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これが最初の魔法論  作者: 界人 峻一
18/25

18 謎解きと再会


 魔物の死骸は三匹全てが発光現象を伴ってミイラ化。内一匹から赤い魔石が見つかった。魔石はミイラ化した体内にあったが、ミイラ化によって薄皮になっていたため目視可能で、手で少し穿ればすぐに取り出せた。

 少々手間取ったのは、ミイラ化後も綺麗に原型を残していた首の骨の回収だった。首はミイラ化する前からこの魔物の特徴的な部分で、角のようなものがたくさん付いてる。当然頭と体が繋がっている部位だ……。

 ダリウスはミイラ化したスリーテイルの尻尾を回収していた。さらにそれが売れると言っていた。となると自ずとこの魔物の場合は首の骨だろうと予測できるわけで、回収しなければいけないと思った。しないと無駄に殺傷した事になるというか、なんかこう……後味が悪い。とはいえ死骸をいじる行為。しかも首の骨の回収。それはそれで後味が悪く、かなりの抵抗感があった。

 結局俺は色々な感情を押し殺して丁寧にそれを行った。その後、両手を合わせて黙祷した。


 さて今日は帰ろう、すぐ帰ろう。体にかかった魔物の血が気持ち悪すぎて早く洗い流したい。そう思って街の方を目指そうと踵を返したわけだが、すぐに光る草がぽつぽつ生えているのを発見。……発見してしまった。少し迷ったものの、当初の目的を疎かにできず、ここを調べることにした。

 見た目の上では、初めてこの世界で目覚めた時の草原に生えていたものと同種だ。よって女子生徒が授業で言っていたように、これは魔草だ。数は草原よりも少ないが、ここも魔素溜まりと呼べる場所かもしれない。そう思った途端、周りの環境に違和感を覚えた。木々は異常に生い茂り、蔦が幹や枝にぐるぐるに巻きつき、それらの表面は大量のコケで覆われている。そんな深緑感が四方八方に溢れていて、自ずと魔素溜まりが関係しているように思えた。

 さっそく付近を少し歩いて確かめてみれば、やはり魔草が植生しているこの場所だけ、周りと比べて植物が異常に成長している事が分かった。森の中でこういった現象は珍しくないだろうが、実際に比較して差が出ているのだから、魔草か或いは魔素溜まりという環境が何らかの形で関与してる可能性は高いと言えそうだ。

 次に魔草そのものを観察して調査してみた。そもそもこの光は、今しがた見た死骸がミイラ化するときに起こる発光現象と酷似している。もし同一ならば、この草もミイラ化現象が起こると予想できるが、その現象は見られない。ただ延々と、ゆっくりぼんやり点滅発光を繰り返すだけ。

 試しに発光現象が現れた瞬間に、素早くその先端部分を千切ってみた。

「……ほーっ!」なんと千切った破片は発光しつつ枯れていき、やがて散り散りに朽ち果てた。

 面白い。部分的に死んだと呼べる葉の先は、魔物が死んでミイラ化する現象と同一の道を辿ったのである。どちらも消えた水分は気化したと言っていいだろう。

 この現象や周囲の環境。加えて魔素溜まりという地名から推察すれば、やはりこの草が空気上に魔素を放出していそうだ。正に魔草という名がふさわしい。こうなると二酸化炭素を吸って酸素を排出するという光合成の一連の中で、魔素も一緒に排出しているのかもしれない。もし、この考察通りならば同じ現象を辿った魔物のミイラ化も、イコール魔素化している可能性が高い。問題はその確認の仕方が思いつかないところだが、見た目だけで言えばこの仮説は的を射ている気がする。


 ここからさらに思考を巡らしていると、胸にひっかかる事を思い出した。学院で行なった冒険者授業でいくつか生徒に質問していた際、ある女子生徒は魔草の光が魔素だと言っていた。その時の俺は、光はあくまで植物自体の発光であり、空気中の魔素は光っていないという理由の元、彼女の答えを否定した。ちなみにその後の実験結果により、魔素は空気中の酸素と結びついている気体だと分かっている。その時それを魔酸素と名付けた。

 だが、今こうして魔草を千切った時の反応を見てみると否定しすぎだったと思う。この世界特有の何らかの化学反応によって、放出された時にだけ発光している可能性が出てきたからだ。

 ――とはいえ、未だ完全に肯定する事もできない。なぜなら魔草以外の植物に関して腑に落ちない。発光していない植物が魔素を放出していないとは言い切れないからだ。発光していなくても光合成をしている以上、酸素と共に魔素を放出していても不思議じゃない。むしろそう考える方が自然だ。なんといっても同じ大地に根を張っているわけだしな。

