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Happy Halloween !!

※イベント関連小話になります

※本編の時間軸との関連はスルーでお願いします

※基本イベントにのっかりたいなーというお遊びモードです☆



 その日、世界は一変していた。


「知らないうちに移動した……?」

 ぼんやりと呟く佐久弥だが、こちらはいつもと同じようにスライムがよじ登り、フードの中ではキューちゃんがごそごそ動く感触がする。最早慣れ親しんだ感触に落ち着き、ゆっくりと周囲を見回すが……そこには見知らぬ世界が広がっていた。


 鮮やかな緑を誇っていた木々はその葉を紫色に染め、木皮さえ黒く変化していた。足元の草原もまた白みを帯びた紫色に染まり、空は時間の感覚が判らない色に変わっていた。赤いような、紫色のような空を灰色の雲が覆っているのだ。

(ん~さすがにこれは聞いてみるかな?)

 何の前触れもない変化に、詳しいであろう友人に問いかけようとした佐久弥の目の前を走り抜けた物体に、一瞬で察する。

「ハロウィンか!!」


「来るな、来るな、来るなぁああああああ!!」

 叫びながら逃げるプレイヤーの背後を、オレンジ色の巨大な頭部を持った存在が宙に浮いて追いかけている。

 漆黒のマントがひらひらと揺れ、とても楽しそうに感じるがあの固定された笑顔は怖い。お祭り好きの国民性のせいか、いつの間にか浸透した行事にはお約束のカボチャのおばけ。ジャック・オー・ランタンだ。

 不思議なことに楽しそうなのがプレイヤーではないのだが、そこはもうこの世界、深く気にする事はなく、今日だけかもしれないこの世界を楽しもうと佐久弥は把握したと同時にいつも通りの行動を取る。そう――探索だ。



「こんにちは……?」

 時間的には昼間のはずだが、あまりの暗さにちょっと疑問に思いながら、はじまりの町の馴染みの門番さんが居た位置に立つ存在に声をかける。

「グギャ(こんにちは)」

「門番さんですか……?」

「ギャグーギャギャギャ?(そうですが、どうかされましたか?)」

「いえ、門番さんなら問題ありません。今日は賑やかですね」

「グギャグググググゥ(ハロウィンですからねぇ)」

 門番も特別な一日に気持ちが浮き立っているのか、声が少し弾んでいる。この場所から相変わらず動けなくてもそこは気にしていないようだ。

 和やかに話す二人の目の前には、視界を遮るもののない広い草原。そしてその中では駆け回る多くのプレイヤーと、追いかけるカボチャの大群が終わりの見えないマラソンを繰り広げている。

 全ての攻撃も魔法も弾き返すのか、逃げながら攻撃を繰り返すプレイヤーがボロボロになっているのに、カボチャたちは傷一つない。からかうように一気に距離を詰めたり、プレイヤーの上部をふよふよ浮いてみたりとても楽しそうである。

「今日はあちこち雰囲気が違うようなので、見て回りますね」

「ギャーギャギャグギャギャ(ぜひ楽しんでくださいね)」

 いつもながら穏やかな門番に軽く一礼して佐久弥はその場を後にする。変わった世界と違って相変わらず丁寧な門番だ。たとえ今はその外見が見事なまでにリアルなガーゴイルであろうとも。



 こんな状況でもやはり行動は変わらないのか、いつもの人が、いつもの場所にいる。その中で異様な動きをしているのは大半プレイヤーとカボチャだ。

「ハロウィンっていうより魔物の町って感じだよな」

 元のNPCは皆魔物の姿に変わっているのだ。ある意味変わってないというか違和感がまったく無かったのが薬屋の老婆だ。きっと魔女なのだろうが煮詰めている鍋が大鍋に変わっていたり、謎の紫色の薬になっていて非売品な事以外は少々内装が変わろうが元の印象と大差がないのだ。


 酒場は無料で振舞われた飲み物が問題だった。真っ赤な液体に眼球がころりと転がっているのだ。それだけなら平気な人は平気だろうが……動くのだ、コロコロと。飲もうとすると必ず視線が真っ直ぐに合うのだから芸が細かい。だが一番何が罪かっていえば美味いのだ。全年齢向けにアルコールは入っていないのだが、配合が見事なのか、ほんのり甘いのに後口がすっきりとしていて後をひく。もう一杯と言いたいところだが、どうやらこれは一人一杯までのサービスらしい。そして席に座った以上飲まないと酒場から出られない仕様となっているようだ。

 近くの席に座る女性プレイヤーが涙目でグラスを睨みつけている。佐久弥が店に入った瞬間からぴくりとも動いてないが大丈夫なのだろうか。

 いっそのこと、一度ログアウトして後日ログインすれば逃げられそうな気もするが、そうするとこの貴重なイベントを逃す羽目になるから躊躇しているのだろう。

 マスターの話によれば、あの眼球は飾り扱いらしい。食べなくてすんでよかった。


 しばらく酒場で過ごした後、再び町の中に戻ると、だんだんと閑散としてきていた。逃げ回るプレイヤーとカボチャが減っているせいだ。きっと草原まで出て追いかけっこをしているのだろう。

(あれは捕まるとどうなるんだろう?)

