第31話 傭兵騎士団の新人たち
境界のウィル第二部開幕です!
物語は第一部の六年後から始まります。
木々が生い茂る森の中、木の密度が薄い少し開けた場所でウィルたちはフェイの帰りを待っていた。
すでに夜も更け、小さな虫たちの鳴き声が響き渡っている。明かりもなく辺りは闇に包まれているが、夕刻よりここに待機して数時間が経ち、ウィルたちの目は暗闇に順応していた。
「戻ったよ」
突然背後から声をかけられ、ウィルは驚いて飛び上がりそうになる。慌てて声が漏れないように両手で口を抑える。フェイの声がするまで、物音どころか気配すら感じなかった。
「どうしたんだい?」
「い、いや、なんでもない。それよりどうだった? フェイ」
焦りを隠してウィルがフェイに尋ねる。
「ウィル、作戦は中止だよ」
「えっ」
「情報より人数が多い。敵は十五人ほどいたよ」
「十五人……」
ウィルは言葉を失い、驚いたように口を開ける。ウィルとともに待機していたセオル、リン、フローラの四人も同様に驚いた顔をしている。合流したフェイを加えて、計五人が今回の作戦に参加する全てだ。
ウィルたちが傭兵騎士団に入り六年の歳月が経っていた。ウィルとセオルは十六歳、一つ上のリンは十七歳、一番下のフローラは十五歳になった。
鍛錬を重ね、十分に成長した彼らは正団員への昇格試験として、盗賊の討伐に来ていた。
きっかけは王都から三日ほど行ったところにある小さな村からの通報だった。
村の近くの廃屋が盗賊の根城にされている、盗賊は三人組でそこを拠点に街道を行く旅人を襲っているという。行商人を通してそう伝えられた傭兵騎士団は、早速討伐の計画を立てた。あいにく、別の盗賊討伐の任務が重なっており、すでに一部隊をそちらに派遣したところだった。
もう一部隊派遣することはできるが、それだと王都で何かあった場合に対応が難しくなる。そろそろ正団員への昇格試験を行おうと考えていた団長のメアウェンは、ウィルたち四人にこの件を任せることにした。
当然ながらまだ見習いのウィルたちだけで行かせるわけにはいかず、斥候兼試験官兼お目付け役としてフェイを同行させている。
相手は三人。ウィルたちもこれが初の実戦というわけではなく、何度かメアウェンたちの作戦に同行して実戦も経験済みだ。情報どおりなら問題なく作戦遂行できたはずだった。しかし――
「人数はこちらの三倍だ。一旦戻って増援を連れてくるよ。昇格試験なんかやってる場合じゃない」
「待って、フェイ。それでもなんとかなるかもしれない」
ウィルがフェイに訴える。
「何言ってんだい。三倍の人数なんだよ。メアたちならともかく、あんたたちだけでいけるわけないだろう」
「セオル、あれが使えるんじゃないか?」
ウィルから話を振られたセオルは、一瞬虚を突かれたような顔をするがすぐにウィルの考えを見抜き得心し頷いた。
「フェイさん、秘策があるんです。聞いて下さい」
セオルが作戦をフェイと仲間たちに説明していく。
「音爆魔法?」
「はい、先日完成した新魔法です」
音爆魔法はセオルが開発した新しい魔法だ。空気を極限まで圧縮し、それを敵中に投げ込んだところで圧力を一気に解放する。解き放たれた空気は爆発するように一気に拡散し、この時に発生する大音量が敵の聴覚を麻痺させる仕組みだ。音によって敵を一時行動不能にする非殺傷性の攻撃魔法というものだった。
セオルはフローラと協力し、この魔法の開発に長い間取り組んでいた。なるべく殺さず捕らえるという傭兵騎士団の方針に沿った攻撃魔法で、セオルは我ながらいい出来だと自負している。
「音でねえ。本当にそんな効果があるのかい?」
「はい! 必ず成功します。だから、やらせてください! お願いします、フェイさん」
セオルだけではなく、ウィル、リン、フローラも頷いている。彼らはやれる自信があるのだ。
「始めたら途中でやめるわけにはいかないんだよ?」
「はい」
ウィルたちの真剣な眼差しと、確信を持った表情にフェイは折れた。
「わかった。じゃあ、やってみるかね。ただし、作戦が失敗した場合の計画も用意すること。いいね」
「はい! では早速作戦を決めましょう」
