十三回目 2
「黒虎を仲間にしよう」
今でも俺に匹敵するぐらいの戦闘能力を有している。その点がまず大きい。更に今行き詰まっている第四ステージの雪原を黒虎がいるなら何とかなるのではないかと思っている。
黒虎も一緒にレベルが上がるのかという疑問や、そもそも特殊能力のレベルがどうなっているのか。下手したら足でまといにしかならないかもしれない。それでも、俺は黒虎を仲間にしてみたい。
殺し殺される因縁の間柄だが、奇妙な縁を感じている。
「まあ、なんだかんだ言って、気に入っているのだろうな黒虎を」
それが全てなのだろう。
迷いを吹っ切り、黒虎を仲間にする。を選んだ。
部屋の隅に寝かせていた黒虎の遺体にガラス板から流れ出した光の粒子が吸い込まれ、損傷していた箇所が見る見るうちに修復されていく。
そして、目をぱっちりと開けると体を起こし、その場に座り込んだ。
あ、見られてる。じっと、こっちを見つめる目には、いつもの殺気も感じないどころか、黒虎ってこんなに優しい目つきだったか?
顔つきも穏やかというか可愛げがある。一目見ただけで漏らしそうになる迫力は何処へ旅立ったんだ。
虎というより、大きな猫みたいだな。雰囲気が変わると、こんなにも印象が変わるのか。
「あーっ、俺のことわかるかな?」
そう問いかけると……大きく頷いたよな今。意思の疎通とあったけど、言葉も通じるのか。これは嬉しい誤算だ。
「これから黒虎と呼ぶけど、構わないかい?」
「ぐあーぅ」
返事の鳴き声も可愛いじゃないか。くそっ、猫派としてはたまらんぞ。自分を喰った相手に萌える日が来るとは。
何度も生まれ変わっているんだ、これまでの事はお互いに水に流さないとな。俺だって何度も黒虎を殺してきたのだから。
「これからよろしくな」
「ぐうーっ」
そんな甘えるようにして体をこすりつけられたら、撫でるしかないじゃないか!
喉元とか耳付近とか気持ちいいんだろ。知っているぞ、うちには猫三匹もいるからな。
「よーし、よしよしよし、ういやつめっ」
思う存分撫でくり回し、堪能できたのでその手を離した。そんな、物欲しそうな目で見るなよ。名残惜しくなるじゃないか。
はあぁぁ、殺伐として荒れていた心が癒されていく。これだけでも、仲間にしたかいがあったってもんだ。
「このままでは、クリアーへの意気込みが失せそうだから、ここまでにしようか」
欲望を封印して、俺はセーブポイントの前に立つ。
ここで初めてのセーブとなるわけか。第一ステージにはもう用はない。
「セーブ」
青い球に手を添え、そう呟くと一瞬だけ青白い光が増した。ただ、それだけだ。
これでいいのか。呆気ないがたぶん大丈夫だろう。
さっさと第二ステージに行きたいところだが、その前に確認すべきことがある。ステータスのチェックだ。今回は俺の特殊能力がどれだけ伸びたかを確認するのは二の次で、本命は黒虎の能力チェックだ。仲間になったのだから、おそらくここで見られると思うが。
手を触れると予想通り、俺のステータスの下に黒虎のステータスも現れた。
俺の能力は『棍技』『体幹』が一つずつ上がっているだけか。
さて、黒虎の能力はどうなっているのかな。
黒虎 レベル12
体力 400
精神力 200
筋力 80
頑強 60
器用 40
素早さ 80
特殊能力 『熱耐性』6『気配察知』6『暗視』5『咆哮』3『溶解液』3『野生』3
ライフポイント ∞
レベルは俺より3低いのか。ステータスは俺と同じぐらいだけど『ど根性』『体幹』で加算されているのを考慮してだから、素の身体能力は黒虎の方がかなり上だな。
特殊能力には奪える項目になかった『野生』があるな。俺の仲間になって増えたのか、それとも、奪うリストになかっただけで元々所有していたのか。わからないが、奪える能力が全てではないと思っておいた方がいいな。
そしてライフポイントの ∞ は無限って意味だよな。俺のライフポイントが尽きるまで、問題なく一緒に巻き戻ってくれるということなのだろう。
『熱耐性』が6あるなら第二階層は問題なく進めそうだ。
黒虎が充分戦力になることがわかった。そこで、悩むのが俺の『熱耐性』進化だ。『熱遮断』か……単純に効果が増強されるだけの能力なら、何の問題もないが、博打だよな。
それに進化するなら今だよな。第二ステージなら能力の確認にもってこいだし、上手くいけばレベルも上がるかも知れない。
「黒虎どう思う?」
横からガラス板を覗き込んでいた、黒虎に意見を求めてみたが首を傾げるだけだった。そりゃそうだよな。
「男は度胸!」
俺は『熱耐性』を『熱遮断』へと進化させた。今のところ違和感もなければ、新たな力を感じることもない。答えは第二階層で明らかになるか。
「行くよ、黒虎」
「がうう」
初めて一人ではなく頼もしい相棒と共に、ステージへ挑むこととなった。