 この件も同じく冒険者授業で男子生徒が述べた意見に根拠がある。彼は魔素を大地からの恵みだと言っていた。これは大気穴にも当てはまっているわけだけど、今回の植物についてそれを考慮してみると、根を使って大地から魔素を吸収して吐き出していると想像に難くない。もっとも、普通の植物においては魔素の放出量は少ない。これは魔草の群生地のみが魔素溜まりと呼ばれている所以だ。

 結局今のところ光の原因が何なのかは不明。要因の一つとして魔素が関与していると思われるが、この情報だけで突き詰めて考えると、極めて不吉で憂慮しなければならない点が出てくる。それは人間だ。人間も魔素を体内に吸収し、それを排出して魔法を行う生き物。呼吸だけで言えば魔物と大差ない。だからひょっとすれば人間も――――。


 俺は先程拾った魔石を手のひらに持て余しながら、今度はこの石について考えた。

 スリーテイルの魔石の時と同じく今回の魔石もミイラ化直後は赤く発光し、時間経過で光は消えていった。魔石の外見は丸みがあまりなく、角角しい荒削り。遠目で見れば楕円形のだたの石だ。しかし、近くで見ると幾分透明度があり、鉱物の結晶のようなものが複雑に絡み合っているのが垣間見える。

 これが本当に結晶体のような物だと仮定すれば、当然結晶までに長い時間が必要だろう。そしてミイラ化にも同様に時間が必要だ。この共通点は偶然だろうか?

「…………」

 通常、死骸がどのくらいの時間を要してミイラになるかは知らないが、流石に先ほど目撃したミイラ化の時間は極めて早い。どう頭をひねっても不自然で不可解すぎる。だったらいっそのこと、発光現象が起きている間、時間が早く経っていると考えたらどうだろう。それなら魔石の結晶化にかかる時間にも説明がつく。

 そうなると、魔草にも結晶化している魔石があってもおかしくないのでは? だってずっと発光しているし。

 真っ先に根っこが怪しいと思い、俺は注意しながら魔草の根を探ってみる事にした。注意というのは、あまり根に触らない方が無難だと思ったからだ。どんな事が起こるか分かったもんじゃない。しかし――。

「何もないな」

 この仮説は飛躍しずぎだったか。たしかに時間という共通点は面白かったものの、それだけでは不整合な点もある。石とミイラでは、それぞれ必要な時間があまりにも違う。明らかに石の方が時間を要するはずだ。


 魔草に魔石がないことを知って少しばかり落胆しつつも、再び魔石の謎を検討しはじめると、ふと血の匂いが鼻についた。自分の体を見てみれば、返り血が既に黒く変色しきって凝固していた。

「さっさと落とさないと残りそうだな」

 一旦魔石の事は横に置いて、俺は西の方へと歩き始めた。だが、その足取りはとても重たいものだった。考えないようにしても全くダメで、どうしても大きな動物を何匹もこの手で殺したという事実が、じわりじわりと精神的に重くのしかかってくる。正直自分でもこんなに動揺するなんて驚きだった。考えてみれば日本にいた頃、自らの意思で生き物を殺すという経験があるとすれば蚊ぐらいしかない。酪農関連の職業をしていれば、少しは耐性があったのかもしれない。

 ともかく、さっさと体についた血を洗ってスッキリしないと。この血のせいもあって全く現実逃避できない。

 そうしてグダグダ歩いていると、幸運な事に森を縫うように流れる横幅数メートル程の小さな川を見つけた。これは運がいい。さっそく体にこびり付いた血を落とそうと服をババッと脱ぎ、小川に足を踏み入れた。

 そこで気が付いた。先客がいらっしゃることに。その人は俺の斜め向かいの対岸にいて、俺が川に入るまで手前にある木の枝葉と絶妙に重なっていたため、全く気がつかなかった。

 そして俺が小川に足を踏み入れた音を合図に、その人はさっと近場に置いてあった剣や服を手に取ったようだ。

 ――なっ、なんてことだ!? こんなにも木を邪魔だと感じることが今まであっただろうか? いや無い! 手前に伸びる木の枝。邪魔だ。すごく邪魔だ。あともう少しだというのに!

 こうも邪魔だと思うのは、木々の隙間から垣間見えたのは女性。加えて俺と同じように半裸だからだ。

「だれ!?」

 しまった。俺の邪な気配を感じたのか、彼女は警戒心を露わにしてそう言った。

「すみません。その木に丁度隠れていて気が付かなかったんです」

 そう答えると、邪魔な枝の横からピョコッと顔を出してきた。

 見えそうで見えない絶妙な服の羽織り方。いいや違う! あれはむしろ肌蹴方だ。 

「……すごい血だけど。大丈夫?」

 あぁ。神様ありがとう。

「あぁ。かみっ……。大丈夫ですよ。これは返り血なので」

 ヘソ出し!

