表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法に永遠を  作者: にこだ
第二章 罪と呼ばれた魔法、終わりの「約束」に続く道標
PR
37/37

第三十六話「七十七日目」

「じゃあ昨日の魔力制御を生かして、今日は実際に魔法を使ってみよう!」


今日エーレは他の仕事でおらず、庭には俺とカイトだけ。

一冊の魔導書を渡され、表紙にはしっかり「初心者向け」と書かれていた。


「あの、カイト……先生」

「ん? 何?」

「一つ……質問しても良いですか?」

「良いとも!」


今この魔導書を見て、ふと思ったことだ。

別に深い意味なんてなかった。


「先生は……魔法をどういうものだと考えていますか?」


エーレが言っていた「魔法に罰を、生死に報復を」。


魔法は誰かにとっての「罪」になる。

よって、それ相応の「罰」を与える。


エーレは、魔法使いは生まれた時から罪人であるはずがないと言っていた。

しかし、それは本当にそうなのか?



こんな「死神の子」である俺など、報われる価値なんてあるはずがない。



「うーん。どう、ね……ああ、『魔法に罰を』って言葉があるじゃない? あれとは違うの?」


俺は頷いた。


「じゃあさ、ゲルくん。ゲルくんが思う『魔法』ってどんなの?」 


どんなのと聞かれても、俺はエーレの魔法しか見たことがない。


あいつの魔法がどんなだったか……それを表現するとしたら。


「『惹かれるもの』だと思います」


俺はその日から何日かはエーレの魔法が頭から離れなかった。

俺が今まで他のヤツの魔法を見たことがなかったからか、それともあの状況下だったからか。


「うん、私もそう思う。ならさ、もうそれが答えじゃん? 『魔法』なんて、価値観は人それぞれだし」


俺たち二人は庭にあるベンチへと座った。


ここに座ったのはエーレ以外初めて。


俺が知りたいのは、それじゃない。


魔法に一体何を与えれば人を幸せにできるのか。

エーレが求めていた答えを、こいつなら知っていると思ったが、そうじゃなかったかもしれない。


「違います。俺は『魔法』というものが、どうしたら誰かのためになるのかを知りたいです。誰かを奪うだけの『罪』じゃなくて……」



「だから、『魔法』を誰かにとって『惹かれるもの』にするんだよ」



その目に一切迷いはなかった。

ただ的確に、正確に、カイトが出した答えだった。


「じゃあ、一体『魔法』に何を与えればそうなるというのですか?」

「それは、やってみないとわからないんじゃない? 少なくとも、何もしてないのに『魔法』に何を与えるだとか、どう在るべきかなんて、わかるわけないんだから」

先生の言っていることは、筋は通っている。

それでも……。


「『惹かれるもの』になったとして、それは誰のためにも……」

「何を言ってるの? その時点で、誰かのものになってるじゃない」


それだと、あの時エーレが見せた『魔法』は、惹かれた俺のためになっているのか?


「何かに『惹かれる』ことや『魅了される』ことはその人の原動力になる。それが、人のためはたまた自分のためになる。私はそう思ってるよ」


自分より年下から出る言葉じゃない。

説得力のある説明に何も反論できない。



「それにね。ここは、科学と魔法、本来なら相反するものが共存している世界なんだよ?」



それも読んだ本に書いてあった。

人間は科学、魔法使いは魔法で発展してきたと。



「つまり、魔法でできないものは科学でできる。逆に、科学にできないものは魔法でできるんだよ!」



手を大きく広げたと思ったら、カイトの周りに何十輪もの花が咲き、花弁が辺りに舞う。

花のいい香りがする。

不安を消し去るような……あいつに抱きしめられた日を彷彿とさせる。



今のカイトの言葉を掻い摘むと、互いに協力関係にあるからこそ、対立したものでも一つの世界に共存できる。

そういうことだろうか。



「どう? 美しいと思わない?」



カイトが思う「惹かれるもの」、「美しいもの」について、俺にはまだ理解できない。

けど、少しずつ学んでいけば、それもいつしか俺の中に芽生えることだろう。



「じゃあ、どうやって魔法が、『惹かれるもの』になるのか見つけてよ! それが先生である私からの課題!」



それが何年かかるのかも、俺もカイトもその時知る由もなかった。



そう……か。


「わかりました」

「じゃあ、ちょっとした座学をしたから、今度は実践よ! さ、立って、この魔導書の1ページ目。これを詠唱してみて。大丈夫、万が一があっても私がいるから!」


俺は立ち上がり、魔導書の紙を一枚捲る。



俺は、あの日自分の魔法で貧民街の村を消した時から、自分の魔力が憎くて仕方がなかった。



本当に大丈夫なのか?

カイトを信じていないわけじゃない。

少なくとも熟練の魔法使いなら、魔力の暴走を止めるぐらい、容易いことだろう。

それでも、俺は魔法なんて使いたくない。


でもあの時エーレと話して、気づいてしまったんだ。



俺の魔法も、誰かにとっての『何か』であって欲しかったんだと。



────変わりたい。

もう自分の魔法を憎んでなんかいられない。


その『何か』が『惹かれる』ものだとしたら、俺が今やるべきことは、一つしかない。




俺自身が、今までの俺を超えることだ。




もう過去なんかに囚われない。

囚われたくない。

あの時の無力な自分はもう、うんざりだ。



まさか、あいつにはこうなる事がわかっていたのか?

それで、あの時の俺じゃあ自分に勝てないのだと確信して……。


思わず天を仰ぐ。


とんでもなく不器用で、優しさの欠片もなく、破天荒な行動で周りに手を焼かせるあいつには、いつも……何が見えてるんだろうな。




知りてぇな……あいつのこと。




「静音より出でし、母なる水の魂よ。我の声に従い、今この掌の上に、姿を表さん」



その声と呼応するように、俺の両手の上に水の塊ができた。

本来は球体になるはずが、俺のはなんとも不恰好で、輪郭もぐちゃぐちゃ。

楕円形かも怪しいほどに、見るに耐えない姿だった。





「……綺麗」





カイトはそう言い、俺が作った水をじっと見つめていた。




この先、一人、いやもっと……何十人、何百人の人が、俺の魔法に『惹かれる』日が来るのだとしたら。

なんて、そんな馬鹿げた妄想を抱く自分を自嘲する。

でも、その時が来たらきっと。




────俺は、自分の魔法を誇れると、そんな気がする。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