十一回目 後
「よしよしよーーしぃっ! ボス戦初見クリアーだっ! ざまあみやがれっ!」
感情を爆発させ天に向かって吠えると、高ぶる気持ちが幾分か和らいできた。
このまま勝利の余韻に酔いしれている場合じゃないな。ボスらしき火の鳥は倒したけど、まだ他に何かボス級の敵がいて罠が無いとは言い切れない。
火の鳥の炎が完全に消える前に扉の位置を確認すると、火の鳥の足をスーツの上着で包んで引っ張っていく。
ついでにまだ少し火がくすぶっている胸辺りに、ポケットに満載していた蝙蝠の死体を置いておく。良い具合に焼けてくれるとありがたいな。
火の鳥はその大きさと比べて、想像以上に軽かった。黒虎の半分もないかもしれない。
かなり楽に運ぶことが可能なのはありがたいが、思ったより食べる量が少なそうなのが残念だ。
代わり映えのしない扉を押し開くと、室内もいつもの白い部屋。
火の鳥と荷物を床に置いて、まず、部屋の隅にある洗面台もどきで、思う存分水分補給をした。
「ふううぅぅ、生き返るっ」
実際何度も生き返った俺が口にすると、別の意味にとられそうだ。
さーてと、お待ちかねのご褒美タイムか。今回は何が貰えるのだろうな。ここでの選択がまた次の戦いへと繋がるから、気を引き締めないと。
俺はいつものように左側のガラス板へ触れる。
――まさかの第三ステージクリアーおめでとう。キミがどういった人間なのかわからないが、余程頭が切れるか、運動神経が優れているのか、どちらにしろ、かなり優秀な人材なのだろう。このステージでもキミへの褒美を用意しているので、選んでくれ。
一つ、第三ステージで倒した敵の経験値。
一つ、火の鳥の特殊能力を一つ、奪うことが出来る。『発火』『火操作』『熱耐性』『回復力』
一つ、背負い袋を与える。(中に入れた物は破損することなく、激しく揺らしても荷崩れもしない。保温性が高く食材や料理の温度を一定に保ち、物が劣化しにくくなる。武器と同じく時間が巻き戻った際も手元に残る)
一つ、何か一つを元の状態へと戻す。
一つ、キミが何故、この場所に居るのかという疑問に答え説明する。
一つ、ライフポイントを5回復。
今回はかなり多いから時間を掛けて選択してくれて構わない――
項目増えすぎだろ。下の二つはいつもの奴だからいいとして、他か。
経験値もわかる。特殊能力を奪えるのも黒虎で学んだ。
背負い袋を、このタイミングで持ってくるのか。一個あったら、かなり便利だよなこれ。物も壊れないし、保存も利くなんて、取れと誘っているようなものじゃないか。
あとはこの……何か一つを元の状態へと戻す。というのが気になる。これって、何か大事なアイテムを壊したり、使いきった時の為にあるのか。今は関係なくても終盤に重要になりそうだ。
「今回も悩ませてくれる」
といっても初回の選択肢は二つに絞られる。経験値か背負い袋の二つに。
妥当なのは経験値だ、これは間違いない。
ただ、背負い袋があると食料問題が一気に片付く。第二ステージや移動の際の面倒が減るとなると……でもなあ。
胡坐をかいたまま床を転がり、悩みに悩んだ挙句、経験値を選んだ。
レベルアップの感覚も三度目となると我ながらリアクションが薄い。兎に角、まずはステータスだ。
山岸 網綱 レベル15
体力 45+50
精神力 53+50
筋力 44+10
頑強 45+10
器用 39+10
素早さ 37+10
特殊能力 『根性』10『熱耐性』7『石技』3『気配察知』4『暗視』4『棍技(我流)』3『体幹』2『咆哮』2『野生』1
ライフポイント 89/100
持ち物 特製石棍(不壊)
