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正しすぎた勇者の息子は、人類を“救う”ために殺すことにした  作者: panpan


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コスモス④

コスモス視点です。

 

 地獄のような……いや地獄そのものだった新人期間。

非人道的な訓練とオダマキ達からの罵詈雑言……そして先輩達からの教育と称したいじめ。

それらに耐えきれず、体と心を壊してしまった新人は多かった。

結局、1年間の新人期間を終えることができたのは私を含めて7人……入団時の半分以下になってしまった。


-------------------------------------


「よく新人期間を終えることができた。 お前達はこれから見習い騎士としてこの国に生涯尽してくれたまえ!!」


 1年後、昇進式が執り行われた。

オダマキが壇上でそれらしいことを言っているが……彼の本性を知っている側から見れば、怒りを通り越して滑稽にすら見える。

でもこれで……ようやく私は見習い騎士として本格的に任務につくことができる。

なのにどうしてだろう?

念願の見習い騎士になれたのに……怖いほど胸が静かだ。

ようやく本当のスタートラインに立てたというのに……全く喜ぶことができない。

緊張……?

いやそんなものじゃない……怖いんだ。

この先に自分が信じていた”正義”が本当にあるのか、確かめるのが怖いんだ。


『……』



入団前は陽気な人達ばかりだったのに……周囲にいる新人達達は生気を失ったような青白い顔をして無表情のまま動かない。

感情を押し殺すことでなんとか自分を保とうとしているんだ……私のように。


「では新人代表のリンドウ君、前に出て騎士の宣誓を……」


「はい……。 

私達は……」


 昇進式が終盤に差し掛かる時、リンドウが新人代表として前に出て騎士の宣誓を唱え始めた。

彼女の顔を見たのは入団式以来だが、元気そうでよかった。


「……以上です」


 騎士の宣誓を終えリンドウが自分の席に戻っていく。

騎士の宣誓……騎士は正義を守り、常に誠実さと思いやりを忘れないと言った内容だ。

入団前はとても心に響く良い言葉だと思ったが、今はただ薄っぺらく聞こえる。


「……」


一瞬目があったが、すぐにそらされた。

無理もない……。

きっと今の私の顔には……絶望が張り付いて見るに堪えないのだろう。


-------------------------------------


 わずかに残った正義と言う名の期待を胸にして……私は無事、見習い騎士として任務についた

見習いの任務は主に事務処理と町の見回りと国民達からの相談窓口。

なんらかの事件が起きた際には上官や先輩騎士達のサポートに徹する。

それ以外は騎士団本部の掃除や武器の手入れと言った雑用も行っている。

大変なものばかりだが……世のため人のためと思えば、やりがいはあった。

新人時代と違って自由にできる時間があるため、私は個人的に鍛錬を始めることもできた。

一見すると充実しているように思えるだろうが……時が流れていくにつれ、私の心は新人時代よりもさらに廃れ始めた。


-------------------------------------


 見習い騎士に昇進し、雑務に明け暮れていた2週間を過ごしたある日。

私はとある容疑者の取り調べに書記として同席することになった。

初めて任された重大な役割……緊張や不安はあるが、私は機を引き締めて取り掛かった。


「では取り調べを始める」


「……」


 取り調べを行うベテランの先輩騎士の向かいに容疑者である若い女がふてぶてしい態度で座っている。

彼女の容疑は殺人罪……被害者は彼女の夫と息子だ。

共犯者だと思われる浮気相手も別室で取り調べを受けている。

凶器である包丁も女と浮気相手が住んでいる家から見つかっている。

血こそ洗い流されたようだが、専門家の調査で死体の傷口と包丁の刃の形が一致したそうだ。

その上、事件が発覚する少し前に、現場から逃走する2人を見たという目撃証言もある。

動機と言う点においても、浮気による清算として筋が通る。

2人の犯行はもはや言い逃れのしようがない。


「あぁはいはい……私達が殺しましたよ。 浮気が旦那にバレて、慰謝料だの養育費だの払うのが面倒でね。 これで満足?」


 証拠を突き付けられ、観念したらしい女はあっさりと自白した。

だがその言葉には……微塵も後悔や反省がない。

自分の夫を裏切り、我が子まで手にかけておいて……こんな人間にこそ、法の裁きが下るべきだ。

怒りがふつふつと湧いてくるも……私は法を信じて心を静めた。

私は感情を抑え、犯人達に正しい罰が下るよう祈りながら書記に専念していた……その時。


「ねぇ、騎士様。 ちょっとお願いあるんだけどさぁ」


 取り調べの最中……女がふてぶてしい態度を変え、上目遣いで甘い声音を出し始めた。


「私達のこと見逃してくれない? 見逃してくれたらサービスしてあげるよ?」


 女は衣服を指でづらし、豊満な胸を私達に見せつけてきた。