 さっきまで傷心中だったのに、強引に胸が高まった。


 俺も男だ。こんな出来事があれば鼻の下を伸ばしてしまう。無論、言葉の綾で表情は隠し切っているが、視線だけはいう事を聞かなかった。月並みの言葉だが彼女はとても綺麗で可愛かった。若々しく、しなやかな肢体。大きく張った胸にくびれた腰。そして端正な顔立ちに、あどけなさが残るその表情。二十歳前後だろうか。髪は透き通るような薄い金髪。そして耳が横に伸びている。

 ん? 耳が、横に、伸びて? 

「……もしかして君は」

「……広場で落ち込んでた人?」

 彼女は少し丸めた人差し指を俺に向けてそう言った。

 こうして俺はパスカルの街に初めてきた時、門前広場で出会ったエルフと再会したのだ。




 一通り体と服を洗った後、焚き火を焚いて服を乾かしつつ、エルフさんと一緒にお昼ご飯に相成った。

 ああ。火は彼女が魔法で焚いてくれた。後々、こういうアウトドアの用具をちゃんと買っておこう。一人だったらかなり困っていた。こういうのはどこで……。待て待て。今はそういうんじゃない。それよりここで重要なのは、お互いに薄着という点だ。

 ――眼福とはいえ、流石に目のやり場に困ってきた。

 北門前の広場で購入した串パンサンドを見つつ、彼女も見つつ、いや串パンサンドを見つつ、やっぱり彼女を見つつ頬張る。そんな感じだ。

 初めて食べる串パンサンドは美味しかったけど、きっと本来の美味しさよりも美味しい。そんな気がする。いや、勘違いしないでほしい。たとえ彼女がいなくても、串パンサンドは期待を裏切らない美味しさだ。今後北門に行けば、頻繁にあの屋台を利用することだろう。だが今は美女と共に食事しているのだから、美味しいものがさらに美味しくなるのは全世界共通事項だろう。

 ちなみに彼女が食べている物にも興味がそそった。丸いパンのようだが、彼女がそれを手や口で千切ろうとしたとき、モッチリにょ〜んとパンが伸びていたのだ。不思議なパンで食べた事は当然ないが、確実にあれも美味い。なぜなら食事中の彼女の幸せそうな表情は、正に言葉のいらない食レポ状態だったからだ。


 この色んな意味で美味しい食事は、軽い雑談を交えつつ堪能した。彼女は頻繁に冒険者の仕事で小遣い稼ぎをしているそうで、小川にいたのは俺と同じように魔物の返り血を洗っていたらしい。

「急に音立てるんだもん。魔物かと思って魔法で消そうかと思ったよっ」

 消す!?

 怖い事を彼女はクスクス笑って言った。言葉は怖いけど、なんというか怖可愛いです。はい。

「また死ぬのは嫌だなぁ。しかもついさっき死にかけたばかりだし」

「また?」

「あ。いや何でもない。死ぬのは嫌だなって事さっ」

 自分の口から出てきた言葉が可笑しくて、つい半笑いになって有耶無耶にしておいた。

“また”とつけたのは一度死んだと思っているからだ。俺は自分なりに、異世界に来てしまった理由をこれまで毎日毎晩じっくり考えていた。だが事が事ゆえに思いつく理由は途方もない馬鹿な考えばかりで、どれも現実性に欠けた事しか思いつかなかった。そして考えるのをやめた。

 この事を考えだすと落ち込むし混乱もする。そして次第に無気力になって静かな絶望を迎える。こうなると精神的に苦しい。だから自分を安定させるために、とりあえず心残りの家族や仕事仲間、友人たちの事。それら地球の事に関して、俺は地球で死んで葬式も済んでいると思い込む事にした。そうすれば少しは諦めがつくし、少しは気持ちも楽になったからだ。

 もしかしたら家族が俺を探しているかもしれないのに、こんな風に思い込んで気を楽にするなんて薄情だが、帰れる根拠と見込みがない。なさすぎる。だからこそ気を楽に、一旦全てを諦めて今を過ごすしかない。夜な夜な何度も絶望するのは気が狂うし、こうでもしないと生きる力が削がれていく。

 もちろん完全に日本へ戻る事を諦めたわけではない。心の片隅に故郷の想いはある。だけど無闇で無謀な希望を抱くほど楽観的にはなれなかったし、そんな希望を持って希望に裏切られれば、俺は俺を止められない。

 そんな最後は嫌だ。

 それでも、ふとした瞬間に魔が差してくる。先ほどの戦いでも起きていた。根拠もないのに死ねばあっちに戻れるかもなんて、そんなバカな事が起きてたまるか。





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