セオルたちは車座になり、地面に枝で見取り図を書きながら作戦を練っていった。
◇
廃屋の正面には林道が走っていた。廃屋からまっすぐ伸びる林道は見通しもよく、廃屋の入口にいる見張りから見られてしまいそうだが、今は夜でこちらは闇に包まれている。篝火を炊いた明るい入口から暗いこちらは見えないはずだ。
扉が壊れた廃屋は入口が開きっぱなしになっており、入口の両脇に見張りがいた。しかし、二人とも椅子に座り居眠りをしている。一階の壁に設けられた窓からは中からの明かりが漏れている。部屋の壁に盗賊のものと思われる影がうつり、踊るような仕草を見せた。野太い男たちの笑い声が聞こえる。盗賊たちは酒を飲んでいるようだ。
廃屋から少し離れた林道の脇の茂みに身を隠したリンとフローラはすでに魔力の集中を始めていた。ウィルとセオルの姿はここにはない。突入に備えて、廃屋に近いところで待機している。リンとフローラに付き添うフェイは木の陰から廃屋を伺っていた。
「気づかれちゃいないね。ほんとに大丈夫なのかい?」
「うん、任せといて」
心配するフェイをよそに、フローラはマイペースに答えた。
「じゃあ、いくよ」
リンと頷き合ったフローラは立ち上がりおもむろに魔法を撃ち放った。フローラが撃ったのは音爆魔法の上位にあたる、轟音爆魔法だ。音爆魔法より更に強力な大音量で、敵を制圧する。
フローラの魔法は林道を直進し、寝ている見張りの脇を通り抜けて入口から廃屋内に飛び込んでいく。
――ダンッ!
耳をつんざく超大音量が鳴り、廃屋が一瞬膨らんだように見えた。廃屋全体から煙のように埃が舞い上がる。廃屋から離れた位置のここでも鼓膜が破れそうなほどの音だ。
フェイは耳を押さえながら、廃屋の様子を伺う。見張りは跳ね起き、両耳を押さえてのたうち回っている。窓から見えていた影は見当たらない。大音量によって昏倒してしまったのかもしれない。なんて威力だい、とフェイが舌を巻いているとリンがすっくと立ち上がる。
「次は私ね」
リンが差し出した両手から魔法が撃ち出される。フェイは慌てて両手を耳に強く押し付け、木陰に隠れる。
――ダンッ!
ダメ押しの大音量が響く。音が収まったのを見計らってフェイは再び廃屋を伺った。見張りの二人は倒れ、ピクリとも動かない。前方の茂みから二人の人影が飛び出していくのが見えた。ウィルとセオルが突入するようだ。
「あたしたちもいくよ!」
フェイはリンとフローラに声をかけ、廃屋に向かって走り出した。
セオルとともに廃屋の入口に飛び込んだウィルは、素早く室内を見回した。七人の男が床に倒れている。奥の二階へ続く階段の下には別の男たちが折り重なって倒れていた。物音に気づいて降りてきたが二回目のリンの音爆魔法の餌食になったのだろう。
「セオル、こいつらを頼む」
床に倒れた男たちをセオルに任せ、階段下の男たちに近づく。人数を数えながら腰につけた道具鞄からひとつかみの紐のようなものを取り出した。
束になったただの紐のように見えるが、魔法具である。拘束用に調整されたもので、力を込めなくとも勝手に縛り上げてくれる。制圧後だけでなく、投げつけて使ってもよく、相手の動作を制限することにも使えるすぐれものだ。実はこれもセオルが開発したもので、ウィンステッド商会が商品化した。傭兵騎士団に入団し、魔法を覚えたセオルはこういったアイデアを次々と出し、訓練と商売の勉強のかたわら開発に勤しんでいた。
階段下に倒れている人数は四人。ウィルは何かを感じその場から飛び退く。先程までウィルがいた位置に一本の短剣が突き立った。階上から男が現れる。薄汚れた衣を纏い、左胸だけを覆う胸当てをつけている。剥き出しの両手は剛毛で覆われ、丸太のように太い。盗賊たちの頭目だろうか。
剛毛の男は階段から飛び、ウィルの前に降り立った。ウィルよりも頭一つ大きく右手には片手斧が握られている。剛毛の男の後ろからもう一人降りてくる。こちらは女のようだ。両手に短剣を握っている。
「なんだてめえらは!」
男が獣のような声で吠える。ウィルは右手に持ったタレンの剣を男に向ける。女の方にはセオルが槍を突きつけている。