 後でもう一度門へと向かおうと思いながら、佐久弥はいつものように挨拶しながら北の洞窟へと向かう。一応モンスター扱いになっているブラッディーバット達が気になったのだ。草が変質しているなら彼等の生命線の薬草はどうなっているのかが心配でならない。


「おまえら元気か~?」

 洞窟の入り口を(くぐ)ると、夜扱いなのか視界に大量のコウモリが映る。キラリと赤く光る瞳をこちらに向け向かって来るのに、久々に身構える。このところ警戒されないせいで吐血されなくなってきていたので普段の姿で来たのは失敗だったかと佐久弥が真紅に染まる己を覚悟したのだが……いつまでたっても血の雨は降ってこない。

(あれ?)

 反射的に閉じた瞼を開くと、ぞろりと足元に勢ぞろいしたコウモリが円陣を組んでなにやら話し合っている。

 しばらく話し合いが終わるのを佐久弥がその場に座りのんびりと待っていると、キュッキュッと頷きあったあと傍に一匹寄ってくる。

 小さな指と、全身で伝えようとするジェスチャーでどうやら指を出せと言っているようなので、素直に手を伸ばす。

「……キュゥ」

 佐久弥の指を前に、しょんぼりとしているコウモリたちだ。

「ん?どうした?」

 うりうりと胸元のふかふかの毛を撫でてやると、うっとりと目を細めるが、はっとしたようにフルフルと首を振り、かぱりと口を開く。小さな牙が指に近付き……またしょんぼりとする。

「あ~……どうぞ」

 必死になって佐久弥の指に噛み付こうとしては、涙目になってできないと項垂(うなだ)れる姿に、佐久弥の方から(うなが)す。

 ハロウィンのお約束のコウモリたちもきっと、イベント仕様なのだろう。

 吐血コウモリが吸血コウモリになっているようだ……って、こっちのが普通のはずなのに違和感が拭えない。というか、コウモリたち自身がすごい葛藤しているのだ。噛まねば今の彼らにとってはアイデンティティー崩壊の危機なのだろう、うん。


 かぷ。


 目をぎゅっと閉じて、ようやく一匹が佐久弥の指先に小さな傷を作ると、それで満足したのか、ふーっと大仕事を終えたようにさって行く。残りはこれ以上噛み付きたくないのか、小さな舌でぺろりと指先を舐めるだけで交代して行くが、三匹目以降はもう血も出ないんじゃないかと思うのだが、構わないようだ。

「鉄分補給に少々取ってもらっても良かったんだがなぁ」

 こいつらに対しては献血気分にしかならないからそう告げ、そっと小さな頭を撫でる。

「キューちゃんはいいのか?」

 もぞもぞと出てきて、仲間たちと戯れていた姿に問いかけると、いらないようだ。同行者扱いは変化の影響からは逃れられるらしい。

「……って、待て待て、遠慮するな!!」

 首を振っていたキューちゃんが、次第にぷるぷるしてきたので、慌てて口元に指を押し当てる。しっかり影響を受けているじゃないか。

 他は……?と確認してみると、スライムがほのかに紫がかっているくらいの変化だ。花子はまあ……元から呪われた武器だし変化無し、っと。

『ひどぃいいいいいい!!』

 何か聞こえた気がするが気のせいだろう、うん。



 全てのコウモリが順番を守って傷口を舐めていたせいで、それなりに時間が経過していたようで、外に出ると夜になっていた。

 佐久弥に続いてぞろぞろとコウモリたちが出てくるのを見て、明るくなる前にはちゃんと洞窟に戻るんだぞと声をかけると、佐久弥の周りをぐるぐると回って、町へと飛び去っていった。

 その後を追うようにのんびりと変化した建物を見物しながら歩いていくと……今度はプレイヤー達はコウモリに追われていた。

 佐久弥に対してしていたような遠慮はどこに行ったのか、これぞお約束!という光景が繰り広げられている。しかも病弱なコウモリたちが傷一つ負うことのないあたりカボチャと同じ扱いなのだろうきっと。

 中にはそっと噛まれているプレイヤーもいるようだから、何らかの判断基準があるのだろう。時折休憩なのか、佐久弥の頭の上にぼふっと降ってきて、しばらくくつろいでいる奴もいるが、皆頑張って飛んでいる。明日は大丈夫なのだろうか、やっぱりこいつらを見ていると不安になる。



「さって、俺も作るか」

 探索も終えた事だし、最後まで取っておいた広場へと向かう。

 広場の中央では数の減ったプレイヤーがジャック・オー・ランタンを作成している。何故か完成と同時にマントを(まと)い追いかけてくるのに、作成するプレイヤーが後を絶たない。イベントの魔力だろうこれは。

