Happy Halloween!!(裏)
※前回に引き続きイベント関連小話になります
※本編の時間軸との関連はスルーでお願いします
※基本イベントにのっかりたいなーというお遊びモードです☆
「のま、飲まなきゃ、飲むべし」
ガタガタガタガタと全身を震わせながら薬師の少女は手の中のグラスに焦点を合わせないようにして口に運ぼうとしてはグラスを取り落とす。
カシャン、と軽い音を立てて砕けたはずのグラスが一瞬後には元の姿を取り戻す。少女の頑張った証の分だけ量を減らした姿で。
「これ、美味しいよ」
最初だけ口元を引き攣らせたものの、今ではくぴくぴと飲み干そうとしている友人は残り僅かのグラスを軽く指で弾く。
「だったら私のも飲んでぇええええ!!」
「それは無理」
なぜかこのグラス、他人に譲渡できないのである。しかも最初は友人を食い入るように見つめていた目玉があまりの反応の無さにか、今ではそのグラスの視線は薬師に向けられている。
「もう、もう嫌ぁあああああああ!!」
コウモリ以来の叫びを上げて、グラスを置いたまま酒場の扉を出ようとすると、透明な壁に弾かれ、ポスンと元の椅子に座っている。
「ふ、っふふふっ、ふふ」
「だ……大丈夫?」
さすがに虚ろな笑みを浮かべ始めた友人に心配そうに声をかけると、目の前で目を閉じ一気に杯を呷る。そのまま机に突っ伏した姿にこのイベントを逃したくないという執念が感じ取れた。これほど大規模な変更だというのに、現実でのハロウィン当日のみという鬼仕様。別の友人などは仕事で全く入れないとやさぐれていた。
「やったわ……これで満喫でき……はうぁ……」
やり遂げた表情で顔を上げた薬師は、空になったグラス二つ分のギョロリとした視線を受け、そのまま気を失ってしまう。
「ちょ、起きなさい!せっかく飲み干したのよ!起きなさいってば!!」
容赦なくその両方を平手打ちしながら声をかけるが微動だにしない。
「そういえば、この子お酒にも弱かったんじゃ……」
今更な事実を思い出し、平手打ちしていた手を力なく落とす。弱いから、と口にしては飲み会ではいつもウーロン茶片手にニコニコしているような子なのだ。
(終わったわね……)
流石にイベントを自分以上に楽しみにしていた友人を放置して一人楽しむ気にはなれない。そのつもりならそもそも飲み干すまで待ってなどいない。
まあ、友人の百面相を見ているのも楽しかったのでいい思い出だ。と一人完結していたところで、むくりと薬師が顔を上げる。
「――行くわよ」
「へ?」
据わりきった目をして低く呟くと、横に立て掛けてあった杖を握りしめるとゆらりと立ち上がる。
「ご馳走様!行ってきます!!」
マスターに雄々しく宣言すると、目を白黒させている友人の手を鷲掴み扉から外へと駆け出す。
「待ってぇええ!私の刀!刀が中にぃいいい!」
先ほどまでは余裕でくつろいでいたはずが、突然の状況の変化についていけないまま、薬師の少女に拉致されていく姿を店内の皆が生暖かい視線で送り出す。
「……ふむ」
後に残された剣一口。忘れ物として回収したマスターはいそいそと道具を出して手入れしはじめる。
「酒は入っていなかったのだが……雰囲気で酔ったのか?」
ひとりごつと、仕上がった刃の状態を見て満足そうに頷くと丁寧に保管する。
――後日、受け取りに来た彼女が初期装備に毛が生えた程度の性能だった刀が格段に切れ味が増した事にイベント中の困難のすべてを良しとして歓喜の声を上げたという。
* * * * *
「Trick or Treat!!」
背後から元気にかけられた声に振り向くと、拓也はにこやかに返す。
「Treat!」
スカートに縫い付けたポケットから小さなキャンディーを取り出すと腰ほどの背丈の狼男や魔女っ子に差し出す。もちろん狼男はIWO仕様の全身もふもふだ。
歓声を上げて駆け出す姿を微笑ましく見守る。このイベント専用のNPCなのか、姿が変わっている見知ったNPCなのかは判らないが可愛いは正義。
現実では子供が好きだが近寄ると大泣きされるので心癒されるイベントに満足そうに歩みを進めていると、またしても声がかかる。
「Trick or Treat?」
「Treat」
リリィ仕様の笑顔で振り向いた拓也の表情が笑顔のまま固まる。そこには全身骸骨がいた。しかもお子様サイズではなく大人サイズだ。
