エピローグ 前
視界が揺れている。青一色に染まった世界。光は射しているようだが……どういう状況なんだ。指は動く、声を出そうと思ったが口内が粘り気のある液体で充満している。
それだと呼吸ができなさそうなものだが、何故か苦しくもない。
プシューと炭酸飲料のキャップを開けた時のような音がして、視界を埋め尽くしていた青が消えた。体を包んでいた違和感も消え失せ、俺は上半身を起こす。
どうやら、俺は半透明の青い液体の中に沈んでいたようだ。それも全裸で。
寝転んでいたのは俺がすっぽり入れる、ガラス張りのラグビーボールを巨大化させたような入れ物。SF物の映画やゲームで長い眠りから覚めた人が、入っているコールドスリープ用のベッドに似ているな。
「まさか、杉矢が正解を言い当てていたのか?」
彼は宇宙人が仕組んだことだと荒唐無稽なことを口にしていたが、それを笑えない状況だぞ。
周囲を見回すと壁と天井が見えない巨大な空間で先は漆黒の闇が佇んでいる。その他には、俺が寝ていたSF風ベッドがずらりと並んでいる。その数は数万ではきかなそうだな。
ベッドは謎液体で満たされていて、その中には老若男女問わず全裸姿で眠っているように見える。ますます、それっぽい感じだ。
ベッドの蓋が開いているのは俺だけと思っていたのだが、よく見ると幾つか同様に蓋が開いている。そこから上半身を起こし、さっきの俺と同じような行動をしている人が四人いた。
「なんだここ? ってか、何で全裸なんだ。おいおい、変なことされてねえだろうな」
「うるさい。こんな状況でも騒がしいのか」
「え、あれ、はい? クリアーしたのですよね?」
「な、な、何で、クリアーして生き残った……」
その四人は剛隆、零士、明菜さん、拠点で調理担当をしていた女性だった。
みんなも無事だったか。この状況なので素直には喜べないが。あと、探索側の人数が何人か足りていない。兎も角、声を掛けておこう。
「みんな、無事だったか」
「おおおう、網綱か! ってことは、クリアーしたのか!?」
興奮して暴れている剛隆が液体を撒き散らし、ベッドから身を乗り出して叫んでいる。
他のみんなも俺の存在に気づいたようで、喜びに顔が緩むが、女性陣は自分たちの状況を思い出し、慌てて胸元と下半身を手で隠している。
「ああ、何とかラスボス倒したよ」
「おおおおおおおおおおっ! マジかああっ!」
「そうかっ、そうか」
「流石ですわ網綱様! 明菜は信じていました」
「やったぁぁぁ……生き延びた、クリアーしたんだぁ、よかった、よかったよおぉぉ」
多種多様な喜び方で感情を爆発させている。手放しで喜べるような状況ではないが、それでもクリアーしたという達成感と解放感に感情が抑え切れないでいる。
彼らが落ち着くのを待ち、話を続けることにした。
「今の状況なんだけど。まずは、みんな服を着ようか」
さっき気づいたのだが、ベッド脇の鋼色の床にスーツが畳まれて置かれていた。これは、このふざけた世界に転移させられた時に着ていたスーツ一式で間違いない。
液体が満載されているベッドから出たのだが身体が重い。第十ステージでの身体とはまるで別物のような、違和感がある。
今までの事が夢で、あの世界で鍛えられた身体も能力も全てが幻だった――わけではないか。以前と比べたら確かに体が鈍いが、日本にいた頃とは比べ物にならない力強さを感じている。
女性の着替えを見ないようにしながらスーツを着込むと、炎を出せるか試してみる。
「でるな……」
以前と変わらず、自在に炎を操ることが可能なようだ。特殊能力は変化がなく、身体能力が落ちているということか。意味不明だな。
全員が着替え終わり、ベッド密集地帯の一部に何もない開けた場所があったので、そこまで移動した。
剛隆は手甲が無いだけで、格好は前と同じだ。
零士は学生服姿に戻っている。
明菜さんはタートルネックのセーターに短パン。
もう一人の女性はスーツ姿だった。
全員が転移させられた当時の格好のようだ。武器は誰も所有していない。バックパックも存在しない。
となると、さっきまでの体験は全て幻覚、疑似体験でもさせられたと考えそうになるが、そうすると、炎や体に漲る尋常ではない力の説明がつかない。
