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筋肉と鬼火と紐で、あやかし退治を致します  作者: 堅他不願


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第23話 強欲な情報屋 その四

 三人が、雁首(がんくび)ならべて黄金の前に座ると、部屋の様子が一変した。


 まず、パソコンを置いた黄土色の事務机と、応接用の分厚いひょうたん型の黒いテーブル。床には硬いプラスチックのパネルが敷きつめてあり、一枚一枚がくすんだ金色をしている。そのくせ靴ははいたままだった。


 そして、三人はクリーム色の革張りソファーに座っている。黄金も、真向かいにある同じソファーにテーブルを挟んで座っていた。彼の背後には、リクルートスーツ姿のろくろ首がたっている。髪型も今どきのセミロングで、この上なく秘書然とした様子た。


「わしの事務所にようこそ。わしが責任者の黄金 湧造だ」


 黄金は、ふんぞり返りながら口にした。


「一応説明しておくと、さっきまでの和室はこの事務所の一室にすぎん。ああした別室が、ここにはいくらでもある」


 小角と花坂の様子を逃さず、彼は補足した。


「ワクさん、アジトをレンタルしたい。あと、TWCとHMBと……」

「帯男の秘密だろう。全てお見通しだ」


 無遠慮に望みをならべる塚森を、黄金は止めた。


「話が早くて助かるね」

「一兆円」


 またしても黄金は、金額で塚森の発言を封じた。しかも、異次元なほど法外な金額で。


「ゼロを十二個なくしてくれたら、即金で払うよ」


 それは一円を意味する。


「しばらく見ない間に、知能が激しく衰えたな」


 黄金の毒舌は、初対面なこともあり、花坂に強烈な印象を与えた。良識を、はなから便利なギャグくらいにしか思ってない人間から漂う独特の臭気。不快というより異様。


「三歳児を奴隷にしかけたド外道よりましだけど」


 奴隷にされかけたのが塚森なのは、花坂もなんとなく察した。たぶん、小角もその結論にいきついただろう。


「それが人に物を頼む態度か」

「商談で、的外れな値段をふっかけたのはそっちでしょ」

「TWCはまだしも、帯男はお前が思っているほど生ぬるい相手ではない。さっさと事務所に帰って守りを固めろ。あとは知らん」

「TWCから慰謝料を貰って、そこから一兆円だせばいいんじゃありませんか?」


 小角が、まだしも建設的な提案をした。


「ああ、なら勝って慰謝料を支払われてからまたきてくれ」

「勝つ見通しがあるから先行投資して下さい。その代わりに倍払います」


 僭越(せんえつ)を通りこして、増長としかいいようのない小角。花坂は、口だししようとしてやめた。彼女が考えなしに出鱈目な理屈を述べるはずがない。


「どんな理屈だ」


 面倒げに黄金は聞いた。


 小角は、黙ってソファーから立った。そのままつかつかと黄金の隣までいき、彼の耳に口を寄せた。その様子を、ろくろ首が眉一つ騒がせずに眺めている。


 花坂は、瞬間的に黄金に飛びかかろうと腰を浮かせかけ、危うく座りなおした。小角の身を案じて、ではなく嫉妬からきた衝動だとすぐに悟り、辛うじて赤面を抑えた。まさか、自分を身売りするなどと小角がいうはずがない。それでいて、何を喋ったのかはそれこそ一兆円払ってでも今すぐ知りたい。


「ふうむ。少し考えさせろ」


 『密談』は、確かに黄金の心を動かしたようだ。小角が彼から離れてすぐ、初めて希望の持てそうなことを黄金はいった。同時に、小角は席に帰ったが、足どりに乱れはなかった。


 黄金は、腕組みをしてうつむいた。唇がもごもご動いているが、何も聞こえない。


 こういうときに喋るのは愚の骨頂だ。花坂は、固く口を閉じた。とはいえ、ボディビルの鍛練の方がはるかに楽だ。


 たっぷり一分ほどすぎてから、黄金はつと右手を軽く掲げた。ずっと控えていたろくろ首が、どこからともなくタブレットをだして彼の右手に乗せた。


 振りむきもせずに黄金はタブレットを膝に置き、左手で押さえながら右人差し指でせわしなく画面を叩いた。さらに四分、深刻そうに目をつぶる。


「お前が自分の身体をわしに売るなら、その話に応じてやる」


 お前とは小角のことだ。やっと目を開けたかと思ったら、花坂はおろか塚森も憤激する暴言を吐いた。


「ワクさ……」

「私、それでも」

「良くない!」


 塚森と小角と花坂が、それぞれ十分の一秒くらいな間隔を取って意思表示した。


「お前らの意見がまとまらないなら、それで終わりだ」


 無慈悲に断じる黄金。


 花坂は、必死に頭を働かさねばならない。黄金の要求を丸のみするのは論外だし、自爆に等しい。さりとて時間をかけてじっくり議論もできない。ちょっとお楽しみを邪魔されただけで百万円などと(のたま)う人間だ。


