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【第二部 神の残影】境界のウィル ~王都の騎士団に拾われた少年は、自分が何者かを知らない~  作者: 文木あお
第二部 神の残影

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第49話 街の人々

 見上げた先は曇り空だった。雨が降るのか降らないのか、はっきりしない空模様をウィルは不満に思う。

 降られたら降られたで困るのだが、曇り空は気分がスッキリしない。なんとなく中途半端な感じがした。

 王都の中央広場は今日も人通りが多い。ベオルスリック大通りの中ほどにあるこの広場は市民の憩いの場だ。たくさんの露店が出ておりいい匂いが漂っている。

 ウィル、リン、セオル、フローラの四人は大聖祭の準備のため、街に繰り出していた。

 国王との謁見から数週間、メアウェンは大聖祭で教皇の護衛につく団員の選出に大いに悩んでいた。ウィルと教皇を守れる優秀な団員は誰が良いかと、何日も執務室にこもりきりだった。アルドやフェイ、時にはウィルたちも部屋に呼ばれ、何回も話し合った後、訓練場でウィルたちと手合わせをして、結局リン、セオル、フローラの三人が選ばれた。


『だから言っただろうよ』


 アルドの勝ち誇った顔に苛立ちつつも、メアウェンはウィルたちの実力を認めてくれたのだ。大聖祭の護衛はメアウェンとウィルに加えて、馴染みの顔で行うことになった。

 今日は作戦に備えて、新しい魔法具の視察に来たのだが、一行にメアウェンの姿はない。


「今日はメアさん非番じゃなかったの?」


 串焼きの露店に目がいっているウィルにセオルが聞いてくる。


「うん、なんか事件らしくて」

「なにかあったの?」


 フローラが入ってくる。


「えっと、リン、なんて言ってたっけ?」

「教会の司祭様が消えちゃったんだって。あ、ほらあそこでやってる」


 リンの指した先には人だかりができており、その中心で一人の読聞屋(スペルレレ)が熱心に弁舌をふるっていた。


「さあ、寄っといで寄っといで! 今日は王都で起こった大事件、司祭様失踪の話だ。居なくなった司祭様、王都じゃ人気のあのお方だ。皆に優しく敬虔な神の信徒、おまけに端正な顔立ちでおめえらも信奉者が多かったんじゃないか? そんな司祭様が三日前から姿が見えねえってんで、大聖堂は大騒ぎだそうだ」

「ええ!? あたしまたあの方に寄進しようと思ってたのに!」

「さっき、お祈りに行ってきたけどそんな騒いでなかったけどな」

「それよ! 司祭が居なくなったってのに、大聖堂はなんにもありませんでしたって顔していつも通りやってやがる。おかしいよな? それにはちゃーんと理由があるんだ。聞きてえか? 聞きてえならおめえらやることがあんだろう?」


 読聞屋(スペルレレ)の煽りに応えて、聴衆から硬貨が投げ込まれる。たっぷりの銀貨や銅貨を受け取り、読聞屋(スペルレレ)は満足そうに笑みを浮かべる。


「おめえら、よーく聞けよ? 実は失踪する前の晩、司祭様が目撃されてんだ。場所は南の通用門のそば、外套を被って二人連れだったそうだ。見たやつが言うにはよ、その外套の人物、なんと女だったらしい」

