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左遷艦隊  作者: マーキー
南方の小艦隊
30/50

壊滅

多田野はありったけの大声で左旋回を命じた。

2度目となる回頭は用意していたこともあり訓練のように鮮やかに決まった。

これにより、第5艦隊に近づこうとしていた敵A艦隊との距離が縮まる。

「提督。さすがです。これなら、A艦隊に対してイ型を描けます。」

作戦参謀が左に20度頭を振った時の線を書きこみながら言ったが、さすがに、そこまでは多田野の計算外だった。

しかし、絶好の位置にいて攻撃をしないこともないと多田野は頷いた。多田野初の艦隊戦の始まりだった。

「了解。左20。敵A艦隊の頭を塞ぎます。」

大佐がそう言うと、第12艦隊は敵A艦隊と完全なイ型になる。A艦隊は急転舵でかわそうとしたが、各艦の運動が合わずに隊列が崩れた。

「照準は敵旗艦でよろしいですか。」

大佐が多田野に許可を求める。多田野は大佐を手で止めると声を張り上げた。

「撃ち方始め。目標敵旗艦重巡。」

大佐はクスクスと笑い、砲雷長は雄叫びともとれる気合いの入った大声で砲戦の開始を告げる。

そうしてA艦隊にとっては不本意な形で双方が撃ち合う砲撃戦に発展した。回避行動による衝突を避けるため隊形をたて直すことを優先した敵艦隊はこちらの接近を阻むだけの連係のない砲撃しか出来ないようだったが、旗艦の砲撃は素晴らしく、ゆるやかに旋回して艦隊を立て直しながら執拗にアサマに至近弾を叩きこんでいた。しかし、アヤセ以下軽巡2隻が射程に入り、それよりもはるかに多い砲弾が敵艦に撃ち込まれていく。

「敵旗艦、炎上。戦闘不能。」

観測手が嬉しそうな声をあげ、夜の海が昼間のようにオレンジ色に明るくなる。もう照明弾の必要はない。アヤセ以下の砲撃もその精度を上げ、誰もが勝利を確信した時、砲撃音とは明らかに異なる轟音と振動とともに船首に被弾という今までの空気を一変させるような報告が多田野の耳に届いた。

副長が双眼鏡を船首に向ける。

「それほどひどくはないようですが、損害程度がわかるまであまり厳しい回避行動は控えたほうがよいと思います。敵艦隊から距離を取るべきです。撤退許可を。」

大佐はテキパキと指示を出し、近場の配置から状況確認の兵を送る。

「ミナセより雷撃許可求むとのことですが。」

通信長がこんな時にというような声で電文を読み上げたが、多田野には猿渡の気遣いが嬉しかったです。

「許可する。残りの艦は水雷戦隊の掩護。アサマは離脱を優先。」

多田野の命令とほぼ同時にミナセ以下駆逐艦3隻が艦隊から離れ、敵艦隊に突撃を敢行する。雷撃可能距離まで一気に詰めた即席水雷戦隊は直ぐ様、転舵。しばらくして敵艦隊に水柱が上がるのが見えた。

「魚雷命中。敵旗艦撃沈。敵軽巡2隻命中とのこと。」

通信長が戦果を読み上げる。

「軽巡1隻は傾斜が見えますから、大破。もう1隻は中破というところでしょう。」

副長が双眼鏡で敵艦隊を見て損害を確認していく。びしょ濡れになった兵が息を切らしてもどってきた。

「浸水なし。少し凹んでいますが、航行に影響なし。」

報告を聞いた大佐が大きく息を吐いた。

アサマは砲撃を再開し、艦橋はまた目の前の敵艦隊に集中する。

「敵A艦隊反転。撤退します。」

観測手が勝ち誇ったように報告をあげる。

旗艦が撃沈されたことで敵艦隊の戦意は削がれたとみるべきか。深追いして損害を出すこともないだろうと多田野は思い、追撃は中止させる。

「追うな。各艦損害報告。」

「ミナセとハヤサメの上部甲板が損傷。いずれも航行及び戦闘に支障なしとのこと。」

通信長の読み上げに副長が各艦の損害を評価していく。

「いずれも小破かと。」

「第5艦隊より戦艦2重巡4軽巡10駆逐艦多数の大破撃沈を確認との入電。第1・第3艦隊も敵の撃滅に成功。チャーラ島に侵攻した敵艦隊はすべて撤退しました。」

通信長の報告に艦橋は歓喜の声に包まれた。

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