「でよ、ここは何処なんだ? 最近観た映画でこんな場面見た覚えがあるぞ」
「ああ、俺も見たな。確か世界の滅亡が確定して、多くの人がコールドスリープ状態で巨大な宇宙船で飛び立つ話だったか」
「あっ、私も見たことありますわ」
「今年大ヒットした映画だよね。三回観ました」
テレビでやたらCMしていたあれか。俺は観てないが、友人が面白いから観ろってしつこかった。彼らの言う通り、映画のワンシーンでありそうな光景だ。
やはり、これはSFの展開なのか。宇宙船か未来の地球なのかは不明だが、こんなものを見せられたら否定はできないよな。
「イエ ソウデハアリマセンマス」
突如響いてきた声に身構えるが姿は見えない。他のメンツも、ここまで生き延びた猛者だけあり、表情が一瞬にして真剣なものになり、さっきまでの和気あいあいとした空気は霧散している。
「警戒シナクテモヨイデス 危害ハ加エマセンマス」
信用できない事を話す、無機質な抑揚のない機械音声のような声。その声の源は……先の見えない闇の中から聞こえる。
かつん、かつん、と地面を踏みしめる足音が、規則正しいリズムを刻んでいる。徐々に音が鮮明に大きくなり、対象が近づいてきているようだな。
相手は一人、気配は感じない。闇の中から現れた小さな点だったものが、ゆっくりと近づき姿が明らかになった。
それは白衣のコートを着た――マネキンだった。鼻と口は存在しているが髪はなく、目は少し陥没している程度だ。肌は白、胸元に膨らみがあるので一応女性型だろう。
「クリアーオメデトウゴザイマス。詳シイ説明ハ、コチラデオコナイマス。ツイテキテクダサイマス」
話しているのに口が一切動いていない。何と言うかロボットかね、これは。本当にSFじみてきたな。
こちらの返事も待たずに、白衣マネキンは背を向けて歩きだした。
「どうするよ、網綱」
「ついていってみようか。今は情報が少しでも欲しい。もちろん、油断せずに警戒はマックスで頼むよ」
全員が静かに頷いている。初めは少し焦りがあったが、即座に状況に適応しているのは流石だな。辺りを観察しながら、罠があった場合直ぐに動けるよう心構えはしておく。
このカプセルベッドは何個あるのか。千、いや万でも足りるか怪しい。
永遠に続くと思われた空間だったが終わりが見えてきたようだ。闇ではなく壁が進行方向に現れたからだ。視界の端から端まで鉛色の壁で埋まっている。見上げて見るが、天井は相変わらず見えない。
ドーム何個分なのだろうか。天井も山より高そうだ。壁に小さく穴が一つ空いているが、どうやらそこから通路になっているようで、白衣マネキンもそこを目指しているのか。
普通ならクリアー後に罠というオチはないが、そんなゲームの常識が通用する相手じゃないだろう。いざとなれば、こいつの身柄を押さえて情報を聞き出すことも考慮しておくか。
「ところで、零士。他のメンツはどうなったんだ」
答えはわかりきっていたが、万が一を期待して問いかける。
途端、零士たちの顔に影が落ちた。その表情が答えを雄弁に語っている。つまり、そういうことなのだろう。
「殲滅側がもう一人こっちに潜んでいてな、おまけに相手は紫の沼地から採取した泥が詰まった袋を投擲してきて、喰らうと1ライフポイントを削られる厄介さだ」
「何とか庇ってやりたかったんだが、数少ないライフポイントを一気に消耗して、消えちまったよ」
剛隆が後を継ぎ、説明をしてくれた。それ以上は話す方も辛いだろうと、黙って黙々と歩を進める。
白衣マネキンに続いて通路に入ると、真っ暗だった通路の上部に光が灯った。ここは幅、高さ共に4メートル程度で、壁と同様に地味な色彩をしている。
「っと、動く歩道かよ」
「何と言いますか、ファンタジー感が急に消滅しましたわ」
通路の床が突然自動で動きだし、自分で歩く必要が無くなっているが、白衣マネキンが歩いているので従うことにした。
五分程度で通路は終わりを告げた。通路の行き止まりかと思ったのだが、すっと壁が横にスライドした。その先は今までの薄暗い空間と違い、光に溢れている。
