第二十一話「三日目 其のニ」
街の子どもたちに会いに行くのは、エーレが王家から課せられた仕事の一つで、彼らと交流すよう見せかけた定期観察の類。
「それで、私はその定期観察も兼ねて君がどれだけ子ども相手にできるかを見たいっていう下心もあるんだけど」
昨日聞いた話だが、エーレは今年で14歳になるらしい。
だから、子どもたちもエーレが相手だと親しみやすいのだ。
昨日出かけた街を抜けて少しいくと、村がある。
そこに遊具が少しある公園らしきところに、子どもたちのたまり場がある。
俺達はそこへ足を運んだ。
「あ! エーレだ!」
「エーレー!!」
子どもたちはエーレを見るなり、大きな目をキラキラと輝かせて彼女の周りに集まる。
「おはよー! みんな! 今日も王宮のシェフが作った絶品お菓子を持ってきたよー!」
「やったー!」
エーレがお菓子を出すと、それを手に入れようとみんがが彼女に向かって手を伸ばす。
まるで餌に群がる鳥のよう。
俺はある違和感に気づいた。
昨日の街での様子もそうだった。
彼ら一般人は王族であるエーレと普通に接している。
庶民は王族に頭を下げ、全て王族の言いなりになっている……そんな俺の想像とは遥かにかけ離れていた。
誰も言葉遣いで格の違いを示さないし、ましてや子どもたちの場合は、エーレが着用している王族の高そうな服を引っ張ったり、気を向けてほしいがために髪を引っ張っている子もいる。
もしかすると、その理由がエーレが言っていた「人間」についての答えになるのではないか。
まだまだわからないことばかりだが、候補として一つ頭に入れておこう。
「エーレ、あの人だれ?」
子どもたちの中の一人が俺を指さした。
「ねえ、おなまえなんていうの?」
「まほう見せて!」
さっきまでエーレの周りにいたのに、一気に俺の周りに移動する。
「え……あ」
この量の人とどう接していいか全くわからない。
困惑してキャパオーバーになりそうな俺のそばに、エーレが来る。
「こういう時はまず名前からだよ」
囁くように耳元で呟く。
言われたとおりにやれってことだろうか。
「ゲ……ゲルデッド!」
どうにかこの場が収まってほしいと思う一心で、そんなつもりは無かったが思わず大きな声で自分の名前を堂々と宣言した。
エーレはそばでうんうんと頷いている。
「じゃあまほう、見せてよ!」
「エーレはまほう使えるんだよ! すっごくきれいなんだよ」
俺は魔法の制御ができない。
それは紛れもなく「死神の子」だから。
それを確信したのは、意外とはやい段階だった。
基本的に貧民街を転々としてきた俺は、最初の村を破壊した。
それは0.コンマ数秒の間。
瞬き一つすればもう、村は無かった。
血を流して呻く男、家に潰され身動きができなくたった女。
その中にもちろん子どももいた。
その子どもが彼らと重なる。
今の俺が魔法を出せば、この村一体は跡形もなく消えるだろう。
手が小刻みに震える。
俺は一瞬にしてその当時の情景で頭が埋め尽くされた。
エーレに助け舟を出そうにも声が出ない。
呼吸が少しずつ……乱れていく。
「……こら、みんな! ゲルが困ってるでしょ? 今日はお菓子あげたら私達は帰るから」
「えー!」
「我儘言わないの。また来るから、ね?」
エーレは彼らの頭を順々に撫でていく。
それだけで、あんなに騒がしかったのが瞬く間に収まる。
「すごいな……」
そんな言葉がポロッと溢れた。
「ん? なにか言った?」
エーレがこちらを振り向き、俺は目をそらした。
彼女にはあって、俺にはないもの。
それがきっと「人間」についての答えなのかもしてない。
彼らと戯れるエーレを見てそう思った。




