十三回目 4
結構寝たみたいだな。黒虎は先に起きて前足で顔を洗っている。
腹も膨れたし、体力も回復しているみたいだ。さてと、ステータスの確認と第四ステージの攻略方法を探るとするか。
山岸 網綱 レベル15
体力 45+400
精神力 53+400
筋力 44+20
頑強 45+20
器用 39+20
素早さ 37+20
特殊能力 『ど根性』3→4『熱遮断』1→2『石技』4→5『気配察知』5『暗視』5『棍技(我流)』3→4『体幹』3→4『咆哮』3→4『野生』3→4
ライフポイント 92/105
持ち物 特製石棍(不壊) バックパック(サバイバル用品一式)
黒虎 レベル14
体力 420
精神力 220
筋力 86
頑強 66
器用 44
素早さ 88
特殊能力 『熱耐性』6『気配察知』6『暗視』5『咆哮』3→4『溶解液』3→4『野生』3→4
ライフポイント ∞
特殊能力がいい感じで上がっているな。持ち物にちゃんとバックパックも記載されている。『ど根性』と『体幹』のおかげでステータスが上がっているのが、かなりありがたい。褒美でしか経験値がもらえないから、この二つが身体能力強化の要になってきそうだ。
黒虎も特殊能力が上がっている。それどころか、普通にレベル12から14に増えているぞ。俺は褒美でしか経験値が得られないけど、黒虎は敵を倒せば増えるのか。
ちょっと羨ましいが逆に考えると、黒虎は褒美で経験値が得られないってことだよな。それでも、現状維持ではなく強化されるなら御の字だ。
「希望が見えてきたな」
「ぐるぅ?」
「あ、すまん。今のは独り言だよ黒虎」
呟きに黒虎が反応してしまったか。一人で考えるときに口に出す癖がついてしまっているな。
互いの能力は把握できた。それを踏まえたうえで、第四ステージの攻略をどうするか。前回は熱耐性10あったが結局は凍死する羽目になった。
黒虎は6しかないので不安だが、俺と違って天然の毛皮を着込んでいる。普通に考えるなら、俺よりも寒さにかなり強いはずだ。普通の虎と比べて体毛がかなり長いから、保温性は高い。実際、抱きついてみたらかなり暖かかった。
そう考えると俺のほうが問題か。『熱遮断』は優れた能力だとは思うが、体力をかなり消耗してしまう。レベルが2になったことにより持続時間が伸びることを祈りたいが、それでもどれだけ耐えられるか……。
食料としては火の鳥の肉もまだまだあるから、黒虎と一緒に食べても暫くはもつだろう。バックパックの中に入っていたサバイバル用品で使えそうな物ないかね。
黒虎の背に回り、バックパックを改めて見つめると、やっぱり結構でかい。黒虎の体だから丁度いい感じだけど、俺が背負った場合、後ろから見たらバックパックに足が生えて歩いている様に見えそうだ。
って、そんな感想はどうでもいい。何かないかな……うーん、レジャーシートを体に巻いても気休めだよな。簡易コンロに常時火をつけておく。少しはマシな気がするが、そういやこれ燃料どうなっているのだろう。
簡易コンロを持ち上げて、見てみると底の方に注意書きがあった。
何々、燃料は貴方の体力です。
「はぁ」
何と言うか、燃料補充の心配はしなくて良さそうだが、『熱遮断』で体力を奪われている状態では使えないことが判明した。
「しかし、体力ってどういう仕組みだ」
こんなゲームのような世界に放り込まれて、その疑問自体が馬鹿げているが少し気になるな。まあ、考えたところで答えはでないだろうけど。
「道具の中には特になしか。後は火の鳥の肉があるぐらだしな」
さっき食べた鳥肉は欠片一つ残さず綺麗さっぱり頂いた。骨は隅の方に纏めておいたが、室内の不思議な自浄作用により消え去っている。汚れと判断すると勝手に消えていくようだ。
「便利機能だけど、こっちは必要だと思っている物まで消されないだろうな」
そんな危惧をしていたのだが、あれ……何でこれは残っているんだ?
火の鳥から大量にむしりとった羽は掃除されたというのに、長い尾羽三本だけはそのまま残っている。
「まさか、これはあの蘇りアイテムフェニッ〇スの尾では!」
某有名ゲームでお馴染みの復活アイテムがそんな名前だった。火の鳥は別名不死鳥とも呼ばれているから、そこからアイデアを貰ったアイテムなのだろう。
ということは、これを所持しておけば黒虎が死んでしまった場合蘇らすことが。そんな期待を胸に尾羽に手を伸ばすと。
「えっ、温かいぞ」
熱いまではいかないが、カイロのようにかなり温かい。これを服の内部に潜ませておけば、いけるんじゃないか。
おっ、希望が見えてきた。つまり、これが第四ステージ突破の為の必須アイテムなのか。
しかし、今まで何で気づかなかったのか。こんなわかりやすい……一回目は死体から肉をもぎ取って食べて後は放置。二回目は裸で観察力どころの話じゃなかった。今回は肉を分断して整理したから、この結果に繋がったのか。
「何にせよ、攻略の道筋は見えたっ!」
火の鳥の尾羽を腹と背中部分に当て、もう一つはバックパックと黒虎の背中の間に滑り込ませておいた。
よっし、これで第四ステージ突破だな。
俺と黒虎は意気揚々と扉の向こうへと飛び出していった。
雪が舞う光景は変わっていないのだが、今回は心に余裕があるので吹雪さえ美しいと感じてしまいそうになる。
隣に並ぶ黒虎は平然としていて、この程度の寒さぐらい余裕ですよー、と言い出しそうなぐらい余裕の態度に見える。
これなら安心だな。『熱遮断』があるので今は寒さを全く感じないが、これが切れても、この尾羽があれば、ここは耐えられる筈だ。
「じゃあ、さくっとクリアーしようか」
「ぐうーっ」
俺たちは雪を蹴散らし、吹雪の中を進んでいった。
二時間が過ぎようとしているが、驚くほど順調に事が運んでいる。
黒虎は全く堪えていないどころか、たまに雪にかじりついて食べているぐらいだ。俺の方はそろそろ体力が危険水準を超えそうなので、吹雪が弱まった今がチャンスと雪でかまくらを作って、その中に退避した。
即興で作ったかまくらだが、身体能力のおかげでそれ程、苦労はしなかった。
黒虎には少し狭いようだが、寝そべって室内の半分を占拠している。
今は寒さを全く感じないが、暖を取る準備はしておいた方がいいだろうと、簡易コンロを出して鍋に雪を放り込み、鶏肉と塩だけだがスープの用意をする。
「ちょっと『熱遮断』を解除して試してみようか」
俺は意識して発動を止めると、
「あがががががが、さささささ、ぶういぃぃぃぃ」
尋常ではない寒気が俺を襲った。
背中と懐が温かいのは温かいが、これって本当にカイロ程度じゃねえか!