「ええ!?」「あの方はそんな俗物じゃないわ!」


 主に女性客から悲鳴混じりの声が上がる。


「噂によると、司祭様の部屋には書き置きがあったとかなかったとか。女と逃げたってんなら、教会がだんまりってのもわかるってもんだ」


 やんややんやと、人々は何があったのか自分たちの予想を話し合っている。読聞屋(スペルレレ)は大盛況のようだ。


「うーん、メアがいかなきゃいけない事件とは思えないけど」


 聞こえてきた話の内容に、ウィルは腕組みをしながら唸る。


読聞屋(スペルレレ)の言うことなんか信じちゃだめよ。あることないこと言ってるんだから」

「まあ、とにかく今日はメアさんは参加しないってことだね」

「あ!」


 セオルがまとめた横で、フローラが何か見つけたのか声をあげ、串焼きの露店に向かって駆け出していった。「フローラ?」ウィルたちも後を追う。


「おじさん!」


 フローラが声をかけたのは、串焼きを買っている男性客だった。


「おう、フローラじゃないか! 久しぶりだな」

「知り合い?」


 追いついたウィルがフローラに聞く。


「通用門の門番のおじさんだよ。私何度もお世話になってるの」


 口ひげを生やした男は通用門の門衛だと名乗った。


「フローラの友達か?」

「そう! 傭兵騎士団の仲間で、こっちがセオル、こっちがリン、んで、これがウィル」


 フローラに紹介され、それぞれ頭を下げる。


「ウィル? そうか君が傭兵騎士団のウィルか!」

「彼を知ってるんですか?」とセオル。

「そりゃそうだよ。ウィル君は王都の有名人じゃないか」

「え、俺、有名なの?」


 ウィルは知らなかったと驚いている。


「神像の暴走から王都を守った魔族の少年、傭兵騎士団の期待の新星ってね。なんだ、本人は知らなかったのか?」

「そ、そうなんだ」

「俺たち衛士団は戦いは苦手だから、あんなのが暴られてもどうにもできないんだ。だから、傭兵騎士団の活躍にはいつも感謝してる。それに――」


 口ひげの門衛の男は一度そこで言葉を切る。


「君は噂通り魔族なのか?」


 少し真剣な目をして、男はウィルに聞いてきた。


「あ、はい。そうです」

「そうか。王都の皆を身を挺して守ってくれたんだってな。ありがとうな」

「い、いえ、仕事なんで、そんな」


 優しい声で礼を言われ、少しウィルはうろたえてしまった。


「俺はずっと通用門で働いているんだ。あそこは外街(そとまち)の出入り口だろ? 魔族のやつらにも顔見知りが多くてな」


 外街(そとまち)は難民街の新しい名前だ。ウィンステッド商会の尽力で、道路や建物が整備され、今は立派な街になっている。魔族は市民登録しているものも多くなり、いつの頃からか外街(そとまち)と呼ばれるようになっていた。


「王都の連中は魔族にたいして当たりがきついだろ? 悪い言葉を投げつけたり、時には暴力を振るったりな。このフローラも昔ひどい目にあわされてな」

「もう、やめてよ。大昔の話じゃない」

「いや、こういうのは忘れちゃいけないんだ。特に加害者側の俺達はな。そんな俺たち王都民をウィル、君は体を張って守ってくれた。ありがとうな、感謝するよ」

「あの時は無我夢中だったんで……身体が勝手に動いたっていうか」

「そうか、優しいやつなんだろうな、君は。ほら、例の翼か? あれも君の優しさに応えてアウレクス様が授けてくれたものかもしれないな」


 ウィルは知らなかったが、輝く翼の話は神像との戦いのあと瞬く間に王都を駆け巡り、市民たちの話題に登らない日はなかった。アウレクスに授けられたものだ、アウレクスの生まれ変わりだ、などと皆それぞれ自分の考察を語りあっている。もちろん、好意的ではないものも多くあったが。


「さて、じゃあ俺はそろそろ行くとするよ。串焼きを家族に食わせてやらないといけないんでね」


 そう言うと、門衛の男はウィルに手を差し出す。


「会えて良かったよ。これからも王都を頼むぞ」


 ウィルは男の手を握りかえす。分厚く力強い手から暖かさを感じた。リンたちも順番に男と握手をする。


「じゃあ、またな。フローラ、お前もたまには顔を出してくれよ。元気なところを見せてくれ。じゃあな!」


 口ひげの門衛は手を振り広場の方へ歩いていった。


「ありがとうな、だって。よかったね、ウィル」


 リンがウィルの顔を覗き込む。


「うん」


 ウィルはくすぐったそうな、嬉しそうな顔をしていた。



    ◇



「こんにちは」


 セオルが扉を開き声をかける。店の中を見回すが店員の姿は見えない。

 魔法具の店セアクスワート。王都の魔法街の中にある、魔法具専門の店だ。

 狭い店内には、商品と見られる魔法具が所狭しと並べられていた。護符や秘石、ランプのようなもの、鏡がたくさんつけられた棒状のもの、どうやって使うのかさっぱりわからないものがたくさんある。

 ウィルたちが物珍しさにあちこちを見ていると、セオルが店の奥に向かって声をかけた。


「すみませーん。ウィンステッド商会の者ですが、親方はいらっしゃいませんか?」


 セオルの大声にも返事がない。しかし、すこしの間のあと、どすどすと歩く音が扉の向こうから聞こえてきた。


「おう、セオル坊っちゃんかい」

「こんにちは、親方」


 奥の扉を開けて出てきたのは、小柄な男性だった。小柄と言っても身長の話で、横幅はウィルやセオル二人分程もある。筋肉質でがっしりとした体型、毛むくじゃらの棍棒のような腕、ウィルの胸ほどの背丈、ドワーフの男だ。