マグマが流れる灼熱地獄である第二階層なのだが、全く暑くない。適温というより、熱さも寒さも感じない。これが完全に熱を遮断している感覚なのか。
後ろに控えている黒虎も暑がっている素振りもなく、余裕みたいだ。
『熱遮断』は単なる上位互換だったのか。そう結論付けるにはまだ早いな。時間制限が無いとは言い切れない。
「黒虎ここは一気に駆け抜けるよ。青いところから出ないようにね」
頷いたのを目の端で確認すると、俺は黒虎の能力を確かめる目的もあり結構本気で駆ける。素早さの数値は俺よりも黒虎の方が高かったので、ついてこられるとは思うが。
後ろへ首だけ回すと、ピッタリとついて来ていた。その走りにはまだまだ余裕があるように見える。
棍を持ちながらだから少し速度が落ちるとはいえ、走る能力なら黒虎の方がかなり上のようだ。
これまでの最高記録を塗り替え、俺と黒虎は悠々と第二ステージのゴールである扉前に着いた。ここで扉を開けて中に入ればクリアーなのだが……。
扉を開けようとしない俺を不思議に思ったのだろう、黒虎が俺の顔を覗き込んでいる。
「あ、ごめんごめん。黒虎頼みごとをしていいかな?」
「ぐうーっ」
本当にお利口さんだな黒虎は。
「これから俺は『熱遮断』の効果を確かめる為に、このラインを超える。もしも、俺が動けなくなったり、丸焦げになったら、この棍と今から脱ぐスーツと俺を扉の向こうまで運んでくれるかい?」
こくん、こくんと二度頷いてくれた。
燃えることを考慮してスーツを脱いでいくと、じっと黒虎がこっちを見ている。
他意は無いのだろうけど、人間じゃないとはいえ着替えを見つめられるとやりにくい。
「じゃあ、ちょっと試してみるよ。後をよろしく」
これが仲間になる前の黒虎だったら、自ら食べやすいように服を脱いで、美味しく頂いてくれと言っているようなものだな。
そっと境界を超えるように右腕を突っ込んでいく。
あれ? 少しも熱くないな。これって凄くないか?
そのまま、全身を境界の外に出してみるが、熱を全く感じない。これは凄いぞ。何パーセントか熱を防ぐのじゃなくて、完全に熱を遮断している。
身体を見回してみると、熱さで歪む空気と俺の皮膚との間に薄い膜のような物が見える。透明な熱を遮断する膜で覆われているって事なのか。
なら、後は持続時間と何かしらのデメリットが無いか調べておこう。
身体を動かしてみるが、問題は無い。熱が漏れてくることもないな。軽く跳ねてみるか、変化はない。ついでに道から俺を心配そうに見守っている黒虎に手を振っておく。
後は時間だな。いつでも逃げられるように構えたまま、暫く様子を見てみるか。
一分、五分、十分、三十分。体感でだが、それぐらいの時間は流れている。熱は相変わらず完全に遮断されているので快適だ。
だけど、体がだるくなってきているのがわかる。マラソンをしている時のような徐々に体力が奪われていく感覚。
つまりだ『熱遮断』は完全に熱を防いでくれるが、その代わりに体力の消耗が激しいということだろう。これは、やばいかもしれないな。前回、第四ステージを二時間以上は歩いた。だというのに雪原に終わりは無かったから。
この状態で雪原に挑むと体力が持つかどうか。かなり不安ではあるが、変更は利かないしな。何とかするしかない。
ただ、第二ステージの青い道を進んでいる分には、疲れは殆ど感じなかった。周囲の熱量によって消耗する体力に差があるということか。
まだ耐えられそうではあるけど、実験はここら辺にしておこう。
境界を越えて安全地帯へ戻ると、心配していたのだろう。黒虎がすり寄ってくる。裸なのでふかふかの毛がくすぐったいぞ。
黒虎をなだめ服を着ると棍を拾い、第二ステージをクリアーした。
第二ステージの休憩所は正直することが無い。褒美も残り一つだけになり、今はこれを選んでいいか判断が付かない。
一つ、好きな特殊能力を5レベル上昇。
これはもっと後に選ぶべきか、それとも『熱遮断』のレベルを思い切って上げるべきか。第四ステージが最後なら褒美を受け取るべきなのだが、10ステージが最後だという情報は得ている。なら残しておいた方が良い。
だけど、ここの製作者の悪意に満ちたステージを経験していると、強制的にセーブとかありそうだよな。そうなったら、褒美を残しておいたら損になる展開も……。
疑い始めたらきりがないか。そうだな、第四ステージの結果でどうするか決めよう。
「黒虎も水を飲んでおくように。俺も補給しておくから」
素直に従った黒虎が水の湧いているところから直接口を付けて、喉を潤している。
第三ステージで俺と黒虎との初めての共同作業となるのか。上手くかみ合えばいいのだけど、今はちぐはぐだったとしても、残機はたっぷりある。阿吽の呼吸で動けるようになってみせる。