「我々は王都傭兵騎士団だ! 近隣の村からの訴えで貴様ら盗賊を捕縛しにきた。おとなしく縄につけ!」
ウィルが朗々と口上を述べる。
「よ、傭兵騎士団!? くそ! 捕まってたまるかぁああ!」
剛毛の男が斧を振り上げウィルの斬りかかる。ウィルはぎりぎりまで引き付け、男の左脇にくるりと身を翻す。獲物を捉えそこねた男の斧は、勢い余って床板を叩き割った。
男の背後に回り込んだウィルはセオルと切り結んでいる女にむかって拘束紐を投げつける。紐は回転しながら飛び、女の首に巻き付いた。紐の魔法が発動し、女の首を締め上げる。
「かはっ!?」
突然首を絞められ呼吸を止められた女の動きが止まる。セオルはその隙を見逃さず、槍の石突で女の顎を打ち上げる。そのまま回転すると槍の柄で女の足を払った。女がバランスを崩し転倒すると、背後から馬乗りになり女の両手を拘束紐で縛り上げた。女の顔色は紫色になり、意識が朦朧となりながらも必死に息を吸おうと喘いでいる。セオルは首の拘束紐を解いてやった。
「て、てめえ! 避けるんじゃねえ!」
片手斧を床から引き抜いた剛毛の男が、振り向きざまに斧を振る。後ろに下がって躱したウィルは、斧を握った男の左手めがけて剣を突き出した。男の左腕から血が吹き出す。痛みに耐えかねて斧を取り落とした男に向かってもう一歩踏み出すと、ウィルは剣を持たない左手で魔力の礫を生成すると掌底を打ち込むように直接男の鳩尾に叩き込んだ。
男の身体がドクンと跳ねると、力を失い崩れ落ちる。
「これで全部かな」
男を後ろ手に縛りながらウィルはセオルに確認した。男の左腕の傷にポーションをかけることも忘れない。
「床に七人と二人、階段下に四人、外の見張りが二人で十五人。全部だね」
セオルが拘束紐を取り出し、倒れている盗賊たちを縛り上げていく。外の見張りを拘束し終わったリンとフローラも合流し、セオルと三人で残った盗賊たちを拘束した。ウィルは二階に上がり、まだ隠れているものがいないか調べていく。
「なんともまあ。うちの新人たちは頼もしいねぇ」
戸口に立ったフェイが言う。さすがに敵の数が多かったので、フェイは介入するつもりだったのだが、手を出す隙もなく、ウィルたちは自分たちだけで盗賊たちを制圧してしまった。
盗賊たちを一か所に集めていると、ウィルが二階から戻ってきた。
「上にはもう誰もいなかったよ」
ウィルも盗賊を担ぎ上げ、作業に参加する。
全ての盗賊を集め終わると、ウィルが三人を促しフェイの前に整列した。
「ウィル以下三名、盗賊十五名の制圧、並びに拘束を完了しました!」
ウィルが声を張り上げフェイに報告する。
「ごくろうさん。正直、本当に十五人も相手にやれるのか心配していたけど、完全に杞憂だったね。見事な手際だったよ」
リンとフローラが顔を見合わせ笑顔を見せる。
「昇格試験は文句なしに合格だね。おめでとう」
「いやったああ!」
四人は抱き合って喜んだ。昇格試験に合格したウィル、リン、セオル、フローラの四人は、王都に戻り騎士団長メアウェンへの報告が終わると晴れて傭兵騎士団の正団員となる。
「さて、じゃあ戻って報告だけど」
フェイは盗賊たちに視線を向ける。
「こいつらどうしたもんかね」
もともと盗賊は三人の想定で来ている。護送するにしろ、十五人を五人でというのはいささか無理があった。
「一旦村まで連れて行って、そこで応援要請を出して待機ですかね」
セオルが提案する。
「現実的にはそうなるかね。しかし、村までどうやって連れて行くんだい?」
「すぐ近くだし、強引にいっちゃったら?」
リンがフローラを促し、魔力の集中を始める。二人は操作魔法・超を同時に発動させた。盗賊たちが魔力の見えざる手に持ち上げられ宙に浮かぶ。唯一意識のある女盗賊が叫び声をあげた。
「村まで持つかい?」
「うん、大丈夫だよ」
フローラが事もなげに応える。
「じゃあ、それで行くかね」
五人は廃屋を後にし、村に向かって歩き出した。五人の後をふわりふわりと盗賊の塊が浮かびながらついて行った。
感想やリアクション、お待ちしております。
☆☆☆☆☆評価や、ブックマークもぜひよろしくお願いいたします。
Xやってます。
@fumikiao