ホラー嫌いではあるが、現実のハロウィンと同じ程度なら雰囲気は恐ろしくないから平気だと参加したのを一瞬で後悔する。そうだ、門番のリアルなガーゴイル姿にびくびくしながら端っこを通り抜けた時に気付くべきだった。
そう、そこにはとてつもなくリアルな骸骨がいた。
ギクシャクと錆び付いた機械のような動きでキャンディーをその関節まで詳細な手のひらに落とすと……スカッと骨の間をすり抜ける。
「……」
「…………」
別のキャンディーを差し出すが、コロン、コロンとそのまま地面に転がり落ちる。
「…………」
「…………」
くるり、と背を向け拓也は全力疾走を始める。
「うぁああああああああああ!!!!」
あまりの勢いに一拍遅れたものの、お菓子を受け取れなかったことで自動的にいたずらが決定した骸骨が拓也を追いかける。
真っ青な顔で泣きじゃくりながらの全力疾走に息がすぐに切れる。こんな所までリアルにすんじゃねぇよと内心毒付きながらも足を止めることはできない。何をされるのかわからないのも怖いが、純粋に骸骨が怖い。
模型と思い込むこともできない、古びてほのかに黄ばんだ色、バラバラにならないためになのか、どうして残したのか筋や一部筋肉。どうしてそこだけ瑞々しいのか眼球。いっそ必要なところだけではなく全体的に筋肉とか残してくれればリアルな立体標本と思い込むこともできる、かもしれない。夜の学校になんて死んでも行かないと幼少の頃から言い切っていた己を棚に上げて考えながら走っていると、追いつかれたのか、肩に細い指が触れると同時に暗転――。
* * * * *
「佐久弥ぁあああああ!!」
叫びと共に扉を開いた友人を冷ややかに見据える。
「うるさい、近所迷惑だ。……よく来たな」
無言でドン、と机に乗せられた大吟醸に、佐久弥は一転して歓迎の意を述べる。
「聞いてくれよぉおおお!」
「聞いてる聞いてる」
うんうん、と頷きながら拓也の方を見もせずに佐久弥はつまみの用意を始める。良さげな酒なので、味の邪魔をしないようにあっさりとしたものを重点的に作成する。
板わさ、きゅうりのたたき、秋ナスがちょうど残っていたので、焼いてバジルやオリーブオイルなどをを入れディップ状になるまで炒める。一品だけ和風じゃないが気にしない。自分だけのために手間暇かけるのは面倒なのでこの機会に食べたかったのだ。
バケットなんて買い置きしていないので薄めに切った食パンを軽くトーストして添えて出すと、ようやく佐久弥も椅子に腰掛ける。
それまでの間に聞いていた内容はただ一つ。「怖かった」のみだ。ようやく具体的な内容になってきたようだ。
「なんで中途半端にリアルな骸骨なんて作るんだよ~怖いだろうが!」
「っざけんじゃねぇよ、なんでキャンディー渡せねぇんだよ!」
「抱きしめて1名様ご案内で、闇夜のデート骸骨を添えてなんて誰得だよ!そもそも骸骨性別どっちだ!」
「出たら出たで佐久弥は気味悪ぃカブ抱えて気ぃ抜けた笑顔でコウモリにたかられてるし!」
おや、こっちに飛び火してきた。そして三白眼で目を潤ませてもただ睨み付けられているようにしか感じない。そしてコウモリは不可抗力だ。夜通し飛び回って疲れたのか休憩場所として集られていただけだ。まぁ、癒されたが。そしてお前は俺に集っているコウモリのふかふかした胸元を撫でては噛みつかれていたな、うん。
手酌で酒を呷り始めた拓也の言葉を流しながら自分も杯を手に取る。うん、美味い。芳醇な香りが残るが後口はすっきりとしていて、これならいくらでも飲めそうだ。それにしてもアイテム名だとわかっちゃいるがキャンディーって単語が似合わんな。
どうでも良い事を考えながら相槌を打つ。拓也は基本、愚痴を言うだけ言うと満足してしまう傾向にある。聞いてくれるだけで良いらしい。ちなみにこの日本酒は以前の糸取りの報酬のようだ。農園体験に付き合わせただけでよかったのだが、貰えるものは貰っておこう。杯の中の最後の一口を呷って空にすると、その手を掴まれる。
「お前も送れ」
運営にメールすると意気込んでいたのに巻き込まれるようだ。グロテスクなのとホラーは人を選ぶからやめろと意見したいようだが、お化け屋敷やホラー映画が廃れないように一定数のファンがいる以上その意見は通らないと思う。特にIWOはどうも一般受けなど気にしているようには思えないし。
「……わかった」
自分も少し言いたいことがあるので受け入れる。メインがブラッディバットが可哀そうという内容になっても許されるだろう。
* * * * *