ここで怖気づくほど、やわな経験はしていない。俺を先頭にして、その部屋へと足を踏み入れた。
そこは、そこそこ大きな円形の部屋で、壁一面に無数のテレビのようなモノが埋め込まれ、その画面の全てに様々な映像が映し出されていた。
灼熱の溶岩が流れる川。吹雪により白一色となった平原。巨大な木々が生え揃っている密林地帯。巨大な水溜り。
「これは、今までのステージなのか」
「はい、そうですよ。ここでプレイヤーの皆さんを管理、ダンジョンの設定をしています」
さっきまで誰もいなかった、無数のディスプレイの前に一人の女性が突っ立っていた。
白衣を着込み、その下は黒の全身タイツという歪な格好。マネキンと違い人間の顔が存在している。薄い緑の髪に桃色の小さな唇。目が大きく見えるのは黒縁の眼鏡の度数が強いからかもしれない。
年齢不詳の可愛らしい顔つきだが、どうにも違和感がある。人間のパーツは揃えているのだが、リアルな人形というかCGのようだ。おまけに、気配が存在しない。
「貴方は誰ですか」
詰問口調で迫る気はない。基本丁寧な対応をして、相手から情報を引き出すことが最優先だ。
「私は製造番号001です。貴方たちの世界で言うところの、ロボットや魔法生物、アンドロイドのようなモノです」
貴方たちの世界か。ということは未来の地球という展開ではないようだ。となると、謎が深まるな。
「さて、何から説明いたしましょうか」
「そうだな、ここが何処で、何が目的でこんなことをさせたのか。そして、本当に何でも一つ願いをかなえてくれるのか、それを教えて欲しい」
他にも質問はあるが、全員の気になるポイントはここだろう。これを知らない限り、前に進めない気がする。
「はい、了解いたしました。まず、この世界はラースフォーディルという異世界です」
異世界物だったか。ここはSF感たっぷりなのに、その割にファンタジー色が濃かったのには何らかの理由があるのか。疑問は尽きないが、まずは相手の話を聞き逃さないようにしよう。
「ここは皆様の世界で言うところの、科学と魔法が発達した世界です。魔法と科学が共存することにより世界は留まることなく発展していきました。ラースフォーディル人は老いと寿命さえも克服し、不老の存在となりました」
長い話になりそうだ。苦手なのはわかるが、剛隆欠伸をするな。
「勤勉なラースフォーディル人は永遠の時の殆どを、勉学と技術の発展に費やしていたのですが。何百年と生きている間に飽きてしまったのです。そこで、何か別の生きがいを求めたのですが、彼らには娯楽という文化がありませんでした」
ぞっとする人生だ。永遠に学ぶだけの生なんて普通の人なら発狂するぞ。俺なら数年ももたない自信がある。
「そこで、彼らはこう考えました。わからないのであれば、そういった文化がある世界の住民から学べばいいと。魔法と科学を活用して、異世界へ転移できる魔法陣を制作しました。そして、ラースフォーディル人と出来るだけ似た身体構造をしている生命体のいる地球に代表者が転移したのです」
呼び寄せたのではなく、初めは自ら赴いたのか。
「ですが、何年待とうと彼が戻ってくることはありませんでした。続いて二人目を送り込んだのですが、彼も戻ってきませんでした。そこで、こちらから送り込むのではなく、地球の生命体をこちらに呼び寄せる方針に変更したのです。そうして、初めての地球人がこの世界にやってきました。年齢は22、家を守る仕事に従事している方だったそうです」
それは、自宅警備員の事では……。
「彼を呼び寄せて、送り込んだ二人が戻ってこなかった理由が判明しました。彼を呼び寄せた際に、地球の大気も流れ込んできたのですが、そこには魔素が存在していませんでした」
「あのさ、魔素って何だ?」
何となくそういうものだろうという認識はあるが、正確な情報を知りたかったので剛隆の質問はありがたい。
「こちらの世界では大気に含まれている成分です。ラースフォーディル人はそれがないと生きていけないのです。話を戻しますね。召喚された地球人は魔素の充満するこの世界にすぐさま適応しました。それどころか身体能力が急激に上昇したようです。そんな彼から、様々な娯楽についての情報を得ることができました。スポーツ、ゲーム、漫画、アニメといった文化が世界中に広まり、人々は永遠の時を退屈せずに済んだのです」