【ご自由にどうぞ】

 そんな言葉と共に巨大なカボチャがごろごろと転がっているが、佐久弥の手持ちは初期装備のナイフと花子しかない。花子だと全部すっぱりいきそうだし、採取でしか活躍していないナイフは小さくてカボチャは固くて切りにくそうだと眺めていると、ちらほらと他の野菜もあることに気付く。

 形はそれなりに似ているカブを手に取ると、佐久弥はそれで作り始める。厚い皮が無い分刃がすっと通る。

 ざっくざっくと彫り進め、満足する出来になったところで、一緒に置いてあったロウソクに火を(とも)す。襲い掛かってくるのかと思っていたが、マントが出現することは無かった。無かったが……

(ちょっと気持ち悪い)

 定番の顔を作ったはずなのに、持ちやすく取っ手がついたそれは佐久弥の努力を無にしていた。

 ニタリと笑った鼻の無い男の顔にしか見えないのだ。

 まあ襲い掛かってこない分良いかと、そのまま取っ手を掴み夜の街を歩き始める。


 広場から門へと向かい歩いていると、丁度目の前でカボチャに捕まったプレイヤーが闇夜に消えて行くのを見てしまう。

 ポリゴンが砕け散るわけじゃないので、死に戻った訳ではないのだろうが……どこに向かうのだろうか。碌な事にはならないのだけは想像できる。

「戻りました」

「ギャギャギャ(お帰りなさい)」

「ハロウィンって、悪霊を追い払う行事でしたよね……」

 何故か町からプレイヤーが追い出されているようにしか見えないのは何故だろう。

「ギャウウギャウウギャウ(何よりは収穫祭ですね)」

「そうですね~このカブもすごく美味しそうですしね。豊作で何よりです」

 どこぞの野菜の収穫風景は今思い出してはいけない。

「じゃあ、もうちょっとここらを……って、うお!」

 草原を散策してみようかと挨拶をしかけた佐久弥に突然背後から何かがぶつかる。

 視界を暗闇に閉ざされる瞬間見たものは、顔が変わらないはずなのにやけに焦ったようなカボチャと、その横に転がるプレイヤーの姿。

 間違ってぶつかったんだ……と思いつつ暗転した視界に戸惑うが、そこに焦りは無い。

 どこに飛ばされるのか気になっていたのもあるが、相変わらずフード内ではキューちゃんがごそごそしているし、慰めるようにスライムが頭の上ですりすりしているのだ。花子は……うん、防げなかった事をしきりに謝っているので、気にしてないと伝えるように撫でたら花を飛ばし始めたので問題ない。


「問題はどうやって出るかと、中がどうなってるかだよなぁ……」

 探索しようにも真っ暗なうえに、何も見えないのだから調べようもない。手に触れるものも無くて、これが一人きりなら闇への恐怖を抱きそうだ。相変わらず容赦の無い事だ。トラウマになったらどうしてくれるんだろう。

「ん……?」

 ふわり、と目の前に柔らかな光が灯る。そこにはニタニタ笑うカブのランタンが宙に浮かんでいた。

「落としたと思ったんだがな」

 ぶつかった衝撃で手から離れていたはずの佐久弥自作のランタンだった。

 取っ手を持つと、照らし出されるものがないせいか周りの風景が浮かぶ事がないものの、一方に引っ張られるのでそのまま先を進む。

 明かりがあるという事がこれほどまでに心を安定させるものだと実感しつつ、ひたすら歩いていると……ふ、と全身が引っ張られる感じを受ける。

「出た……」

 今日に限っては大きく紅い月が佐久弥を照らす。紫の木々も草も、月の光の中では青白くほのかに輝いている。暗闇から一転した世界はファンタジーの世界そのものだった。

 空を舞うコウモリ、ふわふわと楽しそうに浮かぶカボチャたち、遠目に見える町には数多のモンスター。……これであちこちから聞こえる悲鳴が無ければ異世界を満喫できただろう。



 ふわり、とここまで照らしてくれたランタンが浮かび上がり、溶けるように消えて行く。

 その光景を見ながら……昔知ったある伝承を思い出す。

「ありがとう、あなたに安住の地が見つかりますように」

 答えるように、最後に明るく光を放ちランタンは消えた。最後の一瞬、あの顔が柔らかにほころんだように見えた。



 翌日拓也に捕まり、恐怖の一日について延々語られ、運営への抗議メールを出すのに巻き込まれるとは、この時の佐久弥には知る由も無かった。


※佐久弥の呟いていた伝承について

 口先で地獄行きを逃れた男が、その後彷徨っている伝承です。どこにも行けず安住の地を求め、今も彷徨っているという……道に迷わすとか、道案内をしてくれるとかいうお話もあります。

 ニタリと笑うカブの画像もありますので詳しくはwikiでジャック・オー・ランタンを参照下さいませ。


※お約束のものが出ていないと思った方へ

 次回が本編です(`・ω・´)

 プレイヤー&運営のターンのハロウィンが次回小話となります。お察し下さい……(ぇ


※投稿済みの話順入れ替えできないため、こちらに移動

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