするかだ。このまま置いておいた方がいいのだろうけど、強制セーブや二度と戻れなくなる仕掛けぐらい平気でやりそうだよな。
もし上げるなら進化した『ど根性』か『熱遮断』が妥当か。他の特殊能力を上げて進化させるのもありなのだが……どうしようか。
「あーうーがーだー」
苦悩する俺を見て黒虎が、落ち着きなく室内を歩き回っている。
ごめんな、黒虎、心配させて。第二ステージの灼熱地獄はこれからも能力上げに利用するつもりだ。また、ここに来る予定なので――死ぬのが当たり前になっている自分が嫌だなあ。
上手くいけば、ここから一度も死なずに最後まで行ける可能性もある。まあ……ないだろうけど。
あー、悩めば悩む程、ドツボにはまりそうだ。ここは腹をくくって褒美を受け取ろう!
『熱遮断』を上げようかとも思ったけど、ここは『ど根性』だ。体力が増えれば『熱遮断』を発動できる時間も伸び、能力を鍛えやすくなりそうだ。それにレベル9になれば10まであと一歩になるので、新たな進化にも期待できる。
「よっし、ど根性上げるぞ!」
意を決して褒美を選び、『ど根性』が9に上がった。これで体力、精神力が+900になり、単純計算でいくなら『熱耐性』の持続時間が倍になる筈だ。これなら第四ステージはバックパックに入らなくても、行けるかもしれないな試してみよう。
何はともあれ第三ステージを突破してからだな。火の鳥だって油断のできる相手ではないから、緊張しすぎるのはあれだけど油断は禁物だ。
そう考えていた頃が俺にもありました。
正直、俺と黒虎のコンビだともう苦戦もしないな。あっさり倒して第四ステージ前の休憩所です、はい。
もちろん、お肉は確保しておいたから、蝙蝠の肉も使って何か作るか。
蝙蝠の肉は骨ごと包丁で叩いて団子にでもしよう。それに火の鳥の肉も投入。って、肉に肉か……やっぱり、野菜が欲しい。死に戻りしているから栄養不足にもならないだろうけど、実質上はもう一週間ぐらい過ぎている様に感じるから、贅沢な話だけど流石に飽きてくるな。
肉団子スープと鳥肉の炙ったのを食べ、腹が膨れたところで褒美を選ぶか。と言っても、特殊能力を奪うしか残されてない訳だが。
黒虎の時のように特殊な条件を満たして、特別なご褒美を狙おうかとも考えたが、すっぱり諦めた。それをしてしまうと特殊能力が奪えなくなるのが痛すぎる。
自分の強化を最優先にしたいので未練はあるが……たまらなく興味もあるが……スルーだっ!
よし、気持ちを完全に切り替えよう。奪える能力は『発火』『火操作』『熱耐性』『回復力』となっているから、この中から一つか。
まず『発火』は体中から火が噴き出していたあの能力だよな。俺がこれを覚えたら焼身自殺で自滅しないだろうか。『火操作』があって初めて成立するとかあり得そうだ。
そう考えるなら『火操作』を先に選ぶのはありだな。今は大して使い道がないだろうけど、次に『発火』を覚えたら楽しいことが出来そうだ。
『熱耐性』が新たに追加されたらどうなるのかね。『熱遮断』の効果が向上したりするのだろうか。
『回復力』これは体力や精神力、傷の回復が早くなるって事だよな。地味だけど一番使い勝手が良さそう。
んー、そうなると真っ先に除外されるのは『発火』だな。取るにしても『火操作』の後だ。それで『熱耐性』も却下だ。『熱遮断』が切れた時の予備としても使えそうだが必須ではない。残りは『火操作』と『回復力』となるのか。
妥当なのは『回復力』だろうな。地味に便利で影響力がありそうな能力だし。でもなあ、無くても他で補えるような力なのが……うーん。
この先のステージで必須となりそうなのが火関連だよな。今までのパターンを繰り返すならだけど。
(どうせ、何度も死に戻って全ての能力奪うから、悩む必要はないんじゃね?)
という悪魔の囁きが聞こえるが、ここから一度も死なずにエンディングを迎えることもあり得ない話しではない。あり得ないだろうけど。
「取得しておいて邪魔にもならないだろうから『火操作』にしておこうか」
妥協で選んだように思われそうだが実はそんなことは無い。実はこの特殊能力にかなり期待しているからだ。
火を自在に操作するって、少年漫画の王道だよな。火属性の主人公は最近定番過ぎてあまり見かけないけど、やっぱ、火が一番派手で憧れる。
この状況でそんな夢を見ている場合じゃないのは重々承知している。だけど、こんなわけのわからない場所に放り込まれ、死と隣り合わせどころか同居する生活をしているのだ。少しぐらいロマンを求めてもいいじゃないか。
「折角だし、能力の確認をしておこうかなー」
黒虎がそれを咎めるわけがないというのに、つい言い訳をするような口調になってしまった。
簡易コンロの火をつけ、炎の揺らぎをじっと見つめる。手をかざして、精神を集中して、炎を動かすイメージを膨らませる、そして一気にその力を解き放つ!
「炎よ動けっ!」
つい言葉に出してしまったがコンロの火は――変わりないぞ。もっと集中して、気合を入れて。
「はあああああっ! 火よ我が命に従えっ!」
アレンジを加えてみたが変化が無い。むむ、もしかして火が強すぎるのか? レベル1だしな。
コンロの火を、強火から中火に切り替えた。よっし、これならいけるだろう。
「ぬううううぅ、火よ!」
一瞬、動いたというか揺れたような。いや、ただの風か? もっと具体的に火が横に広がるイメージで……おっ、ちょっとだけ横に広がっている。じゃあ、そこから宙に火の玉のように浮かぶ感じで、感じで。
脳の血管が切れそうになるぐらい集中しているのだが、火が少し太くなる程度でコンロから火が離れることは無い。
むっ、じゃあ、弱火だ。今までと同じように火を動かすイメージをぶつける。
「おっ、浮いた! 指先程度の火の玉だけど感動するな……今は小さな火種だが、いずれ大きな業火となって全てを焼き尽くすであろう!」
テンションが上がり過ぎて意味不明な叫びをしてしまったが、この場に他の人がいなくて良かったよ。黒虎がキョトンとしているが。
暫く、小さな火の玉を操ることに熱中していた。初めは黒虎も興味深げに火の玉を見ていたのだが飽きたらしく、部屋の隅で丸まって眠っている。
吹けば飛ぶような火だし、自由自在とまではいかないがある程度は動かせるようになった。離れすぎると制御不能になることもわかったので、まずまずの収穫だろう。
結論としては今のところ全く使い道が無い。『発火』を覚えてからが本番かな。
さてと、余興はこれぐらいにして難所の第四ステージに挑まないと。
今度はバックパックの中に入らないで一緒に歩いていく予定だ。出来ることなら、一気に洞穴まで移動して、そこで充分な休養とってから山頂を目指したい。
途中でアイスドールが出てきたということは、当たりだということだ。おそらく山頂付近に次の扉がある。
今度こそはクリアーしたい。ライフポイントにまだまだ余裕があるとはいえ、このポイントは出来る限り多く残しておきたい。後半につれて難易度が上がるのがゲームの定番。余っているぐらいが丁度いい。
「黒虎そろそろ、行こうか」
「くう……ああぅ」
大欠伸をして起きた黒虎の口に蝙蝠の姿焼きを放り込み、俺たちは第四ステージ踏破を目指し、踏み出した。