何だろう、その地球人の軽率な行動がフラグにしか思えない。
「数百年の時が過ぎ、この世界で最も流行していたのは疑似世界で別人になりきり大勢の人間で遊ぶゲーム……皆様の世界で言うところのVRMMOでした。ラースフォーディル人は老いから逃れることと引き換えに、生殖機能を失いましたので死を極端に恐れたのです。そこで、何をしても死ぬことがなく、思う存分身体を動かせる疑似世界での遊びが急激に広まったのです」
なるほど、納得はいくな。老いることはなくなったとはいえ不死ではない。傷つくことを極端に恐れても不思議ではない。
「遊ぶ側も、世界を作ることにハマる人と、プレイして楽しむ側に分かれました。時間が無限にあるラースフォーディル人は元々勤勉なこともあり、どんなゲームも直ぐに適応して、簡単にクリアーする人が殆どでした。制作側はそれが面白くなく、難易度が日に日に増していき、誰もがクリアーできないゲームが誕生しました」
何と言う悪循環。つまり、ガチのゲーマーに煽られて、ゲーム開発をしている会社が馬鹿みたいな高難易度のゲームを作ったって事だよな。
「そうすると、プレイしている方は面白くありません。どうやっても、クリアーできないことに苛立ちを覚えたラースフォーディル人は禁断の行為に手を染めました。自分たちが無理であるなら、自分たちよりも高位な存在を呼び出し代わりにさせればいいと」
「ちょっと待て、それは、どう考えても無謀だろ。ラースなんたら人は知能が高い設定なら、そんな馬鹿でもわかることを思いつかないとは……」
「仰る通りです。ですが、殆どの人が千年以上の歳を経て、争いや危険なこととは数百年無縁でした。危機管理能力が著しく低下していたのです。そうして、強力なナニかを呼び出してしまいました。ソレは、初めは従順で協力的でした。ラースフォーディル人に化け、彼らの代わりにゲームに興じ、高難易度のゲームを次々とクリアーしたのです。そうなると面白くないのは制作側です。制作側は全員が協力して、現実と変わらない疑似世界の高難易度ダンジョンを作り出し、ソレに挑戦状を叩きつけました」
壮大なようで、くだらない話だな。結局はゲームの揉め事ってことだよな。まだ話の途中だというのに、ムカついてくる。
「そこで、ソレは正体を現しました。ラースフォーディル人とは比べ物にならない膨大な魔力を撒き散らし、世界中の人々の脳に直接語り掛けたのです「そんなに面白いゲームがしたいというのなら、この世界を高難易度のゲームにしてやろう!」と。世界中に化け物が溢れ、空は闇に覆われました。彼らはそこでようやく知ったのです、ソレが異世界で享楽を司る不死の邪神と呼ばれる存在であることを」
「バカじゃねえか」
剛隆の簡潔な感想に仲間が全員頷く。この世界の住民の壮大な自爆。自業自得もいいところだ。
「そうですね。我がマスターも同じことを口にしていました。邪神は世界の中心部に巨大な塔を建造して、内部をダンジョンとしました。そして「最上階まで到達できれば、我はこの世界から立ち去ろう」と告げたのです。既に人口の98%が死に絶え、僅かに生き残った人々は地下のシェルターへ逃げ込んでいました。皆様が目覚めた場所とこの場所も地下シェルターの一部です」
ああ、ここは元々ラースなんたら人の地下シェルターだったのか。ということは、あのカプセルの中は日本人だけじゃなく、現地人も含まれていたのだろうか。
「そこで生き残った人々は考えました。地上は巨悪な魔物が闊歩していて、今の我々では太刀打ちができない。そこで、疑似世界を作り出す装置に目を付けたのです。これで、戦闘経験を積み、身体を鍛え上げてから邪神のいる塔に挑めばいいと。だが、それも問題点が浮き上がりました。どれだけ疑似世界で経験を積もうと現実に戻れば、鍛え上げられた肉体はなく貧弱なままだったのです。当たり前と言えば当たり前なのですが」
「夢やゲームの世界で活躍しようが、現実に反映される訳がない。本当にラースフォーディル人は知能が高かったのか?」
