集結
アサマとヨーテイは姉妹艦であった。
艦内の配置も装備もほとんど同じで会議室の装飾までもヨーテイと少しも変わってはいなかった。
そんな会議室に多田野は今後の事を話し合うため、艦長たちを招集した。
多田野達が着いた時、猿渡、二階堂、白石の3名がすでに座っていたが、他の2艦の艦長は、なにかと口実を設けて、欠席していた。本来なら、服務規定に抵触する可能性のある行為であり、彰子は規律の為に厳重注意をすべきであると訴えたが、注意しても状況は変わらないだろうと多田野は何か別の方法を考えることにして、急ぐようにという伝令を送っただけで済ませた。
「提督、ご無事でしたか。」
まず猿渡が立ち上がってそう敬礼した。
「提督。神城艦長。ご無事で何よりです。いきなり自分のような若輩者に指揮権が移ってきて驚きました。無茶をなさいましたね。」
二階堂も笑顔で敬礼する。
「たしかに、無茶だったかもしれないな。6名の乗組員が亡くなった。」
多田野は何気なくそう応じたつもりだったが自分でも声が少し沈んだと思った。
「いえ、あの場でヨーテイを盾に使わなければ、500余名の将兵と100以上の軍馬、それに貴重な弾薬や食料が失われたでしょう。亡くなった者には申し訳ないですが、最善の策と考えます。」
猿渡が二階堂を横目で睨みつけながら、そう言った。
「ご無事で何よりですわ。提督。亡くなった方々のご葬儀は滞り無く努めましたのでご安心くださいませ。規定上、提督達をお待ちする時間は無かったものですから。」
最後になった白石がそう言って、戦死者リストを多田野に渡した。艦内での死亡者は腐敗による伝染病の発生を防ぐため、死亡または戦闘終了後、可能な限り早く、2時間以内を目処に水葬か埋葬をしなくてはならないと定められており、到着早々、司令に呼び出された多田野達を待つことはできなかった。
「それで、司令からのお話は。」
と二階堂が机の上の海図に目を落とした。
それについては私がお話ししますとエルナが立ち上がる。
「我々はチャーラ島司令、北有栖川克人殿下直属の指揮下に入り、アメリア諸島を攻略するとなりました。第12独立艦隊は、先発攻略隊として、アメリア諸島に点在する小規模基地を制圧することが目的です。なお、被雷したヨーテイの代わりにこの重巡アサマ、戦力増強として軽巡ショウナイ、駆逐艦クンプウが入り、第12独立艦隊も重巡1、軽巡2、駆逐艦3の艦隊となります。」
「ほう。ようやく、少しは艦隊らしくなりましたな。」
「で、新たな艦長さん達はどちらにいらっしゃられるのでしょう。」
「事務手続きの遅れで到着が遅れている。」
白石の問に多田野はなるべく感情を込めないように気をつけて答えたが、彰子を除く3人は少しニヤついた。
急に水兵たちがバタバタと廊下を走る音がして、彰子が申し訳ありませんとすこし顔をしかめる。
「水兵たちも新しい艦に慣れようと必死なんでしょう。何しろ入港後、1日も経たずに乗艦が変更になったんですから。」
二階堂が優しくそう言った。
「艦長ですら、事務手続きが遅れているのですからねぇ。」
と白石が口を抑えてクスクスと笑う。
「話を進めてもよろしいでしょうか。」
一方、早く休暇に入りたいエルナが強引に話に割り込んで、皆の視線を机上の海図に集めた。
「チャーラ島司令部はアメリア諸島は島々の間の間隔が狭く、迂回路をとり時間をかければ、水道の入口で待ち伏せに遇う可能性かあり、小艦隊で素早く制圧するという作戦を立案しています。これに従いまして、近い基地から攻略していきます。まず、チャーラから最も近い敵基地は南東に15キロのヌール島を制圧後、チャーラ島の本隊を待ち、本隊が敵の中規模基地のあるモロ島に進撃すると同時に周辺の島々を攻略していくのが順当な線かと。現在、ヌール島には旧型軽巡2隻からなる哨戒艦を確認しています。なお、ご連絡致しましたように乗組員の休息のため、アサマの乗組員には本日より1日の休暇。他艦には半舷ごと1日ずつの休暇が与えられます。」
「いっそ、全員に明朝までの上陸を許可したらどうかと具申致しますわ。」
白石がのんびりとそう言った。
「白石艦長。今は戦時中です。そのような勝手は許されません。」
そう目くじらを立てた彰子とは対照的に多田野は白石の意見に惹かれていた。
「作戦参謀と致しましては白石艦長に同意いたします。チャーラ島には攻略艦隊として我々の他に4個艦隊あり、内1艦隊は即応状態で常に待機中です。守備体制に問題はありません。」
守備体制も盤石と聞いて、多田野は全艦に休暇を与える事を決めた。
全艦一斉に休暇を与えてしまえば、休暇は半日となり少なくて済む。悪どい考えではあるが、最初から全艦による訓練が可能であり、訓練日数が短縮され、さらに乗組員に休暇を与えたことに変わりはない。軍全体の作戦行動全般に与える影響を考えても時間が惜しい多田野にとり魅力的な案であった。すぐに彰子が手を挙げて発言を求めてくる。
「こういう時だけ用意がいいわね。貴方は休みたいだけでしょ。司令。稼働艦を空にするなど前代未聞です。私は反対です。」
「来ていない艦を即応艦として残し、後の3艦は全員上陸を許可する。」
多田野は彰子の方を見ないようにしてそう命令した。
彰子のため息が聞こえ、猿渡が困ったように首をひねった。
「確かに、理由なく全員上陸を命じるとなると外聞が悪いですなぁ。一応、戦時体制ですからなぁ。」
彰子はさもありなんという顔で多田野を見て、エルナは哀願するような目を多田野に向け、そんな多田野の視線を浴びた猿渡はニヤリと笑って見せた。
「整備部に船体の調査と清掃を命じてはいかがでしょうか。」
会議はエルナの歓声とともに終わった。