それはつまり……自分の体と引き換えに事件の隠ぺいと身柄の解放を約束しろということだ。

無論、それは完璧な違法行為だ。

いや違法でなくとも……そんな正義に反することはできない。

私は女の浅はかな行動におぞましさを感じた。

だが先輩の反応は違った……。


「ほう……」


 女の胸元を凝視し、飢えた獣のように舌なめずりをする先輩。


「そこまで言うなら……俺達を満足させられるだけのテクはあるんだろうな?」


「俺達結構、女にはうるさい方だぜ?」


「私、元娼婦なの。 男の体のことは隅から隅まで知ってるわ。

私に体を預けたら……あっという間に干からびるわよ?」


 女は発情し始めた2人をさらに追い込もうとして自ら衣服を脱ぎ始めた。


「やっやめてください!」


 私は書記であることを忘れ、思わず荒げた声で制止を呼び掛けた。

だが女は脱衣をやめるどころか……。


「坊やも混ざりなさいよ、童貞卒業させてあげるわよ?」


 私のことも篭絡しようと手招きをしてきたのだ。

だがそんな誘いに乗る訳がない。


「いい加減にしてください」


 私は席から立ち上がり、力づくで女の脱衣を止めようと試みるが……


「うるせぇぞ、見習い! 書記が勝手にしゃべってんじゃねぇよ!!」


「ゴフッ!」


 女の脱衣を止めようとした私の顔を先輩が思い切り殴りつけた。

私の体は殴られた勢いで壁に叩きつけられ、そのままズルズルとしりもちをついてしまった。


「せっかくタダで良い女とヤレるんだ。 余計なことしてんじゃねぇよ、カス!!」


「よっ余計なことって……先輩は彼女の要求を呑むつもりなんですか!?」


「はぁ? そんなの聞くまでもねぇだろ?」


 先輩はベルトを外して下半身を露出した。


「へぇ……なかなかいいもの持ってるじゃん」


 いつの間にか衣服も下着も全て脱ぎ去った女も先輩にゆっくりと近づいていく。


「俺を満足させられたら見逃してやるよ。 だが、下手をしやがったら死刑だからな」


「絶対に後悔はさせないかぁら……」


「……」


 そして女は先輩に奉仕を始め、先輩はそれを躊躇することなく受け入れた。

その異様な光景に……私は言葉を失った。

すぐにでも2人を止めるべきだったが……そのあまりに異常な光景に頭が真っ白になった。

止めるべきだとわかっているのに……体が動かない。

今、目の前で起きていることは正しいことなのか?

それすら……私にはわからなくなってしまった。


「なっなかなか良いじゃねぇか……おぉそうだ」


 先輩は女に奉仕を続けさせたまま、取調室に設置されていた電話機の受話器を取った。


「おぉ俺だ! 今、取調室にいるんだけどよ。

元娼婦の女が無罪と引き換えにヤッテんだけどよぉ……これがかなり具合良いんだ。

お前らも来いよ」


 先輩はあろうことか……ほかの騎士達をこの場へと呼び寄せたのだ。

そして間もなく、取調室に発情した数名の騎士達が入って来た。


「おい見習い! ヤル気ねぇなら外に出てろ! 辛気臭せぇ顔見てたら盛り下がるだろうが!!」


 何もできずに固まっていた私を目障りに思った先輩が私を蹴とばして、取調室の外へと追い出した。


 ガチャン!!


 取り調べ室のドアは勢いよく閉ざされ……男女がまぐわう声がドア越しに漏れ出ていた。


「なんなんだ……。

一体……何がどうなっているんだ?」


 目の前で起きたことを脳が処理しきれず、私はしばらく床につっぷしていることしかできなかった。


「ハハハ!! バカだなお前」


「オダマキ……教官……」


 そこへ通りかかったのは、オダマキだった。

彼は見下すような目で私を嘲笑い、こう続けた。


「お前あれだろ? 正義なんてもんを本気で信じているバカだろ?

そんなんだからそうやって無様を晒す羽目になるんだよ」


「どういう……意味ですか?」


「俺達騎士団は国に選ばれた存在……法の名のもとに集まった組織だ。

つまり……法は騎士団そのもので、事実なんてものは俺達の気分次第で変わるんだよ」


「何を……何を言っているんですか!?

事実は証拠と証言を元に立証されるものです!」


「ハハハ!! つくづく救えねぇな。

いいか?

俺達騎士団は正義なんてもんに微塵も興味はねぇ。

俺達はただ、自分の欲望を満たせることができればそれで良いんだよ」


 オダマキはそう言い残すと、取調室に入っていき……先輩達に混ざった。

私はここにいるのが怖くなり……おぼつかない足でこの場を去った。


-------------------------------------


 しばらく当てもなく本部内を歩き続けるも……取調室の光景が頭から離れず、オダマキの言葉が呪いのように何度も頭の中で響いた。


「一体私は……何を信じたら良いんだ?」


 私は私自身を……そして正義を完全に見失ってしまった。


「コスモス?」


 背後から突然声を掛けられたことでふと我に返った私は、反射的に後ろを振り向いた。


「リンドウ……」


 そこには……リンドウが立っていた。


次話もコスモス視点です。

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