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風の道を走る  作者: メガネ3353


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第一章

挿絵(By みてみん)


朝、山の稜線が淡く色づくころ。

佐伯信一は、エンジンの唸りを確かめるようにバスのハンドルを握った。

古びた車体の振動が、彼の掌から体の奥へと響いてくる。

「よし……行くか。」


バスはゆっくりと村の停留所を出発した。

道端には霜が降り、白い息を吐きながら小田切咲が手を振っている。

「おはようございます、佐伯さん!」

「おう。」


短い挨拶の後、咲は座席に座り、ノートを開いた。

彼女は地域おこしのイベント案を考えているようだが、その眉間には深い皺が刻まれている。


「何か悩んでるのか?」

信一はバックミラー越しに咲の表情を覗き込む。


「いえ……。ただ、やっぱり難しいですね。この村で何かを変えるのって。」


「そんなもんだ。」

信一の声は低く、少し掠れていた。

「俺も若い頃、都会に出た時はそう思った。けど、結局戻ってきたんだ。」


「……どうして戻ったんですか?」


信一は一瞬だけ、道路脇に枯れたアジサイの花を見やった。

「親父の看病だ。それが終わったら、なんとなく……な。」


「なんとなく、ですか。」

咲は小さく笑った。


「そうだ。人の人生なんて、結局はなんとなくだ。」

信一は笑みもせずにそう言うと、前を向き直し、バスを走らせた。


山の斜面を縫うように続く道は、今日も冷たい風に吹かれている。

バスの車窓から見える景色は、ただ静かで、寂しくて、それでもどこかあたたかかった。


このバスが止まるたびに、誰かが乗り込み、誰かが降りる。

限界集落の、かすかな命の流れがそこにあった。

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