 彼らドワーフは通常大陸中央山脈の麓になる、ドワーフの居住地で採掘や色々なものを作って暮らしているが、たまに居住区から出てくる者がいる。魔法街や職人街では住み着いたドワーフたちをよく見かけるのだ。交易や物見遊山で王都を訪れて、王都が気に入った者が住み着いてしまうのだと言う。

 目の前のドワーフもそんな理由で住み着き、店を開いたのかもしれない。


「親方、あれできてます?」

「できてるよ。ちょっと待ってな」


 ドワーフの親方はまたどすどすと音を立てて、店の奥へ入っていく。しばらくして戻ってきたときには、大きな木箱を抱えてきた。

 どん、と床に木箱を置くと中に入っていた玉のようなものが跳ねる。


「とりあえず十個作ってみた。ほれ」


 親方から一つ手渡される。

 玉は片手にすっぽりと収まるライムほどの大きさだ。表面には装飾の細工が施され横に一周ぐるりと規則正しい模様が刻まれていた。


「作ってもらったの? 何の道具?」


 ウィルがセオルの肩越しに覗き込んでくる。セオルはウィルたちによく見えるように玉を高く掲げた。


「これは僕とフローラ、それに親方と知恵を出し合ってついに完成した魔法具――」

音弾おとだまだよー!」


 横から入ってきたフローラにセオルは弾き飛ばされた。音弾(おとだま)が手から零れ落ちそうになり、すんでのところで掴み取る。


「もう! フローラ!」

「ごめんごめん、自慢したくって」


 手を差し伸べフローラがセオルを助け起こす。


音弾(おとだま)?」

「そう、盗賊の討伐の時に使った音魔法(ソヌス・パルウス)を魔法具にしたものなんだ。威力の調整はできないけど、魔法が苦手な人でも使えるものだよ」


 セオルが再び音弾(おとだま)を掲げて見せる。セオルにとって初めての魔法具開発で、完成がことさら嬉しいようだ。


「あと、これもできとるぞ」


 親方が何かを差し出した。分厚い掌に乗っているのは、輪を半分に切ったような形をした細工ものだ。これもなにかの魔法具なのだろうか。


「わあ! ありがとうございます!」

「これは?」


 リンが細工ものを手に取り尋ねる。


「これは遮断の魔法具だよ。後ろ側から耳にかけるようにして使うんだ。ちょっとつけてみてよ」


 セオルに言われた通り、リンは耳の後ろから半輪を引っ掛けるようにして装着する。


「下側についている宝石を触るか、魔法具に魔力を通すかしてみて」


 リンは頷くと、魔力を魔法具に流すように意識してみた。宝石に淡い光が宿る。その瞬間、一切の音が消えた。一緒にいるウィルたちの息遣い、街のざわめき、すべてが消え去り何も聞こえない。

 セオルが口を開け何かを言っているようだったが、リンには聞こえなかった。

 魔力の流れを止める。すると、周りの音が戻ってきた。


「どう?」

「すごいわ。魔力を流したら音が何も聞こえなくなった」

音弾(おとだま)を使う時につけておくんだ。これがあれば、音弾(おとだま)が近くで炸裂しても影響を受けないからね。名付けて、静寂の耳飾り!」

「おおー!」


 一同から感嘆の声が上がる。


「これ、今度の大聖祭に持っていこうと思うんだ。きっと何かの役にたつはずだよ」

「私たちはウィルを守るように言われてるからね!」


 セオルとフローラがウィルを見てにかっと笑った。


「そんな、全員に守ってもらわなくても俺大丈夫だよ」

「何言ってるの。今ウィルは狙われてるかもしれないのよ。ちゃんとみんなに守られてなさい」


 遠慮するウィルを、リンがたしなめる。


「静寂の耳飾りは、頼まれた通り五組作ってあるからな。音弾(おとだま)はまた必要になったら言ってくれ」

「ありがとうございます、親方! あの、これ」

「ああ、一般の客には売らんよ。あんたらウィンステッド商会にしか卸さん。危険なものだからな」

「ありがとうございます! じゃあ、もらっていきますね」


 音弾(おとだま)と静寂の耳飾りを受け取り、ウィルたちは店を後にする。親方は手を振り見送ってくれた。


「訓練もバッチリ、装備も整えた」


 セオルが皆を見て言う。


「あとは当日頑張るだけね」と、リン。

「なんたって、王様と教皇様のご指名だもんね」これは、フローラ。


「絶対に成功させよう!」

「おお!」


 ウィルの檄に皆が腕を上げて応えた。

 大聖祭まであと少し。傭兵騎士団新人部隊は意気揚々と帰っていった。

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☆☆☆☆☆評価や、ブックマークもぜひよろしくお願いいたします。


Xやってます。

@fumikiao

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