「もうい……」

「三等分!」


 もういいよと諦めかけた塚森に、花坂はかぶせた。


「三等分?」


 思わず黄金は聞きかえした。


「おづ……皿良さんの値打ちを、俺達三人で等分して負担します! それなら、皿良さんが身売りしなくていいでしょう?」


 たったいま、花坂は身体を張って黄金のウケを取っている。それなら、多少は考慮に値するはずだ。


「あとの二人はともかく、お前は何ができる」


 黄金は花坂を頭から爪先まで何度も見まわした。


「TWCの社長を倒せます」

「どうやって」

「俺の機転で、TWCの幹部を連続撃破できましたから」


 いきさつを知っている人間からすれば、著しく微妙なところではある。


「機転などというあやふやな概念は、わしは好かん。だが、お前のパフォーマンスにはちょっとだけ関心を持った」

「じゃ、じゃあ……」


 ようやくにも突破口ができそうな流れに、花坂もつい結論を急いだ。


「だが、そこまでいうなら、まずわしの仕事を一つ果たしてもらう。話はそれからだ」

「何ですか、それは?」


 花坂は、なるべく塚森から降りてきた仕事以外はやりたくない。


「借金の取りたて」


 別な意味で重い。


「誰からいくら取りたてればいいんですか?」


 花坂は、まず一番重要なことを聞いた。


浮橋(うきはし) 歌世(うたよ)。そいつを直接ここまで連れてこい。手段は任せるが、死なせてはならん。住所と略歴と顔写真は、お前のスマホに送信する。ただし、期限は応諾から二時間以内にやってもらう」

「どうして俺達にやらせるんです?」

「TWCの社員だからだ」


 無造作なほど明確に、黄金は説明した。花坂は、塚森が語った黄金の性質を心の中で反芻(はんすう)せざるを得ない。なるほど、人を操り支配する術に長けている。


「これまでに、取りたてはしなかったんですか?」


 花坂は、なおも重要な情報を求めて食いさがった。


「妖怪を二人派遣した。二人とも帰ってこなかった」

「そんなに強いんですか?」


 小角は、花坂をもっと鍛えた、超人的な筋肉の持ち主を想像しているようだ。


「さぁ、わからん。ただ、これをこなせない限り、お前達は……」

「やります」


 花坂はいいきった。


「良し。ならば、いけ」


 黄金の命令と同時に、ふたたび周囲が一変した。


 花坂達は、元の廃墟を脇にした道端に立っている。すぐうしろには彼自身が運転してきた車があり、つまるところ到着して車を降りてからから一歩も動いてない。


 と、花坂の胸ポケットがぶるぶる震えた。スマホをだすと、メールを一件受信している。差出人は黄金 湧造とあった。


 メールを開くと、まず、『残り 1時間59分』とあった。それから、浮橋の住所と電話番号も。住所自体は神奈川県にあり、ここからなら車で三十分ほどでいける。


 問題は、略歴だった。年齢は二十歳、性別は女性で、添付の顔写真も相応の外見をしている。


 しかし、彼女はTWC本社の社員だ。正確には恵みの大地の職員で、二年前から出向とある。学歴は高卒で、よほどの才覚がなければこうはならないだろう。


 そんな当人が、どういう訳でか、パチンコや競馬といったギャンブルにはまっている。黄金が経営しているサラ金に数百万円の借金があるのも明示されていた。


 ただ、市宮や夢矢のような力があるかどうかについては書かれてない。それが知られていたら世話はないだろう。


 TWC、そして恵みの大地。どのみち利害は一致する。だが、それだけ、塚森が事前に教えてくれた黄金のやり口を思いださざるを得ない。


 塚森も小角も、小言一つ口にしない。花坂がギリギリのところで判断した決意を、責められるはずもないだろう。TWCや恵みの大地に潜む、異常な連中と戦うには、どうしてもまとまった信頼できる情報が必要だ。それは、一同が身に染みて理解している。

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