レベルが5ずつ上がるのが決まり事なのか。やっぱり平均して10ぐらい上がっているな。また後で体を馴染ませておかないと。『体幹』の効果も大きいな。
特殊能力も上がりがいい。『気配察知』『暗視』は第三ステージで活用したから一気に2も上がっている。後は特筆すべき点は……何か見えた気もするが気のせいだろう。『野生』なんて特殊能力はなかった。
「はぁ……生食のせいかな」
蝙蝠の皮を素手で剥いで食ったのが取得のきっかけだったのか。それとも戦闘中に手が塞がっていたから、頭から丸かじりしたのが原因か。どちらにしろ、悪い能力ではないと願いたい。
いつもならここで話は終わるところだが、今回は一つ気になるところがある。『根性』なのだが、これだけ何故か黄色く変色している。他の文字は赤だというのに。
「考えられるのはカンストか」
つまり、この特殊能力は限界まで上がりきったということを表している。その他に思いつくのは、良くある流れだと――進化。
能力を極めると更に上の能力へと進化できる。ありがちだが、ここはゲームじみた世界だ、可能性は低くないよな。
恐る恐る黄色くなった『根性』という文字に触れると、頭に言葉が浮かんだ。
――根性をど根性に進化させますか? はい いいえ――
やっぱり、こうきたか。これは進化させるべきだが、進化するとレベルが下がって序盤弱体化するというのはゲームあるあるネタだ。最終的には強くなるけど、レベル上げが面倒だったりするからな。
でも、他の特殊能力もいつか進化する時が来るだろう。今の内にどういった変化をもたらすのか知っておいた方が良い気がする。
「悩むだけ無駄か。進化するぞ」
脳内で、はい、を選択すると『根性』10の文字が発光して『ど根性』1へと変化した。
ステータスを確認すると体力、精神力のプラスが100に増えている。お、普通に強化されているぞ。このパターンだと『ど根性』はかなりレベルが上げにくいのかもしれない。
今回の一件で特殊能力の進化が学べたのは大きい。他の特殊能力も更に上位の能力へ変化させられるようにしないとな。
次のステージに向かう前に強化された身体を慣らし、休養も充分に取った。火の鳥の肉も確保済み。水も補給完了。
「じゃあ、第四ステージ行きますか!」
勢いよく開け放った扉の先は、一面の銀世界だった。
アルプスの山々を連想させるそそり立つ峰。顔面に容赦なく叩きつけられる大粒の雪。足元は何もかもが雪で埋まり、真っ白だ。
「寒ううぅぅぅ」
今度は氷責めかっ。『熱耐性』があるというのに尋常ではない寒風が肌を刺し、寒さの余り歯がガチガチとなり続けている。
「やばい、やばい、やばい!」
これは速攻で凍え死ねる! 手にしていた火の鳥の肉を齧りながら、俺は駆け出した。物を食べて内部から燃焼を促し、動くことによって体を温める。これしか方法が無い。
膝上まである雪に足を取られ歩みは遅いが、突っ立っていたさっきよりは、かなりマシだ。脂肪やエネルギーを燃焼しているだけなので、体力が尽きたところでこの作戦は終了なのだが、他に手段は無い。
って、さっきも同じこと考えたような。ダメだ、頭に霞がかかって思考力が落ちている。
吹雪が酷すぎて前は見えない。体の動きはだんだん鈍くなってきている。まるで水の中を進んでいるかのように体が重い。
「はあ、はあ、はあ」
吐き出される息は白く染まっている。息を吸うだけで、体の内部から凍らされているかのような痛みが、徐々に浸透してくる。
既に手足の感覚は無い。前へ進んでいる、と、思う、けど、吹雪で、押さ、れて。
駄目だ。寒い。冷たい。眠い。
これが綿なら飛び込んで寝たら……気持ちいいよな。
あー、凄く、眠い。何で、こんなに……眠いんだ……。