零士は感情が一切感じられない冷たい口調で吐き捨てる。話を聞いている限り、このラース人は勉強はできるが応用が利かないというか、頭が固い。天才ではなく秀才の集まりといった感じがする。
「これも平和ボケしすぎていて、危機に関して鈍くなりすぎていたことが大きな要因だったようです。あと、あまりに疑似世界に浸り過ぎていたので、虚構と現実の境目が曖昧になっている人が大半だったようです。ですが、収穫もありました。この世界には魂技と呼ばれる力があります。皆様には便宜上、特殊能力という呼び名で統一していましたが」
特殊能力の正式名称は『魂技』というのか。
「魂技は生まれつき所有している場合もあれば、後天的に覚えることもあります。ただし、魂に刻まれる技能なので、そう簡単に覚えられる物ではありません。生命の危機に遭遇した場面や、魂が極限まで高ぶった時に目覚めると言われていました。その魂技だけは疑似世界での成長も現実世界でも反映されたのです」
自分の体の違和感と特殊能力が今も使える現状。その理由が見えてきた。
「そうして、魂技を磨き多くのラースフォーディル人が塔へと挑んでいきました。ですが、誰一人として帰っては来ませんでした。日に日に人が減り続け、もう、塔へ挑む人員が尽きかけていたある日、一人の研究者がある提案をしたのです――人がいないなら、異世界から呼び寄せればいいと」
「それが、俺たちというわけか」
「その通りです。日本人を呼び寄せ、ラースフォーディル人が創り出した最高傑作であるダンジョンに放り込み、彼らを育て上げ手駒にしようと思ったのです。都合のいいことに、以前、日本人を呼び寄せた時の装置が残っていましたので、改良を加える程度で済んだそうです。魂技は命の危機に反応して目覚めることを利用して、ここが疑似世界ではなく本物の世界のように思いこませました。彼らの目論見は思ったよりも上手くいき、現地人よりも遥かに優秀な人材の育成が可能となったのです」
「つまりなんだ、俺たちはラース人とやらの代わりに戦わされる駒ってことか!」
怒りを隠そうともせず、剛隆が怒気を噴き出す。感情を抑える為に噛みしめている歯からギリギリと音が漏れている。
「剛隆、わかるが、まだ堪えてくれ。肝心な話が終わっていない。疑似世界というのなら、強制参加させられた日本人は全員死んでいないのか?」
ここが重要なポイントだ。これが全て最悪な夢というオチで、全員が助かるのであれば、今までの行いを許す気はないが、こっちの対応も変わってくる。
「死んではいませんが、生きることは不可能です」
「意味がわからない。良く考えて口にしろよ。お前らを八つ裂きにしたい気持ちを何とか抑えているのだからな」
「失礼しました。この疑似世界を維持するには大量のエネルギーが必要となるのです。そのエネルギーを召喚した人々と、現実逃避をされて眠りについたラースフォーディル人から吸収しています。故にクリアーできなかったプレイヤーは即座にエネルギー源となります。死んではいませんが、生きてはいない状態。無理やり、起こすと精神に異常をきたす可能性が高いです」
あのカプセルの中には日本人だけではなく、全てを諦めた現地人も眠っているのか。
「お前ら、俺たちを電池とでも思っているのかっ!」
「まだだっ、まだだ、剛隆」
跳び出しそうになった剛隆を手で制す。気持ちは痛い程伝わってくる。だが、まだ、もう少し待ってくれ。
「あんたならそれを解除できるのではないか?」
俺の疑問に001は首を横に振る。
「申し訳ありませんが、この設定はマスターの命令がない限り解除できません」
「じゃあ、マスターか現地人の誰かを呼んでくれ。直接交渉がしたい」
「ラースフォーディル人はカプセルの中で平和な疑似世界へ旅立ちました。無理に起こせば精神に異常をきたします。それに、マスターはここにいらっしゃいません。このダンジョンの出来に感心した邪神の手により連れ去られてしまいました。塔の強化と整備を手伝わす為に、数百年も前に」
その答えに俺たちは息を呑むだけで、誰も口を利くことができないでいた。




