十二回目 前
「おはようございます」
さっきまで良い夢を見ていた気がする。
まさかの凍死エンドとは。灼熱地獄の後に極寒地獄をもってくるとは、マジで鬼畜仕様だなここ。
スタート地点も結構寒かった筈なのだが『熱耐性』のおかげで全く寒くない。でも、あの雪山には通用しなかった。『熱耐性』のレベル上げと、寒さ対策を考えないとダメか。
さて、いつものようにサクッと抜けるか。
扉前の黒虎を一撃で葬り、死体を持って休憩所に入る。そして、準備。ここら辺は完全に流れ作業だ。
まだ、無抵抗の黒虎を殺すことには慣れない。このもやっとした感覚はずっと残り続けるのだろう。納得のできない、ただの虐殺行為を認めたくない心はきっと間違えじゃない。
さて、第一ステージの褒美は残りわずかだ。『溶解液』もしくは状況の説明かライフポイントの回復。『溶解液』以外は別のステージクリアーの褒美で選べるから、必然的に『溶解液』を選ぶべきなのはわかっている。
「でもなあ、これ胡散臭い」
この特殊能力から地雷臭がする。罠の気配がビンビンしてくる。
特殊能力の全てが自分にとってプラスに作用する能力とは限らないよな。得たことによって足を引っ張るスキルがあってもおかしくない。
ゲームで例えるなら、脱出ゲームやサウンドノベルといった選択肢が多いゲームにありがちな罠。選んだが最後、どう足掻いてもエンディングに辿り着けなくなるアイテムの存在。
そんな感じに似た印象を『溶解液』から受けるのだ。
となると――キミが何故、この場所に居るのかという疑問に答え説明する――を選ぶべきか。ただ、この答え如何によっては、ここを抜け出そうという強い意志が萎える可能性も考慮しないといけない。
実はクリアー不可能に設定しているという暴露や、もう何もしたくないと思わせるぐらいに心へ影響を与える情報が提示されたら、俺はどうしたらいいのか。
何があっても、何を知っても俺は心が折れないと……断言できるのか?
自問自答を繰り返すが、答えは出ない。出るわけがない。
ここまで何度も死んで、絶望は嫌という程、味わってきた。それでも、前へ進めるのは、ここから抜け出すことを諦めていないからだ。
「信じよう、自分をっ!」
俺は、疑問に答える。を選択した。
ガラスの板に浮かんでいた文字が一新され、青い文字が浮かんでくる。その文章を初めから、読み漏らすことが無いように目で追っていく。
――これを選ぶなんて知的好奇心が旺盛なのか、もしくは必要だと思う褒美を取りつくした後なのか。どちらにせよ、これを選択したキミには全てではないが情報を提供しよう。
まず、ここは何処なのか。とある施設だ。それは迷宮、訓練所、実験施設、遊技場、どれでも好きに呼んでくれていい。我々……そうだな、四名は各々で作り出した場所に人を何人も放り込んできた。直ぐに絶望して死を求める者もいたが、キミのように抵抗してクリアーを目指す者も多くいた。
今までここをクリアーした者は存在する。最後まで辿り着いたらキミを解放することを誓おう。もう我々が干渉することは無い。
それだけではなく、我々が実行可能なことであれば一つ願いを叶えよう。富、名声、女、ロマン、何でもありだ。
他に提供できる情報としてはこのステージは10ある。キミは幾つクリアーした後なのかはわからないが、残りも頑張ってくれ。
何故、キミが選ばれたのかそれにも答えておこう。理由は無い。ランダムに無作為に選んだうちの一人がキミだ。これは運がなかったと諦めてくれ。
今提供できる情報はこれぐらいだ。今後も頑張ってくれ。応援している。以上だ――
肺に溜まったものを全部吐き出す。そして、新鮮な空気を取り込んだ。
怒りは無い。だいたいは予想通りだったから。
ここをつくった四人が何者かは知らないが、クリアー可能なことがわかればそれでいい。今はその情報だけで満足だ。
「行こう」
俺は黒虎をいつものように焼くと、今度は丸焼きを背負って第二ステージを進む。
結構な重さはあるが、今の実力なら難しいことじゃない。
前回よりかは時間がかかったが、特に問題もなく第二ステージの終わりを告げる扉の前に辿り着いた。
ここで休憩所に直ぐさま入る気はない。荷物を全部扉の前に並べ、スーツ、下着まで脱ぐと、俺は青い道の境界線ギリギリまで進んだ。
ここを超えればすぐさま引火するレベルの熱が襲い掛かってくる。以前の俺なら即死は免れない。だが、今の俺ならどうだ。『熱耐性』を7レベルまで上げた今なら、耐えられないか?
