表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
左遷艦隊  作者: マーキー
動き出す影
42/50

覚醒

多田野が目を覚ましたとの知らせは伍長により瞬く間に艦隊全体に広まり、猿渡、二階堂、白石の各艦長、日野、南郷などの主要艦橋要員が規則などそっちのけで、司令私室に駆けつけ、大混雑となった。

ベットに寝る多田野を囲んで、皆が思い思いに多田野が倒れていた時のことを話していく。

要約すれば、多田野が意識を失って今日で5日。その間に、モロ島は、『自らの手』で、アメリアを追い出し、帝国はモロ島の『独立』を承認し、それに伴って帝国本国からは『政治顧問団』が送り込まれ、さらに第12独立艦隊も被弾のため、チャーラに戻ったクンプウとその護衛の2艦を除き、両国の友好と顧問団の護衛のため、モロ島から『許可』を得て停泊しているらしいとのことだった。

しかし、多田野は、皆の話よりも、多田野が居なくとも、とど凝りなく艦隊が運営され、こんなにも人が集まる事に驚いていた。無論、自分の価値を過大評価しているわけではない。むしろ、いままで、多田野はなるべく司令として目立たないようにしていた。通常の艦隊では、問題であるが、艦隊指揮の経験の全くない多田野は猿渡や航海長の南郷のようなベテランの『船乗り』に何か言えるどころか、完全な『親の七光り』司令であり、さらに、艦数が圧倒的に少なかったので、大仰な会議は必要なく、作戦自体、ギリギリの立案を求められたという特殊な環境が多田野を隠していたと言っても良い。そして各艦長たちも、その状況を受け入れたからこそ、その特殊環境下で今まで過ごしていたのだと多田野は思っていた。実際、艦隊の運営は、大佐以下4人の艦長と作戦参謀による『艦長会議』によって行われていたようで、猿渡も二階堂もそして、白石も親しげに話しかけ、多田野が決めなくても、和やかに話が進んでいく。しかし、それでいて決して多田野をないがしろにするわけでもなく、重要事項の説明も丁寧であり、多田野にしっかりと決裁を求めてくる。

ふいにドアが開いた。

「チャーラ島司令部より命令書です。」

アサマどころか艦隊のお偉方が集まる中、通信士はいつも以上に緊張しながら、あくまで職務に忠実に多田野に命令書を手渡した。

そこには、多田野をモロ島の基地司令にするとの命令が書かれていた。

基地を持つことは多くの軍人にとって、夢であり、普段、あまり出世欲を感じない多田野でも嬉しかった。大佐を始め、周りも口々に多田野を拍手で讃えてくれる。

しかし、作戦参謀だけはなにか何か紙を取り出して何かを書き込みながら、浮かない顔で申し訳なさそうにちょっと、よろしいですかと口を開いた。

作戦参謀は事前にこの情報を知っているのだと多田野は黙り、ちらりと作戦参謀を見た大佐が少し大きな声でどうぞと雰囲気を緊張させる。

「独立艦隊はあくまで、皇族方の私兵。独立艦隊司令が基地持ち司令になった例は、正直、ごく昔に一例ありましたけど、艦数、事務方の数など、近衛艦隊に準ずるそれなりの格がないと。」

「近衛艦隊に準ずる格。やっぱり、装備や人員面で大変か。」

黙った多田野を辛そうだと見たのか、小さく頷いた猿渡がそう言う。

多田野は咎めることなく作戦参謀に向け、答えを待った。

「はい。外交とモロ島への『人道支援』の輸送艦隊がチャーラから、来ると思います。ただ、艦艇と人材の不足はどうにも。艦艇は輸送艦隊を併合したとして。事務方の職員は陸海、民間、経歴問わず、刈り集めればなんとかなりますが、でも、艦隊や基地守備隊の方の人員は一朝一夕に育成できるものではないので、特に指揮階級は兼任者が多くなるかと。」

 近衛艦隊基地。

 充実した艦隊の威容や構成に加え、作戦立案から、鉛筆の補充まで、あらゆる事務をこなせる事務方の数、威厳と実力を兼ね備えた守備隊。

 正に海軍の粋を集め、その基地だけで完結することが求められる部隊である。

 作戦参謀の口からは、基地の構成に関わるかなり具体的な数が出てきたが、元々、定員もギリギリという艦隊には厳しい物だった。

 目の前の命令書が厄介なものであった事がここにいる全ての人間で共有された瞬間だった。

 多田野は命令書が、2枚綴で但し書きが付記されていたことに気がついた。そうして、まだ、少しボヤッとする頭で、その部分を間違えないよう2度読んで、しっかりと内容を頭に入れてから、作戦参謀に声をかけた。

「ちなみに、北有栖川殿下は副司令に君を推薦しているが。」

大佐は多田野が読み違えた可能性を疑い、命令書をそっと覗き見てきた。

確かに中佐クラスが、基地副司令などということはありえない。しかし、軍の人事の慣例を気にしていては、この艦隊の存在自体あり得ない事になる。むしろ、パッと近衛艦隊の構成を口に出せる者はなかなかいないのだし、まして、これからモロ島を拠点とすれば、アメリア語の話せる作戦参謀に交渉事を任せた方がよいことは子供でもわかった。

多田野は、密かに北有栖川の後ろにいる山中の人選に感謝した。

「で、艦隊司令はどうなりますか。多田野提督の指揮下にあるのは変わらないのでしょうか。」

 今度は、二階堂が多田野に代わり、質問した。

「この命令書には、司令に任ずるとしかないので、艦隊司令の職は兼任と言うことになるかと。勿論、司令代行を置くべきと思いますが。」

「それは提督が勝手にやって大丈夫なものかしら。」

作戦参謀の答えに次は順番とばかり白石が疑問を口にする。

「はい。問題ありません。基地司令の人事権の範囲内です。」

3人の艦長が次々に質問する様を見て多田野は自らが思う司令像が誤りだったことを悟った。多田野は迷うことなく人事を決定した。

「では、艦隊司令代行に神城大佐を。艦隊の作戦参謀は猿渡大佐、二階堂大佐、白石大佐の各艦長に任せる。人員不足だから、いずれも兼任と言うことで。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