「可愛子ちゃんからメールだ!!」
本日のメール担当者の叫びに、またもやわらわらと手を止めることの出来た者が集まる。
「…………ブラッディバットの自主性を重んじて欲しい」
読み上げた内容に、先ほどまで殺伐としていた現場にほっこりした空気が流れる。
追伸のように怖いものが苦手な友人のための措置も希望されているが、そのような内容は既に山ほど頂いている。そして彼らには改善する気は欠片もない。
カルマ値が高いものは襲われる、そのルールはイベントにも適用されているのだ。
ただ可愛い子ちゃんの友人はどうやらレアなスケルトンと遭遇した模様。骨だけで動けるわけないだろうという意見を尊重し、試行錯誤しているうちに骨格標本と人体模型の中間点のような形に落ちついたあれはさすがにグロいだろうと出現率低めにしていたのだが、運が良いのか悪いのか遭遇してしまったらしい。
ちなみにあれは、クッキーだと指の隙間を抜けないので成功して大人気無く参加した気まずさを漂わせながらお返しにアイテムをもらえるのだ。
失敗すると手に手を取って暗闇の中を放浪。灯りの代わりに道しるべはスケルトン。手をつないで闇夜のデートだ。そしてあのスケルトンは女性だ。きちんと女性の骨格になっている。プレイヤーが男性だとデートのお礼に暗闇から脱出できると頬にキスをしてもらえるというのだ。拓也がそれで気絶してしまったのは余談である。
「リクエストに応えたのにはどの程度気づいてもらえたのかしらぁ……?」
実のところ今回のイベントでのNPC変貌において、猫耳+尻尾のみをつけた少女や、少年が期間限定として存在したのだ。お菓子を100個配布が条件だったので、やろうと思えば子供NPCに10個ずつ渡せばすぐに達成できる。ただ出会う前にお菓子がなくなっていたずらを受けてしまえばリセットにはなるが。
「あ~1人いたぞ。菓子職人やってるおっさん」
猫耳属性を持っていなかったのか普通に対応して終わっていたという結果にも拘わらず運営陣は皆リクエストには応えたという事で満足そうだ。そしてこの結果によりお蔵入りになるなんて事はプレイヤー陣は知る由もない。ただ、その菓子職人がお菓子を渡している姿を一瞬だけ見かけた者たちが驚愕と共に振り返った時には猫耳っ子達は駆け抜けてしまっていたため掲示板の騒動だけが痕跡だった。
「なんで、なんっでそんな設定にするんですかぁあああああ!!」
今日も元気に先輩方に向かって青年の叫びが上がる。
「あんなに毛の1本1本の表現、手触りまで綿密に設定しておいてこの仕打ち!出会えたのたった1人で触れてもいない!!」
調整しまくった俺の時間を返せぇええええ!!と叫ぶ後輩に向け、聞こえていた面々が1人の男を指さす。
「またあんたですか!」
「前から思っていたが、ですますをつけるわりに呼び方がそれって、敬ってるのか敬ってないのか……」
常々の疑問を口にする男に拳が突き刺さる。
「素直に敬わせてくださいぃいいい!」
IWOを愛する余りに五感、自然、AIの自由度など使用している技術は凄いのだ。ただそれをすべて台無しにしてしまう本能に忠実という性格があるだけで。
青年の叫びをBGMに既に全員席について作業に入っている。
「ほら、叫んでねぇで仕事だ仕事」
カタカタとキーボードを打ちながら告げる男に「理不尽!!」と叫びながらも青年も大人しく席についてキーボードに指を叩きつける。
「音うるさいわよぉ?」
苦笑しながらの指摘に、皆酷い!と叫びながらも素直に柔らかに指を滑らせる一番後輩である青年が、先輩方の歪んだ愛情表現を受けている事に気づく日はたぶん来ない。
忘れ去られた頃にこんにちは。ようやくの更新でっす!
実は最後の運営側での締め部分以外を書いていたデータが吹っ飛んだという。そして相変わらず自分が書いた内容を覚えていない奴がここに。
きっと前回書いた内容と一切被ってない事でしょう!
……記憶のバックアップ方法ってどっかにありませんか?(ぇ
作成した料理の最後の一品。ナスのキャビアとも呼ばれるディップ。マンガ飯を作成するサイト様で、該当の4コマ漫画で見たことのあるこの料理があって、作ってみたらめっさ美味しかったとのでひっそりと加えてみた(・ω・)♪
※数日後に前回同様、番外編に移動させます。
※改稿部分 仕様→使用 メインが重複していたのを片方削除
※投稿済みの移動が出来ないためこちらに移動しました