これが無謀な挑戦だということは理解している。扉の前にいるのは、死ななければ回復できるという休憩所を利用する為だ。俺だってこんなことはしたくないが、今のままでは再び凍死する未来しか見えない。
無茶でもなんでも、やってみて『熱耐性』を上げるしかない。それでも無理だった場合は、次の褒美にあった特殊能力のレベルを5上げるのを使って、レベルを上げることも考慮しないといけない。
大きく深呼吸を繰り返し、まずは右手を境界へ近づけていく。
指先が境界を越え、熱さというよりは痛みと表現すべき大気が指先を炙っている。
「ぐっ」
一気に肘先まで突っ込み、更に左腕も同様に境界の外へ出す。かなりきついが、無理じゃない。息を止め、俺は意を決して命を守るラインを越えた。
ぶわっと全身が炎に包まれたかのような感覚に身の毛がよだつ。いや、身の毛は全てもう燃え尽きているのではないだろうか。
瞼を開くわけにはいかない。その瞬間に眼球の水分が蒸発して、盲目になってしまうだろうから。
自分の皮膚が焼けていくのがわかる。夏の日差しにじりじりと焼かれるのではなく、直火で焼かれている。
熱くはない、ただひたすらに痛い。
どれぐらい耐えた、俺はまだ動けるのか。
息も限界に近くなり、俺はそこから逃げ出そうとしたのだが、体が動いてくれない。火が体内まで浸透して、運動機能がマヒしてしまったのか!?
一歩下がるだけで、そこから逃れられるというのに体が関節が力が入らない。
だが、それが功を奏してくれた。膝の力が抜け、屈みこむような形になった俺はバランスが崩れ後方へと転ぶ。
た、助かったのか……いや、まだだ。このままじゃ、死んでしまう……。
幸運にも死から逃れられた俺は死力を振り絞り立ち上がると、倒れ込むようにして扉を開け、休憩所へとなだれ込んだ。
気が付くと俺は休憩所の床にうつ伏せで寝ていた。
助かったのか。実感はわかないが、首の皮一枚で生き延びたようだ。
やはり、無謀すぎた挑戦だったが、その成果はあったと信じたい。俺は祈るような気持ちでステータスと特殊能力を確認すると、そこには、
山岸 網綱 レベル15
体力 45+200
精神力 53+200
筋力 44+10
頑強 45+10
器用 39+10
素早さ 37+10
特殊能力 『ど根性』2『熱耐性』10『石技』3『気配察知』4『暗視』4『棍技(我流)』3『体幹』2『咆哮』2『野生』1
ライフポイント 88/100
持ち物 特製石棍(不壊)
命懸けの成果が表示されていた。
『熱耐性』が10に届いた! これで光明が見えてきたぞ。黄色の文字で表示されているということは、進化が可能だということだな。
進化するかどうかは慎重に選ばないといけないが、何に進化するのかは確認しておくべきだろう。
文字に触れると頭に直接浮かんできた。
――『熱耐性』を『熱遮断』に進化させますか? はい いいえ――
遮断ときたか。今は間違えないように、いいえを一先ず選択しておこう。
でだ、どうするか。耐性はそれに対して強くなることだよな。遮断は遮って通過させないということだ。上位互換としては理解できる。
ただ、これは選択を間違えると死を招く。熱を防ぐ効果が上がるのであれば『熱遮断』へ進化させるべきだ。だが、デメリットは無いのか。
考えられる最悪の展開としては、熱を完全に遮断するが、その効果は常時発動しているわけじゃなくて意識して発動させないといけない。その代わり使用回数と時間制限がある。レベルが上がれば、使用回数と持続時間が増える。
こうだったら、もう取り返しがつかない。
「こりゃ、保留だな」
進化はいつでもできる。だったら、第三ステージをクリアーしてから考えればいい。今はここでの褒美を選んで、第三ステージに挑むことを考えよう。
ここでの褒美で残っているのは何だったか、ええと。
一つ、好きな特殊能力を5レベル上昇。
一つ、ライフポイントを5回復。
あー、これだけしか残っていないのか。どうしよう。
特殊能力上げは本当に行き詰ったときに保険として取っておくべきだ。じゃあ、ライフポイント5回復か。あって損は無いからな。
残り88だった数値が93まで戻った。死ぬ前提は勘弁したいが、でも、かなり余裕ができた。
「取る物取ったし、次行きますか」
さてと、そろそろ現実を受け入れようかな。
扉に手を触れる直前、俺はその手を止め、視線を自分の体へと移す。
ここに来るまでとは比べ物にならない、筋肉質の体になったな。腹は六つに割れているし、大胸筋の盛り上がりなんて男の憧れだろう。鏡があれば全身を映して、背筋も見てみたいぐらいだ。
「いやー、俺の美ボディーが良く見える……全裸だからな!」
そう俺は今、素っ裸だ。服も装備品も一つもない、産まれたままの姿だぜい!
「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ」
やってしまったー! 生き延びることに必死で拾う余裕が全くなかったよっ!
お肉もなければ、スーツも下着も、棍もない!
今から蝙蝠と戯れた後に火の鳥の相手もしないといけないというのに……裸に素手って。完全にギャグだろこれ。
「はあああああぁぁぁぁ」
ため息と一緒に魂がこぼれ落ちそうだ。今までにない、嫌な絶望感だぞこれ。
それよりも、これで武器は完全消滅になるのか? いや、流石にそれはないよな。あの説明には確か、死に戻りをしたら手元に戻るとかどうとか書いていた。
つまり、死んだら帰ってくるということか。死亡前提でやるのは、いつものことといえばそうだけど、もうどうしようもない。開き直ろう。
「山岸 網綱。裸で特攻します!」




