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左遷艦隊  作者: マーキー
南方の小艦隊
29/50

計画

一条は執務室の窓から克人と山中が軍令部の敷地を完全に出たのを見届けてから、引き出しの縁にある小さなボタンを2回押した。数分も経たず、軍服ではなく軍令部にも珍しいスーツを着込んだ男2人が音もなく執務室に来た。

「お呼びでしょうか。長官。」

呼び出された男たちの顔にも声にも一切の感情はない。

彼らは一条が就任してまず初めに創設した軍令部長官直属の特殊護衛部隊。政府といえども存在を知らない組織である。

「やはり、断られた。山中とかいう男、むかつく奴だ。殿下もあの男にすっかり毒されているな。一人前なことを言いやがる。プランBはどうなってる。」

「はっ。ご計画通り、アメリア諸島のアメリア海軍をチャーラ島に侵攻させました。アメリア側の同海域に展開中のほぼすべての戦闘艦艇が加わる大艦隊のようです。」

一条反対派とはいえ、それなりの面子を集めた南方攻略艦隊が敗戦することはないだろう。しかし、死んでくれればそれもそれだなと一条は溢れた笑みを隠さない。

「国民と将校の反応はどうか。」

「我々がマスメディアはしっかり抑えてますし、戦闘が極々局地的なものなので本島は平和そのものです。生活困窮者のための南北方面軍兵舎の貸出も国民からの賛美をうけています。開戦したこと自体、国民に伝わっているかどうか。開戦理由についてはこちらの思惑通り、政府も将校もアメリア諸島の一部部族が帝国軍に解放を求め、小さい小競り合いからなし崩し的に開戦したと信じています。」

なぜ、南方で開戦したことになっている戦争の主戦場が帝都の西の矢方島なのか。平和ぼけした国民ほど扱いやすいものはないなと一条は思う。今回の戦争は日頃から揉めていた南方諸島の領有権や海域の支配権を使ったに過ぎない。アメリア諸島の一部の部族達は本気でアメリアからの解放を望んでいるらしいが、占領地の統治は政府がやるのだから一条には関係のない話である。

一条は一つ咳払いをして、自らの執務机の上に置かれた『軍機』と書かれた作戦報告書を開いた。

本題とばかりに無表情な男たちの顔が今までより引き締まり、足を少し開いた。

「さて、計画はどうか。」

一条の問いに今度は左側の男が前に出た。

「ウィンスラー将軍は当初予定の港でタンカーの座礁事故が起こったため、入港を断念。コールトン港を母港とするとのことです。当地で艦隊の編成を行い、出撃は予定通り1週間後とのこと。コールトンは当初の予定港から南に20キロしか離れてません。作戦の遂行自体に影響はないかと。アルドルフ様は既にニューギンの街に入って機会を伺っております。すべて作戦通りです。」

男は地図を指しながら説明したが一条にとって作戦の遂行に問題ないならどうでも良かった。まだ何か説明し足りないというような男を遮って一条は自らの聞きたいことを質問する。

「アメリア軍の動きはどうか。」

左側の男が無表情のまま、即座に口を閉じ、答えるのは右側の男に戻った。

「WAと相互不可侵の密約を結び、ほぼ全ての海軍戦力が我が方に展開または回航中です。しかし、念のための抑えとして対潜駆逐艦隊1個艦隊と重巡3軽巡4の艦隊を残していますが、将軍の艦隊にかかれば造作も無いかと。矢方島は後数ヶ月は持つでしょう。」

それだけ、扶桑の海軍力はアメリアに恐れられているとすればこの計画も御の字だなと一条は自らの作戦に少し酔った。開戦からこの方、細かいことを除けば一条の目論見通りに事が運んでいる。

「全く、戦争狂と妄想王のお守りは疲れる。計画は続行。引き続き2人の動向を注視しておけ。政府にも諜報局にも知られてはならん。我々は政府の無謀な戦争に付き合わされた被害者を演じなくてはならぬからな。」

男達はただ御意とだけ答えると、消えた。


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