寒さの余り歯が高速でカチカチと鳴り続けている。まだ出来上がっていないスープを一気に飲み干し、黒虎のお腹部分に背を預け、毛に埋まる。
黒虎は俺が凍えているのをわかってくれたようで、俺を包み込むように丸まってくれた。
うううっ、何ていい子なんだ黒虎は。おかげでかなりマシになってきた。
まだ寒いには寒いが、何とかギリギリのラインで耐えられる。かまくらが雪や風を防いで、コンロの火で室内がそれなりに温まっているのに、ここまで寒いのか。
尾羽は殆ど役に立ってないし、これはやばいな。黒虎は全然平気のようだが、俺は『熱遮断』を切った途端にこの有様だ。まだ、数十分……いや、振り絞れば一時間なら『熱遮断』を持続できるかもしれない。
だけど、その間にこの広大な雪原で扉を見つけられるのか?
時間制限が厳し過ぎるだろ。となると、またも凍死待ったなしなのか。
いいや、まだ諦めるのは早い。本当に他に何か手段は無いだろうか。役に立つアイテムはもうない。尾羽に期待しすぎていた自分が悪いのだが、他にこの寒気から身を護る術はないのか。
諦めきれずに、バックパックの中を覗き込んだところで、ふと、ある妙案が頭に浮かんだ。
「くっくっく、ははははははっ! 何で、こんな簡単なことに気が付かなかったんだ!」
こんな手段直ぐに思いつくべきだ。あまりにも死を経験しすぎて頭が固くなっているのか。
自分の間抜けさに思わず笑ってしまった。ちょっと考えたらわかる攻略法があるだろ、目の前に。
「黒虎。負担が増えるけど、頑張ってくれるかい?」
背を撫でながら、そう囁くと黒虎は嬉しそうに顔を摺り寄せてきた。
現在、雪の中を順調に移動中であります。
体が上下に揺れるが、その振動もさほど気にはならない。なんせ、寒さから解放された状態で移動できているのだから、そんな贅沢を口にしたら罰が当たる。
「黒虎、疲れたら言うんだよ?」
「ぐうーっ」
いつもより小さな返事だが、それは気にしないでもいいだろう。
自分は外の様子が見えないので、進路も黒虎に任すしかない。声が小さいのも遮られているだけだしな。
「いやー、バックパックの中って意外と快適だな」
現在俺はバックパックに膝を曲げて収納されている。
そう、答えはあまりにも簡単で単純だったのだ。料理の温度を保てるぐらい、保温性能に優れたバックパックの中なら寒くない。何故こんなことに気づかなかったのか、自分の愚かさに笑ってしまうのも無理はないと思う。
ただ、この方法は黒虎がいて初めて成立する。普通ならバックパックに入り込んだところで、移動手段が無いのでそのまま餓死を待つだけだろう。
フライパンや場所を取る荷物はバックパックの小さなポケットや、ロープで外側に括りつけている。棍は流石に重すぎるだろうと置いていこうとしたのだが、黒虎が止めたので一緒に背負ってもらっている。無茶してなければいいのだが。
何処か洞窟や休める場所があったら鳴いて知らせるように言い含めているので、見つかったら黒虎にはゆっくり休憩してもらおう。
一応ルートとしては、初めはただ真っ直ぐ進んでいたのだが、周囲には何も見当たらず方角を変更しようか迷っていると、黒虎が結構大きく吠えて知らしてくれたのだ。
『熱遮断』を発動してバックパックから顔を出すと、進路方向に巨大な山が見える。吹雪で前方が見えなかったので気が付かなかったのだが、このまま進めば山の麓に着くようなので、進路を維持している。
「山が近くなったら斜面に沿って、洞穴を探そう。あと、疲れたらいつでも休憩していいからな。それと、顔をこっちに向けて」
「ぐわうっ」
黒虎の口に骨付きの肉を差し出すと、骨ごと頬張っている。ついでに水筒の水も与えると、嬉しそうに目を細めている。頼りっきりで悪いな、もう少し頑張ってくれ。
自分だけ楽をしているのは心苦しいが、ここは甘えさせてもらうことにしよう。少しでも体力を回復しておいて、いざという時の為に控えておこう。
揺れも慣れてしまえば心地よくなってきてしまい、気が付くと俺は眠りに落ちていた。




